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第315話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第707話
九条時也は、一瞬、言葉を詰まらせた。この瞬間、彼は田中詩織との過去を水に流し、彼女の死にたいという願いを叶えてやり、水谷苑と静かに暮らしたいと心の底から思った。だが、結局彼はその場を去った。田中詩織が何人ものクズにまわされる忌まわしい光景が、彼の脳裏からどうしても消えなかったのだ。水谷苑は彼の背中を見送った。しばらくして、彼女は診察室に戻り、D国の医師の前に座った。彼女は虚ろな目で医師を見つめ、震える声で言った。「先生、もう一度......今の言葉を繰り返してもらえますか？」医師は彼女に同情した。検査結果を水谷苑の前に静かに置き、低い優しい声で言った。「胎児の心臓の発育があまり良くありません。人道的見地からも、中絶することをお勧めします」水谷苑は診断書に目を落とした。心臓の発育があまり良くない......彼女は涙ぐんだ目で医師を見上げ、「この子は苦しいのでしょうか？心臓が悪いと......苦しいのでしょうか？」と尋ねた。医師は静かに首を横に振った。水谷苑の顔に苦悩の色が浮かび、診断書を何度も見つめてから、静かにテーブルに置いた。彼女は左手の薬指から指輪を外した。5カラットのピンクダイヤモンドの指輪は、大変高価で、少なくとも数億円はする。水谷苑は指輪を医師に差し出し、魂が抜けたように言った。「もし私の夫が尋ねたら、子供は何も問題ないと言ってください......いいですか？」医師は職業の倫理を守りたかった。だが、そのピンクダイヤモンドは希少な宝石であり、その誘惑に抗える者はいない。結局、医師は贈り物を受け取り、水谷苑の頼みを聞き入れた。そして、彼女のために偽の検査記録を作成した......すべてのデータが健康な女の子を示していた。水谷苑は診察室を出た。人気のない廊下を歩いていると、彼女の顔は涙で濡れていた。この子は九条時也に無理やり作らされた子だ。だが、妊娠してからは、中絶しようとは思わなかった。九条時也の子であると同時に、自分の子供でもあるからだ。なのに、この子は生まれることさえ許されないのだ。自分の病気のせいだ。自分の体は妊娠に適さないのに、九条時也は手段を選ばず、何度も無理やり関係を持ち、子供を身籠もらせた。笑える。彼は女の子が欲しいと言っていたけど、本当に
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第706話
リビングには、高級な贈り物が山積みになっていた。しかし、水谷苑はそれらを見向きもしなかった。いつものように河野美緒を寝かしつけ、眠った子供を使用人に預けて寝室に戻ると、彼女はソファに座り、いくつか贈り物を適当に開けてみた。予想通り、宝石やアクセサリーばかりだった。彼女は急に興味を失った。向かいに座っていた九条時也は、高価なダイヤモンドのネックレスに目をやり、静かに尋ねた。「気に入らないのか？」水谷苑は軽く首を振った。彼女はまだ平らな自分のお腹を優しく撫でながら、静かに言った。「気に入らないわけじゃない。でも、時也、私はそんなに物欲がないの。こういう宝石やアクセサリーより、生活のためのお金の方がもっと必要な時もあるのよ。香市で暮らしていた頃、兄のゴールドカードを使うことも、あなたに生活費を頼むこともできなくて、外で交際も何もできなかった。時には食事代にも困るほど......今は子供もできて、津帆と美緒ちゃんと合わせて3人もいるんだから、何かとお金がかかるわ。いつも使用人にお金をせがむわけにもいかないでしょ？あなたの妻として、それはあんまりだし」......九条時也は笑って、「なんだ、お金のことか」と言った。彼は札束を彼女に渡した。ざっと見たところ、2000万円ほどはありそうだった。さらに、彼は自分の家族カードを彼女に渡して言った。「カードが使えるところならどこでも使える。限度額もない。今後、家計や子供たちの費用はここから出してくれ。それから、あまり無理をするな。着心地のいい、きれいなマタニティウェアをたくさん買うんだ」水谷苑はこれらを受け取った。彼女は彼に金庫も頼み、現金とカード、そして高価な宝石類をすべてしまい、丁寧に整理した。彼女の真剣な様子が、男心をくすぐった。九条時也は後ろから彼女を抱きしめ、小声で「苑」と呼びかけた。「今夜はお月見だ。いつものように俺を拒まないでほしい......ダメか？」水谷苑は本当は乗り気ではなかった。しかし彼女は震えた声で言った。「時也、妊娠してるの。赤ちゃんに何かあったら......」「大丈夫だ。苑、俺は赤ちゃんを傷つけるようなことはしない」そう言って、彼は彼女を抱き抱えると寝室へ運んだ。彼女は彼が自分に迫ってくると思った。しかし彼はそうしなか
