【完結】レンとレンの恋物語

【完結】レンとレンの恋物語

last updateLast Updated : 2025-12-31
Language: Japanese
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幼馴染の蓮司と付き合うことになった花恋。 日に日に彼の存在が大きくなっていく花恋はある日、猫の姿をした精霊、ミウと出会う。 ひとつだけ願いを叶えてあげる、そう告げるミウに花恋はこう言った。 「私たちが未来でどうなってるのかを知りたい!」 望みを聞き入れたミウは、彼女を10年後の未来へと連れていく。 しかしその世界で。花恋と蓮司は別々の道を歩んでいた。 *** この物語には現在と未来の花恋・蓮司が登場します。 混乱を避ける為、現在の二人は恋と蓮、未来の二人は花恋と蓮司として表記します。

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Chapter 1

001 ファーストキス

「私……キスしたんだ……」

 * * *

 夢の中にいるようで、頭がふわふわしていた。

 ――胸の鼓動がおさまらない。

 泳いだ後の様に重い体。脱力感が半端ない。

 それなのに足取りは軽やかで、そのまま宙に浮いてしまいそうな。

 不思議な感覚だった。

 赤澤花恋〈あかざわ・かれん〉。高校2年の17歳。

 夏休み前、終業式の今日。

 いつものように幼馴染の同級生、黒木蓮司〈くろき・れんじ〉と寄り道をした。

 子供の頃からずっと一緒だった二人。名前に「レン」が入っている二人は、互いのことを「レン」と呼び合い、その仲睦まじい姿は近所でも有名だった。

 近所にある人気のない神社。

 付き合い始めて半年になる二人は、学校帰りにいつもここに来ていた。

 他愛もない日常の出来事や愚痴を話し、互いの気持ちを共有する。

 とは言え、話すのはいつも恋〈レン〉の方だった。

 無口な蓮〈れん〉は恋の話を聞き、静かに笑ってうなずいていた。

 しかし今日。

 蓮の様子が少し違っていた。

 いつもの様にオチのない話を続ける恋も、その様子に気付き声をかけた。

「ちょっと蓮くん、聞いてる?」

「う、うん、聞いてるよ」

「ほんとに? だったら京ちゃんが何したか言ってみてよ」

「……ごめん、分からない」

「ほらー。もう、どうしちゃったのよ。今日の蓮くん、ちょっと変だよ。もしかして具合でも悪い?」

「そんなことは」

「ほんとに?」

 そう言って蓮の額に手を当てると、少し熱く感じた。

「熱、ある? 帰る?」

 心配そうに蓮の顔を覗き込む。

 その時だった。

 額に当てられた手を蓮がつかみ、そのまま握り締めた。

「……蓮くん?」

 蓮は大きく息を吐くと恋に向き合い、肩に手をやった。

 いつも物静かで穏やかな蓮。

 ずっと想ってきた初恋の相手。

 半年前、泣きそうな顔で告白してくれた、気弱でかわいい幼馴染。

 しかし今の蓮は、何かを決意したような強い視線で恋を見つめていた。

 ――こんな蓮くん、見たことがない。

 ゆっくりと蓮が近付いてくる。その時初めて、恋は何をされるのかを悟った。

 夢にまで見た、蓮とのキス。

 人気のないこの神社に来ていたのも、その為だった。

 いつなんだろう。今日だろうか、明日だろうか。

 ずっと思っていた。

 しかし女の自分から言える訳がない。

 こういうことは男からするものなんだ。そう思い、ずっと待っていた。

 ついに、ついに蓮くんとキス、するんだ……

 恋が静かに目を閉じる。

 蓮の息が間近に迫る。

 そして。

 蓮の唇の感触が伝わってきた。

 その瞬間、恋は全身に電気が走るような感覚を覚えた。

 待ち望んでいた瞬間。

 それなのに心の中には、満足感と同時に「怖い」という気持ちが生まれていた。

 歯がカチカチと音を立てる。

 ――初めての経験って、こんな感じなんだろうか。

 しかしやがて、その感情は静かに消えていった。

