LOGINだから、改めて立場を抜きにして言うならば、蓮司は正真正銘のクズであり、透子には到底釣り合わない男だ。昔もそうだったが、今となっては尚更だ。万感の思いを込めて、大輔はメッセージを打った。【ようやく暗雲が晴れ、光が差しましたね。栞お嬢様の未来が順風満帆で、健やかで、憂いなく幸せでありますように。これからのご活躍とご多幸を、心よりお祈り申し上げます】透子はその祝福を受け取り、大輔が彼女の出国を察しているのだと悟った。彼女は明後日の送別会に大輔を招待し、友人として別れを告げることにした。大輔はもちろん二つ返事で、喜んで参加すると答えた。人脈作りは無理でも、見聞を広めるには良い機会だ。……大輔が透子に愚痴をこぼしたのは、スティーブを叱ってもらうためではない。スティーブは彼女の兄のアシスタントなのだから、そんなことは不可能だ。ただ、陰口を叩いて鬱憤を晴らしたかっただけなのだ。だが予想外なことに、透子は実に義理堅く、彼のために動いてくれたようだ。なぜそれが分かったかというと、透子が自分から言ったわけではない。帰宅直後、スティーブから再び電話があったが、大輔は出なかった。腹いせに無視を決め込んだのだ。不在着信が二件続いた後、相手からメッセージが届いた。見てみると、今度は大輔自身を罵る内容で、蓮司への悪口にかこつけたものではなかった。罵られてはいたが、大輔の気分は良かった。透子がスティーブに話したからこそ、相手がこれほど激昂しているのだと分かったからだ。送られてきた文面には、自分も蓮司と同じく卑劣で恥知らずだとか、小心者だとか、告げ口魔だとか、ガキのような振る舞いだとか書かれていた。大輔は薄ら笑いを浮かべて返信した。【親愛なるスティーブさん、告げ口なんてしていませんよ。ただ、栞お嬢様と楽しくおしゃべりをしただけです】【僕と彼女は、個人的に悪くない関係でしてね。それに、理恵お嬢様とも仲が良いんですよ。以前、仕事をしないかと誘われたくらいですから】大輔はようやく「虎の威を借る狐」の快感を味わい、胸のつかえが下りたような気分だった。同時に心の中で、二人の令嬢の名前を利用したことを詫びた。だが、これもスティーブをやり込めるためだ。毎日利用するわけではないので、許してほしいと願った。送信後、二分待っても返信がな
最初、大輔はスティーブに対して、確かに畏怖と敬意を抱いていた。何しろ相手は、あの雅人のチーフアシスタントなのだ。雅人はあれだけの大物だ。瑞相グループの最高経営責任者であり、ピラミッドの頂点に君臨し、全世界の経済をも動かしかねない存在だ。恐れ敬わない者などいない。だが、よく考えてみれば、雅人は雅人、そのアシスタントはあくまでアシスタントだ。アシスタントに敬意を払ったところで、雅人が自分に目をかけてくれるわけでもない。雲の上の存在が、自分のような下っ端を気にかけるはずがないのだ。それに、雅人がいなければ、スティーブの今の権勢もない。雇い主という後ろ盾を外せば、自分と何ら変わりはない。つまりスティーブは、虎の威を借る狐に過ぎないのだ。職務上の立場は、自分と対等だ。それに、今後スティーブと関わることもないだろう。もう顔を合わせる機会もないのだから、機嫌を損ねたところで怖くはない。そう考えると、大輔はさっきの電話でペコペコと低姿勢を貫いたことが悔やまれてならなかった。なんと情けない、弱腰な態度だったことか。もっと怒りを露わにして、ガツンと言い返してやればよかったのだ。だが、後の祭りだ。大輔は溜息をつき、携帯をポケットにしまうと、帰宅の準備を始めた。背後にある社長室のドアのところで、蓮司は立ち尽くし、大輔の独り言をすべて聞いていた。蓮司は携帯を取り出し、個人口座から大輔に精神的苦痛への慰謝料と、これまでの労いとして百万円を送金した。着金通知音が鳴り、廊下を隔てて、大輔の歓喜の叫び声が聞こえたかと思うと、すぐに慌てて口をつぐむ気配がした。次の瞬間、アシスタント室から飛び出してきた大輔は、先ほどの鬱屈した気分など吹き飛んだように、満面の笑みで忠誠を誓った。「社長、ご安心ください!僕は一生あなたについていきます!この身を粉にしてお仕えします!」中にいる蓮司からの返事はなかった。大輔はさらに媚びた声で言った。「社長も早めにお帰りになって、休んでくださいね。お先に失礼します」そう言うと、大輔は足取りも軽くエレベーターの方へ向かった。休暇なんてどうでもよくなった。金が嫌いな人間などいない。働くのは金のためだ。しかも、社長からの個人的なボーナスは、会社の賞与とは別枠だ。さっきスティーブに八つ当たりされたことを思い
