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第330話

Author: 桜夏
「新井グループの会長として、わしが考えねばならんのは新井の未来だ。能力のある者が、その座に就く」

新井のお爺さんは静かに言った。

蓮司はその言葉に歯を食いしばり、反論した。

「俺の能力を認めていたはずだ!この二年、新井グループで身を粉にして働き、何一つ、非の打ち所などなかった!」

「それは以前の話だ」

新井のお爺さんは冷たい目で彼を睨んだ。

「蓮司、お前が最近、旭日テクノロジーに対してやったこと、わしが知らんとでも思ったか?

手当たり次第に会社を買収し、他の事業に手を広げ、利益が出るかどうかも考えず、ただ己の復讐心に駆られて動くとは」

蓮司は一瞬言葉に詰まり、それから意地を張るように弁解した。

「利益は出る。ただ、初期段階ではまだ見えていないだけだ。それに、この計画の立ち上げ資金は完全に計画の範囲内で、投資分野として計上してある」

「言い訳など聞きたくない。利益を確保できるというなら、詳細な企画書をわしに出せ。それから、利益率が六十パーセントに満たなければ、認めん」

新井のお爺さんは言った。

その言葉に、蓮司の体はこわばった。

六十パーセント……これほど高い利益率、お爺さんは明らかに自分を追い詰めているつもりだ!

「三日やる。企画書を出せなければ、旭日テクノロジーとの提携は中止だ」

新井のお爺さんは続けた。

三日、あまりにも短すぎる!

蓮司はもう少し時間を稼ごうとしたが、新井のお爺さんの厳しい表情を見て、言葉を飲み込んだ。

「わしが生きている限り、新井グループの会長職を退いていない限り、お前の好き勝手にはさせん。

ぬるま湯に浸かりすぎて、内憂外患を忘れたようだな。

わしはお前を新井の跡継ぎに指名することもできれば、いつでもその意向を変えることもできる。

あの隠し子の海外での学業成績や経歴も見たが、なかなか悪くない。お前にさほど劣らんぞ。

お前の役職はひとまずそのままにしておく。今後のことは、お前の働きぶりを見て決める」

それらの言葉は、まるで青天の霹靂だった。蓮司はその場に立ち尽くし、体をこわばらせ、両手を固く握りしめ、ただまっすぐにお爺さんを見つめた。

お爺さんは本気だ。

本当に、あの隠し子を跡継ぎとして考えている!

だが、自分が何をしたというのだ?

ただ、愛する女性を引き留めたかっただけじゃないか!

そもそ
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