俺と彼女の出会いは、奇跡だった。大学の飲み会で、酔った彼女が俺の肩に寄りかかってきたのが始まりだ。彼女の名前はヒナ。無邪気で、太陽のような笑顔を持つ女の子。 人付き合いが苦手で、極度の上がり症である俺の日常は、彼女の存在によって一変した。心臓は跳ね上がり、顔は熱を持つ。しかし、彼女は俺をただの「友達」として自然に受け入れているだけだ。 これは、不器用な俺と、太陽のような彼女が織りなす、甘くてもどかしい恋の物語。一歩踏み出したいのに踏み出せない、そんな俺に、いつか春は訪れるのだろうか。
View More彼女との出会いは偶然が重なり、そして、彼女の屈託のない性格が引き起こした、まさに奇跡のような出来事だった。
俺は大学一年のユウマ。どこにでもいるごく普通の大学生だ。これまで恋人ができたことは一度もなく、女性の友人でさえも皆無だった。
元来、人付き合いが苦手で、加えて極度の上がり症ときている。おまけに口下手で、緊張すると全く話せなくなるため、男友達を作るのにも苦労するくらいだ。
そんな俺も、数少ない男友達に誘われ、久しぶりの飲み会に誘われ参加した。その飲み会は男ばかりで構成されており、俺にとっては心底安心できる空間だった。正直なところ、女子が参加するような華やかな飲み会は、今の俺にはあまりにもハードルが高すぎる。
過去に一度だけ、女子が参加する飲み会に誘われたことがあった。しかし、その時の俺は極度に緊張し、何を話したのか、どんな雰囲気だったのか、ほとんど何も覚えていない。ただ、ひたすら黙々とお酒を飲み続け、最終的にお金を払ったという記憶がわずかに残っている残念な記憶だけだ。
今回は男子のみの気兼ねない飲み会。俺は数少ない友人たちと、大学近くの居酒屋の座敷で楽しく談笑し、酒を酌み交わしていた。共通の世代であるアニメやゲーム、漫画といった小中学校で流行っていた話で大いに盛り上がっていた。
隣のテーブルの男女混合グループが、俺たちと同じくらいの時間に飲み始めていたのは知っていた。そして、そのグループの中にいた一人の女の子が、俺の隣の席に座ったのだ。
おそらく、トイレか電話で一時的に席を外していて、戻ってきたのだろう。途端に、俺は彼女の存在を意識して、緊張をしてしまい友人たちとの会話に集中できなくなっていた。
ものすごく可愛らしい容姿で、しかも明るく社交的な性格らしく、グループの中心で楽しそうに話に加わっていた。透き通るように可愛らしい彼女の声に、俺は思わず聞き入ってしまう。まるで、その声が紡ぎ出す言葉の一つ一つが、直接、心臓に響いてくるようだった。
「なー、ユウマは、最近はどんなゲームをしてるんだよ? 何か面白いゲームあったら紹介しろよなー」
女の子の声に聞き惚れていて、そっちに集中をしていた。そんな時に、急に友人から話を振られ、俺は内心、激しく動揺した。
答える時間を稼ぐために、それと酒と近くに可愛い子が座っていたせいか暑さを感じていた。着ていたTシャツの袖を捲り上げた。
「え? ゲーム? 俺……? あー……パズルゲーム、かな。紹介できるようなゲームは……最近は、ちょっとな……金も時間もなくてさ」
趣味のゲームと言っても、最近はスマートフォンのパズルゲームくらいしかできていない。ゲーム機や高性能なパソコンは、大学生の俺には高嶺の花で、とても手が出せないのだ。情けない、と内心で舌打ちをする。
「……は? マジかよ。どんなゲームだよ、それ?」
そう友人に問い詰められた、その時だった。
ポフッ……。
突然、柔らかな感触が俺の右肩に触れた。隣に座っていた可愛い彼女が、何の前触れもなく、俺の肩にふわりと寄りかかってきたのだ。アルコールで仄かに赤みが差した頬は、まるで熟れた桃のように可愛らしく、俺の視線を吸い寄せた。
「んぅ……わぁ……わたしのヒーローさんだぁー……んふふ……♪」
お酒が回っていて酔っている様な口調で眠そうな顔をして、俺の腕を見て呟いた。ふと気づいた。俺の腕に小学校の頃にケガをした傷がある事を。その傷が目に入り指で撫でるようにして言っていたのだ。
可愛い女の子に触られ、ゾワゾワとした快感とくすぐったさが伝わってくる。
「ご、ごめんなさいね! この子、普段あまりお酒を飲まないから……酔っちゃったみたいで。それに、酔っても横になって寝ちゃうんだけど……」
