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裏切りを知った受験前夜

裏切りを知った受験前夜

Por:  福餅あんCompletado
Idioma: Japanese
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親友の松本圭吾(まつもと けいご)、幼なじみで恋人の藤井由佳(ふじい ゆか)、そして俺――浅野修司(あさの しゅうじ)の三人は、そろって明峰大学を第一志望にしていた。 国内最高峰と名高い国立大学で、通称は明峰大だ。 大学入学共通テストの前日、俺は、10年後の自分へのメッセージとして、あれこれ質問する動画を撮っていた。 ところが、ただ動画を撮っていただけのはずなのに、10年後の自分とリアルタイムで通信がつながるなんて夢にも思わなかった。 「明峰大に受かって、そのまま院まで行けたか?圭吾とは今も親友のままか?あいつの面倒くさい性格に付き合えるの、俺くらいだろ。 もう院も出て、由佳と結婚してたりするのか? もしかしたら、もう子どももいるか?名前なら、もう考えてあるんだけどな」 そんな未来が当たり前に来るものだと、俺は信じきっていた。 だが、由佳の名前を口にした途端、10年後の俺の表情が一変した。 「由佳は、圭吾に共通テストで県内トップを取らせるため、お前には特殊な鉛筆を用意したんだ!マークシートを塗っても、機械が読み取れないようなやつだ! そのせいで明峰大に落ちて、浪人する羽目になった。 由佳はつらそうな顔で、遠距離になっても付き合い続けるって言ってたくせに、お前が浪人してる間に圭吾と付き合い始めた。大学じゃ、お似合いの二人だともてはやされてたんだぞ! お前は本当に救いようのない馬鹿だ!親友に彼女を奪われたとも知らず、由佳を支えてくれたと勘違いして、圭吾に礼まで言ってたんだからな!」

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Capítulo 1

第1話

次の瞬間、通話はぷつりと切れた。

俺は、暗くなった画面に映る自分の顔を呆然と見つめた。

今のは何だったんだ。本当に10年後の俺と話していたのか、それとも受験を前に気が張りすぎて、幻でも見たのか。

何しろ、由佳とは昔から、二人で明峰大へ行こうと約束していた。俺を裏切るなんて、あり得ない。

そう考え込んでいると、いつの間にか後ろに立っていた由佳が、俺の肩を軽く叩いた。

「修司、明日が本番なのに、勉強もしないでこんなところで何してるの?

