「仲良しな親友」の君は、今でも私のヒーロー

「仲良しな親友」の君は、今でも私のヒーロー

last update最終更新日 : 2025-10-26
作家:  みみっく完了
言語: Japanese
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概要

純愛

青春

ハッピーエンド

若者

ヒーロー

初恋

一目惚れ

初体験

 俺と彼女の出会いは、奇跡だった。大学の飲み会で、酔った彼女が俺の肩に寄りかかってきたのが始まりだ。彼女の名前はヒナ。無邪気で、太陽のような笑顔を持つ女の子。  人付き合いが苦手で、極度の上がり症である俺の日常は、彼女の存在によって一変した。心臓は跳ね上がり、顔は熱を持つ。しかし、彼女は俺をただの「友達」として自然に受け入れているだけだ。  これは、不器用な俺と、太陽のような彼女が織りなす、甘くてもどかしい恋の物語。一歩踏み出したいのに踏み出せない、そんな俺に、いつか春は訪れるのだろうか。

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第1話

1話 偶然の再会と、運命の糸

青木玲奈(あおき れな)がA国の空港に着いたのは、すでに夜の九時を過ぎていた。

今日は彼女の誕生日だ。

携帯の電源を入れると、たくさんの誕生日メッセージが届いていた。

同僚や友人からのものばかり。

藤田智昭(ふじた ともあき)からは何の連絡もない。

玲奈の笑顔が消えかけた。

別荘に着いたのは、夜の十時を回っていた。

田代(たしろ)さんは彼女を見て、驚いた様子で「奥様、まさか……いらっしゃるなんて」

「智昭と茜(あかね)ちゃんは?」

「旦那様はまだお帰りになってません。お嬢様はお部屋で遊んでいます」

玲奈は荷物を預けて二階へ向かうと、娘はパジャマ姿で小さなテーブルの前に座り、何かに夢中になっていた。とても真剣で、誰かが部屋に入ってきたことにも気付かない様子。

「茜ちゃん」

茜は声を聞くと、振り向いて嬉しそうに「ママ!」と叫んだ。

そしてすぐに、また手元の作業に戻った。

玲奈は娘を抱きしめ、頬にキスをしたが、すぐに押しのけられた。「ママ、今忙しいの」

玲奈は二ヶ月も娘に会えていなかった。とても恋しくて、何度もキスをしたくなるし、たくさん話もしたかった。

でも、娘があまりにも真剣な様子なので、邪魔はしたくなかった。「茜ちゃん、貝殻のネックレスを作ってるの?」

「うん!」その話題になると、茜は急に生き生きとした。「もうすぐ優里おばさんの誕生日なの。これはパパと私からの誕生日プレゼント!この貝殻は全部パパと私が道具で丁寧に磨いたの。きれいでしょう?」

