Share

第121話:正式に受理しました

Penulis: Sunny
last update Tanggal publikasi: 2026-07-31 23:00:10

既読はついた。

けれど、返信はなかった。

私はその画面を、何度も見てしまった。

『美術館行かない?』

たった一文。

送った時は、勢いがあった。

さやかに背中を押されたこともあるし、正人に「覚えてたら」と言われたこともある。

ちゃんと考えるため。

比較材料を増やすため。

そう自分に言い聞かせて送った。

なのに、既読がついたまま何も返ってこないと、途端に心細くなる。

帰宅して、部屋着に着替えて、メイクを落として。

それでも、スマホが気になった。

テーブルに伏せても、数分後にはまた手に取ってしまう。

正人は、返信が遅い人ではない。

仕事でもプライベートでも、必要な返事は早い。

だからこそ、余計に気になる。

困っているのか。

考えているのか。

それとも、昨日のことを酔った勢いとして流した方がいいと思っているのか。

どれもありそうで、小さく息を吐いた。

翔太からは、もう返信が来ていた。

『OK』

それだけ。

あまりにも短い。

でも、翔太らしかった。

出張中だし、帰ってきたら調整すればいいと思っているのだろう。

その温度は、なぜか安心できた。

急かされていない。

重くされていない。

でも、断られ
Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第153話:二つの熱

    週が明けても、新商品のローンチ案件は落ち着かなかった。むしろ、撮影が終わったことで、本番が始まった感覚に近い。上がってきたゆうとのスチール写真を選定し、クライアント提案用に絞り込む。店頭。交通広告。SNS。媒体ごとに必要な表情も、商品の見え方も、余白の使い方も違う。午前から、私はモニターの前に座りっぱなしだった。撮影データは想像以上に多い。同じように見えて、微妙に違う目線。笑っているようで笑っていない口元。飲料を持つ指先の角度。ゆうとは、確かに撮られ慣れていた。どのカットも一定以上に完成されていて、アイドルとしての見せ方が上手い。媒体映えもするし、SNSで切り取れば確かにバズりそうだ。だからこそ。気づかないうちに、同じような写真ばかりに手が止まっていた。少しだけ視線を外した横顔。気怠そうに笑う口元。真正面より、少し崩れた表情。完成されたアイドルの顔よりも、少しだけ隙のある瞬間。「愛子さん、この辺ですか?」麻衣ちゃんが画面を覗き込む。「うん、SNSはこのあたりかな。自然体の方が商品との相性良い気がする」「確かに。こっちの方が親近感ありますね」私は仕事の顔で頷いた。もちろん、選定はちゃんとしている。プロとして見ている。クライアントに説明できる理由もある。若年層向け飲料なら、完璧なアイドル感より、“少し届きそう”な距離感の方が刺さる。真正面の決め顔より、ふとした横顔。作られた笑顔より、少し力の抜けた表情。その方が、商品も日常の中に入りやすい。ちゃんと理由はある。でも。そこに、ほんの少しだけ別の感情が混ざっていることを、私はまだ見ないふりをしていた。後ろから、椅子を軽く引く音がした。「候補、どこまで絞った?」正人だった。私は画面を少しずらす。「第一候補はこの辺。店頭は商品見え優先で、SNSは自然体厚め」正人は無言で数秒、モニターを見ていた。少し屈んで、画面に視線を近づける。仕事中の正人の顔だった。感情を乗せず、判断だけを置いていく顔。でも、その視線が、選んだカットの並びを追ううちに、ほんの少しだけ止まった気がした。それから、資料を手にしたまま何でもない声で言う。「……この辺」指先が数枚の写真を示した。少し目線を外したゆうと。気の抜けた笑顔。柔らかい空気のカット。「愛子の