隣の女の子の友達が慌てて謝罪と説明をしてくれているが、あまり頭に入ってこない。
「……え、あぁ、はい。大丈夫ですよ」
心配そうに見つめる友達が女の子を引き離そうとしていると……
ぎゅぅ……。と、女の子の腕に力が入るのを感じた。
「やぁ……、わたしのヒーローさんだもんっ。離れない―……。いやらぁー」
彼女は、そのまま俺の右腕を抱きしめてきた。むにむにとした柔らかな頬の感触が、俺の腕に直に押し付けられる。そして、その腕には、彼女の胸の柔らかな膨らみが触れ、心臓が大きく跳ね上がった。全身の血が頭に上り、一気に顔が真っ赤になり、熱くなるのを感じた。そこからの記憶は、残念ながらほとんどない。
翌朝、ベッドの中で目覚めると、昨夜の飲み会の、あの鮮烈な記憶が突然、脳裏に蘇った。俺は一人、顔を両手で覆い、熱を持った頬をさらに赤くした。はぁ……あの子、もしかして同じ大学なのかな……すごく可愛かったなぁ……。広い大学で、大勢の学生の中探すのは苦労するし名前も知らない、顔もいまいち覚えていなければ不可能に近い。
そんな淡い期待と、昨夜の甘い感触をぼんやりと思い出しつつ、俺は大学へ向かった。彼女にもう一度会える奇跡を願いながら。
大学構内の、日差しが降り注ぐ広場を歩いていると、背後から聞き覚えのある可愛い声が聞こえてきた。
「あの……ごめんなさいっ!」
振り返ると、そこに立っていたのは、見覚えのある昨日の女の子だった。白いブラウスにふんわりとしたスカートを履いた彼女は、緊張で顔をこわばらせ、深々と頭を下げている。その横には、同じグループだったであろう二人の女子が、申し訳なさそうに立っていた。
「え?」
たしか昨日も謝罪をしてくれて説明をしてくれていた子だよな。その付き添っていた女の子が、事情を説明してくれた。
「この子、お酒あんまり強くないのに飲んじゃって……知らない人に迷惑かけたって話をしたら、謝りたいから一緒に探してって。自分じゃ酔ってて顔も覚えてないからって……。わたしたちは……顔を覚えていたから。普段、というか酔っていても男の人に甘えたり抱き着いたりする子じゃないのに……」
「そうそう、珍しく男の人に甘えたと思ったら、”わたしのヒーローさん”に謝らなきゃって、必死に頼んでくるから……」
「そ、そうなんですか……別に……大丈夫ですよ気にしてませんし。ヒーローですか?」
彼女は、友人の言葉を聞くと、改めて顔を上げた。潤んだ大きな瞳がユウマの姿を捉えた瞬間、彼女の頬がふわりと桜色に染まる。
その瞬間——ヒナの心には、忘れがたい何かが深く、深く焼き付いた。彼の腕から伝わってくる血の生温かい温度、震えるほど力強く、それでいて優しく彼女を掴む指の感触。そして、何よりも、彼女の命を守ろうとする彼の揺るぎない意思。それらはヒナの中で、単なる命の恩人という言葉では言い尽くせないほどの、深い感謝と敬意となって刻み込まれた。 彼は、傷つきながらも自分を救ってくれた。その姿は、幼いヒナにとって、まるで絵本から飛び出してきたヒーローのようだった。「この人のためなら、私はすべてを捧げられる」という、幼心にも強い決意が芽生えた。ユウマの存在は、彼女の世界を照らす唯一の光になった。 その後、二人はすぐに救急搬送された。ヒナは幸いにもかすり傷程度で済んだが、ユウマは重症で、あの痛々しい傷痕と共に、数週間もの間、入院することになったのを、ヒナは今でも鮮明に覚えていた。 ユウマの胸に残る、あの傷跡。それが有刺鉄線のものだと確信した瞬間、わたしの心臓は激しく高鳴った。ずっと心の奥底で探し求めていた、あの時のヒーローが、目の前にいるユウマだと分かったのだ。あまりの嬉しさに、どうすればいいのか分からなくなった。♢喜びと混乱の狭間で ユウマが、何事もなかったかのように床に置いた服を手に取り、背中を向けてシャツに袖を通そうとしている。その背中には、さっきまで見えていた生々しい傷跡が、今はもう隠されている。 わたしは、喉の奥から込み上げる叫び声を必死に押し殺した。喜びで全身が震えている。自分がこんなにも感情を揺さぶられるなんて、今まで経験したことがなかった。どうすればいい? 何て言えばいい? 