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第183話
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離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第805話
悠良の顔から血の気が引き、唇が震えた。「お父さんが......亡くなったって......」律樹は衝撃でブレーキを踏み込む。「どうして急に」「わ、私にもわからない......私が刺激しちゃったのかな......」悠良は、家に戻ったとき父に言い放った言葉を思い出し、胸の奥に罪悪感がこみ上げる。孝之の体調をわかっていながら、あのきつい言葉をぶつけてしまったのだ。律樹は彼女の性格を誰より理解している。こういう時、全部自分のせいにしがちなのをよく知っていた。「あまり考えすぎないでください。この件は悠良さんとは関係ありません。孝之さんのことも、今日になって初めて知ったわけじゃないでしょう。もともと問題は以前からあったんです」肩にそっと手を置きながら、顔を曇らせる。悠良の様子があまりにも辛そうだからだ。「信じてください。もしどうしても自分のせいかもと疑うなら、一緒にお医者さんに行って、孝之さんが亡くなった原因が刺激によるものかどうか、聞いてみましょう」悠良は大きく息を吸い、涙を手で拭った。これからやるべきことが山ほどある。感情に流されている暇はない。たとえ生前、父と確執があったとしても、親子であることは変わらない。今さら恨みを持っても意味はない。せめて最後は送ってやらなければ。静かな声で律樹に向き直る。「小林家に戻りましょ。あとで名簿を渡すから、載ってる人たち全員に連絡して」「わかりました」まだ冷静に指示を出せる彼女を見て、律樹はほんの少し安堵する。この訃報はすぐに雲城中に広まった。本当は時間を見つけて葉にも会う予定だったが、数日は無理そうだ。だが葉は知らせを受けるとすぐに小林家へ駆けつけた。すでに弔問用の祭壇は整えられ、低く流れる哀楽の中、悠良と莉子は並んで膝をつき、孝之の遺影を抱いている。黒い服が彼女の蒼ざめた顔をさらに際立たせていた。葉はそっと近づき、悠良の肩に手を置く。顔を上げた悠良は、少し驚いたように言う。「葉？どうして？」「知らせを聞いてすぐ来たの。最初はデマかと思ったけど、確認したら本当だった......自分を責めすぎちゃだめだよ。悠良はできることをしたんだから」他人にはわからなくても、葉は知っている。悠良が父にどう向き合っていたか。
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第804話
「それから。契約書にもはっきり書いてあるけど、小林グループの相続権は放棄。小林家に関わる一切の事案には二度と口を出さないこと」莉子は勢いよく顔を上げ、契約書を叩き返した。「なんで？あれは小林家のものよ。私にも権利があるはず！」「権利？」悠良は鼻で笑った。「じゃあ聞くけど、あんたが雪江と結託して、お父さんの精神鑑定を捏造したときは？その時は自分が小林家の娘だなんて、これっぽっちも頭になかったみたいけど？」一歩踏み込み、莉子の目の前で声を落とす。「もう次はないよ、莉子。まだ死に足りないなら好きにすれば？」そこへ律樹がもう一つの書類を差し出した。そこには雪江の供述が添付され、二人が家産を奪う計画をどう練ったか事細かに記されている。莉子の顔から血の気が一気に引いた。「署名すれば、まだ生きる道はある」悠良の声は刺すように冷たい。「次、やらかしたら拘留どころじゃ済まないわ」頭上の木々を揺らす風が、枯れ葉を数枚落とす。莉子はその書類を長いこと見つめ、爪が掌に食い込むほど拳を握りしめた末に、歯を食いしばって署名欄に名を書いた。悠良はサイン済みの契約書を引き抜き、車へ向かおうとしたところで背中越しに声をかけられる。「どうして急に私を出したの」一瞬だけ表情が止まり、すぐに言い放つ。「あんたには関係ないわ」莉子は嘲るように鼻で笑った。「どうせ人には言えない事情があるんでしょ？私が知ってるあんたなら、こんな簡単に手放すわけないもの」「それを理解してるなら、大人しくしてなさい。私が出せるってことは、戻すことだって簡単にできるってことよ」そう言って車のドアを開け乗り込み、そのまま車は砂煙を上げて遠ざかっていった。去っていく車をしばらく見送ってから、莉子はようやく気づく。ここは人も車も通らない辺鄙な拘置所。足はあっても、帰る術はない。手元には一銭もない。「バカ悠良！車があるなら乗せていけばいいのに！どうやって帰れっていうのよ！」一方その頃、車内の悠良は、暑さのせいか全身がだるく感じていた。律樹が水を差し出す。「どうぞ。今日は蒸し暑いですね」「そうね。焦ってるかもね、莉子。帰る手段もなく歩くしかないんだから」それもささやかな罰。痛い目を見れば、多少は頭も冷える。
