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第 16 話

Author: 白川湯司
「何?大勢連れてきやがったな?」

琉偉の目がぴくりと跳ね、不安が走った。

くそっ、勝負は一対一のはずだろうが!なのにこいつ、仲間を連れてきやがって、まったく卑怯だな!

心の中でそう毒づきながらも、この状況で逃げるわけにはいかないと、琉偉は覚悟を決めて前に進んだ。

何といっても、女神の前で恥をかくわけにはいかなかったのだ。

「そいつらだ!囲め!」

隼人が手を振ると、ボディーガードたちが一斉に動き、琉偉を含めた三人を取り囲んだ。

「おい、何のつもりだ?僕の父は渡辺製薬の会長、渡辺雅也(わたなべ まさや)だぞ!」

状況がまずいと悟り、琉偉は即座に身分を明かした。

「ちっ!渡辺雅也なんてどこの雑魚だ!」

ボディーガードの一人が怒鳴った。「お前、この人が誰か分かってるのか?この方は勝旦那の息子、金運株式会社の若旦那だ!」

この言葉を聞いた瞬間、周囲の人々がざわめき始めた。

「勝旦那?あの東城の地下帝王、津田勝のことか?」

「その通りだ。勝旦那なんて呼ばれるのはあの鬼のような人しかいない!」

「この奴、本当に運が悪いな。勝旦那の息子に喧嘩を売るなんて、今日こそ運の尽きだ」

人々がひそひそ話を交わし、顔には憚る色が浮かんでいた。

「お、お前たちは、勝旦那の手下か?」

一瞬たじろいだ琉偉の顔が青ざめた。

津田勝、人呼んで「勝旦那」。東城で赫々たる地付きの帝王であり、その勢力は御三家に次ぐと言われている。

彼は冷酷で報復心が強く、数百人の手下を抱え、恐喝や脅迫などの裏稼業を行っていた。

その名を聞くだけで震え上がる、正真正銘の極悪人だ。

彼を敵に回せば、命が危なくなる。

ちくしょう、今日は厄介な相手に手を出してしまった!

「どうした?さっきまであんなに威勢が良かったのに、今度は怖気づいたか?」

隼人は冷たい視線を送りながら、琉偉に近づいた。

「兄貴、これは誤解だ、誤解なんだよ…」

琉偉は無理に笑顔を作り、媚びへつらった。

「誤解?誤解だと?!」

隼人は怒りを爆発させ、琉偉に二発のビンタを張った。

パン!パン!

響き渡る二発の音とともに、琉偉の顔には五本の指の跡がくっきりと残った。

琉偉は怒りをこらえながら、へつらうように言った。「兄貴、僕の父と勝旦那は少し関係があるんだ。顔を立ててくれないか?今日のことは勘弁してくれ、明日、謝罪の宴を設けるからさ」

「顔を立てる?お前みたいな奴が俺に顔を立てると言うのか?!」

隼人は人差し指で琉偉の額を強く突き刺した。

一突きごとに、琉偉は後ずさりした。

琉偉は息を潜め、完全に降参の態度を見せた。

「おい、そこのチンピラども、多勢に無勢で何をやってるのよ!?」

その時、後ろにいた加奈が耐え切れずに叫んだ。

「何だ?どうやら不服らしいな?」

隼人は琉偉を押しのけ、邪悪な笑みを浮かべながら舞彩と加奈に近づいた。

「警告しておくけど、ここは中尾家の縄張りよ。勝手なことをすると、ただじゃ済まないから!」加奈は内心で恐れながらも、強がって言った。

「中尾家が何だ?怖いと思うか?」

隼人は冷笑しながら言った。「それに、先に手を出したのはお前たちだ。俺はただ正当防衛しただけだ。中尾家がどうできるっていうんだ?」

「でたらめよ!」加奈は焦り始めた。

「ふん、お前は状況がわかっていないようだな?なら、俺の手下に教えてやらせるとしよう!」

隼人が手を振ると、すぐに二人の凶悪なボディーガードが前に出てきた。

「やめなさい!」

舞彩は突然前に出て、冷たい声で言った。「この件は彼女とは関係ない。彼女を放しなさい!」

「彼女とは関係ないなら、お前とは関係あるってことだな」

隼人は邪悪な笑みを浮かべた。「彼女を放してもいいが、今夜お前が俺を存分に楽しませろ。俺が気持ちよくなったら、何でも話し合おう」

「恥知らず!」

舞彩は手を振り上げて、もう一度ビンタを張った。

しかし今回は、隼人に手をつかまれた。「このアマ!まだ手を出すつもりか?こいつを縛れ!」

「はい!」

数人のボディーガードがすぐに前に出て、舞彩を押さえつけた。

「ごろつき!社長を放しなさいよ!」

加奈が舞彩を守ろうと前に出たが、次の瞬間隼人に蹴り飛ばされて倒れた。

「渡辺さん……早く社長を助けて!」

加奈は痛みで立ち上がれず、琉偉に助けを求めた。

「津田さん、話し合いで解決しよう。二人の女性に対してそんなにムキになることはないだろう?」琉偉は勇気を振り絞って説得した。

女神を守るために、リスクを冒してでも頼むしかなかった。

「くそ!俺はまだお前に手を出していないのに、なんで出しゃばるんだ?!」隼人は険しい顔をした。

「いやいや、僕の言いたいことは、皆で仲良くやっていこうってことさ」琉偉は笑顔で答えた。

「ふざけんな!消えろ!」

隼人はぐんぐんとビンタを張り、琉偉を地面に叩きつけた。「もう一言でも言えば、俺はお前を殺すぞ!」

琉偉は首をすくめ、何も言えなくなった。

女神は大事だが、自分の命の方がもっと大事だった。

女のために、凶悪な勝旦那を怒らせて命をかける価値はなかった。

「ふん!そんなに強気かと思ったら、ただの臆病者じゃないか!」

隼人は容赦なく嘲笑った。「こんな素晴らしい女が、お前みたいな腰抜けを好きになるなんて信じられないぞ!」

琉偉はただまぶたをぴくぴくさせ、黙って聞いていた。

「お前ら、早くこいつを連れて行け。今夜は楽しませてもらう!」

隼人は手を振り、舞彩を縛りながら去ろうとした。

「渡辺さん!早く……早く助けて!」加奈が叫んだ。

しかし琉偉は何の反応もせず、ただ俯いていた。

この臆病な姿に、周りの人々は頭を振るしかなかった。

女のためなら命も惜しまぬというのに、明らかに彼にはその度胸がない。

皆が今夜舞彩が辱めを受けると覚悟したその時。

一人のしっかりした男性が突然隼人の前に立ち、冷たい声で言った。「この人を連れ去るな」

「なんだ、お前も英雄気取りか?自分がその器だと思ってるのか?」隼人は冷笑した。

「事が大きくなる前に、すぐに解放しろ」賢司は冷たく言った。

「ふん……放さなかったらどうする?」隼人は冷笑した。

「放さなかったら、お前は死ぬことになる!」と賢司は言った。
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