玲奈の喉が詰まった。何も言えないうちに、娘は背を向けたまま嬉しそうに続けた。「パパは優里おばさんに他のプレゼントも用意してるの。明日……」

玲奈の胸が締め付けられ、我慢できなくなった。「茜ちゃん……ママの誕生日は覚えてる?」

「え?何?」茜は一瞬顔を上げたが、すぐにまたビーズを見つめ直し、不満そうに「ママ、話しかけないで。ビーズの順番が狂っちゃう……」

玲奈は娘を抱く手を放し、黙り込んだ。

長い間立ち尽くしていたが、娘は一度も顔を上げなかった。玲奈は唇を噛み、最後は無言のまま部屋を出た。

田代さんが「奥様、先ほど旦那様にお電話しました。今夜は用事があるので、先に休んでくださいとのことです」

「分かりました」

玲奈は返事をし、娘の言葉を思い出してちょっと躊躇した後、智昭に電話をかけた。

しばらくして電話が繋がったが、彼の声は冷たかった。「今用事がある。明日にでも……」

「智昭、こんな遅くに誰?」

大森優里(おおもり ゆり)の声だった。

玲奈は携帯を強く握りしめた。

「何でもない」

玲奈が何か言う前に、智昭は電話を切った。

夫婦は二、三ヶ月も会っていない。せっかくA国まで来たのに、彼は家に帰って会おうともせず、電話一本でさえ、最後まで話を聞く気もなかった……

結婚してこれだけの年月が経っても、彼は彼女にずっとこうだった。冷淡で、よそよそしく、いつも面倒くさそうに。

彼女は実はもう慣れていた。

以前なら、きっともう一度電話をかけ直して、どこにいるのか、帰ってこれないのかを優しく尋ねていただろう。

今日は疲れているせいか、そうする気が突然失せていた。

翌朝目が覚めて、少し考えてから、やはり智昭に電話をかけた。

A国は本国と十七、八時間の時差がある。A国では今日が彼女の誕生日だった。

今回A国に来たのは、娘と智昭に会いたかったのはもちろん、この特別な日に三人で揃って食事がしたいと思ったから。

それが今年の誕生日の願いだった。

智昭は電話に出なかった。

しばらくして、やっとメッセージが届いた。

「用件は?」

玲奈:「お昼時間ある?茜ちゃんも連れて、三人で食事しない?」

「分かった。場所が決まったら教えて」

玲奈:「うん」

その後、智昭からは一切連絡がなかった。

彼は彼女の誕生日のことなど、すっかり忘れているようだった。

玲奈は覚悟していたつもりだったが、それでも胸の奥が痛んだ。

身支度を整え、階下に降りようとした時、娘と田代さんの声が聞こえてきた。

「お母様がいらっしゃったのに、お嬢様は嬉しくないのですか?」

「私とパパは明日、優里おばさんと海に行く約束してるの。ママが一緒に来たら、気まずくなっちゃうでしょう」

「それにママは意地悪よ。いつも優里おばさんに意地悪するもの……」

「お嬢様、玲奈様はあなたのお母様です。そんなことを言ってはいけません。お母様の心が傷つきますよ」

「分かってるけど、私もパパも優里おばさんの方が好きなの。優里おばさんを私のママにできないの?」

「……」

田代さんが何か言ったが、もう玲奈には聞こえなかった。

娘は自分が一手に育て上げた子。ここ二年、父娘の時間が増えてから、娘は智昭に懐くようになり、去年智昭がA国で市場開拓に来た時も、どうしても付いて行きたがった。

手放したくなかった。できれば側に置いておきたかった。

でも娘を悲しませたくなくて、結局認めた。

まさか……

玲奈はその場に凍りついたように立ち尽くし、血の気が引いた顔で、しばらく動けなかった。

今回仕事を後回しにしてA国に来たのも、娘との時間を少しでも多く持ちたかったから。

今となっては、その必要もないようだ。

玲奈は部屋に戻り、本国から持ってきたプレゼントを、スーツケースに戻した。

しばらくして田代さんから電話があり、子供を連れて出かけると言われ、何かあったら連絡してほしいとのことだった。

玲奈はベッドに座ったまま、心の中が空っぽになったような気がした。

仕事を後回しにしてまで駆けつけたのに、誰も彼女を必要としていない。

彼女が来たことは、まるで笑い話のようだった。

しばらくして、彼女は外に出た。

この見知らぬ、それでいて懐かしい国を、あてもなく歩き回った。

お昼近くになって、やっと智昭との昼食の約束を思い出した。

朝聞いた会話を思い出し、娘を迎えに帰るか迷っていた時、智昭からメッセージが届いた。

「昼は用事が入った。キャンセルする」

玲奈は見ても、少しも驚かなかった。

もう慣れていたから。

智昭にとって仕事でも、友人との約束でも……何もかもが妻である彼女より大切なのだ。

彼女との約束は、いつだって気まぐれにキャンセルされる。

彼女の気持ちなど、一度も考えたことがない。

落ち込むだろうか?

