Masuk最近、ネットで話題になっているアプリがある。未来の自分と会話できるという、不思議なアプリだ。 大学入学共通テストの最終日、試験会場へ向かう前、ちょっとした好奇心から、私も流行りに乗ってメッセージを送ってみた。 【未来の私へ。悠真と結婚してる?】 画面がチカッと光ったかと思うと、すぐさま「名無し」から返信が届いた。 【してるよ。すごく盛大な結婚式だった】 スマホを握りしめたまま、フリック入力する。 【じゃあ、芽唯が介添人をしてくれたの?彼女は私の一番の親友だから!】 返信は相変わらず早い。 【ええ、でもね、ただの介添人じゃない。あなたの夫の新婚初夜の相手でもあるの】 口元に浮かんでいた笑みが凍りつく。 立て続けに、次のメッセージが届く。 【実はね、悠真はわざと悪い点を取ったんだ。そうすれば、学年最下位の芽唯と、堂々と同じ大学に行けるから】 【彼があなたに白紙答案を出して、帝都大学への進学を諦めようと言ったのも、芽唯があなたの成績の良さに引け目を感じないようにするためなの】 間もなく試験会場に入る時間なのに、体の芯まで冷えていくような感覚だけが広がって、一歩も動けない。 そして、追い打ちをかけるように最後のメッセージが送られてきた。 【もし信じられないなら、今日の試験が終わったあと、駅前のホテル、209号室へ行ってみて。そうすればすべてが分かるから】
Lihat lebih banyak時は流れ、あっという間に7年が過ぎた。もし、あの時「名無し」から送られてきたメッセージの通りになっていれば、今日は私と悠真の結婚式で、私が周囲の笑い者にされる、最悪な日になっていたはずだ。しかし今、私は文化勲章の受章者として皇居の宮殿に立っている。周囲からは絶え間ない拍手が響き渡って、その中には、仕立てのいいスーツ姿で、誇らしげに私を見つめる颯の姿もある。1年前、私たちは互いの両親が見守る中で婚約を交わした。颯は、私の翼を折る人ではない。もっと高い空へ羽ばたくために、背中を押してくれる風だ。親授式が終わった後、控室に戻ると、高校時代の同級生から一枚のスクリーンショットが送られてきた。そこに写っているのは、悠真と芽唯の近況だ。二人とも、大学を卒業することはなかった。悠真は、何度も授業を無断で休んで帝都まで私を追いかけていたことが問題になって、大学を退学処分になった。芽唯は、悠真との子どもを身ごもったことで学業を続けることが難しくなり、やむなく退学したという。その後、二人は結婚した。けれど、待っていたのは幸せな生活ではなく、終わりのない争いの日々だった。悠真は、自分の人生がうまくいかなくなった原因をすべて芽唯のせいにした。毎日酒に溺れ、ついには暴力まで振るうようになった。芽唯もまた、貧しさと絶え間ない喧嘩の中で、ヒステリックな女へと成り果ててしまった。……送られてきたスクショには、芽唯が投稿した支援金募集のリンクが表示されている。悠真が飲酒運転による事故で重傷を負い、片足を失った。治療費すら払えず、二人は周囲に助けを求めながら暮らしているという。私は静かにスマホの画面を閉じて、その画像を削除した。皇居を出ると、帝都の夜風が肌に心地よく、少しひんやりとしている。車の傍らで待っていた颯は、手にしていた薄手のコートを私の肩にかけて、そのまま優しく抱き寄せる。「梨花、寒くないか?」彼はそう言って、私の額にそっと口づけをする。「寒くないよ」彼の温かい胸に寄りかかりながら微笑む。その時、ふいにスマホの画面が光った。7年間、一切音沙汰のなかったあの「名無し」から、短いメッセージが届いたのだ。【おめでとう。あなたは運命を書き換えた。これからも、幸せな日々と輝かしい未来が続きますように】画面を見つめている
ドアを開けたのは梨花の母だった。「梨花は!?もしかして具合が悪くてオリエンテーションに行けなかったんですか!?」悠真は滝のような汗を流しながら、切羽詰まった様子で問いかける。梨花の母は、かつて息子同然に可愛がっていた少年を、冷めた目で見つめている。「悠真くん。もう探す必要はないわ。梨花なら、3日前に帝都へ行ったわ。今日はね、帝都大学の入学式なの」悠真は頭の中が真っ白になって、その場に凍りつく。「嘘だ……そんなの嘘だ……」小さく呟く声が震えている。「俺と約束したのに……」「約束?憧れていた大学を諦めてまで、あんたの身勝手な恋愛ごっこに付き合うっていう約束なの? もう二度と、この家には来ないで。顔を見るだけで、嫌な気持ちになるから」容赦ない言葉とともに、玄関のドアがバタンと閉まる。その瞬間になって、悠真はようやく理解した。自分は、本当に梨花を失ったのだと。魂が抜けたようにフラフラと街を歩いていると、芽唯が追いかけてきて、心配そうに彼を抱きしめる。「悠真、大丈夫よ。私がずっと、そばにいるから……」悠真は腕の中にいるこの女を見下ろす。以前なら、彼女の危険な魅力に惹かれていたはずだった。けれど今はただ重く、煩わしく感じる。「梨花の親友」という特別な存在ではなくなった今、芽唯という人間の薄っぺらさや、卑しい計算高さが、あまりにもはっきり見えてしまう。悠真は彼女を強く押し返す。複雑な感情を抱えたまま、芽唯を見つめる。……四月の帝都、うららかな春の陽気に包まれている。桜が咲き誇る中、私は教科書を抱えてキャンパスの並木道を歩いている。自由で、希望に満ちた空気を胸いっぱいに吸い込む。ここでは、私は教授から期待される学生であり、同級生からはクールでストイックな優等生として見られている。「霧島さん。このデータモデル、きれいに仕上がっているね」隣から、落ち着いた低い声が聞こえる。振り向くと、周防颯(すおう はやて)が微笑みながらこちらを見ている。彼は三年生の先輩で、学生自治会の会長だ。そして、大学の先端研究プロジェクトでも中心メンバーとして活躍している。大人びていて、賢い。そして何より、女性を尊重してくれる人だ。私が研究で迷った時はいつも、必要以上に踏み込まず、そっと正しい方向へ導いてくれる。
