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第559話

作者: ちょうもも
悠良が浴室から出てきたとき、手がじんじんと痺れるように痛かった。

やっぱり、男の人って早い方が楽だわ。

伶、体力ありすぎ。

思わず手をぶんぶん振りながらほぐしていると、浴巾を巻いた伶が現れた。

顔には満足げな色が浮かび、ちらりと彼女を見やる。

「で、結局俺の太股に何をそんなに見てたんだ?」

その一言で、悠良はハッとした。

そうだった。

肝心の目的を忘れて、むしろ別の「お手伝い」をしてしまったじゃないか。

けれどさっきのことで、少し気持ちが楽になったのも事実。

「だから言ったでしょ、太股の内側を見れば寿命が分かるって」

伶は半眼で彼女を眺め、いかにも「そんな戯言信じるか」といった顔をする。

その鋭い視線に背中がぞくりとし、悠良は指をぎゅっと握りしめ、開き直った。

「本当にネットでそう読んだのよ。信じてよ」

彼は濡れた髪をかき上げながら、気だるげに言った。

「いいだろう、じゃあ何を見抜くか楽しみにしてる。ただ......何か悪い結果が出たら、君の責任だからな」

悠良は思わず目を見開く。

「ちょ、ちょっと!さっき終わったばっかりじゃない!また......?」

この男、スタミナどうなってるの!?

ベッドに腰を下ろした伶は、脚を組み、顎を手で支えながら首を傾げる。

「まさか君は、そんな数秒で終わる奴の方がいいの?俺みたいに元気なのは幸せなことだろう。外の女なら喉から手が出るほど欲しがるんだぞ」

確かに......これは女としては福利厚生レベルかもしれない。

顔立ちもずば抜け、纏う雰囲気もただ者じゃない。

見ているだけで十分に眼福だし......

悠良は指先をいじりながら、蚊の鳴くような声で言った。

「でも......ちょっと抑えてよね。さすがに毎回そこまで全力じゃ、こっちが寝られなくなる......」

伶は背もたれに倒れ込み、両手を頭の後ろで組み、気怠そうに答える。

「仕方ないだろう、生まれつき精力が有り余ってるんだ」

悠良は呆れて目を回し、唇を引きつらせた。

「顔と羨ましがられる背景があるからいいけど、もしなかったら、外に出た瞬間ボコボコにされてるわよ」

彼は長い脚を組み替え、むしろ挑発的に視線を上げる。

「はっきり『殴りたい』って言えばいい。遠回しすぎ。他の女なら絶対触らせないが......悠良ちゃんなら、まあ
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