以前なら、たぶん。

今はもう麻痺して、何も感じない。

玲奈の心は更に霧の中にいるようだった。

はずんだ気持ちで来たのに、夫からも娘からも、冷たい仕打ちばかり。

気がつくと、以前智昭とよく来ていたレストランの前に車を停めていた。

中に入ろうとした時、智昭と優里、そして茜の三人が店の中にいるのが見えた。

優里は娘と仲睦まじく並んで座っていた。

智昭と話しながら、娘をあやしている。

娘は嬉しそうに足をぶらぶらさせ、優里とじゃれ合い、優里が食べかけたケーキに口をつけていた。

智昭は二人に料理を取り分けながら、優里から視線を離そうとしない。まるで彼女しか目に入っていないかのように。

これが智昭の言う『用事』。

これが、彼女が命を賭けて十月十日の苦しみを耐え、産み落とした娘。

玲奈は笑った。

その場に立ち尽くして、眺めていた。

しばらくして、視線を外し、踵を返した。

別荘に戻った玲奈は、離婚協議書を用意した。

彼は少女時代からの憧れだった。でも彼は一度も彼女を見つめてはくれなかった。

あの夜の出来事と、お爺様の圧力がなければ、彼は決して彼女と結婚などしなかっただろう。

以前の彼女は、頑張りさえすれば、いつか必ず彼に振り向いてもらえると信じていた。

現実は彼女の頬を、容赦なく叩いた。

もう七年近く。

目を覚まさなければ。

離婚協議書を封筒に入れ、智昭に渡すよう田代さんに頼み、玲奈はスーツケースを引いて車に乗り込んだ。

「空港へ」運転手に告げた。

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1話 偶然の再会と、運命の糸
 彼女との出会いは偶然が重なり、そして、彼女の屈託のない性格が引き起こした、まさに奇跡のような出来事だった。 俺は大学一年のユウマ。どこにでもいるごく普通の大学生だ。これまで恋人ができたことは一度もなく、女性の友人でさえも皆無だった。 元来、人付き合いが苦手で、加えて極度の上がり症ときている。おまけに口下手で、緊張すると全く話せなくなるため、男友達を作るのにも苦労するくらいだ。 そんな俺も、数少ない男友達に誘われ、久しぶりの飲み会に誘われ参加した。その飲み会は男ばかりで構成されており、俺にとっては心底安心できる空間だった。正直なところ、女子が参加するような華やかな飲み会は、今の俺にはあまりにもハードルが高すぎる。 過去に一度だけ、女子が参加する飲み会に誘われたことがあった。しかし、その時の俺は極度に緊張し、何を話したのか、どんな雰囲気だったのか、ほとんど何も覚えていない。ただ、ひたすら黙々とお酒を飲み続け、最終的にお金を払ったという記憶がわずかに残っている残念な記憶だけだ。 今回は男子のみの気兼ねない飲み会。俺は数少ない友人たちと、大学近くの居酒屋の座敷で楽しく談笑し、酒を酌み交わしていた。共通の世代であるアニメやゲーム、漫画といった小中学校で流行っていた話で大いに盛り上がっていた。 隣のテーブルの男女混合グループが、俺たちと同じくらいの時間に飲み始めていたのは知っていた。そして、そのグループの中にいた一人の女の子が、俺の隣の席に座ったのだ。 おそらく、トイレか電話で一時的に席を外していて、戻ってきたのだろう。途端に、俺は彼女の存在を意識して、緊張をしてしまい友人たちとの会話に集中できなくなっていた。 ものすごく可愛らしい容姿で、しかも明るく社交的な性格らしく、グループの中心で楽しそうに話に加わっていた。透き通るように可愛らしい彼女の声に、俺は思わず聞き入ってしまう。まるで、その声が紡ぎ出す言葉の一つ一つが、直接、心臓に響いてくるようだった。「なー、ユウマは、最近はどんなゲームをしてるんだよ? 何か面白いゲームあったら紹介しろよなー」 女の子の声に聞き惚れていて、そっちに集中をしていた。そんな時に、急に友人から話を振られ、俺は内心、激しく動揺した。 答える時間を稼ぐために、それと酒と近くに可愛い子が座っていたせいか暑さを感じていた。着ていたT
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2話 彼女の無意識な距離感と、俺の高鳴る鼓動