明峰大に落ちたって、あとでこっそり泣かないでよね」

「誰が泣くか!」

俺は思わずむきになって言い返した。

目の前のまっすぐで優しい由佳からは、10年後の俺が語ったような裏切り者の姿など、どうしても想像できなかった。

やはり試験前で気が張りすぎて、妙な幻でも見たのだろうと思うと、急に自分が馬鹿らしくなった。

だが、教室に戻って席に着いた途端、由佳が俺の机にペンケースを置いた。

「修司のことだから、まだ何も準備してないと思って。必要なもの、全部入れといたよ。

受験票も忘れないでね。明日はこれさえ持ってくれば大丈夫だから。

今回は圭吾の分もちゃんと別に用意したんだから、また修司のを分けてあげたりしないでよ!」

そう言うと、由佳は同じペンケースをもう一つ、隣の圭吾の机に押し込んだ。

俺が黙って見ていると、由佳の笑顔がわずかにこわばった。

「修司、どうしたの? さっきから、なんでそんな目で見るの?」

「いや、何でもない」

俺は首を振り、何でもないふりをした。

由佳がいなくなると、私は塾の知り合いを頼り、事務室のマークシート読み取り機を使わせてもらった。

すぐにペンケースから鉛筆を1本取り出し、シートを塗りつぶし、機械に通してみる。

案の定、何一つ読み取られなかった。

残りの1本も試してみたが、結果は同じだった。

まさか、本当に読み取れないなんて。

由佳は、こんな鉛筆を俺に2本も渡していたのだ。

なら、10年後の俺が言っていたことも、全部本当だったのか。

由佳と圭吾の席を見ると、二人ともまだ戻っていなかった。

二人のペンケースの鉛筆も試してみたが、どちらも普通だった。

俺はすぐに、自分の2本を由佳と圭吾の鉛筆とすり替えた。

怒りで全身が震えた。

今すぐこの鉛筆を由佳に突きつけて、どうしてこんなことをしたのか問い詰めたかった。

それでも奥歯を噛みしめ、込み上げる怒りをどうにか飲み込んだ。

翌日、試験会場に入る直前、由佳は俺が持っていたペンケースの中をわざわざ確かめた。

「私たち、おそろいの鉛筆だし、きっと二人で明峰大に受かるよ!」

俺は平然を装い、わざと聞いた。

「圭吾にも同じのを渡したんだろ?あいつとも一緒に明峰大へ行きたいのか?」

由佳は一瞬言葉に詰まり、俺の腕を軽く小突いた。

「それは修司が悪いんでしょ。私が何かあげても、いつも圭吾に分けちゃうんだから」

圭吾は、由佳は俺にふさわしくないと言って、昔から彼女を嫌っていた。

由佳も、圭吾とつるんでいたら俺まで悪影響を受けると決めつけ、彼を毛嫌いしていた。

二人は顔を合わせるたびに言い争い、そのたびに俺が間に入っていた。

だから、二人が裏でつながっているなど、考えたこともなかった。

それなのに、俺が心から信じていた二人は、最後にはそろって俺を裏切ったのだ。

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第1話
次の瞬間、通話はぷつりと切れた。俺は、暗くなった画面に映る自分の顔を呆然と見つめた。今のは何だったんだ。本当に10年後の俺と話していたのか、それとも受験を前に気が張りすぎて、幻でも見たのか。何しろ、由佳とは昔から、二人で明峰大へ行こうと約束していた。俺を裏切るなんて、あり得ない。そう考え込んでいると、いつの間にか後ろに立っていた由佳が、俺の肩を軽く叩いた。「修司、明日が本番なのに、勉強もしないでこんなところで何してるの?明峰大に落ちたって、あとでこっそり泣かないでよね」「誰が泣くか!」俺は思わずむきになって言い返した。目の前のまっすぐで優しい由佳からは、10年後の俺が語ったような裏切り者の姿など、どうしても想像できなかった。やはり試験前で気が張りすぎて、妙な幻でも見たのだろうと思うと、急に自分が馬鹿らしくなった。だが、教室に戻って席に着いた途端、由佳が俺の机にペンケースを置いた。「修司のことだから、まだ何も準備してないと思って。必要なもの、全部入れといたよ。受験票も忘れないでね。明日はこれさえ持ってくれば大丈夫だから。今回は圭吾の分もちゃんと別に用意したんだから、また修司のを分けてあげたりしないでよ!」そう言うと、由佳は同じペンケースをもう一つ、隣の圭吾の机に押し込んだ。俺が黙って見ていると、由佳の笑顔がわずかにこわばった。「修司、どうしたの? さっきから、なんでそんな目で見るの?」