裁判は続くが、透子の投稿は削除されないとはいえ、透子の気が済むという条件で手打ちになるなら、話はずっと簡単だ。大輔は弁護士と連絡を取りながら、意気揚々と社長室へ向かった。ドアは開いていた。大輔がノックしようと手を挙げたところで、デスクのそばに蓮司の姿がないことに気づき、動きを止めた。見ると、蓮司は窓際に立ち、外を眺めながら物思いに耽っているようだった。大輔は部屋に入り、朗報を伝えた。義人はまだ腹を立てており、蓮司と直接話そうとはせず、大輔を通して連絡してきたのだ。「水野社長が保証してくださいました。実刑判決は免れると。手続き上の形式的なものになるでしょう」その言葉を聞き、蓮司はゆっくりと振り返った。その顔に表情はなく、唇を引き結んで沈黙した後、こう尋ねた。「叔父さんが、橘家に頼んでくれたのか……」大輔は答えた。「水野社長の顔だけでは無理です。動いたのは水野の大旦那様、社長の母方のお祖父様です」蓮司はその言葉に愕然とした。以前、義人から聞いていたことを思い出したのだ。水野のお爺さんはもう半年以上も入院しており、人工呼吸器と点滴で辛うじて命を繋いでいる状態だと。以前、見舞いのビデオ通話をしようとしたが、結局しなかった。蓮司を見れば、水野のお爺さんが亡き母を思い出して辛い思いをするのではないかと案じたからだ。義人の話では、水野のお爺さんは夜も眠れず、家の利益のために娘の幸福を犠牲にしたことを悔やんで泣いているという。今、その水野のお爺さんが、死の淵にありながら、病身を押して不肖の孫のために橘家との間を取り持ってくれたのだ。蓮司はうつむき、その声はすでに枯れていた。「祖父の……具合はどうなんだ?」大輔は答えた。「僕には詳しいことは分かりません」大輔は言葉を選んで続けた。「社長ご自身で、水野社長にお聞きになってはいかがですか」義人はまだ機嫌を損ねているが、蓮司が態度を軟化させれば、怒りも収まるだろう。何しろ、昼間は激怒していたが、オフィスを出てすぐに解決策に奔走していたのだ。甥への愛情は本物だ。大輔は、蓮司がこの親族を大切にすべきだと感じていた。蓮司はそう言った。「後で、叔父さんに連絡してみる」大輔が部屋を出てドアのところまで来た時、スマホが鳴った。画面を見ると、スティーブからだった。
新井のお爺さんは電話口で言った。「義人が助けを求めたそうだが、蓮司がしでかした数々の愚行について、ちゃんと聞いているのか?どうせ都合の悪いことは隠しているんだろう。あんたがショックで卒倒しないようにな。約束したことは守る。あとは成り行き次第だ。もし蓮司が何年も刑務所に入ることになれば、その頃にはわしも生きてはおらん。新井家のすべては、わしの意志だけではどうにもならなくなるぞ」死後のことなど知ったことか。水野家がある限り、たとえ蓮司が新井家の後ろ盾を失っても、湊市で不自由なく暮らせるはずだ。だから心配は無用だ。電話が切れた。新井のお爺さんは明言しなかったが、水野のお爺さんはその意図を理解した。数千キロ離れた湊市の病室にて。アシスタントが書類の内容を読み上げ、一項目読み終わるごとに、水野のお爺さんの顔色を窺い、いつでもナースコールを押せるよう身構えていた。水野家の孫たちは皆、聞き分けの良い子ばかりだ。傑出した才能はなくとも、これほどのトラブルメーカーはいない。しかも相手は瑞相グループだ。素直な内孫たちに比べれば、この外孫はまさに「世を騒がせる魔王」と呼ぶにふさわしい。だが、アシスタントの懸念は杞憂に終わった。水野のお爺さんは激怒することなく、その表情は穏やかだった。体力が衰えて感情を露わにできないのか、それとも外孫への溺愛ゆえに、どんなことでも受け入れられるのか。長い沈黙の後、水野のお爺さんは弱々しい声で一言だけ言った。「橘家に連絡を取れ」アシスタントがスマホを取りに行く間、水野のお爺さんはベッドに寄りかかり、虚ろな目で壁を見つめていた。その穏やかな表情の下では、複雑な感情が渦巻いていた。若くして亡くなった娘への追憶、政略結婚を強いたことへの自責と後悔。両親を失った外孫への憐憫、養育義務を果たせなかったことへの罪悪感……老い先短くなればなるほど、過去の過ちが思い出されるものだ。だからこそ、たとえ蓮司がどんな罪を犯したとしても、祖父として見捨てるわけにはいかない。新井のお爺さんが抱く、期待外れへの失望とは異なり、水野のお爺さんにあるのは、ただひたすらに尻拭いをする溺愛だけだ。唯一の外孫には、生きていてくれさえすればいいと願っている。……夜九時。新井グループの最上階は、まだ明