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第152話:違う二人

    私はすぐには自分のドアを開けられなかった。閉じた隣のドアを、一瞬だけ見てしまう。今日が本当に終わった。そう思うと、胸の奥が少しだけ空いた。でも、その空白を見なかったことにして、私は鍵を開けた。部屋の中は、朝出た時のままだった。テーブルの上には、飲みかけの水。ソファには畳み損ねたブランケット。一気に現実に戻ったはずなのに、胸のざわつきだけがまだ廊下に置いてこられなかった。コートを脱ぐ。バッグを置く。洗面所へ行って、鏡を見る。少し頬が赤い。お酒のせい。歩いたせい。たぶん。でも、さっきの翔太の声がまだ耳に残っていた。――あんまり軽く言わないほうがいいよ。軽く言ったつもりはなかった。でも、重くするつもりもなかった。その曖昧さごと、翔太には見えている気がして、少し怖い。私はソファに座り、スマホを手に取った。通知を確認しているうちに、ふと気づく。正人に、次の誘いをしていない。「また誘ってもいい?」と言った。一回じゃ少ない気がした、と言った。それなのに、その後まだ何も送っていない。正人は、待っているのだろうか。いや、待っていると言ってくれた。でも。麻衣ちゃんとご飯に行った。そのことを思い出すと、胸の奥に小さな棘みたいなものが残る。自分が返事を保留しているのに。勝手だと思う。それでも、気になる。今日の一日を思い返す。翔太との休日は、予想外の連続だった。台湾粥から始まって、美術館、上野公園、アメ横、雑居ビルの中華。五年前の話をして、今好きなものを聞いて、また次の約束までできた。きれいに整っていたわけではない。でも、どの瞬間も不思議と呼吸が合っていた。一方で、正人との箱根は、落ち着いていて、丁寧で、きれいにプランされた良い一日だった。美術館。海。ポストカード。ワイン。運転。帰り際の優しい笑顔。あれはあれで、確かに心地よかった。どちらがいい、という話ではない。本当に。どちらかを比べて、点数をつけるようなものではない。ただ、違う。翔太は、心を揺らす。正人は、心を落ち着かせる。翔太といると、気づけば笑っていて、ふとした言葉で息が止まる。正人といると、大事にされていることが積み重なって、安心の中で胸が温まる。どちらも、自分にとって特別な形で届いている。それを認めると、余計に苦し

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第151話:まだ終わらない気持ち

    帰りの電車は、思っていたより静かだった。昼のアメ横のざわめきも、雑居ビルの中華料理店の熱気も、少しずつ身体の外側から剥がれていくみたいだった。窓には暗い車内がぼんやり映っている。その中に、少し疲れた自分の顔と、隣に立つ翔太の横顔が重なっていた。酔いは、まだ少し残っている。足元がふらつくほどではない。ただ、心の輪郭がいつもより柔らかい。今日あったことが、どれも少しだけ近い場所に残っていた。モネ。台湾粥。上野公園。昼飲み。五年前の話。辛い中華。翔太の知らなかった五年。コーヒー。ホラー映画。アートバー。顔で得た餃子。次の約束。あまりにも長い一日だった。でも、不思議と疲れていなかった。いや、身体はちゃんと疲れている。歩いたし、飲んだし、話した。それなのに、気持ちの奥がまだ温かくて、今日を終わらせるのが少し惜しかった。隣を見ると、翔太も窓の外を見ていた。車内の光が頬の線を薄く照らしている。昼間より少し静かな顔。でも、退屈しているわけではなさそうだった。時々、窓に映る私の方へ視線が動く。目が合いそうになる前に、また外へ戻る。そのさりげなさに、胸の奥が少しだけ揺れた。もしかして、翔太も同じように思っているのかな。今日が終わるのを、少し惜しいと思っているのかな。そう思いかけて、すぐに見ないふりをした。考えたら、また落ち着かなくなる。マンションの最寄り駅で降りると、夜風が少し冷たかった。翔太は改札を出てから、自然に私の歩幅に合わせた。駅前の明かりを抜けて、住宅街へ入る。昼間より人通りは少なく、コンビニの明かりだけが妙に眩しかった。「今日、長かったね」私が言うと、翔太は少し笑った。「美術館から昼飲みして、中華まで行ったので」「しかも五年前の話までした」「濃い休日でしたね」「ほんとに」その言葉で、また少し沈黙が落ちる。でも、気まずくはなかった。むしろ、今日一日でいろいろなものを話しすぎて、言葉が少し休憩しているみたいだった。「疲れてない?」翔太が聞く。「ちょっと疲れた。でも嫌な疲れじゃない」「分かる」翔太は短くそう言って、少しだけ目を細めた。街灯の下で見るその表情は、昼間よりずっと柔らかい。楽しかった、と口にしなくても分かる顔だった。そのことに気づいて、胸の奥がまた少し温かく

