「ごめんなさい、細波さん。何度言われても、私、貴方とはお付き合いできません」 神田芽生がそう言って頭を下げるのに合わせて、腰まである彼女のさらさらストレートの黒髪が、スルリと肩をすべって顔を覆い隠した。それと同時、プルンと揺れた胸は、一五五センチあるかないかの芽生にはちょっぴり不釣り合いに大きくて、そのギャップからだろうか。胸目当ての男性からよく絡まれてしまう。 芽生の勤め先のファミリーレストラン『カムカム』の常連客、細波鳴矢からの交際申し込みは一度や二度ではない。何度断っても懲りないバイタリティを思えば、何もこのたわわなバストだけが目当てではないのかも知れない。 でも、だからと言って好きになれそうにない相手からのアプローチほど面倒なことはないのだ。何度断ってもしつこいぐらいに言い寄ってくる細波に、芽生は正直辟易していた。 「ねぇ芽生ちゃん、何で僕じゃダメなの?」 細波は大企業『さかえグループ』の社長室付きのスーパーエリートらしい。一番最初に交際を申し込んできた際、頼んでもいないのに『さかえグループ 社長補佐 細波鳴矢』と書かれた名刺を差し出されて、つらつらと自らの価値――社長の遠縁だのなんだの――について本人から説明された芽生は、残念なことにそのことを知っている。 「僕の職歴に不服はないはずだけど?」 言外に、『ファミレスで働いているキミにはもったいないくらいの申し出だと思うよ?』という言葉が見え隠れするようで、芽生はゾクリと肩を震わせた。 見た目だけなら彼は本人が自信を持つのも納得がいくイケメンだが、性格と趣味嗜好に難あり。それが細波鳴矢と言う男だった。 暦は冬へ向かってまっしぐらな十一月の半ば。上着を羽織っていても日陰に入ると風が冷たくてぶるっと震えてしまう。 (でも今のは違うゾクゾクだ) 香水のにおいをぷんぷんまき散らす細波に傍へ寄られると、それだけで嫌な気分になる。移り香なんかが残ってしまったらと思うと無意識に距離をあけたくなった。 (香水なんて、薫るか薫らないかを身に纏うくらいでちょうどいいのに) ふとそこで、〝ある人〟を頭に思い描いた芽生
Last Updated : 2026-01-24 Read more