迷宮プロレス道 ~伝説のおっさんレスラー、ダンジョン配信で無双する~

迷宮プロレス道 ~伝説のおっさんレスラー、ダンジョン配信で無双する~

last updateLast Updated : 2026-07-13
By:  瘴気領域Ongoing
Language: Japanese
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プロレスラー黒鉄 鋼助(くろがね こうすけ)は悩んでいた。社長をつとめるプロレス団体の経営が苦しいのだ。東北でプロレス団体を立ち上げて早十年。今日も試合会場では閑古鳥が鳴いている。一か八かの興行もまるでお客がやって来ない。 いまどきの若者はプロレスよりもダンジョン配信に夢中なのだった。 スキルや魔法で片付いてしまうダンジョン配信者の大味な闘いぶりよりも、プロレスの試合の方がずっと感動できるのに……一度でも、たった一度でも見てもらえればプロレスの魅力が伝わるはず……。頭を抱える黒鉄に、親友の忘れ形見である風祭 青空(かざまつり そら)から意外なアイデアがもたらされる。 「ダンジョンでプロレスやっちゃおうよ!」

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Chapter 1

第1話 地方プロレスで客を呼ぶのは大変です

『おおっとー! マスクド・ササカマがトップロープから跳躍! 強烈なボディプレスがデビル・コースケを襲うーーーッッ!! そのままホールド! ワン、トゥー、スリィィィイイイ!! マスクド・ササカマ、鮮やかに勝利をもぎ取ったぁーーーッッ!!』

 東北のとある町の片隅。

 がらがらの市民体育館にマイク越しの絶叫が虚しく響き渡った。

 勝利したマスクマンが両手を突き上げてアピールするが、並べられたパイプ椅子に観客はほとんどいない。

 関係者を除けば、半分眠ったような老人がまばらに座っているだけだった。

『みちのく王座決定戦もいよいよ折り返し! 東北の覇者となるのはマスクド・ササカマか! あるいはナマハゲ・ザ・ジャイアントか!? 受付にて次戦のチケットも販売しておりますので、お帰りの際はどうぞお気軽にお求めください! シーズンパスがたいへんお得となっております!』

