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264.陽だまりの茶人、北條湊

last update Last Updated: 2025-10-27 21:57:54

華side

「神宮寺華さんですか?はじめまして、北條湊(ほうじょう みなと)です。」

「初めまして。本日はお忙しい中、ありがとうございます」

この日、茶道の師匠の弟子である北條先生とホテルのラウンジで顔合わせをした。

北條先生は、艶のある黒髪と、微笑むと左頬に出来るえくぼ、甘いルックスと周囲の喧騒を和らげるような穏やかな雰囲気が印象的な男性だった。男性で茶道の道を選ぶ人は少なく、師匠曰く、茶道会の将来を担う期待の新星として注目されているらしい。

(師匠は、私にピッタリだと言っていたけれど、何を持っていっているんだろう?年齢?)

北條先生の方が二つ年上だが、茶道は年齢層も幅広いため同世代と会うことは珍しい。歳が近くて話が合うと言いたかったのだろうか。

注文したコーヒーが届いて一口飲んでから、北條先生はゆっくりと口を開いた。彼の所作一つ一つが無駄なく洗練されていて美しく、私は先生の動き一つ一つに見惚れていた。

「最近、茶道に興味を持ってくれる方が増えたのは嬉しいのですが、自分ひとりでは手が回らなくなってきまして。神宮寺さんを紹介してもらって、本当にありがたいです」

北條先生は言葉を選びながら謙虚に話す。教室が盛況なのは単に技術だけでなく、この人柄によるところが大きいのだろう。

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    華side子どもたちが小学校に入学し生活のリズムが整ったことで、私も週に数日仕事をするようになった。小さい頃からずっと習っていた茶道は、大学在学中に講師の資格を取得しており、教室を開いて教えることが出来る。茶室は静かで心が落ち着く空間だ。将来は、独立して茶道教室を行うことも可能で、子どもを育てながら自分のペースでキャリアを築きたい私にはぴったりだった。しかし、茶道の道から離れて十年以上が経っており、いきなり教室を開くことは躊躇したため、まずは現状を知ろうと習っていた師匠に久々に連絡を入れた。「まあ、華さん。お久しぶりね。お元気だったかしら?どうされているか心配していたのよ」「ご無沙汰しております。連絡が遠のいてしまってすみません。実は、結婚して子どもが産まれまして……」「そうなの、おめでとう!お子さんはおいくつになられたの?」「はい、今年七歳になり、四月から小学校に入学しました。それで、茶道をまた再開したいと思いまして。先生のお教室は今もやっていらっしゃいますか?」「それがね、三年前に引退したの。今でも趣味で楽しむことはあるけれど、教室はやっていないの。でも、良かったら今度子どもたちを連れて遊びに来て頂戴。お茶をたてるわ」教室のことを尋ねる

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    瑛斗side「え、ちょっと、おい!今日だったのか!」「瑛斗、何?どうしたの?」朝一番で空に用事があって社長室に来てもらっていたが、華から届いた子どもたちのランドセル姿に、思わず大きな声で独り言を放った。「ちょっとこれ見ろよ。華から連絡来たんだけど、今日、子どもたち入学式のようだ」空は驚いた顔で俺を見てきたので、自慢げに慶と碧の顔を拡大して見せつけた。「本当だ。二人とも大きくなったね。華さんに似て美男美女だ」「おい!!俺にも似ているだろ。碧なんて、俺が小さい頃にそっくりじゃないか!」華に一緒に暮らすことを断られたのはショックだったが、まだ諦めていない。父に言われた会社のことなどすべての問題を片付けたら、俺からもう一度華のところへ行って、想いを告げるつもりだ。「瑛斗も諦めが悪いね、『一緒になることは望んでいない』って華さんに断られたんじゃないの?」「それは、華の本心じゃない!……少なくとも俺はそう思ってる!」「それを諦めが悪いって言うんだけどな…

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