「あ、あの時の……!」 彼女は少し驚いたように目を見開いた後、何かを確信したように安堵したように小さく息をついた。「そっか、よかった……。ホントに見つけられて……」 その一言に、ユウマの心臓は再び高鳴り始める。彼女の言葉一つ一つが、甘く、胸の奥にじんわりと染み込んでいくような気がした。 そんなに、必死に謝罪をされる様な事はされていないのにな……? むしろ、ラッキーだと思っているくらいなのに。 ユウマは、目の前で申し訳なさそうに頭を下げる彼女を見て、言葉を失っていた。彼女の白い同じようなデザインのブラウスから透ける色違いの黒いブラジャーのストラップが、彼の視界に飛び込んでくる。それは、昨日彼の腕に押し付けられた、柔らかな胸の感触を思い出させた。その感触を脳裏に蘇らせた途端、ユウマの全身の血が熱くなり、心臓がドクドクと不規則なリズムを刻み始める。 彼女は、事情を説明してくれた友人の言葉を聞くと、改めて顔を上げた。潤んだ大きな瞳がユウマを捉える。きゅっと口元を引き結んだ、少し困ったような表情は、ユウマの胸を締め付けた。「あ、あの……わたし……あなたを覚えてなくて……それで、どうしても謝りに来たいって言ったら、友達が一緒に探してくれたんです」 そう言って、彼女は少し声が震えている。ユウマは、彼女の純粋で真面目な性格に、昨夜の出来事が偶発的なものだったのだと確信し、安堵と、かすかな寂しさが胸に去来する。 彼女の横にいた友人の一人が、ユウマの顔をまじまじと見つめた。「あれ……? もしかして、ユウマくん? 文学部の?」 ユウマは驚いて、その友人の顔を見た。見覚えは……ない。しかし、その友人の言葉に、彼女の瞳がキラキラと輝き出した。「え? もしかして、知り合い? ね、ねぇ……わたしに紹介してくれないかな?」 友人はにこやかに頷いた。「あぁーうん、サークルの友達だよ。彼は、ユウマくん、いつも図書館で本読んでるよね? 真面目で優しい人って印象かな。っていうか、ヒナが積極的に男子に喰いつくのって珍しいね……」 まさかの繋がりだった。ユウマは、恥ずかしさで顔から火が出るようだった。まさか、普段の地味な自分を知っている人に、こんな形で再会するなんて。「あ……はい……。俺はユウマです……」 しどろもどろに答えるユウマを見て、彼女はくすりと微笑んだ。その笑顔は
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3話 滲む寂しさと、隠された本心
 サークル友達からの飲み会の誘いだった。ユウマは、ヒナに申し訳ないと思いながら、スマホをポケットにしまう。「どうしたの? 飲み会のお誘いかな?」「あ、うん……まあ……」 ユウマが曖昧に答えると、ヒナは少しだけ表情を曇らせた。「そっか……また男の子だけの飲み会? 女の子もいる飲み会だったりして?」「え、うん……そうみたい……だけど……」 いつもは、男子ばかりの飲み会だったが、今回は女子が混ざっているみたい。 ユウマが不思議に思っていると、ヒナは突然、ユウマの腕から手を離し、少しだけ距離を取った。そして、今まで見たことのない、どこか寂しそうな表情でユウマを見つめた。「そっか……じゃあ、気をつけて帰ってね」 いつもなら、もっと楽しそうに「じゃあ、またねーっ! 早く帰るんだよー」と手を振ってくれるはずなのに。その日のヒナは、少しうつむき加減で、いつもの明るさは影を潜めていた。 ユウマは、彼女のその表情に胸がざわつくのを感じた。いつも明るく、誰にでも優しいヒナが、こんな顔をするなんて。「どうしたの?」と尋ねようとしたその時、ヒナはもう一度顔を上げて、無理に笑顔を作った。「じゃあね! また明日ね……」 そう言って、彼女はくるりと背を向けて走り去っていった。ユウマは、ヒナの後ろ姿が遠ざかるのを見つめながら、違和感を拭いきれずにいた。いつもの彼女とは違う、どこか無理をしているような笑顔。その笑顔の裏に隠された、彼女の本当の気持ちが知りたかった。 心配になった俺は、ヒナの後を追いかけた。足早に進むヒナの背中が、どこか小さく見えた。途中で公園を見かけ、ふと視線をやると、ベンチに一人で俯いているヒナのような姿を見つけた。街灯の淡い光が、彼女の肩をそっと照らしている。「ヒナ……?」 思わず、その名を口にしていた。一歩、また一歩と、心臓の鼓動が早まるのを感じながら近づく。普段、人違いだと困るので外では基本声をかけないのだが、今のヒナからは、放っておけないような、微かなSOSが感じられた。「……え? ユウマくん!? あれ? 飲み会は?」 顔を上げたヒナは、驚きに目を見開き、その瞳をキラリとうるませて俺を見つめてきた。街灯の光を反射して、まるで宝石のように輝く瞳。その視線が、俺の胸の奥をぎゅっと締め付ける。 あれ? いつもと違う雰囲気……やっぱり何かあった
