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165.瑛斗との距離、動き出す歯車

last update Last Updated: 2025-09-06 19:57:26

華side

平穏な午後のリビングで、私は一人、温かいハーブティーを飲みながら、最近の出来事を反芻していた。窓から差し込む陽光が、私の手元のカップをきらきらと輝かせている。

「護さんは瑛斗のことをすごく憎んでいるけれど、本当に護さんが思うような人なのだろうか」

護さんは瑛斗のことを「華に酷いことをして苦しめた相手」と思い、私から遠ざけようとする。

しかし、子どもたちに何かあったら助けに行くと言って、本当に長野まで来てくれた瑛斗。私と話す間、子どもたちに向ける視線は、温かいものを感じた。誤解だったが、玲が誰かを監視するように指示する不審な電話を聞いて、私のことを心配して長野にまで駆けつけてくれたこともあった。瑛斗が示した行動は、護さんの言葉とはまるで違っていた。

「瑛斗は、思い立ったらすぐに行動しちゃうんだから……」

子どもたちや私のことを思っての行動に、自然と小さな笑みが零れた。瑛斗のことを考えて笑みを浮かべるなど、一体いつぶりだろうか。

(そうだった。瑛斗は、嘘が嫌いな真っ直ぐな性格だった。熱くなりやすい一面もあるけれど、一度決めたら人の言うことも聞かない、少し頑固なところもあったわ……)

結婚していた頃の瑛斗のことを思い出す。私が知っている瑛斗は、自分にも相手にも正直で誠実な人だった。いつしか歯車がズレてうまく噛み合わ

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    華side「華、たまには外にランチでも食べに行かないか?そのあと買い物でもどう?」平日の昼間、久しぶりに護さんにランチに誘われた。護さんが長野にマンションを購入して以来、護さんが休みの平日の昼は、護さんの部屋で一日をずっと過ごす日々が続いていたので、外に出るのは新鮮で嬉しかった。「ええ、いいわよ。行きましょう、楽しみだわ。」私は笑顔で答えてすぐに支度をする。車に乗り込むと、護さんがスマホを操作してから、店のホームページを見せてくれた。「このお店なんだけどね、使われていなかった別荘を改装して、隠れ家風のレストランに改装したんだって。窓から見える景色やテラスも綺麗らしいんだ」「わ、お庭も薔薇の花が綺麗に咲いている。とても素敵なところね。こんなテラスでハーブティーを飲みながらスコーンを食べたら気持ちいいんだろうな。ね、メニューや他の写真も見ていい?」「ああ、いいよ」助手席で、護さんのスマホを借りて店の写真を見て楽しんでいた。護さんはナビをセットすると、静かに車を走らせていく。前菜からメインディッシュにスープ、デザート。季節ごとにメニューが変わるようで、旬の地場食材をふんだんに使い、色彩豊かで繊細な盛り付けの料理の写真が何枚も掲載されている。その一枚一枚をスライドさせながら楽

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    華side「いずれは華と結婚したいと思っていることさ。それくらい真剣に付き合っているし、大切に思っているってことをお父さんに伝えたいんだ。正直、付き合っていることを僕から言い出しにくかったから、華が言ってくれて助かったよ。付き合いを認めてくれるなら、結婚後は僕が神宮寺家に婿に入ってもいいしね」私は、プロポーズされたとき、受けたら「三上 華」として、これからは生きていくのだと思っていた。だからこそ、子どもたちの苗字が『神宮寺』から『三上』姓に変わることに躊躇をしていた。護さんが、神宮寺家の婿養子になることも考えていたなんて思いもしなかった。「あ、よくよく考えると、僕が婿に入った方がいいんじゃないかな。そうすれば、慶くんと碧ちゃんの苗字も変わらなくて済む。それに、家もこの別荘のままでいいんじゃないかな」名案を思いついたとでも言うように、護さんは嬉しそうに私に話しかけてくる。「……護さん?私は、父の配慮でこの別荘に住ませてもらっているけれど、本来、神宮寺家とはもう縁が切れた人間よ。護さんが婿になるのは難しいと思う」私の言葉に、護さんは微笑んだまま首を横に振った。「そうだとしても、決めるのは華のお父さん次第じゃないかな。華のお父さんが、僕の婿養子を許可してくれればいい話だろう?」「え……父に認められるのは絶対だけ

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