「……」

 頬に伝わる一筋の涙。

 それは恋の中に生まれた、満ち足りた幸福感だった。

 ああ、私は幸せだ。

 もう何もいらない。

 私には蓮くんがいる。

 それだけでいい。

 唇が静かに離れる。

 恋がゆっくりと目を開けると、涙のせいで蓮の顔が歪んで見えた。

 その時初めて、自分が泣いていることに気付いた。

「あははっ……ごめんね、私ったら」

 そう言って涙を拭う。

「……ご、ごめん……」

 涙に動揺した蓮が、囁くようにそう言った。

「え? あ、あははっ、何謝ってるのよ。そんなんじゃないから」

 蓮の手を握り、恋が微笑む。

 しかし蓮はいつもの様にうつむくと、小声でもう一度「ごめん……」そう言った。

 * * *

「きゃーっ!」

 枕に顔を埋め、身をよじらせる。

 体を振る度に、腰まである長い髪が揺れる。

 あの時のことを思い返すと、体が燃えるように熱くなった。

 足をばたつかせ、枕に顔を押し付け、何度も「きゃーっ、きゃーっ」と声を上げる。

「……」

 しばらくしてようやく落ち着いた恋は、枕を抱き締めたまま起き上がった。

「蓮くん、蓮くん……」

 蓮とのキスは、想像していた以上に恋の心を乱していた。

 明日から夏休み。

 学校があれば毎日蓮くんと会える。一緒に登校出来る。

 しかし休みになると当然、会う機会は減ってしまう。

 それは嫌だ。

 毎日蓮くんと会いたい。

 私にはもう、蓮くんしかいない。蓮くんと一緒にいたい。

 蓮くんだって、きっとその筈だ。

 そうだ、毎日一緒に宿題をしよう。

 そしてその後で遊びに行く。うん、これなら自然だ。

 そんなことを考えていると、口元が緩んできた。

「ふっ……ふふふっ」

 二人きりの部屋で勉強会。そして勉強が終わったら……

 妄想が止めどなく広がり、恋はその度に枕を抱き締めて声を上げた。

 * * *

「え? 何の音?」

 妄想が広がる恋の耳に、何かを叩く音が聞こえた。

 慌てて枕を置き、耳を澄ませる。

 音は窓の方からしていた。

「……何の音? ここ、二階なんだけど……」

 ゆっくりと立ち上がり、窓の方へと進む。

 そして小さく息を吐くと、勢いよくカーテンを開けた。

「……え?」

 窓の外にいたもの。

 それは白い子猫だった。

「……子猫? どうして子猫がこんな所に……あ、ひょっとしてあなた」

 そう言って窓を開けると、子猫はかわいい鳴き声をあげて部屋に入ってきた。

「やっぱり! あなただったのね」

 頭を撫でると、子猫は嬉しそうにもう一度鳴いた。

「元気になったみたいだね。よかった」

「ありがとう、恋ちゃん」

「いいのよ別に。それよりこんな時間にどうしたの?」

「恋ちゃんにどうしても、お礼がしたくてね」

「お礼だなんて、そんなのいいってば。気にしないでよ」

「そんな訳にはいかないよ。受けた恩はちゃんと返さないとね」

「恩って、ふふっ、おませな子猫ちゃんだね。困った時はお互い様で………………え?」

「どうしたの、恋ちゃん」

「……」

「恋ちゃん? おーい、聞こえてる?」

 恋が目をパチパチさせて子猫を見る。

 そして叫んだ。

「ええええええええっ? 猫が、猫が喋ってるうううううっ!」

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001 ファーストキス
 「私……キスしたんだ……」  * * * 夢の中にいるようで、頭がふわふわしていた。 ――胸の鼓動がおさまらない。 泳いだ後の様に重い体。脱力感が半端ない。 それなのに足取りは軽やかで、そのまま宙に浮いてしまいそうな。 不思議な感覚だった。  赤澤花恋〈あかざわ・かれん〉。高校2年の17歳。 夏休み前、終業式の今日。 いつものように幼馴染の同級生、黒木蓮司〈くろき・れんじ〉と寄り道をした。 子供の頃からずっと一緒だった二人。名前に「レン」が入っている二人は、互いのことを「レン」と呼び合い、その仲睦まじい姿は近所でも有名だった。 