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第2話

Penulis: 神雅小夢
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-12 11:27:18

「え、ああ、だ、大丈夫です」

泣いている顔を見られたくなくて、私は係長の顔を見ずに話している。もう泣いています、と言っているようなものだ。

「……鈴山さん、悩みがあるなら聞くよ?」

係長は心配をしてくれている。これ以上、優しくしないでほしい。涙腺はとうに限界なのだ。

みじめな姿を見られたくない。

「あ、あの、本当に大丈夫なんで」

本当に私は可愛くない。

ここで泣いて思いきり甘えられる、誰かに助けを求められる女なら、きっと彼氏を寝取られたりしなかったんだろうと思う。

「……そう。でもなにかあったら必ず言ってね。それと、鈴山さん……、嫌なことは嫌って相手にきちんと言った方がいいよ。自分を守るためにもね」

係長の優しさが身に沁みた。

今は危険だと思った。油断したら誰にでも甘えてしまいそうだ。

仕事を終えて、寮に戻った私は楽な部屋着に着替えた。

寮は1DKの洋室だ、壁は薄いが、お風呂とトイレは別々なのが救いだ。

私は朝起きてそのままのベットに倒れ込んだ。

……疲れたぁ。

勤務先である某有名菓子メーカーは福利厚生が手厚く、社員寮も格安で入居できる。

そのかわり、三交代制の勤務だ。私は今、二十一だからなんともないけど、歳をとったらきつくなるのは安易に想像できる。

二十三歳までに結婚して、子供は三人。そういう夢も消えたなぁ……。

仕事をしたくないわけじゃない。温かい家庭に憧れていたのだ。

十八歳の時に友達の紹介で出会った小村絢斗《こむらけんと》とは、友達と一緒に何回か遊んだ。

カラオケとか、食事、キャンプにも行った。

絢斗は高卒の地方公務員だった。出会った時、絢斗は私の友達M美が好きだった。

でもM美には彼氏がいて、彼女も若気の至りか、絢斗は見事キープくんになった。その他に置いて、M美は別に悪い子ではなかったが、とにかく男好きだった。

こういうの許せない女子って存在して、M美の悪事を暴いて、絢斗の目を覚させた女子がいた。もうその頃には、私はこの人間関係にうんざりしていた。

一人のひとと添い遂げられたらいい、そう思って私は今まで生きてきた。ひとからは真面目などと馬鹿にされたりもした。

そしてM美のことは諦めがついたのか、絢斗はなぜか私に付きまとうようになった。

しかし絢斗も絢斗で、どうにも女好きの匂いがしていた。

この時、付き合わなければ、きっとこんなに身も心もボロボロにはならなかったのだ。自分のシックスセンスを信じなかったのが悪かった。

女癖は一生治らない。病気だ。だから絢斗は同じ匂いのするM美を好きになったのだ。

当時、私は友達十人ぐらいのグループで遊んでいたのだけど、絢斗は交際を始めると、真面目だったし、自分の仕事も認めて褒めてくれた。

取り越し苦労だったのか? と疑問を抱きつつ交際を重ね、お互いの親に紹介し、結婚しますと宣言までしていた。

この頃には甘えてくる絢斗が可愛かったし、こんなに深く交際したことがなかったから初めてのことが多かった。

結婚するのは間違いないと信じていた。

絢斗が確実に変わったのは転勤して、百キロ先の土地に住んでからだった。

絢斗も私もまだ若すぎた。二十一歳で社会のなにがわかった気でいたのだろう。

世の中で結婚するには少し、頭を使わないと結婚はできないのだ。もちろん中にはうまくやる人間もいるだろうが、少なくとも私と絢斗はそれに該当しなかった。

実際、M美は大好きな彼と二十歳《はたち》という若さで結婚。デキ婚ではなかった。M美の同級生からの評判は星1だったが、それでもM美は遊んでいながら、国家公務員の嫁という安定した地位を女の狡猾さで手にしたのだ。

正直、私はM美が羨ましかった。もう安定を手に入れたのだ。

私のような高卒の人間が一人で生きていくには、しんどい世の中だった。

車があるから尚更だった。お金がかかるが、工場は山の中にあり、ここでは車がないといささか不便だった。夜勤の後も会社の送迎バスが出ていたりもしたが、待ち時間が長かった。

それに田舎に転勤になった絢斗に会うために、私は車を手放さなかったのだ。

そして交際三年目の記念日の夜に悲劇は起きた。ドタキャンされたのだ。

「ごめん。今日は無理になった。飲み会で遅くなるから」絢斗がそう言ったけど、合鍵もあるし、今から絢斗の好きなバニラシフォンケーキを焼いて、持っていこうと決めた。記念日なのだ。明日は仕事も休みだ、泊まりでいい。

これがそもそも間違いだった。

私はオーブンでケーキを焼いて、絢斗の住む町まで車を飛ばした。

会えるの三週間ぶりだなぁ、なんて呑気に恋うたを聴きながら車の運転をしていた。

絢斗は地方公務員だから、県営住宅に優先して入居していた。4DKというなんとも贅沢なひとり暮らしだと感じながら、いつかは自分もここに住むんだろうと色々想像して、私物を持ち帰らずに置きっぱなしにしていた。

二時間以上かけて、綾斗の住む町に着いた。車を止めて窓に視線を向けると、絢斗の住んでる部屋には灯りがついていた。

時計を見ると午後十時すぎだった。なんだもう帰ってるじゃん、と安堵した。

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