ログイン18歳の誕生日――。 神崎澪は、偽物の姉・綾音の罠にはまり、恋人にも裏切られ、雨の夜に命を奪われた。 16年前に取り違えられ、本来なら名家の令嬢として生きるはずだった澪。ようやく「本物の娘」と認められた先に待っていたのは、居場所を奪われ、すべてを失う地獄だった。 だが、目を覚ますとそこは、親子鑑定書が届いた16歳の日。 「今度は、私がすべてを取り戻す」 偽物の姉も、私を踏みにじったすべての人間も、一人残らず地獄へ堕とす。 孤高の御曹司と手を組み、本物の令嬢による人生逆転の復讐劇が幕を開ける――!
もっと見る綾音はみるみるうちに目を潤ませ、次の瞬間には大粒の涙を頬に伝わせた。「全部、私のせいなんです……。本当の家族に会いたくてたまらなかったんです。やっと本当の両親が誰なのか分かったと思ったら、もう亡くなっていると知らされて……。しかも、叔母さんも同じ車に乗っていたと聞いてからは、何日も食事が喉を通らなくて、夜も眠れませんでした。私はもう両親を失っています。これ以上、叔母さんまで失うわけにはいきませんもの。それで当時の病院について調べたら、叔母さんは亡くなってはいないけれど、植物状態のままで、もう目を覚まさないかもしれないと知ったんです」「かわいそうに……。あなたは一人じゃないわ。私たちがいるじゃない」真っ先に口を開いたのは大奥様だった。ハンカチで目尻を押さえると、従妹へたしなめるような視線を向ける。「せっかくのお祝いの席なのに、そんな縁起でもない話を持ち出すなんて」従妹は舌をぺろりと出した。「だって、気になったんだもん……」平蔵は軽く咳払いをし、昴へ視線を向けた。「この件については、もう調べがついているのか」昴は静かに頷く。「私の不手際です。ご報告が遅れました。早紀さんは頭部に重傷を負い、現在も治療を受けています」深雪は胸を痛めたような表情で綾音の肩を抱き寄せた。「その方は……まだ目を覚ます可能性があるの? 綾音にとって、たった一人の血のつながった身内なのに……」昴は淡々と答えた。「医師の話では……希望を捨てない限り、奇跡が起こる可能性はゼロではないそうだ」平蔵はゆっくりと頷いた。「よし。その人をグループ傘下で最も設備の整った病院へ転院させなさい。費用はすべてこちらで負担する」深雪は安堵の息をつき、綾音へ微笑みかけた。「聞いたでしょう? 神崎家がついているんだから、叔母様もきっと目を覚ましてくださるわ」綾音は感極まったように涙を流した。「ありがとうございます、お祖父様、お祖母様……お父様、お母様」「お礼なんていらないわ。私たちは家族なんですもの」深雪は愛おしそうに綾音の頭を優しく撫でた。皆が温かな眼差しで見守る中、母と娘は固く抱き合った。その場にいる誰もが、目の前の光景に胸を打たれていた。――ただ一人、澪だけを除いて。彼女は表情一つ変えず、食卓の隅で静かにジュースをひと口飲んだ。綾音の危機対応は確かに鮮やか
日曜の朝。澪は清楚なワンピースに身を包み、腰には細いリボンを結んだ。派手さはないが、清潔感があり、どんな場にも溶け込める控えめな装いだった。玄関では、すでに綾音が待っていた。細部まで計算し尽くされた華やかなドレス姿は、澪の質素な服装と鮮やかな対比を成している。「澪、そのワンピース……少し地味すぎないかしら」綾音は目を細め、笑みを浮かべながらも、その目だけは笑っていなかった。「本家の歓迎会には、皆さんきちんとしたドレスでいらっしゃるのよ。もし着るものに困っているなら、お姉ちゃんのを何着か貸してあげるわ」「ありがとう、お姉ちゃん。でも初めて本家へ伺うんだもの。あまり目立たないほうがいいと思うから」澪は礼儀正しく微笑んだ。夕暮れどき、二台のセダンが神崎本家の敷地へと静かに滑り込んだ。車を降りた一行は、そのまま母屋へ足を踏み入れる。本家と分家の親族はすでに勢揃いしており、一斉に澪へ視線を向けた。好奇心、品定め、そして軽蔑――さまざまな感情を帯びた視線が、網のように彼女へ絡みつく。上座には、厳格な面持ちの白髪の老人がどっしりと腰を据えていた。――神崎平蔵(かんざき へいぞう)。「お父様」昴は恭しく一礼した。「娘を連れてまいりました」「この娘か」平蔵は湯呑みを手にしたまま、澪へ静かに視線を向けた。「初めまして、澪と申します。よろしくお願いいたします」澪は静かに頭を下げる。平蔵は頭の先から足元までじっくり見定めると、可もなく不可もなくといった口調で言った。「無事に着いたならそれでいい。座りなさい」一方の綾音は、水を得た魚のように場へ溶け込んでいた。大奥様のそばでは甘えるように微笑み、叔父には手際よく茶を注ぎ、礼儀作法の教本から抜け出してきたような完璧な笑顔を振りまいている。「九条家のご子息がお着きです――」玄関から声が響いた瞬間、澪の心臓が小さく跳ねた。長身の影が足早に大広間へ入ってくる。修は仕立ての良いスーツをまとい、背筋を真っすぐ伸ばしていた。その眼差しには、名門の跡取りらしい成熟した冷たさが宿っている。部屋へ入るや否や、彼の視線は居並ぶ人々を通り越し、部屋の隅にいる澪を真っ直ぐ射抜いた。「修! 来てくれたのね!」綾音はすぐに歩み寄り、親しげに彼の手を取る。「紹介するわ。この子が――」「澪、だろ」修は綾音の