近所にある人気のない神社。 付き合い始めて半年になる二人は、学校帰りにいつもここに来ていた。 他愛もない日常の出来事や愚痴を話し、互いの気持ちを共有する。 とは言え、話すのはいつも恋〈レン〉の方だった。 無口な蓮〈れん〉は恋の話を聞き、静かに笑ってうなずいていた。 しかし今日。 蓮の様子が少し違っていた。 いつもの様にオチのない話を続ける恋も、その様子に気付き声をかけた。「ちょっと蓮くん、聞いてる?」「う、うん、聞いてるよ」「ほんとに? だったら京ちゃんが何したか言ってみてよ」「……ごめん、分からない」「ほらー。もう、どうしちゃったのよ。今日の蓮くん、ちょっと変だよ。もしかして具合でも悪い?」「そんなことは」「ほんとに?」 そう言って蓮の額に手を当てると、少し熱く感じた。「熱、ある? 帰る?」 心配そうに蓮の顔を覗き込む。 その時だった。 額に当てられた手を蓮がつかみ、そのまま握り締めた。「…&hellip
last updateLast Updated : 2025-11-22
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002 ミウ
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last updateLast Updated : 2025-11-22
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003 恋〈レン〉の願い
 「恋ちゃんと彼氏くんの未来が見たいと」「うん、そう」 ミウを見つめる恋の瞳は、キラキラ輝いている。「私たちってね、子供の頃からずっと一緒だったんだ。親も仲がいいし、お互いの家にお泊まりとかもよくしてたの。  私はずっと、蓮〈れん〉くんのことが好きだった。蓮くんってね、いつも本ばっかり読んでいて、友達もいなかったんだ。外で遊ぶこともあんまりなかった。  でもね、私がお願いしたら一緒に遊んでくれるの。それがすごく嬉しくて……いつの間にか蓮くんのこと、好きになってた。  いつか付き合いたいって思ってたけど、でもほら、こういうのって女の方から言うのも恥ずかしいじゃない? だから私、ずっと待ってたの。蓮くんに告白されるのを」 瞳を爛々と輝かせてまくし立てる恋に、ミウは苦笑した。「半年前、ついに願いが叶った。蓮くんが告白してくれたの。そりゃもう、あの蓮くんだからね、分かるでしょ? 顔真っ赤にして、何言ってるのか聞き取れないぐらいぼそぼそと、なんだけどね」 いやいや僕、蓮くんのこと知らないし。ミウが心の中で突っ込んだ。「でもね、それでも嬉しかった。蓮くんが勇気を振り絞って告白してくれた。涙まで浮かべて、必死になって私に伝えてくれた。  その姿を見てね、私、ちょっとだけ後悔したの。こんなに大変なことなんだったら、私の方から告白しちゃえばよかったって。男だとか女だとか言う前に、自分の気持ちに正直になっていればよかったって」「まあ一理あるかな。人間の社会ではそういう役割、男の方がするみたいだけど、女の方から求愛する生物もいることだし」「でも嬉しかった。だから私、その場で蓮くんに抱き着いちゃったの。そして『私でよければお願いします』って言ったんだ」 そう言ってまた枕に顔を埋め、「きゃーきゃー」と声を上げる。「……その時ね、蓮くん言ってくれたんだ。『僕は恋を大切にする。恋が嫌がることは絶対にしない』って。それでもう、私の心臓は打ち抜かれた訳なのよ」「そして今日、その蓮くんとついにキスをした」「きゃー! きゃー!」
last updateLast Updated : 2025-11-23
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004 出発
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006 夢と現実