「いや、何でもない」俺は首を振り、何でもないふりをした。由佳がいなくなると、私は塾の知り合いを頼り、事務室のマークシート読み取り機を使わせてもらった。すぐにペンケースから鉛筆を1本取り出し、シートを塗りつぶし、機械に通してみる。案の定、何一つ読み取られなかった。残りの1本も試してみたが、結果は同じだった。まさか、本当に読み取れないなんて。由佳は、こんな鉛筆を俺に2本も渡していたのだ。なら、10年後の俺が言っていたことも、全部本当だったのか。由佳と圭吾の席を見ると、二人ともまだ戻っていなかった。二人のペンケースの鉛筆も試してみたが、どちらも普通だった。俺はすぐに、自分の2本を由佳と圭吾の鉛筆とすり替えた。怒りで全身が震えた。今すぐこの鉛筆を由佳に突きつけて、どうしてこ
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第2話
それを聞いた圭吾は、由佳を挑発するように片眉を上げた。「修司が俺にも分けてくれるのは、いつものことだろ。文句あるか?」案の定、二人はすぐににらみ合い、今にも言い合いになりそうだった。いつもなら俺が間に入るところだが、今は腕時計を見ただけだった。「もう時間だ。俺は先に入る」由佳と圭吾は顔を見合わせると、それ以上は何も言わなかった。なんだ。俺が仲裁しなくても、ちゃんと収まるじゃないか。……すべての試験が終わると、肩の力が一気に抜けた。俺は長く息を吐いた。ちょうどその頃、学級委員がクラスのグループチャットで、みんなで打ち上げをしようと声をかけてきた。卒業すれば進む道はばらばらになり、こうして全員で集まれる機会も減る。食事が盛り上がってきた頃、クラス一のお調子者が、店で一番辛いチキンを人数分注文した。「せっかくの打ち上げなんだし、全員で挑戦しようぜ」隣に座っていた圭吾が、すぐに身を乗り出した。「修司、俺たちも食ってみようぜ。一個くらい平気だろ?」由佳は鼻で笑い、圭吾が手を伸ばした皿をさっと遠ざけた。「やめときなよ。この前も辛いのは平気だって強がって、一口食べただけでむせてたじゃない。涙と汗で顔をぐしゃぐしゃにして、水ばっかり飲んでたくせに」圭吾は耳まで赤くした。「うるさいな。あれはあの店が辛すぎただけだ。今回は平気だって」俺は箸を止め、グラスを静かにテーブルへ置いた。「いつ二人で行ったんだ?なんで俺には何も言わなかった?」「ほら、放課後の補習中に校舎が停電した日……」圭吾の言葉が、そこで途切れた。俺もすぐに、あの日のことを思い出した。あの日は停電のせいで、放課後の補習が急きょ打ち切りになった。その直後、俺は40度近い熱を出し、声もまともに出せなくなった。俺の様子がおかしいことに気づいた学級委員が、歩くこともできない俺を背負い、保健室まで連れていってくれた。目を覚ましてから由佳に何度も電話をかけたが、最後までつながらなかった。結局、帰りもクラス委員に肩を借り、家まで送ってもらった。俺が高熱で倒れていたあの日、由佳は圭吾と二人で激辛ラーメンを食べに行っていたのか。あとでどこにいたのかと聞いたとき、由佳は父親が出張中で、足をくじいた母親の世話をするため、先に
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第3話
その場が一瞬、しんと静まり返った。学級委員が思わず聞き返した。「え、藤井。修司以外ともキスしたことあるのか?」「ないってば!」由佳は顔を赤くし、すぐに否定した。「最後にキスしたのは修司よ。みんなの前で言うのが恥ずかしかっただけ」胸の奥がすっと冷えた。由佳はまた嘘をついた。俺たちは、まだ一度もキスをしたことがない。それからは、周りの会話もほとんど耳に入らなかった。頭に浮かんできたのは、これまで見過ごしてきたことばかりだった。圭吾は昔からバスケが好きだった。由佳の机の中には、打ち身や捻挫に使うスプレーや湿布がいつも入っていた。一方の俺は球技に苦手意識があり、バスケコートに近づくことすらなかった。俺と圭吾の机には、同じデザインの水筒が置かれていた。俺のほうにはただの水道水しか入っていなかったのに、圭吾のほうにはいつもスポーツドリンクが入っていた。昼休みになると、由佳はいつも俺と圭吾に弁当を渡していた。俺のはいつも似たようなおかずばかりなのに、圭吾の弁当だけは毎日中身が違っていた。以前の俺は、そんな違いを気にもしなかった。