澪は物置で着の身着のまま身体を丸め、一晩を明かした。夜が白み始めると同時に起き上がり、誰にも見つからないうちに屋敷の造りを把握しておこうと、音を立てないようそっとドアを開けて外へ出る。廊下は水を打ったように静まり返っていた。厨房の前を通りかかったその時、棘のある声が静寂を切り裂いた。「……いいこと、よく覚えておきなさい。神崎家のお嬢様はただ一人、綾音お嬢様だけよ」澪は足を止め、壁に身を寄せて息を潜めた。半開きのドアの隙間から覗くと、メイド長の中井円香が腰に手を当て、若いメイドたちを前に説教しているところだった。円香はこの家で二十年以上勤めており、実質的には屋敷を取り仕切る女主人のような存在だ。前世で離れに住んでいた頃、澪はこのメイド長から散々な『特別扱い』を受けてきた。「旦那様がどれほどのお方か分かっているの? 神崎グループの総帥よ! あんなスラムから這い上がってきたような野蛮な小娘に、その尊い血筋を汚されてたまるものですか」円香は調理台の上から一枚のメモをつまみ上げ、若いメイドたちの前でひらひらと振った。「旦那様と奥様、それに綾音お嬢様の朝食は、和牛サンドにフレンチオムレツ、それから搾りたてのアボカドジュース。あの小娘には、お粥と漬物でも適当に出しておきなさい。もし文句を言ってきたら、『厨房が忙しくて用意が間に合いませんでした』って言えばいいわ。あとは勝手にさせておけばいいの」「でも……」若いメイドの一人が、おずおずと口を開いた。「あの方も、奥様がお腹を痛めて産んだ、本当のお嬢様なんですよね……?」澪の視線が、その少女で止まる。十七、八歳ほどだろうか。丸みのある顔立ちに、大きなアーモンド形の瞳が印象的で、俯きがちな他のメイドたちの中でもひときわ目を引いていた。前世では、この少女を見かけた記憶はない。「本当のお嬢様ですって?」円香はとんでもない冗談でも聞いたかのように、声を荒らげた。「あんな子が本当の娘なわけないでしょう。十六年間、旦那様は存在すらご存じなかったのよ。それが今さら突然現れるなんて、遺産目当ての詐欺師かもしれないじゃない」円香は目を細め、その場にいる全員を見回した。「いいこと。この家で誰につくのが一番賢いのか、よく考えて行動しなさい。あなたたちが小さい頃からお仕えしてきたのは綾音お嬢様よ。
澪の乗った黒いセダンは、静かに神崎家の屋敷へと滑り込んだ。車窓越しに、澪は記憶の奥深くに焼き付いたその屋敷をじっと見つめる。前世の自分は、ここがようやく見つけた希望の場所だと信じていた。だが現実は、人の心を少しずつ蝕んでいく牢獄に過ぎなかった。澪は深く息を吸い込み、固く握り締めていた拳をゆっくりとほどく。寛がドアを開けると、澪は慌てることなく静かに車を降り、その後に続いた。前世で初めてこの屋敷を訪れた時は、一歩踏み出すたびに怯えていた。だが今は違う。前世の記憶を抱えた澪は、迷うことなく、落ち着いた足取りで屋敷の中へと歩みを進めていく。エントランスには使用人たちが整列して出迎えていたが、その視線には品定めするような冷ややかな色が隠し切れなかった。澪は意に介することなくリビングへ入り、ソファに腰を下ろす。鼻をつくような、金持ち特有の重苦しい空気に、本能的に眉をひそめた。「あなたが澪ね。ずっとお待ちしていましたわ」鈴を転がすような澄んだ声が、頭上から降ってきた。振り返ると、階段の上には綾音が立っていた。高い場所から澪を頭の先からつま先まで値踏みするように眺め、口元には穏やかな笑みを浮かべている。だが、その目だけはまったく笑っていなかった。綾音は優雅な足取りで階段を下りると、すっと手を差し出した。「私は綾音。お姉ちゃんって呼んでちょうだいね」「……」澪はその白く細い手をじっと見つめ、唇をきゅっと結んだ。綾音が内心で苛立ち始めた、その時だった。澪はふいに立ち上がり、その手をしっかりと握り返した。「初めまして、『お姉ちゃん』」一語一語を噛み締めるように、静かに告げる。綾音は一瞬だけ虚を突かれたように目を見開いたが、すぐに上品な笑みを浮かべ直した。「澪が田舎から来ると聞いて、ずっとお会いできるのを楽しみにしていたの。実際に会ってみると……なんて言えばいいのかしら、とても『素朴』で自然な雰囲気ね」「そうですか」澪は淡々と答える。「私は田舎育ちなので、都会の方の言い回しにはまだ慣れていません。でも、お姉ちゃんがそうおっしゃるなら、褒め言葉として受け取っておきますね」綾音は思わず言葉を失った。田舎から出てきた世間知らずの少女が、自分の牽制をこうもあっさり受け流すとは思ってもみなかったのだ。綾音が再び口を開こうとした時、奥の部