真実を確かめるためか、芽唯は私の家へ乗り込んできた。机の上に置かれた帝都大学の合格通知書を目にした瞬間、彼女のあの弱々しくて無害そうな仮面は完全に剥がれ落ちた。憎しみのこもった目で睨みつけてくる。「あんた、私を騙したの!白紙で出したって言ったじゃない!同じ大学に行くって言ったじゃない!どうして嘘ついたの!」泣き叫び、取り乱す彼女の姿を見ていると、あまりにも滑稽で、笑ってしまいそうになるほどだ。「嘘ついちゃいけないの?」冷ややかな眼差しで彼女を見る。「あんたと悠真が私に嘘をついて、ホテルに行ってたんだから、私が憧れていた大学へ行くために嘘をついて何が悪い?」芽唯の顔からスッと血の気が引いた。私は最初からすべてを知っていたのだと、ようやく悟ったのだ。仮面を暴かれた彼女は、いっそ開き直ったように笑いだす。「そうよ!私、悠真と寝たわ!それが何!」その瞳には、長い間押し込めていた嫉妬と憎しみが渦巻いている。「あんたはいつもそうやって、私を見下してる!家も裕福で、勉強もできて、容姿にも恵まれてる。その上、悠真にまでお姫様扱いされて!」彼女は私を指差して、その醜い本心をぶちまける。「私よりずっと恵まれてるじゃない!だから、あんたが一番大切にしてるものを奪ってやりたかったのよ!共通テストが終わったあの日、私がどれだけスッキリしたか分かる!?あんたが裏切られて、苦しむ姿が見てみたかったの!あんたをどん底に引きずり下ろすために、ずっと前から悠真に言ったの。あんたを説得して、白紙で出させるって。テストに失敗すれば、あんたの人生も台無しになるわ。なのに、どうして言う通りにしなかったのよ!」ヒステリックに喚き散らす彼女の姿を見ていると、心の中に広がっているのは、怒りよりも悲しみと同情だ。彼女を本当の親友だと思っていた。家のことで悩んでいる姿を見れば心配して、自分のお小遣いを分けた。可愛い服を見つければ、迷わず彼女に譲った。なのに、私が大切にしてきた相手は、隙あらば私に噛みつこうと牙を研ぐ毒蛇だったのだ。「あんたって本当にかわいそう。悠真を奪ったことで、私に勝ったとでも思ってるの?あんたはただ私が捨てたゴミを拾っただけよ。必死になって、嘘をついて、人を傷つけた結果、手に入れたのはあんなクズ男だなんて。悠
出願締切日、芽唯が私の家にやってきた。彼女は玄関に入るなり私の手を引こうとするが、私はさりげなく体をずらして避ける。「梨花、悠真と喧嘩したって聞いたけど……」芽唯は下唇を噛みながら、心配そうな表情を作る。「悠真、ここ数日ずっと家でお酒ばっかり飲んでるし、まだ出願してないみたいなの。一体何があったの?もしかして……この前の旅行のことで、まだ怒ってるの?」そのいかにもあざとい態度を見て、心の中で冷たく笑う。たぶん芽唯は、あの日私がホテルへ行ったことを、まだ知らないのだろう。どうやらあの意気地なし男は、彼女に本当のことを話していないんだ。ただ私と別れ話になっているとだけ伝えたらしい。「別に。ただ、もう飽きただけ」私はパソコンデスクの前に座って、淡々と答える。「それで、今日は何の用?」芽唯は私の冷たい態度を見て、一瞬だけ顔を曇らせたが、すぐにまた優しい親友の顔に切り替える。「今日は出願の最終日よ。私、成績が悪いから、地元の私立大学を受けるつもりなの」そう言いながら、何気ないふりをして私のパソコン画面を覗き込む。「梨花は自己採点した?白紙で出したんだから、私と同じくらいの点数だよね?早く出願しようよ。学部も同じにしない?そうすれば大学に行ってもずっと一緒にいられるから」彼女は嬉しそうにそう言いながら、私のマウスに手を伸ばそうとする。「私がシステムにログインしてあげる。ID教えて?」「芽唯」私は彼女の手をそっと制して、微笑む。「ちょっと喉が渇いちゃって。キッチンからお水持ってきてくれる?」芽唯は一瞬きょとんとしたが、すぐに素直に頷く。「うん、ちょっと待っててね」キッチンへ向かう彼女の後ろ姿を見届けて、私はすぐに帝都大学のウェブ出願システムにアクセスした。迷うことなく必要事項を入力して、検定料の支払いまで一気に済ませる。芽唯がグラスを持って戻ってくる頃には、わざとパソコン画面を地元の私立大学の公式サイトに切り替えて、進路を考えているフリをしている。「この大学に決めたの?」芽唯は目を輝かせて、こぼれそうになる笑みを必死に隠している。「うん」水を受け取って、一口飲む。「だって、約束したじゃない。ずっと一緒にいるって」私の話を聞いて、芽唯はほっと息を吐いた。隠しきれない喜びが、その目に浮かんでいる。 私が地