むしろ、由佳は俺のために、嫌っているはずの圭吾のことまで気にかけてくれるのだと、どこか誇らしく思っていた。けれど、俺が気づかなかっただけで、由佳の心はずっと前から少しずつ圭吾に傾いていたのかもしれない。「修司、顔色悪いよ。具合でも悪いの?」由佳が俺の額に手を伸ばしてきた。俺はすぐに立ち上がり、その手を避けた。「ちょっと外の空気、吸ってくる」店を出ると、さっき王様を引いた男子が後を追ってきた。「修司、ちょっといいか」周りに誰もいないのを確かめると、彼は声を落とした。「さっきの藤井の答え、あれ嘘だ。昨日、藤井がグラウンドの端で圭吾とキスしてるのを見たんだ」俺は何も言えなかった。「藤井がくじを確認したとき、3番だって見えたんだ。だから、わざとあの質問をした。本当のことを言うか確かめたくて。でも、みんなの前でばらしたら、お前まで傷つくだろ。だから、あの場では黙ってた」俺が騙されたままにならないように、わざわざ追いかけてきてくれたらしい。俺はしばらく黙ったあと、小さな声で礼を言った。「……ありがとう」話を聞き終えた俺は、店に
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第4話
卒業したら二人で旅行に行こうと、由佳とはずっと前から約束していた。由佳は自分で作った旅のしおりを俺に見せ、得意げに笑った。「修司は何も考えなくていいから。全部、私に任せて」せめて約束した旅行だけは一緒に行き、帰ってから由佳ときちんと話そうと思っていた。ところが出発当日、バスターミナルに着くと、圭吾までスーツケースを持って待っていた。「俺も一緒に行くことにした。由佳のプランに乗っかるだけだし、修司も別にいいだろ?」俺は何も答えなかった。由佳はちらりと俺を見てから、圭吾に呆れたような顔を向けた。「ほんと図々しいんだから。せっかく修司と二人で行く予定だったのに。それに、圭吾の分まで予約してないからね」そう言っていたのに、夜行バスの乗り場で予約を確認すると、由佳のスマホに表示されたのは2人分だけだった。由佳と圭吾の分はある。俺の分だけがなかった。「おい、どういうことだよ。修司の分、取ってないのか?」圭吾が声を上げると、由佳は戸惑ったように俺を見た。「え……修司は自分で取ってると思ってた」「は?全部任せてって言ってたの、由佳だろ。もう出発まで15分しかないぞ」俺のチケットのことなのに、二人だけで話が進み、俺は完全に置いてけぼりだった。「すぐ空きを探すから。修司、ちょっと待ってて」由佳は慌ててスマホを操作した。だが、検索結果には1週間先まで「満席」の文字が並んでいた。乗り場に一人だけ取り残され、次々とバスに乗り込んでいく人たちを眺めているうちに、もう何もかもどうでもよくなった。この旅行にいらなかったのは、圭吾ではない。俺のほうだった。「由佳、別れよう」由佳がはっと顔を上げた。「修司、チケットを取り忘れただけで、私と別れるっていうの?」「そうだよ。もう無理だ」俺があっさりそう言ったのが気に障ったのか、由佳は圭吾の腕を取って、そのままバスの乗り場へ向かった。俺は二人を追わず、スーツケースを引いて一人でバスターミナルをあとにした。特製の鉛筆のことは、まだ二人には話さなかった。明峰大の合格発表の日、二人がどんな顔をするのか見たかったからだ。そのまま家に帰り、翌朝、始発の電車に乗って明峰大のキャンパスを見に行った。正門の前に立つと、ここで学びたいという思いが、前
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第5話
「え……?」由佳は目を見開き、一歩後ずさった。「そんなの、ありえない」俺は鼻で笑った。「何が?」高校に入ってから、俺はずっと学年一位だった。先生たちにも、普段どおりの力を出せれば、明峰大は十分狙えると言われていた。「それとも、圭吾より俺のほうがいい結果だったのが、そんなに気に入らないのか?」由佳の顔から、さっと血の気が引いた。「違う、そうじゃなくて……」「もういい。ゴミ出してくるから、どいて」俺は由佳の横をすり抜け、そのままゴミ置き場へ向かった。早く自分の合否を確かめたかったのか、由佳はそれ以上追ってこなかった。夜になると、クラスのLINEグループが急ににぎやかになった。【修司、地元のニュースサイトに載ってるぞ!】【明峰大合格、おめでとう!】【学校初の現役合格者と同級生だったなんて、ちょっと自慢できるな!】