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第150話:好きだったでしょう?

    「過去形?」「最近観れてないだけ」「じゃあ一緒ですね」その“同じ”が、妙に心地いい。「陶芸もたまに行きます」「え、陶芸?」「仕事で頭使いすぎると、無心でできるやつしたくなるので」知らない。そんな翔太。少し新鮮で、少し悔しい。「スポーツは?」「サーフィンは、まだよく行ってて」「ゴルフは付き合いでたまに」「金融っぽい」「金融なので」二人で笑う。「観る方は好きですよ、バスケとか野球とか?」翔太が続ける。「あ、ビリヤードとかもします。スポーツではないですけど」「それも知らなかった」翔太が少しだけ肩をすくめる。「聞かれてないので」責める言い方じゃない。でも、少しだけ胸がちくっとした。五年前。自分は本当に聞いてこなかった。翔太の人生を。ちゃんと。「じゃあ、私も今度紹介する」「何を?」「今の好きなもの」翔太が少しだけ目を上げる。「いいですね」その返事が、思っていたより柔らかかった。「昔好きだったものじゃなくて?」「今の」私は頷いた。「昔の私のことは、たぶん翔太もある程度知ってるけど」言いながら、少しだけ照れる。「今の私は、そんなに知らないでしょ」翔太はしばらくこちらを見ていた。それから、小さく笑った。「知りたいですね」低い声だった。その一言で、胸の奥が静かに揺れる。さっきまで辛さで熱かったはずの口元とは別の場所が、少し熱くなる。「じゃあ、今好きな本とか、映画とか、店とか」「店は助かります」「そこ?」「愛子が好きな店、普通に信用できるので」「雑な信頼すぎない?」「でも信頼してます」翔太の目は、やっぱり優しかった。五年前の話をした後なのに。むしろ、話したから少しだけ距離がほどけたみたいに。重い話をしたのに、気まずさではなく、少しだけ静かな親しさが残っている。そのことが嬉しかった。「あと」翔太がビールを置く。「アートバーとか、たまに行きます」「アートバー?」「飲みながら、絵を描くバーです」「あー、最近あるよね」「お酒飲み放題だし」「そこ推しなんだ」「大事じゃないですか」翔太が真面目な顔で言う。私は笑ってしまう。「飲み放題目当て?」「半分」「また半分」「半分は、愛子が行ったらどう描くのか気になる」その言い方が、何気ないのに少しだけ胸に残った。

