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第5話

Author: ユーユー
美波は瞬く間に硬直し、呆然と私を見つめる。

「嘘でしょ?克広は何度も離婚を切り出してるけど、あなたが承諾しないんだって。

私のために、裁判で離婚するつもりだって」

私は吹き出して笑い、スマホの弁護士との通話履歴を見せる。

「今日、弁護士を呼んで離婚協議書を作ってもらったの。

なのに克広が目の前でそれを引き裂いて、離婚しないでくれって土下座して頼んだの。

裁判を起こすって言ったのは、私の方よ」

美波の顔はみるみる真っ赤になり、信じられないという表情でいっぱいだ。

「そんなはずない。克広、あなたのことなんて愛してないし、前から離婚したがってるんだもの。

結婚する前からずっと、何年も一緒にいるあなたが可哀想だから結婚してあげただけだって。最初から最後まで、愛してないんだって!」

他人の口から、克広が私のことをどう言ってるのか聞くのは、なんだか不思議な気分だ。

特に、二人の間に割って入った美波の口から聞くとなれば、なおさらだ。

私は首を振る。

「彼を信じるか私を信じるかは、あなたが決めればいい。

ただ伝えておくけど、付き合い始めたのは彼からだし、結婚を申し込んだのも彼よ。

彼があなたの前で何を話してたのかは知らない。でも、私の知りたいことはもうわかった。それで十分。

これからも裁判で離婚を進めるわ。二人の幸せを祈ってる」

言い捨てると、私はカバンを持って立ち上がり、部屋を出た。

部屋を出るとき、美波のすすり泣くような声が聞こえた気がした。

ホテルに戻っても、私はずっと落ち着かない。

美波の様子は、演技じゃなかったように思える。もしかして克広は、ずっと二人を同時に騙してたの?

考え込んでいると、病院から電話がかかってきた。

電話に出ると、看護師の焦った声が聞こえた。

「小林様ですか?急いでいらしてください!お母様が、薬を大量に飲んで自殺を図ったんです!」

私は体が一瞬竦んだ。次の瞬間、部屋を飛び出していた。

病院に駆けつけたとき、母は胃洗浄を終えてベッドに横たわり、息絶え絶えの様子だった。

だが私の姿を見ると、急に元気になったように私を指差し、甲高い声で罵り始めた。

「この不孝者!何しに来たのよ!

離婚するなんて言い出すときは、お母さんのこと、考えもしなかったの!?

あなたが離婚したら、お母さんはどうすればいいのよ!?」

この様子を見て、私はやっと理解した。これは全部、芝居だ。心がひんやりと冷めていく。

私は近づいて、脇に置かれた薬の瓶を手に取り、冷ややかに笑う。

「お母さん、この芝居、お父さんが生きてた頃にやればよかったのに。

死ぬには半分くらい飲まなきゃ駄目でしょ。数粒飲んだくらいじゃ、死ねないわよ」

母の顔は一瞬青ざめたが、それでも気丈に振る舞って私に怒鳴りつける。

「いいわね!お母さんが死ぬのを待ち望んでるのね!

ひどい目に遭ったわ。こんな恩知らずを産んだなんて!

ねえ、克広くんと仲良くしてるのに、どうして離婚なんかするの?離婚したら、誰がお母さんの医療代を払ってくれるのよ?」

母はヒステリックにわめき散らす。彼女の言葉の一つひとつに、打算が透けて見える。

私は急に、全身が疲れ果てた気分になった。

ひとしきりわめいても誰も返事をしないものだから、母はやっと息を整えて私を見ると、一方的に結論を突きつけてきた。

「もういいわ!これで決まり!離婚なんて絶対にダメ。聞こえた?」

「医療代を払ってくれる人がいなくなるのが、怖いんでしょ」

私は的確に、彼女の急所を一突きにした。

母はまたかっとなって怒り出す。

「あなたのためを思って言ってるのよ!克広くん、あなたにそんなに悪くないでしょ?殴ったりもしないんだし!」

私はぱっと立ち上がり、見下ろすように冷ややかに彼女を見つめる。

「そうね、克広は殴らないし、とても優しいわ。どんなお願いも聞いてくれるし、細かいところまで気配りしてくれる」

一語一語言うたびに、母の瞳に嫉妬の色が濃くなっていく。ついに我慢できなくなって、私の言葉を遮る。

「そうでしょ。そんなにいい人なのよ。外に女が一人くらいいたって、別にいいじゃない」

私は思わず笑った。

ほらね。

やっぱり母は、克広と美波のことを全部知ってたんだ。

ただ自分の利益のために、あるいは、自分が幸せじゃないから、私が幸せになるのも許せないから、知らないふりをしてただけ。

母が、自分の娘にこんな嫉妬心を抱くなんて、思ってもみなかった。

私は母と話すのも馬鹿らしくなり、その場を回って病室を出た。母の叫び声だけが、後ろに取り残される。

病院を出ると、克広が無表情な顔で目の前に立っていた。

「そんなに離婚したいのか。いいだろう」

彼の態度があまりにあっさり変わったので戸惑っていると、スマホが鳴った。

見覚えのある番号、美波だ。

「私があなたを一回助ける。代わりに、あなたも私を助けて」

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