クラスメイトたちが次々に、俺の合格を祝ってくれた。その中で、由佳と圭吾だけは何も書き込まなかった。学級委員も、それに気づいたらしい。旅行中、由佳が圭吾との写真をSNSに載せたとき、学級委員が何かあったのかと個別に連絡してきた。そのとき、由佳と別れたことも伝えていた。俺の代わりに腹を立ててくれたのか、学級委員はわざとグループで二人の名前を出した。【こんなめでたい日に、修司の彼女と親友は何もなしか?】圭吾は何も返さなかった。少しして、由佳が一言だけ書き込んだ。【おめでとう】それを見て、俺もグループに書き込んだ。【みんな、ありがとう。でも、俺と由佳はもう別れた】【これから由佳と圭吾がどうなっても、俺には関係ない】そのままLINEを閉じた。ちょうど帰ってきた母が、声を潜めて話しかけてきた。「上の階の由佳ちゃんの家、さっきから大騒ぎよ。知ってた?」「何かあったの?」知らないふりで聞くと、母はさらに声を落とした。「明峰大、落ちたんですって。由佳ちゃんは手応えがあったって言い張ってるし、ご両親も採点ミスじゃないかって大騒ぎ。大学に問い合わせるって、お父さんが廊下まで響くような声で怒鳴ってたわ」思わず笑いが漏れた。あの鉛筆で書いたマークが読み取れないことに気づかなかったら、今ごろ明峰大に落ち、採点がおかしいと騒いでいたのは俺のほう
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第6話
あとで聞いた話では、由佳の家族は明峰大にも大学入試センターにも、何度も問い合わせたらしい。だが、採点ミスも答案の取り違えもないと言われ、結果は変わらなかった。由佳は浪人することに決めたという。由佳の両親に挨拶しようかとも思ったが、今は何を言っても嫌みに聞こえそうだった。気まずくなった俺は、そのまま足を速めた。由佳の横を通り過ぎようとしたとき、突然、手首をつかまれた。「話があるの」両家の親が見ている前で振り払う気にもなれず、俺は黙ってついていった。由佳はそのまま、マンション脇にある大きなケヤキの下まで俺を引っ張っていった。少し離れたところで、両親がこちらに手を振った。「ここで待ってるからな」由佳は複雑そうな顔で俺を見た。「圭吾も浪人することになったの」「そう。二人そろって浪人か。ちょうどいいじゃないか。来年も一緒に受けて、同じ大学に入って、そのまま結婚すればいい。高校からずっと一緒なんて、理想的だろ」「そんな言い方しなくてもいいでしょ!」由佳が声を上げると、少し離れたところにいた俺の両親がこちらを見た。それに気づいた由佳は、一度息をついて声を落とした。「最初から、こうなるって分かってたんでしょ。やっぱり、わざとだったのね」俺は何も知らないふりをして首をかしげた。「何がわざとなんだよ。点が取れなかったことまで、俺のせいにする気か?俺が試験中に鉛筆を取り上げたわけでも、書くのを邪魔したわけでもないだろ。二人そろって似たような結果だったから、よっぽど気が合うんだなと思っただけだ」俺は笑って続けた。「まあ、来年また二人で受ければいいだろ。仲よく浪人すれば?」由佳の顔が一気に険しくなった。「まだとぼけるの?私と圭吾の鉛筆を、機械が読み取れない鉛筆にすり替えたんでしょ!そのせいで、答案がほとんど白紙になったのよ!私たちの将来を台無しにするつもりだったの?どうしてそんなひどいことができるの!」さすがに、もう笑えなかった。「へえ。じゃあ、知ってたんだ。あの鉛筆で書いた文字が読み取れないって。それで、わざわざ俺に渡したわけか。俺、そこまで恨まれるようなことした覚えないんだけど」由佳は一瞬言葉に詰まったが、すぐに首を振った。「私は知らない。店が間
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第7話