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4話 彼女の甘い声と、彼の高鳴る鼓動
「はぁ、はぁ……もう、むりぃー。ユウくん、つかれたぁー」 ヒナが俺の服の裾をぎゅっと掴み、甘えるように言った。その息遣いは、先ほどまでの追いかけっこで乱れている。微かに震える指先が、俺の服の生地を掴む力が、やけに頼りなく感じられた。 「はぁ、はぁ……だなぁ……久しぶりに走ったな……」 俺もまた、肩で息をしていた。日頃の運動不足が祟り、ヒナの近さから逃げ出す体力も、もう残っていなかった。心臓が、ドクドクと不規則なリズムで高鳴り続ける。公園の静けさの中、俺たちの荒い息遣いだけが響いていた。 「あっ! ユウくん……飲み会!」 その時、ヒナが何かに気づいたように、突然大声を出した。ハッとしたように目を見開くヒナの表情は、どこか幼く見えた。「……え? あぁ、飲み会誘われてたんだった……ま、飲み会だし……別に、俺が行かなくても気にするヤツいないよ」 俺が苦笑いしてそう言うと、ヒナはふいと俯いた。街灯の光が、彼女の顔に影を落とす。そのままするりと視線を上げ、上目遣いで俺の目を見つめてきた。その潤んだ瞳に、俺の心臓は締め付けられるような感覚に陥る。 別に俺は飲み会よりもヒナとと一緒にいる方がたのしいと思いつつあった。それに飲み会は、いつでもあるが、今のヒナは放っておけない気がした。 「そう……かなぁ。わたしだったら……寂しいかもぉ……。ガッカリしちゃうなぁ~」 その言葉に、俺はドキッとして、全身が固まってしまった。そんな事を言われるなんて思ってもいなかったし、これまで、そんな事を言ってくるような友人は誰もいなかったからだ。ヒナの声が、直接心臓に響くように感じられた。 「でも、ユウくんに……追ってきてもらえるなんて……うれしいぃ✨」 そして、ヒナは満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、夜の公園をぱっと明るくするかのようだった。止めの一撃とも言えるその笑顔に、俺の胸は高鳴り、全身の血が、一気に熱くなるのを感じた。 これ、なんて返せばいいんだよ……? 俺は恥ずかしくて顔を逸らし、返事に困っていた。胸の奥が、ぎゅうっと締め付けられる。ヒナの言葉が、じんわりと心に染み渡るような感覚だった。 「ねぇ……ユウくん、飲み会に行かなくていいの?」 ヒナが体を少し傾けながら、可愛らしい仕草で聞いてきた。その上目遣いに、俺の心臓はさらに速く打ち鳴らされる。今更……行ってもな
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5話 彼女の無防備な誘いと、彼の葛藤
 「え!? あ、ち、ちがう!! その、座れる場所でさ、ゆっくり話ができるところだよっ」 ヒナは顔を真っ赤にさせて、目を泳がせながら懸命に説明をする。その仕草が可愛らしくて、俺は思わず見入ってしまった。街灯の光が、ヒナの赤い頬をぼんやりと照らしている。公園の静かな夜の空気に、ヒナの焦った息遣いが微かに響いた。「ファミレスとか……だよね。それならもっと寛げてお金のかからない俺の家とか……?」 そう口にしかけて、自分の言っている大胆な発言に気づき、俺は慌てて言葉を止めた。心臓がドクン、と大きく鳴る。「……わぁ、それいい! ユウくんのおうちに行きたいっ! 行ってみたーい!」 な、なに!? ヒナは目を輝かせ、無邪気な笑顔で俺の言葉に食いついてきた。この無警戒というか、無防備な……。こういうのにも慣れているんだろうな。そんな思いが頭をよぎり、俺は思わず、はぁ……とため息をついた。ヒナに無意識で、少し呆れたような視線を送っていたらしい。 「……なによぅ、その顔はぁ~? むぅー」 ヒナが頬を可愛らしく膨らませて、不満げに言った。それから、考える仕草をして、自分の発言に気づいたらしい。 「……ち、違うから! ほいほいと付いていく感じじゃないよっ! いつもは……男子と二人っきりにならないしっ! 男子の家になんかついて行かないから!」 顔を赤くして、ヒナは必死に弁解する。え!? でも、自然と慣れた感じで……誘いに乗ってきたよな。彼女の明るくて可愛い性格だからこそ、モテるのだろう。言い寄ってくる男も多そうだ。それに……スキンシップというかボディータッチが多くて、距離感も近いから……俺みたいに勘違いしそうなヤツ、多いだろうな……。