 わずかな観客が帰ると、体育館はもの寂しい静寂に満たされた。

 東北に拠点を置く5つの地方プロレス団体が協力し、乾坤一擲けんこんいってきをかけて企画した「みちのく王座決定戦」シリーズだが、集客はまるで振るっていなかったのだ。

「すみません、クロさん。勝たせてもらっちゃって」

 マスクド・ササカマがマットに倒れている男に手を伸ばす。

 男の顔には地獄の悪魔を彷彿とさせる不気味なメイクが施されていた。男は、目だけを動かして観客がすべて帰ったことを確認すると、巨体に似合わぬ俊敏さで跳ね起きた。

「いいってことよ。俺みたいなロートルより、お前みたいな若手が勝った方が盛り上がるだろ」

「自分、超日時代からのファンだったんすよ。ガキの頃にクロさんの試合見て、よく真似してたんす。必殺、バリスタナックル!! なんつって」

 ササカマは大きく左手を引いて、右のパンチを繰り出す。

 クロさんと呼ばれた男は大きな手のひらでその拳を受け止めた。

 バシンと小気味良い音が体育館に響く。

「お、なかなかやるじゃねえか。もっとそうだな、引き手を大げさに絞ってみな。迫力も増すし、スピードも出る。ほら、やってみろ」

「ええっと、こんなかんじっすか?」

「そうそう、いい感じだ。もう一発打ってみろ。今度は胸で受けて――」

『こら! 二人とも遊んでないで撤収撤収! 早く片付けないと追加料金取られちゃうんだからね!』

 実況席からマイクを使って注意をしてきたのは年若い少女だった。

 両手を腰に当ててリング上の二人をにらんでいる。

 ササカマとクロさんは、目を合わせて肩をすくめた。

「わーった! わーってるって! ほら、ササ、とっとと片付けるぞ」

「まったく、ソラちゃんにはかなわないっすねー」 

 二人は苦笑いをして、リングの解体に取り掛かる。

 前座試合に出ていた若手たちも集まって、リングは見る間にその形を失っていった。

 * * *

 撤収が終わるとすっかり夜遅くなっていた。

 クロさん――黒鉄くろがね鋼助こうすけは打ち上げの誘いを断り、軽トラックのハンドルを握って帰路についていた。

「ソラ、今回の売上はどうだった?」

「聞かなくてもわかるでしょ。あの客入りなんだから」

 助手席に座っているのは実況の少女だった。

 名前は風祭かざまつり青空そら

 唇を尖らせながらスマートフォンの画面を睨んでいる。

「私をリングに上がらせてくれたら話が早いのに。『往年の名レスラー復活! スカイランナーⅡ世誕生! なんとなんとなんと、正体は強く気高く美しい現役女子高生だーッ!!』なんてさ、話題性ばっちりじゃん。満員御礼間違いなしだよ」