声を聞きつけた両親がすぐに駆け寄ってきて、俺をかばうようにその場から連れ出した。帰り道、俺は母に言った。「母さん、これからは由佳の家とは付き合わなくていい。詳しくは話したくないけど、もうあの家とは関わりたくない。圭吾も同じだ。うちに来ても、家には上げないで。もう顔も見たくない」母も、俺たちの間に何かあったことは察していたらしい。理由を聞こうとはせず、黙ってうなずいた。数日後、両親が親戚や親しい知人、それに仲のいいクラスメイトを招いて、近所のレストランで合格祝いを開いてくれた。当然、由佳と圭吾には声をかけなかった。事情を知っているクラスメイトたちも気を遣い、俺の前で二人の話をすることはなかった。食事が終わり、最後の客を見送ったところで、店の前に由佳が立っているのに気づいた。浪人を決めて予備校に通い始めたはずの由佳は、淡いブルーのバラの花束を抱えていた。共通テストの前、スマホでこの色のバラを見つけたことがある。珍しい色が気に入って、俺はすぐ由佳にも見せた。すると、由佳は笑って言った。「二人で明峰大に受かったら、合格祝いにこの花、真っ先に渡すね」そして俺は、本当に明峰大に合格した。だが、由佳が花を持って現れたのは、祝いの席が終わり、客がみんな帰ったあとだった。由佳は俺の前まで来ると、そっと花束を差し出した。「何軒か回って、やっと見つけたの。一番きれいなのを選んだ。……合格、おめでとう」俺は花束に目を落としただけで、手を伸ばさなかった。「いらない」それでも由佳は引かず、花束を俺の手に押しつけてきた。「あれから、ずっと考えてたの。あの鉛筆を渡したこと、本当に後悔してる。修司が明峰大に受かって、本当によかった。もし修司まで落ちてたら、取り返しがつかなかった。私と圭吾が落ちたのは、自分たちがしたことの報いだと思ってる。今さらこんなことを言っても遅いかもしれないけど……本当に、ごめんなさい」由佳の言葉を聞いているうちに、ふと、あの日のビデオ通話を思い出した。十年後の俺は、由佳の名前を聞いた途端、顔をしかめた。その反応だけで、どれほど憎んでいたのか分かった。由佳は知らない。別の未来では、あの鉛筆のせいで人生を壊されていたのは、俺のほうだったことを。あの日、未
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第8話
「修司君、高校の同級生だっていう子が来てるわよ」明峰大はほかの大学より入学式が遅かった。浪人することになった数人を除けば、クラスメイトのほとんどはもうそれぞれの進学先で新生活を始めていた。こんな時期に、わざわざ家まで来るのは誰だ?玄関のドアを開けると、そこに立っていた圭吾と目が合った。俺が声をかけるより早く、圭吾は俺の袖をつかみ、その場に膝をついた。「修司、頼む。助けてくれ!共通テストで失敗して、親に浪人は認めないって言われたんだ。予備校代を貸してくれないか?普段の俺が、あんな点数取るわけないって、お前なら分かるだろ?もう一度受けられれば、次は絶対に受かる。頼むよ!」どうやら圭吾は、まだあの鉛筆のことに気づかず、ただ本番で失敗しただけだと思い込んでいるらしい。俺は袖をつかんでいた圭吾の手を振りほどき、少し離れた。「俺だって学生だぞ。予備校代なんて貸せるわけないだろ。そんな大事なことなら、俺じゃなくて親と話せよ」圭吾を連れてきたおばさんは、俺たちを見比べて困った顔をしていた。高校の同級生だと聞いて、親切でここまで案内してくれただけなのだろう。まさか玄関先で金を貸してくれと頼み始めるとは、思ってもいなかったはずだ。見かねたおばさんも、圭吾に声をかけた。「そうよ。まずはご両親と、もう一度ちゃんと話しなさいよ。修司君だって、まだ学生でしょう。こんなところで困らせるものじゃないわ」だが、圭吾はおばさんには返事もせず、俺だけを見ていた。三年間も一緒にいた圭吾は、俺が頼まれると断れないことも、普段めったにお小遣いを使わず、結構な資金を持っていることも知っていた。だからこそ、最後には俺が折れると思っているのだろう。「由佳のことで、俺に腹を立ててるんだろ?だったら、もう由佳とは関わらない。二度と話さないって約束する。だから頼むよ、修司」俺は呆れてため息をついた。「へえ。由佳にあんなことをされても、恨みもしないで、縁を切るだけで済ませるんだ。お前、ほんとに心が広いな」圭吾は戸惑った顔で俺を見た。どうやら、本当に何も知らないらしい。俺は思わず笑った。「せっかくだから教えてやるよ。由佳がお前に用意した鉛筆、全部、機械が読み取れないやつだったんだ。知らなかったのか?俺は親が
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第9話