俺の胸の奥で、ヒナはただの友達で初めてできた仲良くしてくれる女の子だ。なのでどこか微かにヒナを独占したいという気持ちが湧いていたのかもしれない。 俺が急に暗い顔をして視線を落とした。腕に絡まるヒナの体温が、なぜか遠く感じられた。「ほらぁ、行くよ! ……って、どっちー?」 ヒナが俺の腕を引く感じで公園から出たところで、可愛らしく俺を見上げて聞いてきた。その瞳は、期待に満ちてキラキラと輝いている。「いや、俺……一人暮らし、それにボロアパートで汚いよ」 俺は適当に答えた。こんな状況で、彼女を自分の部屋に招くことに、一抹の不安を覚えていた。「
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6話 期待と緊張が交差する夜
「……ってことは、あ、あぁ……一人暮らしってのも嘘で両親と一緒な感じ?」 ヒナが不安げに、そして少し残念そうに尋ねてきた。その視線が、俺の内心を見透かすように感じられた。 「それは、ホント……。俺は一人暮らしだよ。二人っきりになっちゃうけど……どうする?」 俺は改めて、ヒナの顔を見つめて問いかけた。マンションの街灯の下、夜風がひゅうと吹き抜ける。「ユウくんのおへやに~レッツゴー!」 ヒナは俺の腕を掴んだまま、何の迷いもなく満面の笑みで宣言した。その無邪気な笑顔に、俺の心臓はまたしても大きく跳ね上がる。「慣れてないとか、男子と二人きりになるのは避けてるって言ってたよね!? 随分と……積極的だけど?」 俺は思わず、ツッコミを入れてしまった。さっきまでの、はにかんだような表情はどこへやら。今のヒナは、まるで小動物が獲物を見つけたかのように、キラキラと目を輝かせている。「んー? それはねーえへへ、ユウくんが……初恋の男子に似てるからー♪ なんか、一緒にいると落ち着くって言うか、ユウくんと一緒にいると居心地が良いんだよっ♪」 ヒナは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、俺の腕に抱きついてきた。その言葉と仕草に、俺の胸は高鳴る。 大学に入ってからというもの、ユウマは男友達でさえ自宅に招いたことがなかった。そんな俺にとって、初めて家に入れる相手が、まさかの女の子、それもこんなにも可愛らしいヒナだという事実に、俺は心の中で深くため息をついた。まるで腹を括るかのように、俺は意を決し、ヒナを部屋へと案内した。 俺が「こっち」と静かに促すと、ヒナは俺のシャツの袖をちょん、と可愛らしくつまんだ。「ちゃんと案内してね?」そう言ってくすりと笑う彼女の無邪気な仕草に、鼓動がまた一つ、高鳴るのを感じた。 やはり二人きりだと緊張するのだろうか、ヒナは俯きがちで、落ち着かない様子だった。その表情からは、かすかな不安が滲み出ているように見えた。「女の子ひとりで男の子の家に行くなんて……えへへ、ちょっとだけドキドキしてるかも」 ヒナは、そう小さく呟いた。普段の彼女は、男子との交流にも慣れているように見えたが、その言葉と表情は、どうにも慣れていない様子を窺わせた。その事実になぜか、ホッと胸を撫で下ろし、安心感を覚えた。 エントランスを抜け、二人はエレベーターに乗り込んだ。ドアが閉ま
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7話 彼女の視線と、彼の高鳴る鼓動
「さ、適当に座ってていいよ」 そう声をかけると、ヒナはソファへと向かった。いつもなら躊躇なく腕に抱きついてくるヒナが、今日は俺の隣に座るだけでも、ほんの少しぎこちないように見えた。でも、すぐにいつもの明るさを取り戻し、好奇心旺盛な瞳で部屋を見回し始めた。「へぇ~、ユウくんの部屋って意外と綺麗なんだね! もっとごちゃごちゃしてるかと思った~」 冗談めかしたヒナの言葉に、思わず苦笑が漏れる。棚に並んだ俺の趣味の品々を、ヒナが指でそっとなぞる。ゲームのソフト、読みかけの本、そして少し埃をかぶったサッカーボール。一つ一つに目を凝らすヒナの横顔を見ていると、俺の知らないところで、ヒナが俺という人間をより深く知ろうとしているような、そんな感覚がして、胸の奥がじんわりと温かくなった。 二人は並んでソファに座り、テレビで映画を観始めた。慣れない部屋のせいか、ヒナのいつもより少しだけ静かな気配に、俺の緊張も少しずつ溶けていくのを感じた。