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第358話

Auteur: 知念夕顔
承平は慌てて郁梨の手を放した。わずか10分――その時間が、まるで越えられない深い溝のように、二人の間を引き裂いていた。

もしあの4時間、郁梨が自分を切実に必要としていたときに、10分でも早く療養院へ着いていれば……彼女は母親に最後の別れを告げられたのだ。

なぜだ?自分にはあれほどの時間があったのに。

あの4時間、彼はいったい何をしていた?清香の部屋の前で、ただドアを開けるよう説得していたのか?

一人で外に立っている必要があったのか?どうしてその間に階下へ降りて携帯を探し、郁梨に電話をかけ直さなかったのか。

郁梨の携帯が壊れていることは承平も知っていた。電話が通じなくても、あのメッセージを見れば駆けつけることができたはずだ。

郁梨に必要だったのは、たった10分だけだったのに……

承平の視界がかすみ、涙が滲んだ。突然、彼はもう郁梨に許しを乞うことが怖くなった。どうしてそんな資格が自分にあるというのか。

承平が痛みに沈み込み、立ち直れずにいるのを見て、郁梨はそれでも足りないかのように、見えない剣を手に取り、さらに彼の心を突き刺した。

「承平、どうやってあなたを許せばいいの?教えてよ。お母さんに最後の別れもさせてくれなかったあなたを、どうやって許せるの?それでも私の夫なの?私たちが結婚して三年……この三年間、私って夫のいる女に見えた?私があなたを必要としたとき、あなたはどこにいたの?別の女のそばで、その女をなだめるために、私の電話すら出なかった。もし立場が逆だったら、あなたは私を許せる?私を憎まずにいられる?」

「俺……」

「どうして黙るの?言ってみなさいよ。できるの?できるの……?」郁梨は突然声を詰まらせ、胸を押さえたまま、怨めしげに承平を見上げた。「できないわ、承平。言っておくけど、私は一生あなたを許さない!」

「郁梨、そんな……そんなこと言わないでくれ」

承平は痛みに打ちのめされ、どうすることもできずに彼女を見つめた。

「最初にそんなことをしたのは、あなたのほうでしょ!」

今日は、彼女が彼の罪悪感に乗じて容赦なく突き刺した。だがこれまで何度だって、彼の一言一言が彼女の心を千の矢で射抜いてきたのだ。

郁梨は涙をぬぐい、表情を消したまま淡々と言った。「承平、もう無理だよ。あなたとはやっていけない。自分でも私にどれだけのことをしたか分かってる
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