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第803話
「はい、もう終わりました。向こうの話では、明日には出所できるって」「なら明日、律樹も一緒に来て」律樹は訝しげに眉をひそめた。「なんで？僕としては、莉子なんか十日でも半月でもぶち込んでおきたいくらいですよ。今出すのだって仕方なくやってんのに、なんでわざわざ迎えに行くんですか」「話しておきたいことがあるのよ。今出すってことは、もう時限爆弾を外に放つようなもの。ちゃんと握っておかないと、また爆発したとき、こっちが巻き込まれかねないでしょ」その言葉で律樹はようやく意図を理解した。まずは礼を尽くし、その上で釘を刺すというわけだ。確かに、暴れ始めてから止めても遅い。「わかりました。明日電話くれたら迎えに行きます」「お願い」通話を切ると、悠良はベッドに倒れ込んだ。その頃、風呂から出てきた伶もすっかり疲れていて、気づけば悠良を抱いたまま眠りに落ちていた。最近はもう、彼に歌を歌ってやらなくても眠れるようになっている。翌朝。伶がまだ眠っているうちに、悠良はそっと支度をして抜け出そうとしていた。余計な詮索をされる前に出るに限る。眠っている男の顔を覗き込む。人は寝顔が崩れると言うが、彼は寝ているときでさえ整っている。昨日、あれだけ遠いところからわざわざムギを連れてきたのも、ただ彼女を喜ばせたかったから――そう思うと胸の奥が少し温かくなった。思わず衝動的に身を屈め、彼の頬に小さく素早くキスを落とすと、そのまま音も立てず部屋を出た。伶がまだ起きていないのを確かめて、一安心。階下に降りると、ムギもユラもソファで気持ちよさそうに眠っていた。その穏やかな寝顔を見ているだけで、不思議と幸福感がこみ上げる。起こさないよう静かに外へ出ると、律樹がすでに車で待っていた。車に乗り込むと、用意してあった朝食が差し出される。「ほら、少し食べてください」「いい。あんまり食べたくない」そう言うなり、胃の奥がぐっとこみ上げ、窓の外に向かって空吐きをした。律樹は慌てて振り返る。「ちょ悠良さん、大丈夫ですか？具合悪いなら先に病院に......」「大丈夫。きっとここ数日、朝ちゃんと食べてなかったから。食べれば落ち着く」律樹の買ってきた朝食は油気のない薄味のものだった。それなら食べられそうで、悠良
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第802話
二人が話している間、ムギとユラの様子には全く気づかなかった。ふと気づいたときには、二匹はすでに仲良く鼻先を寄せ合っていた。悠良は、その姿を見てようやく胸を撫で下ろした。さっきまで、もし二匹が折り合わなかったらどうしようと心配していたのだ。そうなれば、彼女が一時的にでも家を出るしかない。やっと再会できたムギと、もう離れたくはなかったからだ。とりあえずムギの件は片付いた。悠良には、もうひとつ伶に相談したいことがあった。「今日、葉に会ったの。彼女のことなんだけど......」「何だ」伶は身をかがめ、ムギの頭を撫でた。ムギは嫌がるどころか、むしろ自分から頭を彼に寄せていった。悠良は思わず舌打ちした。「うそ......私が保護した頃なんて、誰にも触らせなかったのよ。職場の同僚だって、長い時間かけて少しずつ慣れていったのに......なんで寒河江さんにこんなに懐いてるの。ただの好意じゃなくて、もう親しさに変わってるじゃない」伶は顎の下を撫でる。ムギは気持ちよさそうに目を閉じた。「きっと、自分の飼い主の未来の旦那って分かったんだろ。犬は賢いからな」悠良は黙り込んだ。そんな先のことまで考える余裕は、まだなかった。伶も追及せず、話題をもとに戻した。「さっき言ってた葉のこと、続きは？」「それが......彼女、検査で肝臓がんの中期から後期って言われたの。私としては、権威ある医者のところでもう一度検査を受けさせたいの。誤診かもしれないし」伶は眉を寄せた。「大きな病院に行ってるなら、誤診の可能性は低いだろう。とりあえず、適任の医者を探してみるよ」「お願い。なるべく早くね。葉は物事を先延ばしにするのが嫌いな人だから。時間が経つほど、彼女にとっては辛いと思う」悠良は、まさか葉がそんな病にかかるとは思いもしなかった。もう十分苦しい人生を歩んできたのに、どうして神様は彼女に少しの救いも与えてくれないのか。伶は彼女の気持ちが沈んでいるのを感じたが、今日ムギを連れてきたことを心の中で安堵した。もし連れてこなければ、彼女はもっと落ち込んでいただろう。彼は時計を見て、声をかける。「風呂に入って、早く休め。三浦の件は明日すぐに動こう」「先にどうぞ。私はちょっと横になってから行く。ホ