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第705話
使用人が少し躊躇していると、水谷苑が使用人を一瞥した。水谷苑が以前とは違うと感じた使用人は、逆らえなかった。以前の水谷苑はとても単純だった。今も柔らかい雰囲気はあるけれど、目つきが違う。威厳があって、圧倒されるようだ。水谷苑はショールを手に取り、優雅に階下へ降りて行き、一人で田中詩織に会いに行った。......このマンションは、D国のP市の高級住宅街にある。周りは同郷の人たちが多く住んでいるのもあり、各家庭がみな外に出て楽しそうに月見をしている姿が見られた。だが、そのせいで、田中詩織の孤独が一層際立っていた。夜は少し肌寒かった。田中詩織は、背中を大胆に露出したキャミソールドレス姿で、薄暗い路地に立っていた。ルーズに巻いた長い髪が人目を引き、30分もしないうちに、何人もの上品そうな男が、「今夜、いくら？」と声をかけてきた。田中詩織は流暢な英語で彼らを罵倒した。罵倒した後、彼女はとても惨めな気持ちになった。正式な関係ではないから、こんな日に売春婦みたいに男のマンションの外をうろついて......九条時也に会えることを願うだけだった。水谷苑がマンションから出てきた。彼女は黒のロングドレスを着ていて、襟から覗く肌は白く透き通っていた。暖かそうな厚手のカシミアのマフラーがよく似合ってる。水谷苑の姿を見ると、田中詩織の切れ長の目は鋭く尖った。彼女は赤いスポーツカーにもたれかかり、落ち着き払った様子で女性が好むのタバコに火をつけ、流し目をしながら吸っていた。彼女は水谷苑を挑発するように見つめた。「彼があなたに来させたの？なぜ彼は私に会ってくれないの？」水谷苑は冷静に言った。「彼があなたが来ていることを知らない」田中詩織の美しい顔が歪んだ。「苑、本当に卑怯ね！ずっと私が彼に会うのを邪魔していれば、私に勝てるとでも思っているの？夢見てんじゃないわよ。私と彼の過去は、あなたとは比べ物にならないんだから！」「あなたと比べるつもりはない」水谷苑は伏し目がちに言った。「詩織、あなたは結婚したことがないから分からないかもしれないけど、夫婦の関係は犬を調教するようなものなの。うまく調教できれば、賞味期限切れの骨を与えても喜んで食べるわ......『吠えろ』と言えば吠えるし、何よりそれは、犬は自分が吠えたいと思っている
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第704話
「何を考えているんだ？」水谷苑は落ち着いた様子で、「津帆のことよ！津帆はいつ来るの？一人で香市に残して......心配なのよ！」と言った。九条時也はタバコを一本くわえた。しかし、火は点けなかった。彼は彼女の細い首を優しく撫でながら笑って言った。「高橋さんがいるんだから、何を心配する必要があるんだ？もうすぐだ......一週間もすれば津帆はこっちに来られる。これでやっと、家族みんな一緒に暮らせる」そう言って彼女にキスをしようとしたが、水谷苑はそれを避けた。九条時也は彼女の考えを察し、彼女を抱き寄せ、柔らかな耳たぶに口づけしながら、色っぽい低い声でささやいた。「彼女に触れてもいないし、外で体力を使ったわけでもない。用事があったから、ちょっと会っただけだ！苑、信じられないなら触ってみろ。男がそういうことをしたかどうかは、触れば分かるだろ」水谷苑は彼を「恥知らず」と罵った。彼は小さく笑い、話題を変えた。「あと二日でお月見だ。どう過ごそうか？昔は、行事ごとになると、絵を描いたり、小さな飾り付けをするのが好きだったよな。今回もそうするか？それに、家には子供がいるんだ。育てるつもりなら、ちゃんと育ててやらなきゃ。小さい頃から芸術に触れさせていれば、きっと才能も開花するだろう」ちょうどその時、使用人が河野美緒を連れてきた。九条時也はバスローブを着て、長い脚を大きく開いていた。使用人はそれ以上見る勇気がなく、赤ちゃんを置いてそそくさと出て行った。水谷苑は赤ちゃんを抱きかかえた。彼女は妊娠していて、柔らかい美しさを漂わせていた。九条時也はじっと彼女を見つめていた。刑務所に入って以来、こんな穏やかな時間を過ごすことはほとんどなかった。歳をとったせいか、今はこの感覚に飢えていた。水谷苑は彼を無視した。そこで彼は彼女の隣に座り、赤ちゃんをあやした。これこそ、彼の人生で最も幸せな瞬間だと感じていた。彼の持つ貪欲さ、怒り、愚かさといった煩悩は全て消え去り、代わりに穏やかさが満ちていた。あまりにも感動した彼は、思わず彼女を抱き寄せた。彼女の髪の香り、河野美緒のほんのりとしたミルクの香り、これらが混ざり合って、九条時也を柔らかく優しい気持ちにさせた。彼は初めて、彼女の耳元でこうささやいた。「苑、好きだ」そう言って、彼は黒い瞳
