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第883話

Auteur: 似水
月宮の目を見つめながら、かおるはしばらく黙っていた。

――月宮と縁を切る?

無理に決まってる。

月宮家は冬木じゃいろんな人脈が絡んでて、普通の集まりでも顔を合わせることなんてざらにある。

だから、唯一の方法は距離を取ること。あとは冷たくするしかない。

それに、こんなことで月宮と揉めたくもなかった。

「じゃあ、それで決まりね。あの人からまた連絡きたら、すぐ教えて」

かおるは、本気でこれ以上この話を引きずる気はなかった。

月宮は口元に微かに笑みを浮かべ、「もちろん」と答えた。

そして、かおるのそばに腰を下ろし、じっと見つめながら聞いた。

「一緒に帰るか?」

明日は大晦日。結婚してから初めての年越しで、年が明けたらすぐに式も控えている。

かおるは「うん」と頷き、立ち上がりながら言った。

「ちょっと、里香に声かけてくるね」

月宮も頷いた。「一緒に降りようか」

玄関に向かって歩きながら、かおるはふと思い出したように聞いた。

「そういえばさ、雅之って今何してるか知ってる?全然連絡ないし、音沙汰なしじゃん」

月宮はどこか意味ありげな目でかおるを一瞥し、「さっき里香と話したけど、彼女、雅之には全然興味なさそうだったよ」と言った。

かおるはその言葉に少し違和感を覚えた。でも、里香の最近の様子を思えば、あながち間違いとも言えず、それ以上は何も言わなかった。

「じゃ、その話は置いとこっか」

階段を降りたかおるは、里香に冬木へ帰ることを伝えた。

「ほんと、あんたって根性ないんだから」

里香は笑ってからかうと、それを聞いた月宮は眉をひそめた。

「かおる、やっと機嫌取れたばっかなんだから、邪魔しないでくれる?小松さん」

里香はそれを無視して、かおるに持たせる荷物を用意させた。

かおるは遠慮なく、それらを全部受け取った。

玄関まで来て、かおるは里香をぎゅっと抱きしめた。

「じゃ、数日後に戻ってくるから。外寒いし、見送りはいいよ」

「うん」

里香は頷き、二人の背を見送った。

ふと振り返ると、賢司が階段から降りてきた。黒のタートルネックニットがよく似合っていて、姿勢もしゃんとしていた。

「お兄ちゃん」

里香が声をかけると、賢司はそれに応えて尋ねた。

「もう帰ったのか?」

「うん」里香が頷いた。

「誰が?」

ちょうどそのとき、景司
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