新井のお爺さんは、テーブルの上の碁盤をじっと見つめ、一人で碁を打っていた。その表情はいつものように冷たく、冷徹だった。新井のお爺さんは黒石を打ち下ろし、冷ややかに言った。「留置場には入ったことがあるだろう。刑務所に入ったところで、大した違いはない。あやつがこうなったのは自業自得だ。わしが自ら手を下さないだけ、情け深いと思え」橘家からはすでに連絡があり、蓮司の罪状が列挙され、断固として起訴するとの通達が来ていた。週末に蓮司が透子たちに付きまとった件なら、まだ目をつぶれた。柚木家への時計の賠償金も、新井のお爺さんが肩代わりしてやった。だが、蓮司は懲りずに、今度は透子が担当するプロジェクトに手を出した。あれは透子が初めて全権を任された仕事だ。実績を作り、実力を示して、将来家業を継ぐための重要な足がかりなのだ。それなのに、蓮司はよりによってこのタイミングで資材に細工をした。もし橘家が気づかずに事故が起きれば、透子は非難を浴び、ビジネスとしての道は閉ざされていただろう。蓮司の手口が杜撰で、わざと露呈させたようなものだったとはいえ、新井のお爺さんの失望が消えるわけではない。やったことは事実だ。自分の行いの責任は、自分で取るべきだ。執事が必死に懇願している最中、手元のスマホが震えた。新井のお爺さんは番号を一瞥し、執事に言った。「下がれ。あやつのことは助けん。裁判で負けるのは確実だ。橘家が実刑を望むなら、刑務所で頭を冷やさせればいい」それを聞き、執事は絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになった。数年も服役すれば、新井家の勢力図は激変している。蓮司が出てくる頃には、本当に無一文になっているだろう。橘家の決意は固い。そうでなければ、内々の話し合いもなく、いきなり訴訟を起こすはずがない。執事は心底恐れ、心配していた。だが、新井のお爺さんの不機嫌な様子と、スマホが鳴り続けているのを見て、執事は仕方なく部屋を出てドアの外で待つことにした。……碁会室にて。新井のお爺さんはスマホを手に取り、耳に当てた。「体調はどうだ?起きている時間も少ないと聞いていたが、老骨に鞭打って、遠くの心配事か?」電話の向こうから、老いた咳き込む音と、荒い息遣いが聞こえてきた。途切れ途切れの声が響く。「わしには……たった一人の娘の
義人はそれを聞き、冷ややかな表情を浮かべた。彼はもともと、博明という「義弟」のことを少しも認めていなかった。警察署で博明が、蓮司が薄情だと喚き散らして濡れ衣を着せようとしているのなら、いっそ事実にしてやればいい。義人が考えを伝えると、大輔は少し躊躇した。「社長の方は問題ありません。もともとあの父親を認めていませんから。ですが、法的に親子関係を断絶するとなると、新井家や会長様にとっては……」家族の名誉に傷がつくだけでなく、一族の跡取りの問題もある。新井のお爺さんはこの局面を見たくはないはずだ。そうでなければ、蓮司はずっと前に博明と完全に縁を切っていたはずで、ただ放置するだけには留まらなかっただろう。義人は大輔の懸念を聞いて沈黙したが、やがて妥協案を出した。「なら、警察に博明が蓮司を養育した事実がないという証明を提出しろ。どうせ不倫の事実は広まっているんだ」大輔はその意図を理解し、すぐに手配させた。……午後。蓮司のもとに裁判所からの呼び出し状が届いた。橘家が、資材の悪質なすり替えと、離婚裁判での偽証罪で提訴したのだ。大輔は慌てて法務部に連絡を取った。橘家側の動きがこれほど早いとは予想していなかった。午前中に提訴すると言っていたが、調停の手続きさえ飛ばして、いきなり法廷で争う構えだ。しかし、周りが気をもんでいるのに、当の蓮司は焦る様子もなく、むしろ開き直っていた。「答弁書の準備は必要ない。すべて認める。賠償金は結審後すぐに支払う」大輔は蓮司の言葉を聞き、言い返した。「お金には困っていないでしょうが、向こうも困っていませんよ。彼らが社長を刑務所にぶち込もうとしたらどうするんですか?」蓮司は言葉に詰まった。判断力が鈍って思いつかなかったわけではない。電話の向こうで透子に罵倒された時でさえ、そうだった。ただ、自分が収監されるはずがないと思っていたのだ。脱出する方法はいくらでもあると。大輔は苦渋の表情で独り言を言った。「でなければ、なぜ法的手段に出るんですか。金が目的なら示談で済むはずです」裁判になれば、蓮司は実刑判決を受けるかもしれないし、名声は地に落ち、悠斗に後継者の座を譲ることになる。まさに一石三鳥だ。午前中に透子と電話した際、透子は裁判にすると言っていたが、ここまで徹底して







