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第4話

Author: 逆転の歯車
病院へ向かう車中、翔は一言も発さなかった。

前だけを見て運転する彼は、まるで隣に座る私が、赤の他人であるかのように冷淡だった。

彼は私がシートを汚さないよう、私の体の下に何重にもペット用シートを敷いた。

さらに窓を全開にし、容赦なく冷風を浴びせてきた。私が寒さで震えていようと、お構いなしだ。

私の血の臭いがして、吐き気がすると言ったのだ。

病院に着くと、彼は手早く手続きを済ませ、私を一人病室に残して去っていった。

まるで厄介な荷物を捨てていくかのように。

幸いにも、子供は無事だった。

どれくらい時間が経っただろう。病室のドアが開いた。

翔かと思った。

顔を上げると、そこには私が一番会いたくない人が立っていた。

莉奈だ。

彼女は保温弁当箱を手に提げ、完璧な営業スマイルを浮かべていた。

「翔さんが急な仕事で抜けられないので、私が代わりに来ました。

これ、翔さんが私のために作ってくれた特製薬膳スープなんですけど、ちょうど余ったので。

温かいうちにどうぞ。赤ちゃんのためにも、栄養つけないといけません」

彼女が弁当箱を開ける。

濃厚なスープの香りが、病室いっぱいに広がった。

かつて、私が一番好きだった翔の手作りスープ。

だが今は、吐き気が込み上げてくるだけだ。

「要らない」私は冷たく言った。

「ここはあなたの来る場所じゃないわ。持って帰って」

私の言葉で、彼女の偽善の仮面が剥がれた。

莉奈から笑顔が消える。

彼女は私の耳元に顔を寄せ、氷のように冷たい声で囁いた。

「優さん、あんた自分が何様のつもり?

その腹のガキを盾にして、一生長谷川夫人の座に居座れるとでも思ってんの?

翔さんが一番好きなのは私よ。

あんたみたいに翔さんに寄生して血を啜るだけの能無しは、死ねばいいのよ」

彼女の一言一句が、ナイフのように私の心を抉った。

怒りで震えが止まらず、私は彼女を叩こうと手を振り上げた。

だが、鈍った私の動きは簡単にかわされた。

同時に、莉奈の手からスープがこぼれ落ちた。

煮えたぎるスープが、私の手の甲にかかる。

「あっ!」

熱い!

激痛に悲鳴を上げる。

手の甲はみるみる赤く腫れ上がり、焼けるように痛んだ。

その時、病室のドアが勢いよく開いた。

翔が飛び込んでくる。

莉奈は即座に嘘泣きを始めた。

「翔さん!ごめんなさい!わざとじゃないんです!

優さんが急に突き飛ばしてきたから、手が滑って……

本当にわざとじゃ……」

彼女は儚げに泣き崩れ、誰もが同情せずにはいられない姿を見せた。

私が弁解する間もなく、翔は私の目の前に詰め寄っていた。

私の火傷を心配するためではない。

彼は手を振り上げ、私の頬を力任せに張ったのだ。

「優!お前、また気が狂ったのか!」

強烈な平手打ちに目がくらみ、耳鳴りがした。

「莉奈が親切で見舞いに来てくれたのに、なんてことするんだ!」

彼は私をベッドから乱暴に突き飛ばした。

私が静養の必要な妊婦だなんて、お構いなしだ。

そして慌てて莉奈の手を取り、火傷などしていない彼女の指先に、フーフーと息を吹きかけ始めた。

本当に火傷をして苦しんでいる私は、ボロ雑巾のように捨て置かれた。

火傷の痛みは焼けるような激痛が走った。

だが心がそれ以上に痛かった。

「翔」

私は声を絞り出した。喉が張り付くようだ。

「目は節穴なの?火傷したのは私よ!」

彼はようやく私を振り返ったが、その目には冷酷な嫌悪と苛立ちしかなかった。

「自業自得だろ!先に手を出したのはお前だ!

もううんざりだ!今すぐ莉奈に謝れ!」

謝れ?

私に愛人に謝れと?

私は彼を見据え、一言一句、はっきりと問いかけた。

「断ると言ったら?」

彼の堪忍袋の緒が切れた。

「優、これが最後の警告だ。謝れ!さもなきゃ、今すぐ離婚するぞ!

お前も、腹の中のその忌々しいガキも、一銭たりとも貰えると思うなよ!

身ぐるみ剥いでこの街から追い出してやる。

一生、ドブ底を這いずり回るような生活をさせてやるぞ!」

その言葉が、私の心の中に残っていた最後の希望を完全に打ち砕いた。

怒りで歪んだ彼の顔と、その背後で勝利の笑みを浮かべて私を見ている莉奈。

私はゆっくりと、背筋を伸ばした。

視線を落とし、大きく膨らんだお腹を優しく撫でる。

そして顔を上げ、静かに彼を見つめた。

「翔、お腹にいるのは、あなたの実の子供なのよ、この女のために、そこまでする気?」

彼は冷笑し、莉奈を抱き寄せた。

「実の子?ハッ、ガキなんざ産める女はごまんといる。

だが莉奈は、この世界で唯一無二の存在だ」

私は頷いた。

ゆっくりと、左手を上げた。

火傷していないほうの手だ。

その手には、小型のボイスレコーダーが握られていた。

最後の質問をする時、私はすでに録音ボタンを押していたのだ。

今、私は二人の目の前で、静かに停止ボタンを押した。

赤いランプが一瞬光り、消えた。

私は彼に向かって、薄く笑いかけた。

「上出来、今の言葉、全部録音させてもらったわ。

離婚してもいいけど、一銭も貰えないのは、あなたの方よ」
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