「自分で『強く気高く美しい』とか言うかあ? ま、それはともかく相手がいねえだろうが、相手が」

「クロさんが相手してくれりゃいいじゃん」

「説得力ってもんを考えろ。プロレスはただのショーじゃねえ。ホンモノを見せるもんなんだ。リアリティなくして夢はなし――」

「――夢なくして真実なし、でしょ? 聞き飽きちゃったよ」

 クロガネは身長190センチ、体重130キロ超の巨漢だ。

 全身筋肉の塊で、二の腕はソラの腰よりも太い。

 一方のソラは身長160センチ、体重59キロ。

 普通の女性と比べればガッチリしているが、クロガネと並ぶと大人と子供どころではない。

「くっそー、私と戦ってくれる女子レスラーが東北にもいればいいのに」

「学校でアマレスやら空手部やらに声かけたんだろ? そういやどうなったんだ?」

「ダメダメ、全滅」

 ソラは顔の前で手をひらひらと振る。

「格技系の子はいまどきみんなこっちなんだから」

 そういって、スマートフォンの画面をクロガネの前に差し出した。

 クロガネは「こら、運転中にあぶねえだろ」などと言いつつ、ついちらちらとそれを見てしまう。

 そこには、剣や鎧を身に着けた若者たちが、地上には存在しない生物――モンスターと戦う映像が表示されていた。

「ダンジョン配信ってやつか」

「見てよ、この同接数。同じ東北でやってるっていうのに……」

「ドウセツスウ?」

「同時接続数。この配信を、4000人の人が同時に見てるってこと」

「4000人!? 4000人っつったら、後楽園ホールの倍だぞ!?」

 クロガネはかつて自分が超日プロレスの選手だったころを思い出していた。

 自分は前座だったが、満員の後楽園ホールの熱気と言ったらとてつもなかった。

 後楽園ホールの最大収容人数は2005人。

 あの熱気を生まれ故郷である東北にも再現したいという想いで、新団体の旗揚げに協力したのだ。

 そんな夢を果たせぬまま、十年の時が過ぎてしまったわけだが。

「そういえば、今日の試合は配信もしてたんだよな? 何人ぐらいが見てくれたんだ? 何百人か? いや、贅沢は言わん。何十人だっていい!」

 クロガネは期待を込めて尋ねる。

 一般チケットは両手で数えられるほどしか売れなかったが、配信とやらで見てくれているファンがもっとたくさんいたのかもしれない。

「……4人」

「え?」

 思わず頓狂とんきょうな声が出てしまう。

「だから4人。これ最大ね。平均したら1人が見てたり見てなかったり」

「マジか……」

「リアルで人気ないのに、ネットでだけ人気なんか出るわけないじゃん。あー、だから言いたくなかったのに……」

 あからさまに落ち込むクロガネに、ソラはため息をつく。

 こうなるだろうから黙っていようと思っていたのだ。

 しかし、直接聞かれてしまっては答えないわけにもいかない。

「ぐう……そんなチャンバラより、プロレスの方が絶対アツいのに……」

「ホントだよね。ダンジョン配信って、剣でズバーッとか、魔法でドカーンとか、大味すぎてストーリーがないのよ」

 クロガネのぼやきに、ソラも相槌を打つ。

 ソラもまたプロレスという格闘技に魅せられたものの一人なのだ。

 亡き父の思いを継いで、東北の人々の心を、プロレスという名の炎で焦がしたいのだ。

「このでっかい猿みたいのが相手なら、飛びついてヘッドシザーズで――」

「いきなり大技は感心しねえな。俺なら手四つの力比べから――」

「あたしのスタイルじゃないし。まずは回避に徹しつつ打撃の差し合いを――」

「フィニッシュは投げか、関節か悩むな。やっぱり初心者向けには派手な――」

 配信に映ったモンスターを対戦相手に見立て、各々の脳内で試合運びが組み立てられていく。

 それは、間違いなくいま配信されている戦いよりも、魂を揺さぶる試合になるはずだと二人は確信していた。

 しかし、現実は厳しい。

 ダンジョン配信は人気を博し、プロレスは閑古鳥だ。

 それを思い出して、クロガネはため息をついた。

「せめて一度でも見てさえもらえればなあ」

「ホントだよねえ……って、ちょっと待って! それ、いいアイデアかも!」

 ソラは目を輝かせ、ぽんと手を打った。

「ダンジョンでプロレスやっちゃおうよ!!」

「お、おう?」

 唐突な提案に、クロガネの目が丸くなった。

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第1話 地方プロレスで客を呼ぶのは大変です
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第2話 ダンジョン受付では例によってトラブルが起きる