『あの時のユウマくん、わたしを助けてくれたんでしょ?』そう問い詰めたい衝動に駆られるが、言葉が喉に詰まって出てこない。 今までは、わたしの探し求めていた“わたしのヒーロー”に名前も面影も似ていて、自然と惹かれるものがあり、無意識に抱きついて甘えていたのかもしれない。けれど今になって思えば——わたしの直感は、当たっていた。 ユウマくんは、間違いなく、わたしにとっての“光”。そして“ヒーロー”だ。 憧れの存在でもあり……心を惹かれてしまう人。 そんな人と、今こうして一緒に過ごしているなんて——。 んぅ ……急に、恥ずかしさが込み上げてきた。♢友達という名の仮面 ユウマがシャツを着終え、
下着だけを履いた状態で、鏡に映る自分を見る。上半身は裸だ。男だし……別にヒナの前で着替えても良いよな? さっきあいつも俺の前でTシャツ一枚で出てきたくらいだし。そんな理屈が頭をよぎる。 着替えの部屋着は一応リビングに用意していたので、脱衣所を出てリビングで着替えることにした。リビングへ向かう廊下を歩く間も、ヒナが俺の服を見てどう思うか、どんな反応をするか、そんなことばかりが頭を巡り、足元がふわふわするのを感じた。♢ヒナ視点 リビングのソファに座るヒナは、落ち着かない様子でそわそわしていた。ユウマがお風呂から出てくるのを待つ時間は、こんなにも長く感じるものなのかと、柄にもなく緊張している自分に戸惑いを覚える。浴室のドアの向こうから、シャワーの止まる音、そしてやがてユウマの足音が近づいてくるのが聞こえた。そのたびに、胸のドキドキが高まるのを感じる。 足音がリビングの手前で止まる。振り向きたい衝動を必死に抑えながら、ヒナは視線だけをそっと向けた。すると、視界に飛び込んできたのは、予想だにしない光景だった。ユウマが、下着だけを身につけた姿でそこに立っていたのだ。 湯気を含んだ彼の肌は少し赤みを帯び、鍛えられた肩や背中には、まだ水滴が光っているように見えた。その逞しい背中と、そこから覗く肉体的なラインに、ヒナの顔は一気に熱くなる。男子の裸なんて、これまで一度たりとも見たことがない。ましてや、それがユウマだなんて。 思わず、盗み見る自分に少し笑いが込み上げてくる。ソファに座ったまま、その背中に向けて、ヒナはまるで小悪魔のような笑みを浮かべた。目の前の光景に心臓の鼓動が早まるのを感じながら、彼女は自分の鼓動の数を、一つ、また一つと数え始めた。 ふと、ユウマが床に置いていた服へと手を伸ばした瞬間――そのわずかな動きに合わせて、彼の胸と腹がチラリと露わになる。 瞬間、ヒナの呼吸が止まった。 そこには、等間隔に刻まれた鋭い傷跡。皮膚に深く残る痛みの記憶。それは有刺鉄線の残酷さをそのまま語るような、忘れようとしても目を逸らせない証。 ヒナは、何かに打ち抜かれたようにその場に立ち尽くす。彼が見せていない痛み、語っていない過去。そのすべてが、目の前の痕跡に宿っていた。 ――やっぱり、間違いない。この人は、あの時わたしを助けてくれた“ユウマ”だ。わたしのヒーロー。
「え、あ、ああ……いいけど……」 俺の返事に、ヒナはホッとしたように小さく息を吐いた。そして、次の言葉を紡ぐ。「だって、親友の家にお泊まりするんだし、お風呂くらい借りないと、失礼だもんね?」 そう言いながら、ヒナはわざとらしく明るい声を出し、自分の言葉に言い聞かせるように「親友」という部分を強調する。その仕草に、俺はヒナが普段から使う「仲良しなら当たり前」とは違う、どこか言い訳がましい響きを感じた。 ユウは、ヒナのいつもとは違う雰囲気を敏感に察知した。彼女が放った「親友」という言葉が、ユウの心を惑わせる。もしかして、ただの気遣いなのだろうか。自分だけが勝手に特別な意味を見出そうとしているのではないか。そんな迷いが、ユウの胸に小さな波紋を広げた。 ユウは、ヒナの表情から目が離せなかった。夕暮れのオレンジ色が窓から差し込み、彼女の頬に淡い影を落としている。その影が、ヒナのいつも弾けるような笑顔を、どこか儚げな、少女らしい表情に変えていた。 ヒナは、自分の言葉にごまかすように、きゅっと唇を引き結んでいる。その仕草が、彼女の決意と、それを上回るほどの緊張を物語っていた。