 「それで、その……聞きたいことがあるんですけど」 恋〈レン〉の真剣な眼差しに、蓮司〈れんじ〉が静かにうなずく。「うん……なんでも聞いて」「あの、蓮司さん……工場で働いてるってことですけど、その……小説の方は……」「……だよね」 笑顔のまま、蓮司が麦茶を口にする。「やっぱりまだ、デビュー出来てないんでしょうか」 勇気を振り絞り、恋がその言葉を口にした。  * * * 蓮〈れん〉は子供の頃から、本を読むのが好きだった。 低学年の頃は童話や偉人の本、高学年になると歴史物を夢中になって読んでいた。 中学に入ると図書館に通い詰めるようになり、純文学から大衆文学まで、幅広く読むようになっていた。 そんな中、彼の中でひとつの夢が芽生えていった。 自分にこれほど感動を与えてくれる文学。与えられる側でなく、自分も創り出す側になりたい。そんな思いが日に日に強くなっていった。 それから蓮は手帳を持ち歩くようになり、ひらめいたこと、面白いと感じたことを書き残すようになっていった。 いつか自分で物語を書くんだ。 目を輝かせて夢を語る蓮に、恋はときめいたのだった。 高校に進学すると、蓮は本格的に執筆活動を始めた。 これまで集めたたくさんの言葉、たくさんの思いをまとめ上げ、二年の内に数本の小説を完成させた。 完成するたびに、蓮は嬉しそうに恋に報告した。蓮の初めての読者は、いつも恋だった。 ――口下手な蓮くんが、小説だとこんなに自分の思いを表現出来るんだ。 もっと知りたい、もっと蓮くんの世界を感じたい。 蓮の作品に魅了された恋は、彼の創作活動を応援した。 そしてそんな励ましに、蓮の中でいつしか「作家になりたい」といった夢が生まれていったのだった。
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last updateLast Updated : 2025-11-27
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009 黒木家の団欒
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  うつむき、肩を震わせる恋〈レン〉。 蓮司〈れんじ〉は哀しげな視線を向けた。「蓮司くん、どうかしたの?」 後ろを向き床を見つめる蓮司に、弘美が声をかける。「あ、いや……なんでもないよ、弘美さん」「と言うか母さん、蓮司が帰ってきたらいつもそれだ。いい加減やめろよな」 智弘が声を荒げる。「そんなこと言ったって」「そんなことも何もないんだよ。母さんがそうやって恋ちゃんの悪口言うから、蓮司も家に寄り付かなくなるんだぞ」「だってそうじゃない。恋ちゃんがあのまま蓮司といてくれてたら、母さんだって何の心配もなかったんだから」「そうやって母さんの気持ちばっかり押し付けるなって、俺は言ってるんだよ。少しは蓮司の気持ちも考えてやれよ。蓮司だって昔の彼女、幼馴染の悪口ばっかり聞かされてたら、たまったもんじゃないだろ」「私は親なんだよ? 子供の心配するのは当然じゃない」「心配はしてくれていいよ。俺が言いたいのはそうじゃなくて、母さん、口を開けば愚痴ばっかりじゃないか。恋ちゃんは俺にとっても幼馴染なんだ。その子のことを悪く言われて、いい気がしないことぐらい分かるだろ」 智弘の言葉に昌子が口ごもる。 さっきまでの和やかだった食卓が、一気に重苦しい雰囲気になっていた。「ま、まあまあ……弘〈ひろ〉くんもそのぐらいで」 重い空気を何とかしようと、弘美が間に入って智弘をなだめる。「お義母さんもね、久しぶりに蓮司くんが帰ってきたから、嬉しくてテンション上がってるんだよ」 弘美の気遣いを感じた智弘が、小さく息を吐くとビールを口にし、「まあ、そうなんだろうけど……」そうつぶやいた。「母さんだってね、別に恋ちゃんの悪口を言いたい訳じゃないんだ。でもね……あんたらも親になったら分かるよ。親ってのはね、いくつになっても子供が可愛いものなの。例え蓮司に駄目なところがあったとしても、
last updateLast Updated : 2025-11-29
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