 翌朝、クロガネとソラは仙台駅前のダンジョン入場口にいた。 善は急げということで、さっそく下見に来たのだ。 配信機材は一応持ってきている。が、初心者が何の準備もなしに見栄えのする画を撮れるはずもないのでテスト用だ。 服装もクロガネがTシャツにダメージジーンズ、ソラがTシャツにハーフパンツとラフなもので、配信向きの衣装ではない。 日曜日ということもあり、ダンジョンの周辺は多くの人々で賑わっている。 ほとんどが十代から二十代の若者で、四十路も目前のクロガネは少し居心地が悪かった。「ええと、この列に並べばいいのか?」「うん、待ってる間に探索計画書っていうのを書いて、提出するんだって」「へえ、なんか登山みたいだなあ」「登山もこういうことするの?」「登山もっつうか、登山のやり方をダンジョンが真似たんだろうな」 ダンジョンなるものがこの世界に現れたのは7~8年前のこと。 その頃のクロガネは、団体の旗揚げ直後で忙殺されていたためよく覚えていないが、世間が騒がしかったことだけはなんとなく記憶に残っていた。おそらく、ゼロから仕組みを考える余裕がなく、流用できるものを泥縄で導入していったんだろう。「で、その計画書ってのはどう書くんだ?」「待って、ネットで調べてみる」 ソラがスマートフォンを操作している間、手持ち無沙汰のクロガネは辺りを見回していた。 金属製の鎧を着て、大剣を背負った男。 革鎧を着て、短剣を腰に差した身軽そうな女。 真っ黒なローブを頭からかぶった杖持ちに、虎のような猛獣を引き連れ鞭をしごくボンテージの女――「まるでWWEだな、こりゃ」 クロガネはぼりぼりと頭をかいた。 WWEとはアメリカのプロレス団体で、ショー要素に重点を置き、エンターテイメントに徹しているのが特徴だ。その甲斐あって、プロレス斜陽の現代にあっても人気を保っている。しかし、プロレスとはショーであると同時に真剣勝負でもあると考えるクロガネには、いまひとつ肌に合わない方針でもあった。「へいへい、地味子ちゃんよ。俺らと一緒に探索行こうぜ」「俺たち<金愚烈怒>に誘ってもらえるなんて地味子ちゃんはツイてるなあ」「あ、あの、そういうの困ります……」「ああン? <金愚烈怒>の誘いを断るってのか!」「や、やめてください……」 そんな
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第3話 仙台駅前ダンジョン第1~第3層
 あんないい加減な計画書でも、あっさり受付を通ってしまった。 受付はひっつめ髪の神経質そうな中年女性で、入場料と計画書を受け取ると、ろくに内容も確かめずに書類の山に突っ込んでいくだけだったのだ。「計画書、書く意味あったのかな?」「体裁が整ってることが大事なんだろ」 プロレスの試合でも、毎回誓約書が交わされる。 こんな杜撰なチェックではないが、一番大事なのは「リング上で起きた事故(負傷・死亡・後遺症等)について、主催者や対戦相手に対して責任を問わない」という約束だ。ここだけ聞くと責任逃れに思われるかもしれないが、これがなければ格闘興行は成立しない。いわゆる自己責任ってやつだ。 ダンジョンの事情も似たようなもんなんだろう。 計画書の裏面には小さい文字で免責事項がびっしりと書かれていた。斜め読みだが、要するに「ダンジョン内で起きたことは自己責任」ってことだった。あとは決められた場所以外でトイレをすると罰金だとか、設備や備品を壊したら弁償だとか、まあそういう普通のことだ。「ダンジョンなんてひさしぶりだなあ」「ん? ソラはダンジョンに入ったことがあるのか?」 クロガネは、自分と同じでソラも初めてだと思っていた。「中学のとき、遠足で行ったよ」「おいおい、危なくねえのかよ」「どのダンジョンも3層まではモンスターが出ないんだって」「ふうん、それならハイキングみたいなもんか」 石造りの階段を下っていく。 外よりもわずかに気温が低く、空気が湿っている。 天井の隅にはごちゃごちゃとした配線が這っており、数メートル間隔でLED照明が灯っている。 階段を降りきると、「仙台駅前ダンジョン第1層」という看板が天井からぶら下がっていた。 その先には土産物屋や軽食の屋台や出店が所狭しと軒を連ね、思い思いの装備をした配信者たちでごった返している。 クロガネとソラは地上でならごく当たり前の服装をしているが、ここではかえって浮いて見えた。「なんか緊張感がねえなあ」「1層なんてこんなもんでしょ」 ソラは屋台でラムネを2本買い、1本をクロガネに渡す。 クロガネはポンと音を立てて蓋を開け、一気に飲み干して瓶を屋台に返す。少し遅れて、ソラも瓶を返した。「あ、チョコバナナもあるよ」「おいおい、買い食いは帰りにしようぜ。遊びに来たわけじゃねえんだから」「じょーだ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第4話 仙台駅前ダンジョン第4~第7層