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第149話:今の好きなもの

    辛い料理は、思っていたよりずっと容赦がなかった。真っ赤な油の海。乾燥唐辛子が山ほど浮いていて、花椒の香りが湯気と一緒に鼻を刺す。さっきまで少し重かった空気を、無理やり現実へ引き戻すような見た目だった。店内は相変わらず騒がしい。隣の丸テーブルでは中国人らしき団体が大声で笑い、店員は中国語で飛び交う注文を捌いている。厨房では中華鍋を振る音が途切れず、店の奥からは誰かが歌う中国のポップソングまで聞こえてきた。ここ、本当に東京だっけ。そう思って、少しだけ笑いそうになる。数十分前まで、五年前の別れ話をしていたのに。今は、赤い鍋を前にしている。人生って、変だ。恐る恐る一口食べる。「……っ」辛い。でも。「……あれ」私は少し目を丸くした。「辛いけど、こないだよりいける」翔太が笑う。「比較対象増えてる」「なんか、新大久保のより好きかも」舌先を少し冷ますように、ビールを飲む。痺れる。でも、嫌じゃない。「ピリピリする方が好みかもしれない」「危ない世界に足突っ込んでますよ」「でも、美味しい」「それが一番危ないからね」翔太も食べながら、少しだけ眉を寄せる。辛いのに、ちゃんと箸が止まらない。額に少し汗が滲んでいて、目元も少し赤い。でも、表情はどこか真剣だった。辛さと向き合っている顔。そのくだらない真面目さに、ふっと笑ってしまう。さっきの空気が、少しずつほどけていく。ちゃんと話した。言えなかったことを言えた。翔太も、それを受け取ってくれた。だからこそ。今こうして普通に笑えていることが、少しだけ嬉しかった。青島ビールをもう一口飲む。軽い酔いが、身体の輪郭を柔らかくしていた。私は箸を置いて、少しだけ翔太を見る。五年。知らない時間。知らない翔太。さっき、中国語を自然に話していた横顔を思い出す。ニューヨーク出張。上海。中国語。私の知らない場所で、翔太はちゃんと大人になっていた。じゃあ、今の翔太は何が好きなんだろう。映画は何を見るんだろう。休みの日は、どう過ごしているんだろう。そう思った瞬間、自分でも少し驚いた。知りたい。翔太のこと。ちゃんと。「五年分もだけど」私が言うと、翔太がグラスを置いて顔を上げた。「ん?」少しだけ言葉を探す。酔いのせいか、少しだけ素直だった。「私にも、ち

  • 隣の部屋には、捨ててしまった恋が住んでいる   第148話:ありがとう

    「私、聞いてなかったんだ」翔太は責めなかった。ただ、少しだけ頷いた。それから、ふと表情を和らげる。「お母さん、大丈夫だった?」その一言で、胸が熱くなった。そこを、まず気にするんだ。自分が傷ついた話をしているのに。別れ方の話をしているのに。翔太は、最初に母親のことを聞く。昔も、こういう人だったのかもしれない。私はちゃんと、見えていなかっただけで。「うん」少しだけ目を伏せた。「今は大丈夫」「そっか。よかった」その声が本当に安堵していて、また少しだけ胸が苦しくなる。翔太はビールを一口飲んだ。それから、乾いたように少し笑った。「正直、働いてから初めて分かりました。仕事で他のこと考える余裕がなくなるって、こういうことなんだなって」私は黙って聞いていた。「だから、あの時の愛子もそうだったのかなって考えたことはあります」翔太の指が、瓶のラベルの端を少しだけなぞる。「振られて当然だったって、自分に言い聞かせて納得しようとしてた」その笑い方が、少しだけ痛かった。私は首を振る。「あれは、翔太がどうこうじゃなくて」言葉に力を込める。「私の問題だったの」翔太の目を見る。今度は逃げなかった。「だから、ちゃんと言っておきたかった」また沈黙が落ちる。でも、さっきとは少し違う沈黙だった。重いけれど、息ができないほどではない。ようやく言葉が、二人の間に置かれたような気がした。翔太はしばらく私を見ていた。その視線は、五年前の若さだけではない。今の翔太の、少し大人になった静けさを含んでいた。「ありがとう」翔太が言った。「ちゃんと言葉にしてくれて」私は小さく息を吐いた。翔太は続ける。「自分の中でも、少し整理できてよかったです」その声を聞いた瞬間、胸の奥で、何かがゆっくりほどけた気がした。その時だった。店員が勢いよくテーブルへ近づいてきて、大きな皿を置いた。赤い。どう見ても辛い。湯気と一緒に、花椒の香りが一気に立ち上がる。私は思わず涙目のまま皿を見た。翔太も少しだけ目を瞬かせる。「……これは」「辛そう」店員が中国語で何かを言い、翔太が反射的に返す。その横顔を見て、少しだけ笑った。泣きそうだったのか、辛さで目が痛いのか。もう、自分でも少し分からなかった。でも、ちゃんと言えた。五年前からずっ

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status