映画の途中、ヒナはいつもの癖で、自然と俺の肩に頭を預けてきた。柔らかな髪が頬をくすぐり、温かい体温が伝わってくる。洗い立ての服から香る柔軟剤の匂いが、心地よく俺を包んだ。「ねぇ、このシーン、ちょっと怖いかも! ……きゃ! はぅぅぅ」 映画の展開に身をすくめ、無意識のうちに俺の腕にそっとしがみつくヒナ。いつもの「仲良しなら当たり前」のスキンシップだ。でも、今日はその指先から伝わるヒナの体温が、いつもよりずっと熱く感じられた。俺が隣で小さく息を呑んだ気配に、ヒナの心臓がトクン、と跳ねたのが分かった。ヒナは顔を少しだけ上げて、俺の横顔を盗み見る。画面を見つめる俺の瞳は真剣で、その端正な横顔に、ヒナはキュンとしたのだろうか。いや、いつものことだ。そう自分に言い聞かせた。 ふと、飲み物を取りに立ち上がろうとすると、ヒナが離れていくことに寂しさを感じたのか、一瞬だけ俺の服の裾を掴みそうになる仕草を見せた。その小さな動きを見逃さず、俺はすぐにヒナに顔を向けた。「何か飲む?」 俺の声に、ヒナの胸が高鳴るのが分かった。俺が飲み物を取りに行っている間、ヒナは俺が座っていた場所にそっと手を触れる。まだ残る温もりに、じんわりと頬が熱くなるのを、俺は見ていた。 俺が飲み物を持って戻ると、ヒナは「あ、そうだ!」と急に閃いたように、俺の手から自分のスマートフォ
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8話 止まらない鼓動と、甘い残り香
「え、あ、ああ……いいけど……」 俺の返事に、ヒナはホッとしたように小さく息を吐いた。そして、次の言葉を紡ぐ。「だって、親友の家にお泊まりするんだし、お風呂くらい借りないと、失礼だもんね?」 そう言いながら、ヒナはわざとらしく明るい声を出し、自分の言葉に言い聞かせるように「親友」という部分を強調する。その仕草に、俺はヒナが普段から使う「仲良しなら当たり前」とは違う、どこか言い訳がましい響きを感じた。 ユウは、ヒナのいつもとは違う雰囲気を敏感に察知した。彼女が放った「親友」という言葉が、ユウの心を惑わせる。もしかして、ただの気遣いなのだろうか。自分だけが勝手に特別な意味を見出そうとしているのではないか。そんな迷いが、ユウの胸に小さな波紋を広げた。 ユウは、ヒナの表情から目が離せなかった。夕暮れのオレンジ色が窓から差し込み、彼女の頬に淡い影を落としている。その影が、ヒナのいつも弾けるような笑顔を、どこか儚げな、少女らしい表情に変えていた。 ヒナは、自分の言葉にごまかすように、きゅっと唇を引き結んでいる。その仕草が、彼女の決意と、それを上回るほどの緊張を物語っていた。ユウの心臓は、ドクンと一つ、大きく跳ねた。それは、期待と不安が入り混じった、甘く胸を締め付けるような鼓動だった。 親友という言葉の持つ、今まで当たり前だった響きが、今はまるで、二人を隔てる透明な壁のように感じられた。ユウは、ヒナの言葉の真意を測りかね、どう動くべきか迷っていた。 ユウはごくりと唾を飲み込んだ。喉がからからに渇き、声が出ない。ヒナの視線が、ユウの表情を窺うように彷徨う。その潤んだ瞳が、ユウの心を揺さぶった。 言葉を交わさずとも、二人の間には、今までになかった感情の波が静かに押し寄せていた。夕焼けの光が揺らめく部屋で、二人はただ、互いの存在を強く感じ合っていた。それは、親密さとは異なる、重く、しかし甘い空気だった。 「シャワーだけだけどな」と、俺は努めて平静を装いながら答える。ヒナは「うん!」と元気よく頷くと、俺の用意したタオルと部屋着(俺のオーバーサイズのTシャツとスウェットパンツ)を受け取った。その時、彼女の指先が俺の指に触れた。一瞬の接触だったが、彼女の手は微かに震えているように感じた。 風呂を借りたヒナが、ユウマのぶかぶかなTシャツとスウェットパンツを借りて出てくる
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9話 わたしのヒーローの証