■仙台駅前ダンジョン第4層 クロガネは、初めて生でモンスターと出会った。 そして、ぼりぼりと頭をかいて困惑した。 想像していたものと、その目で見たものがあまりにも違っていたからだ。「キノコが歩いてるな」「キノコが歩いてるね」「あれはエリンギか?」「エリンギだね」「あっちはシイタケ?」「シイタケだね。かなり肉厚」「あれはシラタキか?」「エノキ。クロさんっていつもエノキとシラタキ間違えるよね」「わかってんだけど、なんか間違えるんだよなあ」 クロガネも頭ではわかっている。 シラタキはこんにゃくで、エノキはキノコ。 買うときも間違えることはない。 だが、口に出すときはなぜか間違えてしまうのだった。「これ、倒した方がいいのか?」 こちらに向かってきたエリンギの、頭らしい部位を押さえて止める。 大きさはクロガネの腹ほどで、人間に例えるなら幼稚園児くらいか。 手足が短いから、頭を押さえておくだけで無力化できる。 力は弱く、動きも鈍い。そして妙なかわいらしさがある。 これを殴り飛ばすのは別の意味で勇気がいる。「細く裂いてバター醤油で炒めるとおいしいんだって」「食い方の話じゃなくてだな……」 ソラが受付でもらったパンフレットを見ながら言う。 パンフレットには10層までの概要が書かれていて、そこから先の情報は有料のガイドブックを買わなければならないそうだ。「ま、放っておけばいいんじゃない? 夕飯に食べたかったら帰りに取っていこうよ」「いや、別に食いたいわけじゃなくてな……」 4層~6層の出現モンスターはすべてキノコだ。 エリンギ、シイタケ、エノキ、シメジ、マッシュルーム、マイタケなどにぽこぽこと叩かれながら階層を下っていった。 ナメコだけは、ぬるぬるして気持ち悪いから蹴って遠くにやった。■仙台駅前ダンジョン第7層「ここまで来ると照明がないんだな」「でも、ヒカリゴケだけで普通に見えるね」「ああ、ちょっと暗いが、灯りで手が塞がらないのは助かるな」 クロガネは通路の壁や天井を見上げた。 そこには黄緑色にぼんやりと光る苔がびっしりと生えている。 メイキュウヒカリゴケと言われる発光植物だ。 なお、地上のヒカリゴケとはまったくの別種である。 地上に生えるヒカリゴケは発光をしているわけではなく、レンズ状の細胞によって光
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第5話 仙台駅前ダンジョン第7~第9層
■仙台駅前ダンジョン第7層 トビホタルイカとの一悶着を終え、クロガネとソラは先へと進む。 いくら下見とはいえ、騙されかけた上に時間を無駄にしたのは腹立たしかった。 次に見つけたらとっ捕まえて食ってやると、クロガネは鼻息を荒くしている。「クロさん、そこは右ね」「ん、こんなとこに道があったのか」 パンフレットの地図を見ながらソラが指示を出す。 興奮していることもあるが、暗くなったために細い通路などを見落としやすくなっていた。 薄暗い道を進んでいると、前方の闇の中からコツコツと硬い音が聞こえてくる。 何かの足音のようだ。 別の配信者だろうか。「こんにちはー」「ちわーす」 姿が見える前に、こちらから声をかける。 モンスターと誤認されないよう、人の気配を感じたら声をかけるのが配信者のマナーだ。 しかし、返事はない。 コツコツと硬質の足音だけが近づいてくる。 どうやら複数人――人間であればだが――のようだ。 クロガネとソラは足を止めて身構える。 闇の奥に目を凝らしていると、白い人影が姿を現した。 だんだんとその姿がはっきりしてくる。 白く、肉のない身体。 真っ暗で空洞の眼窩。 歯は根本までむき出しで、時折カチカチと鳴っている。 文字通り骨ばった身体のあちこちには、フジツボがこびりついている。 そんな怪物が、3体。「おっ、スケルトンってやつか。定番だな」 クロガネは、にいと笑って凶相を浮かべる。 さながら獲物を前にして牙を剥く猛獣のようだ。 クロガネの巨体が、弾丸のような速度で飛び出す。「疾ッッ!!」 シンプルな前蹴り――すなわち、ケンカキック。 理合いも何もない。 体重の乗った足裏がスケルトンの胸骨を砕き、肋骨をぶち破り、背骨を貫く。 足に絡まったそれを、片足立ちのまま振り払う。 スケルトンがばらばらになって吹っ飛んでいく。「ありゃ? ずいぶん脆いぞ?」 クロガネはあまりの手応えのなさに拍子抜けしていた。 人骨というものは硬い。 いくらむき出しとはいえ、こんな簡単に砕けるものではないのだ。「それ、スケルトンじゃなくてコーラルゴーレムっていうんだって」「コーラル……? なんだそりゃ?」「珊瑚。石灰を固めて作ったロボットみたいなものって書いてある」「へえ……って、撮ってん
