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2.帰れない③

作者: 鷹槻れん
last update 最終更新日: 2026-02-01 04:17:00

(ちょっとはイメチェン出来たかな?)

髪型を変えたくらいで細波さざなみの目をかいくぐれるとは思えなかったけれど、さっき会った時のままよりは幾分マシかも知れない。

もう一度だけ未練がましくスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを確認してみた。

(やっぱり未読のままだ……)

読まれないままのSOSに小さく吐息を落とすと、芽生はギュッと手指に力を込めてレジへと向かった。

***

レジで会計を済ませていると、後ろの道路をけたたましいサイレンを鳴らしながら消防車が立て続けに数台走り抜けていく。

「何ごとですかね?」

若い男性店員が思わずといった調子でつぶやいて、それが自分に向けられたものかどうかは分からなかったけれど、芽生は「どこかで火事でしょうか」とつぶやいた。

「何か煙の臭いもしてきますし、結構近いんじゃないっすかね?」

その言葉に、このコンビニからそんなに離れていない場所に住んでいる芽生はソワソワする。

「あざぁーっしたぁー!」

間延びした「有難うございましたぁー!」を背中に受けながら店外へ出てみれば、陽の落ちた街はとっぷりと宵闇よいやみに包まれていた。けれど、芽生の家の方角だけあけに染まっていて、まるでそこだけ夕焼け空のように見える。そのことが、芽生の心を妙にざわつかせた。

(私、帰宅して手を洗っただけ……だよね? 火なんて使ってなかったよね)

思わずそんなことを思ってしまったのは、空に向かって小さな火の粉が上がっている場所が、我が家の辺りに思えて仕方がなかったからだ。

燃えているのが自分の家じゃなかったとしても、類焼はまぬがれられないような、そんな気がしてしまう距離感。

芽生は細波さざなみに怯えていたことも忘れて小走りに家路を急いだ。

***

不安に突き動かされて急いで戻ってみれば、芽生めいの家の付近はたくさんの人だかりが出来ていて、数十メートル先から一向に自宅の方へ近づくことが出来ない。

離れていても漂ってくる煙の臭いに、芽生は無意識のうちに鼻先を手で覆っていた。そんな状態でも燃えているのは自宅だと分かるから、芽生は呆然と立ち尽くしたままその場を動けなくなってしまう。

まるで大きな焚き火でもしているかのように、こんなにも離れているのに熱気が伝わってくるくらいに火の勢いは強くて、空へ向けて火の粉がいくつもひらひらと舞い上がっているのも見える。外灯の少ない区域なので、いつもならもっと暗いはずなのに、燃え盛る炎に照らされて辺り一帯がぼんやりと明るい。

消防車が何台も停まって決死の消火活動をしているようだけれど、今すぐ火を消すことが出来たところで、きっともう手遅れだろう。なんの知識も持たない素人しろうとの芽生にだってそのくらいは分かった。

築五十年以上の木造家屋は、このところの乾燥した空気も手伝って、本当によく燃えていた。

「なぁ、いくら何でも火の回りが異常に早くねぇか?」

「家、電気ついてたって話だけど、見る限り誰も助け出された様子ないじゃん? 住人は無事なんかな?」

野次馬たちの声の中からそんなものを拾った芽生は、ハッとして身じろいだ。

「あ、あの……」

本当はもっと大きな声を出したつもりだったのに、喉の奥がカラカラに乾いて張り付いて、思うように音が出ない。情けないくらいにかすれて震えた芽生のつぶやきは、瞬く間に喧噪けんそうにかき消された。

芽生は何度か深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けると、グッと腹の奥に力を込めて再度口を開く。

「あのっ! すみません! 燃えているの、私の自宅なんです! お願いします! 通してください!」

懸命に声を張り上げながら、何とか人混みを掻き分けて家まで数メートルのところへ来てみれば、【立入禁止】と書かれた黄色いテープが張り巡らされていて芽生の行く手を阻んだ。

テープの前で「これ以上近付かないで下さい! 危険です!」と声を張り上げている消防団員と思しき男性に「あの……」と声を掛けたと同時、すぐ横からグッと手を掴まれた。

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