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第182話

Author: ちょうもも
悠良は口元をわずかに引き上げ、何気なく言った。

「ちょっと気分転換しようと思って......でも、バレちゃったみたい」

「一人で行くつもりだったのか?」

史弥はまだ少し疑っている様子だった。

悠良「本当は葉を誘おうと思ってたけど、彼女は子どもがいて家を離れられないの」

あのとき、賢く先に今日宮(きょうみや)行きのチケットを買っておいてよかった。

そうでなければ、今回の嘘をうまくごまかせなかったかもしれない。

もともとは、雲城を離れたあとで目くらましに使うつもりだった。

史弥に本当に見つからないように。

まさかこの切り札を、こんなに早く使わされるとは。

史弥の瞳が一瞬光り、悠良をじっと見ながら目を細め、思いもよらぬことを口にした。

「俺が一緒に行こうか」

悠良は驚いて彼を見た。

「一緒に?会社はどうするの?」

玉巳にあれだけ監視されていて、史弥が旅行なんて付き合えるはずがない。

それに、今は玉巳が妊娠中。

彼女のお腹の子より、自分が大事にされるとは到底思えない。

「大丈夫、会社には休暇を取るよ。今まで君をちゃんと構ってあげられなかったから。でも悠良、もし何か不満があるなら、まずは話し合おう。

玉巳と争う必要なんてない。あの子はまだ若い。彼女のこと、許してあげて。

もし今日、病院に間に合わなくて命に関わる事態になってたら、君と彼女の間に挟まれた俺の立場も考えてくれ」

悠良の目には冷笑が浮かんだ。

彼女の表情は淡々としていて、その視線は史弥の困った顔に静かに注がれていた。

「じゃあ、もし今日、本当に石川さんに何かあったら、史弥は警察に、私が押したって言うつもりだった?」

史弥の整った顔が一瞬で険しくなった。

声にも緊張がにじむ。

「悠良、そんな仮定はやめろ。俺は君と玉巳が争うのを見たくないんだ。もう少し、俺の気持ちを理解してくれないか」

悠良は心の中で冷たく笑った。

またその言葉。

彼はいつも、彼のために自分に譲歩させようとするばかりで、自分の立場を一度も考えたことがない。

自分が玉巳と何度も揉めても、史弥は一度たりとも自分の味方になってくれなかった。

たった一度でもあれば、それだけでよかったのに。

悠良は、感情を落ち着かせられるようになっていた。

軽く笑って、気楽そうに言った。

「ちょっとした冗談よ。そん
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Mga Comments (3)
goodnovel comment avatar
kwska724
別のを読んでたんだけど、あーまりにも、進まず、うんざりして読むのをやめる宣言をコメントした。 愛人の心の声で、1週間くらい続く。その家族の悪だくみ相談や、心の声で、また1週間くらい続く。 その点は、この話まだ進むのでいいかも。 他の話の愚痴、すみません。ちなみに500話弱くらいのヤツです。たぶん、スカッとするまで、500話くらいかかるだろうから、嫌になりました。
goodnovel comment avatar
kwska724
どうして、ここの小説に出てくる男たち、絶対愛人の言う事をうたがいもせず、すぐ信じる。裏も取らない。自分が不倫してるのに、夫婦関係を続けられると疑わない。図々しい。自分のしてる事は棚に上げて、よく、責められるね、呆れる。
goodnovel comment avatar
千恵
気持ち悪いわ こいつ 玉巳と関係を持って妊娠させたのに、悠良も妊娠させようとしてて、関係を維持させようとしてる。 とんでもないクズ男だわ
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