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第333話

Author: いくの夏花
慶介は落ち着いた表情で口を開いた。「叔父さん、叔母さん、柚香のことは海外にいても少しは耳にしてたよ。悪い言い方をすれば、自業自得ってやつで、誰を恨むこともないだろ」

その言葉は率直だったが、事実を的確に突いていた。

清隆はしばらく黙り込み、「確かにそうだが……やはり家族だからな」と言った。

「家族だからこそ、同じ間違いを繰り返させて川崎家の名を汚すわけにはいかないんだ」慶介の声は力強かった。「今回戻ってきたから、しばらく一緒にいるよ。柚香もそろそろ自分の行いの代償を払う時だ」

その言葉に、清隆と亜由の胸に溜まっていたわだかまりは幾分か和らいだ。

甥は、彼らが思っていた以上に大人びていて、しっかりしていた。

翌日、清隆は遥香に電話をかけた。

「遥香、慶介が帰ってきた。今晩は家に来て、みんなで食事をしよう」

遥香は少し驚いたが、すぐに承諾した。「わかったわ、お父さん。今晩必ず帰る」

電話を切り、出かけようとしたところに、修矢がどこからともなく現れた。

「実家に行くのか?」

遥香は彼を一瞥し、否定はしなかった。

「ちょうどいい、今日は暇だから一緒に伺おう。お二人に挨拶するのが筋だろう」修矢は何事もない顔で言い放ち、それが当然であるかのようだった。

遥香は眉をひそめた。「従兄の慶介が帰ってきただけで、ただの家族の食事なのよ」

「だからこそ行くべきなんだ」修矢は譲らなかった。「君の従兄にも久しぶりに会えるし、ちょうど顔を覚えてもらえる。前回の件で義父母には誤解されているに違いない。この機会にきちんと振る舞って、早く信頼を取り戻さなければ」

その言葉はもっともらしく、まるで二人の将来のためを思っているかのようだった。

遥香は彼の強引さに抗えず、また両親のことを思えば修矢が一緒に行くことで余計な心配を減らせるかもしれないと考え、結局は渋々うなずいた。

――夕暮れ時、川崎家。

遥香が修矢を伴って玄関に入ると、清隆と亜由は思わず一瞬動きを止めた。

その時、慶介も部屋から出てきて、修矢に視線を向け、数秒間じっと見据えた。

「お父さん、お母さん、慶介さん」遥香が先に挨拶した。

「こちらは修矢、尾田グループの社長」と彼女は簡単に紹介した。

修矢はすぐさま満面の笑みを浮かべ、「義父さん、義母さん、慶介さん、こんばんは」と声を掛けた。

この「義父さ
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