ユウの心臓は、ドクンと一つ、大きく跳ねた。それは、期待と不安が入り混じった、甘く胸を締め付けるような鼓動だった。 親友という言葉の持つ、今まで当たり前だった響きが、今はまるで、二人を隔てる透明な壁のように感じられた。ユウは、ヒナの言葉の真意を測りかね、どう動くべきか迷っていた。 ユウはごくりと唾を飲み込んだ。喉がからからに渇き、声が出ない。ヒナの視線が、ユウの表情を窺うように彷徨う。その潤んだ瞳が、ユウの心を揺さぶった。 言葉を交わさずとも、二人の間には、今までになかった感情の波が静かに押し寄せていた。夕焼けの光が揺らめく部屋で、二人はただ、互いの存在を強く感じ合っていた。それは、親密さとは異なる、重く、しかし甘い空気だった。 「シャワーだけだけどな」と、俺は努めて平静を装いながら答える。ヒナは「うん!」と元気よく頷くと、俺の用意したタオルと部屋着(俺のオーバーサイズのTシャツとスウェットパンツ)を受け取った。その時、彼女の指先が俺の指に触れた。一瞬の接触だったが、彼女の手は微かに震えているように感じた。 風呂を借りたヒナが、ユウマのぶかぶかなTシャツとスウェットパンツを借りて出てくる
「さ、適当に座ってていいよ」 そう声をかけると、ヒナはソファへと向かった。いつもなら躊躇なく腕に抱きついてくるヒナが、今日は俺の隣に座るだけでも、ほんの少しぎこちないように見えた。でも、すぐにいつもの明るさを取り戻し、好奇心旺盛な瞳で部屋を見回し始めた。「へぇ~、ユウくんの部屋って意外と綺麗なんだね! もっとごちゃごちゃしてるかと思った~」 冗談めかしたヒナの言葉に、思わず苦笑が漏れる。棚に並んだ俺の趣味の品々を、ヒナが指でそっとなぞる。ゲームのソフト、読みかけの本、そして少し埃をかぶったサッカーボール。一つ一つに目を凝らすヒナの横顔を見ていると、俺の知らないところで、ヒナが俺という人間をより深く知ろうとしているような、そんな感覚がして、胸の奥がじんわりと温かくなった。 二人は並んでソファに座り、テレビで映画を観始めた。慣れない部屋のせいか、ヒナのいつもより少しだけ静かな気配に、俺の緊張も少しずつ溶けていくのを感じた。映画の途中、ヒナはいつもの癖で、自然と俺の肩に頭を預けてきた。柔らかな髪が頬をくすぐり、温かい体温が伝わってくる。洗い立ての服から香る柔軟剤の匂いが、心地よく俺を包んだ。「ねぇ、このシーン、ちょっと怖いかも! ……きゃ! はぅぅぅ」 映画の展開に身をすくめ、無意識のうちに俺の腕にそっとしがみつくヒナ。いつもの「仲良しなら当たり前」のスキンシップだ。でも、今日はその指先から伝わるヒナの体温が、いつもよりずっと熱く感じられた。俺が隣で小さく息を呑んだ気配に、ヒナの心臓がトクン、と跳ねたのが分かった。ヒナは顔を少しだけ上げて、俺の横顔を盗み見る。画面を見つめる俺の瞳は真剣で、その端正な横顔に、ヒナはキュンとしたのだろうか。いや、いつものことだ。そう自分に言い聞かせた。 ふと、飲み物を取りに立ち上がろうとすると、ヒナが離れていくことに寂しさを感じたのか、一瞬だけ俺の服の裾を掴みそうになる仕草を見せた。その小さな動きを見逃さず、俺はすぐにヒナに顔を向けた。「何か飲む?」 俺の声に、ヒナの胸が高鳴るのが分かった。俺が飲み物を取りに行っている間、ヒナは俺が座っていた場所にそっと手を触れる。まだ残る温もりに、じんわりと頬が熱くなるのを、俺は見ていた。 俺が飲み物を持って戻ると、ヒナは「あ、そうだ!」と急に閃いたように、俺の手から自分のスマートフォ
「……ってことは、あ、あぁ……一人暮らしってのも嘘で両親と一緒な感じ?」 ヒナが不安げに、そして少し残念そうに尋ねてきた。その視線が、俺の内心を見透かすように感じられた。 「それは、ホント……。俺は一人暮らしだよ。二人っきりになっちゃうけど……どうする?」 俺は改めて、ヒナの顔を見つめて問いかけた。マンションの街灯の下、夜風がひゅうと吹き抜ける。「ユウくんのおへやに~レッツゴー!」 ヒナは俺の腕を掴んだまま、何の迷いもなく満面の笑みで宣言した。その無邪気な笑顔に、俺の心臓はまたしても大きく跳ね上がる。「慣れてないとか、男子と二人きりになるのは避けてるって言ってたよね!? 