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第5話

作者: 山田吉次
美羽は借りている部屋に戻り、荷物をまとめ始めた。

「美羽、帰ってきたのね?今日帰ってこなかったら、明日は病院を一軒一軒回ってでも、絶対に見つけ出してたわよ」

「うん、もう大丈夫だから」

美羽のルームメイトであり、大学時代からの友人の紅葉花音は、六七年くらい美羽と一緒に暮らしていた。そのため、二人の関係はとても良好だった。

美羽が入院していた間、真剣に心配してくれたのは花音だけだったが、花音に本当のことは言わず、ただ「病気になった」とだけ伝え、見舞いにも来ないように頼んでいた。

花音は室内履きに履き替え、美羽の部屋のドアに立った。そこで彼女が床に座って服を畳んでいるのを見た。

「また出張なの?病み上がりで出張なんて、体がもたないんじゃない?翔太って本当に最低な男よ!いつもあなたを振り回して!」

花音は美羽と翔太の関係を知っていて、翔太に対しては常に不満を持っていた。

美羽は今回の出張がどれくらい続くかわからなかったので、正直に話した。「私は霧嵐町のプロジェクトに派遣されることになったの。花音、家賃はあと三ヶ月分払っておくけど、もしその後も戻らなかったら、同居人を探すなら教えて。残りの荷物を取りに帰るわ」

花音は驚いて立ち止まった。「え、急すぎない?」

美羽は淡々と答えた。「よくあることだよ、ただの人事異動」

他の人なら普通かもしれないが、美羽と翔太の関係を知っている花音には納得できなかった。翔太が彼女を外に出すなんてあり得なかった。花音は馬鹿ではなかった。「翔太と喧嘩したの?」

美羽は答えたくなかった。立ち上がって荷物を取ろうとしたその時、ポケットから一枚の紙が落ちた。それを拾おうとしたが、花音が先に手を伸ばして拾い上げ、そのまま中を見た。

それは、流産手術の検査報告書だった。

「……」花音は呆然とした表情で美羽を見上げ、そして、報告書の日付を見た。それは、美羽が帰ってこなかったあの数日間の日付だった。

花音はすぐに全てを悟った。「あなた、流産手術で入院してたのね?子供は翔太の子でしょ?彼があなたに堕ろさせたの?それで追い出されたの?最低よ、なんでそんなひどいことするのよ!今すぐ翔太を問い詰めに行く!」

花音は名前が柔らかい響きだが、実際は非常に短気で、こういう場面でも本当に翔太を殴り込みに行きかねない。

美羽は慌てて彼女を引き止めた。「花音!彼はこのことを知らないの!ただ、私が事故で流産しただけだから」

花音は眉をひそめた。「彼に言ってないの?」

美羽は唇を噛んだ。「言う必要はないわ」

「何それ……あなたは一体どうしたいの?」

美羽は検査報告書を取り戻すと、その場で破り捨て、ゴミ箱に投げ入れた。「どうもしたくない。ただ、彼に知られなくてもいいと思っただけ」

花音は彼女の考えが理解できず、不満を押し殺していた。

美羽が洗面所へ荷物を取りに行った時、花音は歯ぎしりしながら、ゴミ箱から破り捨てられた紙片を拾い上げ、いざという時のためにこっそり保存することにした。

その日の夜、美羽は霧嵐町へ向かう飛行機に乗った。

その後の1ヶ月間、プロジェクトの進捗を本社に報告する以外、翔太とは全く連絡を取っていなかった。

秘書室の他の二人の秘書とは仲が良かったため、時々本社の様子を教えてもらっていた。

例えば、夜月社長が月咲を特別に可愛がっていること。仕事を手取り足取り教えるだけでなく、生活面でもかなり世話をしていること。ある日、雨がひどい日、月咲が残業していたが、夜月社長は一度帰宅した後、わざわざ戻って彼女を家まで送っていったこと。このことが社内で噂になり、月咲が夜月社長の愛人なのではないかと囁かれていたこと。

その噂が夜月社長の耳に届いた途端、最初に噂を広めた人物は即座に解雇された。

これにより、新たな噂が広まった。夜月社長が月咲を特別扱いしていることは、もはや周知の事実となっていた。

美羽はぼんやりと思い出した。かつて彼女が翔太と付き合い始めた頃も、彼は手取り足取り仕事を教えてくれた。当時も社内では同じような噂が飛び交っていた。翔太はあの時どう反応していたか?

彼はただ無関心に、「君は僕の愛人じゃないのか?」と問い返していただけだった。

美羽はこれまで、自分の仕事の能力で碧雲グループに地位を築いた。ようやくその噂も消え去った。翔太は誰に対しても冷淡で無情だが、人を守ることができるのだと美羽は知っていた。

ただし、その「守る相手」は美羽ではなかった。

美羽は無意識に自分の腹部に手を当てた。流産手術からすでに1ヶ月以上が経過していたが、彼女が何を失ったのかを知る者は、彼女以外には誰もいなかった。

2ヶ月後、霧嵐町のプロジェクトも終わりに差し掛かっていた。そんな時、二人の同僚が内々に、夜月社長が霧嵐町に立ち寄り、ついでに支店を視察すると教えてくれた。そして、このチャンスを掴んで、本社に戻れるよう努力しろと助言してくれた。

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