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■仙台駅前ダンジョン第10層 チーム<金愚烈怒>「おら、待てっ! ぶっ殺してやる!」 ユウヤが片手剣を振るう。 血しぶきとともに豚面人身のモンスターがぴぎゃあと悲鳴を上げた。 仔豚頭と呼ばれるモンスターだった。体長は1メートル程度で、力は弱く、動きも鈍重。臆病で自分から襲いかかってくることは滅多にない無害なモンスターだ。「ぎゃははははは! こいつら弱えー!」「憂さ晴らしは豚狩りに限るよな!」<金愚烈怒>の3人は、ピギーヘッドの虐殺をしていた。 群れを見つけては爆発魔法で驚かせ、逃げたところを追いかける。浅手を与えながら執拗に痛めつけることを繰り返す。 その様子を身につけたアクションカメラで配信する。<金愚烈怒>の定番コンテンツだった。 悪趣味だと批判されることも多かったが、もっとやれというファンも多い。 とくにモンスター虐待板という掲示版では好評だった。「ぴぎぃぃいいい!!」「おっと、近寄るんじゃねえ! 臭えんだよ!」 いよいよ追い詰められると、ピギーヘッドも反撃してくることがある。 ユウヤは血とよだれを撒き散らして飛びかかってきた1匹を盾で殴り飛ばす。「生意気なブタ野郎が! 死ねやっ!」 ユウヤの剣が、ピギーヘッドの首を刎ねた。 仔豚の頭が、辺りを鮮血で汚しながら石畳を跳ねた。 その目は恨みと怒りに見開かれているが、ユウヤはまるで意に介さない。「ひゅー、相変わらずすげえ切れ味だなあ」「ふん、俺様の腕がいいのさ」「ぎゃはははは! 言うねえ」 ユウヤの剣は特注品だ。 今日だけでもう何匹ものピギーヘッドを斬っているが、刃こぼれひとつない。 ユウヤの剣の技量は、たしかに高い水準にある。 数多い配信者の中でも上澄みと言ってよいだろう。 だが、剣によってそれが底上げされているのも間違いない事実だった。 特殊なチタン合金で作ったワンオフ品。 地上の技術で作れるものとしては、最高クラスの品を使っていた。「そういやさ……」 仲間のひとり、ケンジがマイクをオフにして小声で話す。「入口にいたおっさん、あれ、大丈夫だよな? 推薦に響くとやべえんだけど……」「ハッ、あんな小汚えおっさん、仮に死んでもどうとでもなるに決まってんだろ。何も言わなく
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第7話 仙台駅前ダンジョン第10層 vs カマプアア
■仙台駅前ダンジョン第10層 クロガネとソラが歩いていると、前方から足音が聞こえてきた。 バタバタと慌てた様子で、どうやら全力で走っているらしい。 何かのトラブルでパニックに陥っているのかもしれない。 モンスターと間違えられて攻撃されてはたまらないと、二人は早めに声をかけることにした。「こんにちはー」「ちわーす」「だ、誰かいるのか!? たっ、助けてくれっ!」 のんきな挨拶に対し、返ってきたのは悲痛な叫びだった。 金色の鎧を着た男が、暗闇の中から姿を表した。 クロガネは、その姿に見覚えがあった。「ううん? 今朝の金ピカじゃねえか。何かあったのか?」「俺様を助けろ! 金ならいくらでもくれてやる! うわぁっ!?」 金鎧の男が突然宙に浮く。 否、浮いたのではない。 毛むくじゃらの手に胴を鷲掴みにされ、宙に持ち上げられたのだ。「くそっ! 離せ! うがっ! だず、たずげっ……があっ」 金色の鎧が、めりめりと音を立てて変形していく。 男は手足をバタつかせて暴れているが、指が緩む気配はまるでない。「よっこいせっ、と!」 どうっ、と鈍い音が響いた。 トラックが土嚢の山に突っ込んだような重低音。 クロガネのハイキックが怪物の手の甲に炸裂していた。 雷鳴を思わせる唸り声とともに、怪物の指が緩む。 金鎧の男が、がしゃりと耳障りな音を立てて石畳に落ちる。「ソラ、こいつ頼む」「はいはーい」 クロガネは後ろも見ずに、男の足を掴んで背後に放り投げた。 ソラがそれを受け止め、地面に寝かせてやる。「ひゅー、こいつは大物じゃねえか」「2メートル半? もうちょっとある?」 「あるな。超日時代にやった一番デカいやつがちょうど2メートル半だった。そいつよりもでけえ」 クロガネは両手の指をバキバキと鳴らしながら、目の前のモンスターを見上げた。 太く鋭い牙を持つ猪頭には、感情の読めない黒い瞳が八つ輝いている。 先ほど蹴り飛ばされた左手が気になるのか、指を開いたり閉じたりしていた。 指の一本一本が、ソラの腕よりも太い。「不意打ちでカットしちまって悪かったな。だが、お前さんだってあんなの相手じゃ面白くねえだろ? 選手交代させてもらうぜ」「クロさん、それ、言葉通じるの?」 猪頭は、突き出た鼻からふしゅるふしゅると息を吐くばかりだ。 とても話が
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第8話 はじめてのドロップアイテム