随分と……積極的だけど?」 俺は思わず、ツッコミを入れてしまった。さっきまでの、はにかんだような表情はどこへやら。今のヒナは、まるで小動物が獲物を見つけたかのように、キラキラと目を輝かせている。「んー? それはねーえへへ、ユウくんが……初恋の男子に似てるからー♪ なんか、一緒にいると落ち着くって言うか、ユウくんと一緒にいると居心地が良いんだよっ♪」 ヒナは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、俺の腕に抱きついてきた。その言葉と仕草に、俺の胸は高鳴る。 大学に入ってからというもの、ユウマは男友達でさえ自宅に招いたことがなかった。そんな俺にとって、初めて家に入れる相手が、まさかの女の子、それもこんなにも可愛らしいヒナだという事実に、俺は心の中で深くため息をついた。まるで腹を括るかのように、俺は意を決し、ヒナを部屋へと案内した。 俺が「こっち」と静かに促すと、ヒナは俺のシャツの袖をちょん、と可愛らしくつまんだ。「ちゃんと案内してね?」そう言ってくすりと笑う彼女の無邪気な仕草に、鼓動がまた一つ、高鳴るのを感じた。 やはり二人きりだと緊張するのだろうか、ヒナは俯きがちで、落ち着かない様子だった。その表情からは、かすかな不安が滲み出ているように見えた。「女の子ひとりで男の子の家に行くなんて……えへへ、ちょっとだけドキドキしてるかも」 ヒナは、そう小さく呟いた。普段の彼女は、男子との交流にも慣れているように見えたが、その言葉と表情は、どうにも慣れていない様子を窺わせた。その事実になぜか、ホッと胸を撫で下ろし、安心感を覚えた。 エントランスを抜け、二人はエレベーターに乗り込んだ。ドアが閉ま
「え!? あ、ち、ちがう!! その、座れる場所でさ、ゆっくり話ができるところだよっ」 ヒナは顔を真っ赤にさせて、目を泳がせながら懸命に説明をする。その仕草が可愛らしくて、俺は思わず見入ってしまった。街灯の光が、ヒナの赤い頬をぼんやりと照らしている。公園の静かな夜の空気に、ヒナの焦った息遣いが微かに響いた。「ファミレスとか……だよね。それならもっと寛げてお金のかからない俺の家とか……?」 そう口にしかけて、自分の言っている大胆な発言に気づき、俺は慌てて言葉を止めた。心臓がドクン、と大きく鳴る。「……わぁ、それいい! ユウくんのおうちに行きたいっ! 行ってみたーい!」 な、なに!? ヒナは目を輝かせ、無邪気な笑顔で俺の言葉に食いついてきた。この無警戒というか、無防備な……。こういうのにも慣れているんだろうな。そんな思いが頭をよぎり、俺は思わず、はぁ……とため息をついた。ヒナに無意識で、少し呆れたような視線を送っていたらしい。 「……なによぅ、その顔はぁ~? むぅー」 ヒナが頬を可愛らしく膨らませて、不満げに言った。それから、考える仕草をして、自分の発言に気づいたらしい。 「……ち、違うから! ほいほいと付いていく感じじゃないよっ! いつもは……男子と二人っきりにならないしっ! 男子の家になんかついて行かないから!」 顔を赤くして、ヒナは必死に弁解する。え!? でも、自然と慣れた感じで……誘いに乗ってきたよな。彼女の明るくて可愛い性格だからこそ、モテるのだろう。言い寄ってくる男も多そうだ。それに……スキンシップというかボディータッチが多くて、距離感も近いから……俺みたいに勘違いしそうなヤツ、多いだろうな……。俺の胸の奥で、ヒナはただの友達で初めてできた仲良くしてくれる女の子だ。なのでどこか微かにヒナを独占したいという気持ちが湧いていたのかもしれない。 俺が急に暗い顔をして視線を落とした。腕に絡まるヒナの体温が、なぜか遠く感じられた。「ほらぁ、行くよ! ……って、どっちー?」 ヒナが俺の腕を引く感じで公園から出たところで、可愛らしく俺を見上げて聞いてきた。その瞳は、期待に満ちてキラキラと輝いている。「いや、俺……一人暮らし、それにボロアパートで汚いよ」 俺は適当に答えた。こんな状況で、彼女を自分の部屋に招くことに、一抹の不安を覚えていた。「
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