大学一年の春休み、実家に戻っていた俺は、マンションのエントランスで由佳と鉢合わせた。俺は買い物帰りで、由佳はゴミ袋を手にしていた。浪人生活がよほどきつかったのか、由佳は前よりずいぶん痩せていた。ただ、俺を見る目だけは妙に真っすぐだった。「修司……」「その呼び方はやめてくれ。誰かに聞かれて、まだ仲がいいと思われたら困る」由佳は一瞬黙り込み、すぐに言い直した。「……浅野君。先生にも、明峰大は十分狙えるって言われてるの。もし受かったら、入学式の日、校門まで来てくれない?明峰大で知ってる人、浅野君しかいないから。それと……最後に一枚だけ、一緒に写真を撮れないかな」俺は足を止めた。子どもの頃から同じマンションで育った俺たちは、毎年一枚ずつ、一緒に写真を撮ってきた。これまでの17枚は、すべてマンション前のケヤキの下で撮ったものだ。18枚目は、明峰大の正門前で撮ろうと約束していた。けれど、今さら由佳と写真を撮るつもりはなかった。「悪いけど、迎えには行かない。写真も撮らない。受かったら、おめでとうとは言う。でも、それだけだ」そう言って、俺は由佳の横を通り過ぎた。それから半月ほどして、由佳の自己採点の結果が、前年の明峰大の合格最低点を上回っていると分かった。由佳の両親は、これなら合格は間違いないと思ったらしく、マンションの集会室を借り、親戚や近所の人まで呼んで、早々に合格祝いを開いた。近所にはかなり声をかけていたのに、うちにだけは何の連絡もなかった。去年のことへの当てつけなのだろう。普段ならこういうことを気にする母も、その日は妙に落ち着いていた。リビングでのんびりセーターを編みながら、何でもないように言った。「呼ばれなくたって、別にいいわよ。修司は県内トップで明峰大に受かったんだから。私はあのときのほうが、よっぽど誇らしかったもの」母が言い終えたそのとき、階下から何かが倒れるような音と、誰かの悲鳴が聞こえた。ほどなくして、救急車とパトカーのサイレンが近づいてきた。窓から下をのぞくと、エントランスの前に人だかりができていた。だが、何が起きたのかまでは分からない。しばらくすると、下の階に住むおばさんが、真っ青な顔でうちへ駆け込んできた。「行かなくて本当によかったわ。もう、ひ
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第10話
幸い、由佳は一命を取り留めた。ただ、その年は前年より合格最低点が上がり、由佳はあと一歩のところで合格に届かなかった。結局、明峰大には受からず、地方の国立大学へ進んだ。大学3年の夏休み、恋人の柳沢つばさ(やなぎさわ つばさ)を連れて実家に帰った。ちょうどその日、由佳の家では引っ越しの真っ最中だった。マンションの廊下には段ボールが積まれ、由佳も荷物を運んでいた。俺とつばさが手をつないでいるのを見ると、由佳は一瞬だけ手を止めた。それでも、すぐに何でもないように聞いてきた。「……彼女?」俺は頷くだけで、それ以上話さなかった。つばさを部屋に通し、壁に飾ってある昔の写真を見せていると、つばさが窓の外にぶら下がる小さな籠に気づいた。「これで、上の階と物をやり取りしてたの?なんか楽しそう」窓を開けて籠を引き寄せると、中には17枚の写真が入っていた。どれも、俺と由佳が毎年撮っていた写真だった。同じ写真を2枚ずつプリントして、俺と由佳が1枚ずつ持っていた。俺の分は、由佳と別れたときに全部捨てた。つまり、籠に入っていたのは、由佳が持っていた17枚だった。由佳と別れてから、この籠が使われたことは一度もなかった。それなのに、つばさを連れて帰ったその日に限って、写真の入った籠が窓の外にぶら下がっていた。わざとやったとしか思えなかった。「この写真の子、さっき廊下で会った人だよね。幼なじみで、ずっと上の階に住んでた子?それで、元カノなんだよね」つばさは、もうほとんど察しているようだった。昔付き合っていた相手がいることは、つばさにも話してあった。ただ、その相手が同じマンションの上の階に住む幼なじみだとは言っていなかった。誤解されたくなくて、俺はすぐに説明した。「別れてからは、この籠を一度も使ってない。今日、つばさを連れて帰ってきたのを見て、わざと写真を返してきたんだと思う」つばさは、くすっと笑った。「うん、分かってるよ。写真を返してきたなら、向こうもこれで区切りをつけたかったんじゃない?でも、ちょっと妬いたかも。毎年1枚ずつ撮ってたんでしょ?じゃあ、私も17枚ほしいな。これから少しずつ撮ろうよ」俺も思わず笑った。「分かった。17枚と言わず、これから何枚でも撮ればいいだろ」
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