「ぷはー、さすがにしんどかったぜ」 地面に突き刺さった猪頭の横に、クロガネはどっかりと腰を下ろした。 全身傷だらけの汗まみれだ。試合中は余裕の態度を崩さなかったが、実際はかなり厳しい戦いだったのだ。「これで初心者向けってんなら、ダンジョンってのも舐められねえな」「ホントだね、正直、あたしもちょっと舐めてた」 ソラが逆さまのまま動かない猪頭をちょんちょんと指でつついている「すっごい剛毛。熊の毛皮みたい」「熊の毛皮なんて触ったことあるのかよ」「お土産物屋さんに剥製が飾ってあったりするよ」 そういえばそうか。 クロガネはぼりぼりと頭をかく。 この十年というもの、ソラの父親代わりを務めてきたつもりだった。だが、振り返ればプロレス漬けの毎日で、遊びや旅行に連れて行ったことなど数えるほどしかなかったなとふと思い出す。「なあ、ソラ、今度遊園地にでも行くか?」「いきなり何言い出してんの? 走馬灯でも見えた?」 ソラが怪訝な顔をする。 そりゃそうか。いくらなんでも唐突が過ぎた。 クロガネはぼりぼりと頭をかき、話題を変えようと視線を泳がせる。 すると、空中に真っ黒な球体が浮いているのが目に入った。 大きさはバスケットボールほどで、カメラのレンズのようなものがついている。 一言でいうなら空飛ぶ黒目玉だ。「なんだ、ありゃ?」 クロガネは球体を指さして疑問を口にする。「なんだろうね? あのイカの仲間かな?」 ソラがぴょんぴょん跳ねて追いかけるが、目玉はするするその手をかわす。「虫取り網でも持ってくればよかったかなあ」「よせよせ、捕まえたってしょうもねえだろ」「それはそっか」 目玉を捕まえるのを諦め、ソラはクロガネのそばに移動する。 デイバッグから荷物を取り出し、クロガネの手当を始めた。 幼い頃から道場で遊んでいたソラにとって、怪我の手当はままごとよりも先におぼえた茶飯事だ。「お、おい……俺様も手当しろよ……」「あ、気がついたんだ」「胸が痛え……肋骨が折れた……」「いやいや、折れてないって。圧迫されて息が詰まっただけだよ」 骨折か単なる打撲か、ソラは一目で判断できた。 鎧は派手に壊されてはいたが、それが衝撃を吸収したのだろう。 本人の怪我は大したことがない。ショックで気を失っていただけだ。「ポーション……回
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第9話 プロレスオタクは迷宮最強の夢を見るか 
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第10話 デビル・コースケ、商店街を侵略する
「フワーハハハ! この商店街はデビル・コースケ様が乗っ取った!」 とある商店街のイベント広場。 特設の簡易リングで、デビル・コースケに扮したクロガネがマイク片手に大声を張り上げている。 白塗りに赤黒のラインを引いた悪魔風のメイク。鋲付きの肩パットにフェイクレザーの黒マント。いかにも悪役という出で立ちだ。 見物客はぼちぼち集まってきている。 7月の日差しは容赦がない。ミストクーラーの涼が目当ての者も多いだろう。 しかし、それでもかまわない。今日は商店会の依頼で来ているが、プロレスの布教にもつながる一石二鳥のイベントだ。ここでプロレスの魅力を触れてもらい、本番の興行にも足を運んでもらえるようにすればいい。 マイクパフォーマンスをしながら、ロンダートからバク転をつなげたり、トップロープに登って宙返りをしたりする。 ボディビルダーもかくやというクロガネの巨体が軽業を決めるたびに、見物客の歓声と拍手が大きくなってくる。 よし、温まってきたな。 頃合いと見て、クロガネはリングから飛び降りる。 両手を上げて「フワーハハハ!」と高笑いしながら、見物客をかき分けて歩く。 子どもが悲鳴を上げ、悪ガキがパンチやキックをしてくる。 妙齢のお嬢様方は黄色い悲鳴を上げつつ、胸筋や腹筋をぺたぺた触ってくる。 眼鏡をかけた若い女が、一眼レフカメラでパシャパシャと撮ってくる。 ううむ、あまり長引くとさすがに居心地が悪い。 助けを求めてリングにちらちら視線を送る。 客いじりはそろそろこんなもんでいいだろう。 クロガネの想いが伝わったのか、リングが白いスモークで覆われた。 その中に人影が現れる。「そこまでだ、デビル・コースケ! 商店街はお前の好きにはさせないぞ!」「むっ、貴様は!? まっ、まさか!」 クロガネはリングに向かって振り返り、大げさに驚いてみせる。「我が町の平和はオレが守るっ! マスクド・ササカマここに参上っ!」「ぐうー、マスクド・ササカマめ。いつもいつも邪魔をしおって! 今日はいつものようにはいかないぞ!」 クロガネはリングに駆け戻り、ロープを飛び越える。 その勢いのまま、マスクド・ササカマにドロップキック。 ササカマは吹き飛ばされ、反対側のロープにぶつかってダウンする。「ふわは
last updateLast Updated : 2026-07-13
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