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第801話
ムギは悠良を見るなり、耳がぱっと伏せられ、つぶらでうるんだ大きな瞳で彼女をじっと見つめた。犬を飼ったことのある人ならわかる。ときに犬が人を見る目は、この世の誰よりも深くて真っ直ぐで、その視線の中には自分しかいない。ムギは悠良に飛びつき、彼女はその体をしっかり抱きとめる。犬は興奮して、前足で彼女の胸元を何度もかき寄せた。「ムギ、元気にしてた？」悠良の言葉が伝わったのか、ムギは「ワンワン」と返事をする。彼女の唇がふっとゆるみ、澄んだ顔に笑みが浮かんだ。その後ろから伶が入ってくる。「どう？嬉しい？」悠良は立ち上がり、彼を見る。「いつ連れてきたの？」「昨日。前から段取りはしてたんだが、距離があるだろ。移動中に犬がストレスを起こすと困るからな。だから向こうで事前にいろんなテストをして、長距離フライトに耐えられるって確認が取れてから運ばせた」悠良は心の底から感動した。「この子とは縁があるの。海外にいた時、命まで助けてもらったことがある。それで引き取るって決めたんだ」伶はドア枠にもたれかかる。「ユラのことがきっかけで？」「うん。元々犬をそこまで好きじゃなかった。でもユラと一緒に暮らしてから、『犬ってこんなに可愛いんだな』って思えるようになって」そう言いながら、悠良はもう一度ムギを抱きしめる。毛が頬に当たってくすぐったい。ムギは尻尾を振りながら彼女の腕の中ですり寄る。首輪には、出国前に彼女が付けた青い鈴がまだ揺れていた。ユラのことを思い出し、悠良は少し心配になって聞く。「ユラとムギは犬種も違うし、仲良くできるかな。ユラがいじめたりしない？」伶が尋ねる。「ムギってメス？」「うん。引き取ったときは知らなかったんだけど、あとで分かったんだ。メス犬は色々面倒でさ。同僚が散歩に連れてった時も、どこからともなくオス犬が寄ってきて大変だったんだよ。毎回追い払うのがひと苦労で、避妊手術もしようかと思ってたくらい」「だったら心配いらない。ユラはオスだし、ちょうどいい。相性も悪くないだろ」そこへユラが伶の足元をするりと抜け、ムギの方へ近づく。悠良は最初ハラハラしながらユラを睨みつつ、必死で声をかける。「ユラ、いい？この子はうちのわんこ、ムギっていうの。すごく大人しいから、絶対いじめた
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第800話
悠良は史弥を突き放し、背筋をまっすぐに伸ばしたまま、一瞥すらくれずに歩き出した。史弥はその背中を見つめながら、怒りをさらに募らせるも、どうすることもできない。ただ黙って彼女が去っていくのを見送るしかなかった。追いかけたところで、無駄だと分かっている。悠良は二歩ほど進んでから足を止め、振り返って言った。「私に憎まなければ、この件を墓場まで持って行くことね」マンションに戻ると、大久保がユラの体をタオルで拭いていた。物音に気づいたユラが、大久保の手を振り切って勢いよく悠良へ駆けてくる。悠良は思わずしゃがみ込み、飛びついてきたユラを受け止めた。「ちょっと、危うく落としそうだったじゃない」笑いながら避けようとしたものの、脚はぶつかられて軽くよろめく。それでもユラはお構いなしで、前足を膝にかけ、濡れた鼻先で彼女の手をすりすりしてくる。息を荒くしながら、目はきらきら輝いていた。悠良は苦笑しながら頭を撫でる。「早く戻って、大久保さんにちゃんと拭いてもらってからにしなさい」ユラはまたパッと向きを変えて大久保のほうへ駆けていく。大久保は笑いながら、乾ききっていない毛並みを丁寧に拭き続ける。「この子、本当に不思議ですよ。旦那様が何年も飼ってたのに、誰に対してもこんなふうに懐いたことは一度もなくて。ここに来て日も浅いのに、ユラはもうすっかり小林さんに夢中ですね」悠良は目を細め、柔らかく笑った。「縁があるんでしょうね。ペットって、結局は相性だもの。私、海外にいた頃にも犬を飼ってたの。その子もすごくいい子だったのよ。今も向こうにいるんだけど、迎えに行く時間もなくて」それを聞いた大久保はすぐに言った。「誰かを頼んで連れてきてもらえばいいじゃないですか。今は飛行機で輸送できるんですし。犬一匹が二匹になっても同じですよ、私も一緒に世話しますから」悠良は嬉しそうに大久保を見る。「本当？ありがとう大久保さん。今度寒河江さんと相談してみるよ」まだ片付けるべき用事があったため、大久保と少し話しただけで二階へ上がった。部屋に入るとすぐ律樹に電話をかける。「今すぐ訴訟取り下げの書類を作って、莉子を釈放させて」律樹は耳を疑って声を上げる。「は？釈放？冗談でしょ？あの女、悠良さんを殺しかけたんですよ？
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