 下着だけを履いた状態で、鏡に映る自分を見る。上半身は裸だ。男だし……別にヒナの前で着替えても良いよな? さっきあいつも俺の前でTシャツ一枚で出てきたくらいだし。そんな理屈が頭をよぎる。 着替えの部屋着は一応リビングに用意していたので、脱衣所を出てリビングで着替えることにした。リビングへ向かう廊下を歩く間も、ヒナが俺の服を見てどう思うか、どんな反応をするか、そんなことばかりが頭を巡り、足元がふわふわするのを感じた。♢ヒナ視点 リビングのソファに座るヒナは、落ち着かない様子でそわそわしていた。ユウマがお風呂から出てくるのを待つ時間は、こんなにも長く感じるものなのかと、柄にもなく緊張している自分に戸惑いを覚える。浴室のドアの向こうから、シャワーの止まる音、そしてやがてユウマの足音が近づいてくるのが聞こえた。そのたびに、胸のドキドキが高まるのを感じる。 足音がリビングの手前で止まる。振り向きたい衝動を必死に抑えながら、ヒナは視線だけをそっと向けた。すると、視界に飛び込んできたのは、予想だにしない光景だった。ユウマが、下着だけを身につけた姿でそこに立っていたのだ。 湯気を含んだ彼の肌は少し赤みを帯び、鍛えられた肩や背中には、まだ水滴が光っているように見えた。その逞しい背中と、そこから覗く肉体的なラインに、ヒナの顔は一気に熱くなる。男子の裸なんて、これまで一度たりとも見たことがない。ましてや、それがユウマだなんて。 思わず、盗み見る自分に少し笑いが込み上げてくる。ソファに座ったまま、その背中に向けて、ヒナはまるで小悪魔のような笑みを浮かべた。目の前の光景に心臓の鼓動が早まるのを感じながら、彼女は自分の鼓動の数を、一つ、また一つと数え始めた。 ふと、ユウマが床に置いていた服へと手を伸ばした瞬間――そのわずかな動きに合わせて、彼の胸と腹がチラリと露わになる。 瞬間、ヒナの呼吸が止まった。 そこには、等間隔に刻まれた鋭い傷跡。皮膚に深く残る痛みの記憶。それは有刺鉄線の残酷さをそのまま語るような、忘れようとしても目を逸らせない証。 ヒナは、何かに打ち抜かれたようにその場に立ち尽くす。彼が見せていない痛み、語っていない過去。そのすべてが、目の前の痕跡に宿っていた。 ――やっぱり、間違いない。この人は、あの時わたしを助けてくれた“ユウマ”だ。わたしのヒーロー。 
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10話 ヒナの回想
 その瞬間——ヒナの心には、忘れがたい何かが深く、深く焼き付いた。彼の腕から伝わってくる血の生温かい温度、震えるほど力強く、それでいて優しく彼女を掴む指の感触。そして、何よりも、彼女の命を守ろうとする彼の揺るぎない意思。それらはヒナの中で、単なる命の恩人という言葉では言い尽くせないほどの、深い感謝と敬意となって刻み込まれた。 彼は、傷つきながらも自分を救ってくれた。その姿は、幼いヒナにとって、まるで絵本から飛び出してきたヒーローのようだった。「この人のためなら、私はすべてを捧げられる」という、幼心にも強い決意が芽生えた。ユウマの存在は、彼女の世界を照らす唯一の光になった。 その後、二人はすぐに救急搬送された。ヒナは幸いにもかすり傷程度で済んだが、ユウマは重症で、あの痛々しい傷痕と共に、数週間もの間、入院することになったのを、ヒナは今でも鮮明に覚えていた。 ユウマの胸に残る、あの傷跡。それが有刺鉄線のものだと確信した瞬間、わたしの心臓は激しく高鳴った。ずっと心の奥底で探し求めていた、あの時のヒーローが、目の前にいるユウマだと分かったのだ。あまりの嬉しさに、どうすればいいのか分からなくなった。♢喜びと混乱の狭間で ユウマが、何事もなかったかのように床に置いた服を手に取り、背中を向けてシャツに袖を通そうとしている。その背中には、さっきまで見えていた生々しい傷跡が、今はもう隠されている。 わたしは、喉の奥から込み上げる叫び声を必死に押し殺した。喜びで全身が震えている。自分がこんなにも感情を揺さぶられるなんて、今まで経験したことがなかった。どうすればいい? 何て言えばいい? 『あの時のユウマくん、わたしを助けてくれたんでしょ?』そう問い詰めたい衝動に駆られるが、言葉が喉に詰まって出てこない。 今までは、わたしの探し求めていた“わたしのヒーロー”に名前も面影も似ていて、自然と惹かれるものがあり、無意識に抱きついて甘えていたのかもしれない。けれど今になって思えば——わたしの直感は、当たっていた。 ユウマくんは、間違いなく、わたしにとっての“光”。そして“ヒーロー”だ。 憧れの存在でもあり……心を惹かれてしまう人。 そんな人と、今こうして一緒に過ごしているなんて——。 んぅ ……急に、恥ずかしさが込み上げてきた。♢友達という名の仮面 ユウマがシャツを着終え、
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