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第703話
田中詩織は笑った。狂ったように笑った。彼女は九条時也を見つめ、涙を流しながら笑った。「時也、あなた正気なの？彼女のためにここまでするなんて......あなたたちはとっくに愛し合ってないのに、それでも彼女と子供を作ろうと必死になるなんて......じゃあ、私は？私はもう死ぬって言うのに、私に何かしてくれた？この私が持って行けない豪華なマンションを送ること？それとも毎日飲みきれない薬と、終わりのない手術？」彼女は勢いよく彼に抱きついた。彼の膝の上に座り込み、体をすり寄せ、男としての欲望をかき立てようとした。田中詩織の態度が少し柔らかくなった。彼女は何度も彼にキスをし、体を撫で、彼の薄い唇を吸いながら、自分も子供が欲しいと呟いた。そして、震える声で彼の手に自分の手を重ねて言った。「彼女じゃ満足できないんでしょ？欲しいのよね！」九条時也は彼女の黒髪を掴み、顔を上げさせた。彼は鋭い声で言った。「狂ってんのか！お前がどうやって子供を産むんだ？」田中詩織はヒステリックに叫んだ。「私はもうちゃんとした女じゃないって言うの？もう子供を産めない女だからって、私を軽蔑してるんでしょ！確かに、私はもう子供を産めない。でも、あなたを満足させることはできる......」彼女は貪るように彼にキスをした。彼の手を掴んで自分の体に触れさせ、懇願するように言った。「時也、一度だけお願い。あなたとしたいの、昔みたいに！私たちの初めて覚えてる？仕事で二人とも泥酔して、翌朝一緒に寝てることに気づいて、それからどっちからともなく、自然にそうなった......」九条時也は一瞬、動きを止めた。彼女の言葉は、少なからず彼の罪悪感を呼び覚ました。彼は彼女の顔を撫で、乱暴なことはせず、少しの間キスをした後、彼女の額に自分の額を当てて優しく言った。「あれは過去のことだ。もう二度と口にするな。今、俺は苑の夫だ。彼女を裏切るようなことはしたくない......」そう言って、彼は体を引き離した。彼の背後で、田中詩織がヒステリックに叫ぶ声が聞こえた。「時也、この最低野郎！苑があなたを受け入れるとでも思ってるの？あなたをまた愛してくれるとでも？寝言は寝て言え！」九条時也に、彼女の言葉は全て聞こえていた。だが、彼は足早に立ち去った......彼がマンション
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第702話
水谷苑はそれを止めた。赤ちゃんを抱き寄せ、ミルクの入った哺乳瓶を軽く揺らしあやしながら、九条時也に言った。「子猫や子犬じゃないんだから、こんな風に掴んじゃダメでしょ！」九条時也は気にも留めなかった。何か言おうとした時、水谷苑が顔を上げ、彼を軽く睨んだ。ランプの光の下、シルクのパジャマだけを身につけた姿は、それだけでも十分に魅力的だが、ましてや妊娠中ともなれば、豊満な色気がさらに増す......九条時也は言葉を飲み込んだ。河野美緒の顔に触れながら、気まずそうに言った。「まあ、見慣れてくると、可愛いもんだな！ただ、泣き出すと五月蝿いけど」水谷苑は彼の言葉に反応しなかった。他の女なら、九条時也は諦めていたかもしれない。だが、水谷苑は違った。彼女は彼の心を掻き立て、彼女が微笑む顔を見るためなら、何でも彼女に与えたい。子供がいたら、気軽に触れ合うこともできない。九条時也は性欲が強い方だった。仰向けに寝ていたが、我慢できなくなり冷水シャワーを浴びに行った。戻ってきた時には、水谷苑と子供はすでに眠っていた。ズボンのポケットの中で、携帯がまた鳴った。九条時也は画面を見た。田中詩織からだった。電話を切っても、何度もかけてくる......結局、九条時也は彼女に会うことにし、きちんと話をつけることにした。彼は服を着替えた。出かける前に、水谷苑の唇に優しくキスをした。寝室のドアが閉まり、暗闇の中で、水谷苑はゆっくりと目を開けた。......30分後、黒いベントレーがゆっくりとある邸宅の敷地内に入ってきた。九条時也は車の中にいた。すぐに車から降りることはせず、車内でゆっくりとタバコを二本吸った......コンソールボックスの中の携帯が鳴り続けても、無視した。タバコの煙が、車内に充満したとこでようやくタバコを消し、ドアを開けた。家の中のフォトフレームは一度割れたが、今は再び接着されて壁に掛けられているものの、それでも以前のひび割れ跡が見えている......田中詩織は真っ赤なドレスを着ていた。ソファに横たわっていた彼女は、痩せてはいるものの、念入りな化粧のおかげで艶っぽく、片手にワイングラス、もう片手にタバコを持ち、どこにも病人の様子はなかった。九条時也は少し苛立った。彼は近づき、彼女のワイン
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