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第4話

作者: 蘇蘇
入院中の数日間、京弥が深雪を溺愛する様は、病院中の知るところとなっていた。

対照的に、汐の病室は閑散としており、見舞客など一人も現れない。

ある日、彼女の孤独につけ込んだ研修医が、戯れに連絡先を聞き出そうと病室を訪れた。

だが間の悪いことに、その光景を京弥に目撃されてしまう。

彼は二人を冷え冷えとした瞳で見下ろした。言葉こそ発しなかったが、その眼差しに宿る光は凍てつくほどに恐ろしかった。

その夜、汐は京弥が深雪のために手配した打ち上げ花火を見上げた。

夜空を埋め尽くさんばかりの絢爛な大輪の花に、患者や職員たちはたまらず屋外へ飛び出し、歓声を上げて見入っている。

汐はその光の輪の下に立ち、自分とは無縁の世界で咲き誇る美しさを、ただ呆然と眺めていた。

花火は瞬く間に消えていく。まるで、自分に許された僅かな幸福と同じように。

翌日から、検診に来るはずだったあの研修医が、汐の前に姿を現すことはなかった。

退院の日まで、二度と。

退院当日、深雪はどうしても汐を同乗させると言い張った。

「京弥、汐も乗せてあげて。一人でタクシーを拾うなんて不便だわ」

京弥は汐を冷ややかに一瞥し、薄情な響きを含んだ声で吐き捨てた。

「深雪、そいつに情けをかけるな。骨までしゃぶられるぞ。それに、男をたぶらかすのが得意な女だ。悪い虫など幾らでも湧いてくるだろう」

汐は反論せず、無言で彼の車に乗り込んだ。

車が道半ばまで差し掛かった頃、京弥の携帯が鳴った。以前から誘われていた会食への呼び出しだった。

それを聞きつけた深雪は、自分たちも連れて行ってほしいとせがんだ。連日の入院生活で鬱屈しており、外の空気を吸いたいのだという。

京弥は拒むことなく、三人で会場へと向かった。

会場の人々は、京弥が深雪の手を引いて現れたのを見て、彼女こそが本妻なのだと合点し、二人の背後に控える汐に好奇の視線を向けた。

「諏訪部さん、こちらの方は?」

京弥は汐を横目で蔑むように見やり、冷淡に言い放った。

「ああ、こいつか。うちの家政婦だ。深雪の世話をさせるために連れてきた」

汐の心臓が早鐘を打ったが、込み上げる言葉を喉の奥で押し殺した。

宴もたけなわとなり、京弥に杯が向けられると、彼は冷たく汐に向かって顎をしゃくった。

「飲め。ただでさえ連れてきてやったんだ、楽しみに来たと思うなよ。安心しろ、金は弾んでやる」

汐は口角を吊り上げて微笑を作ると、迷いを見せずにグラスを手に取り、一息に煽った。

京弥が汐を蔑ろに扱う様子を見て、周囲の男たちも便乗するように彼女を囲み、酒を強いてきた。汐はそれを拒まなかった。

その中の一人、中年の男が酒を勧めるふりをして、執拗に彼女の体をまさぐってきた。何度身をよじって拒んでも、男の手は再び汐の腰へと這い上がってくる。

薄暗い片隅で、京弥はその様子をじっと凝視していた。その瞳は、見る間に昏く沈んでいく。

どれほど飲んだだろうか。汐は頭が割れるような頭痛に襲われ、歩行すらままならなくなっていた。

席を立ち、化粧室で顔を洗って熱を冷ます。一息ついて外へ出ると、あの中年男がぬらりとした足取りで近づいてくるのが見えた。

不吉な予感が背筋を走り、慌てて後ずさろうとしたが、男の動きの方が速かった。薬物を染み込ませたタオルで、強引に口と鼻を塞がれる。

体が急激に鉛のように重くなり、血液が沸騰するような異常な熱量に襲われた。彼女は必死に抵抗したが、力が入らず、そのまま廊下の奥へと引きずられていく。

部屋に押し込まれそうになった刹那、汐は残された力を振り絞り、男の急所を蹴り上げた。

男が悶絶し、拘束が緩んだ隙をついて、彼女は相手を突き飛ばし、ふらつく足取りでその場から逃げ出した。

汐は手当たり次第に見つけた部屋へ飛び込み、身を潜めた。体が内側から爆発しそうなほど熱い。

あのタオルには、催淫作用のある薬が仕込まれていたに違いない。嵌められたのだ。

朦朧とする意識の中、ドアが開き、背の高い男が入ってきた。

逆光で顔は判別できない。汐はパニックに陥り、相手をラウンジのスタッフだと思い込んで縋り付いた。

「お願い、助けて……誰か……男を呼んで、早く!」

入ってきた男の声は、氷のように冷徹だった。

「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

汐は唇から血が滲むほど強く噛み締め、正気を保とうと必死に訴えた。

「私……死ねないの。お願い、助けて……」

男は嘲るような笑みを浮かべた。

「なぜ別の男を探す。目の前に俺がいるだろう」

聞き慣れたその声に、汐の意識は一気に現実へと引き戻された。

目の前に立つ京弥を見つめ、残滓のような最後の力を振り絞って彼を突き放す。

「あなたは……ダメ。あなたは、ダメなの……」

京弥の表情が見る間に険しく歪んだ。彼は怒りに任せて詰め寄り、汐の細い首を強く掴んだ。

「なぜ俺じゃダメなんだ?金があれば離れないと言ったのはお前だろ?俺は今、金を持っている。なのになぜダメなんだ!」

汐は一瞬呆然とし、次の瞬間、堤防が決壊したように涙を溢れさせた。震える声で彼女は言った。

「だって……あなたは、諏訪部京弥だから。私の、京弥だから……っ」

その言葉は大波となって彼の理性を呑み込んだ。京弥は感情のたがを外し、汐を壁に押し付けると、激しく唇を重ねた。

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