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第3話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-06-12 11:27:22

「絢斗、どういう顔するかなぁ。転勤になってからいきなり突撃なんてしたことないしなぁ……。パーマもかけたって言ってたけど、おばちゃんみたいになったって言ってたし、一体どんなことになってるやら……」

しかし、こんなに早く帰ってきてるなら、電話ぐらいくれてもいいじゃんと私は思った。

ピンポンも押さずにいきなり驚かしてやれ!

私は405号室の絢斗の家の鍵穴に合鍵を刺して、静かに回した。

そーっと、ドアを開けて中の様子を覗くと、確かにテレビの音がした。

私は忍び足でリビングに向かったが、テレビがつけっぱなしで絢斗の姿はなかった。

あ、あれ? トイレかな?

深くは考えてなかった。

その時、絢斗が寝室にしている部屋から嬌声が微かに聞こえた。

え? なに、いまの……。

途端に心臓が早くなり、息をうまく吸えなくなってきた。

そんなわけない、そんなわけないじゃん。そんなわけ……。

私は震える手でドアノブを回して、中を恐る恐る覗いた。

そこには明るい部屋の中で知らない女のひとと、裸で絡み合う絢斗の姿があった。

「……ど、どういうこと?」

かすれて声にならない声で私は言った。

二人が弾かれたように、私に視線を向けた。二人とも完全に固まっている。

しばらくして女が口を開いた。

「……あなた、だぁれ? 絢斗くん、このひと、なに? うまくいってないって話してた彼女さん?」

巻き髪で細くて、いかにも男受けしそうな女がそこにはいた。あざと可愛い話し方が癪《しゃく》に障《さわ》る。

「雪音《ゆきね》、お、おお前、なんで来たんだよ……」

絢斗は自分の頭をグシャと掴み、顔をしかめていた。

「……もう、いいや。明日話すつもりだったんだけど、俺、お前と別れてこいつと結婚するから」

そう言った絢斗の首筋にはキスマークがいくつも付いていた。

ああ……。絢斗は明日このキスマークを見せつけながら、私と別れ話をするつもりだったんだな。

最低な別れだ。

高校時代から交際は絢斗で四人目だが、これほど酷い別れはないだろうな、と涙を流した。

息苦しくなった。過呼吸だ。

鈴山雪音《すずやまゆきね》、二十一歳。最低な夜の始まりです。

「日菜《ひな》、悪いけど、近くのファミレス行っといて。あ、危ないから絶対、車で行けよ」

絢斗が優しく日菜と呼んだ巻き髪の女性は「え~。もぉ~、面倒くさ~い」と言いながらも、花柄のワンピースに着替えて出て行った。

この近くのファミレスって五百メートルもないよね……。以前、待ち合わせた時、私には深夜歩かせたじゃん。

「……そういうことだから」

絢斗が渇いた目で私を見てきた。

「そういうことって? ど、どういうこと」

私は軽い過呼吸を起こしていた。

「だってお前、重いじゃん? お前のその結婚願望も。お前の家族も。いつになったらまともに働くんだよ、お前の親父」

驚くほど、冷たい声に私の心が凍っていく——

そう、私は自分の家族からも逃げたかった。

母が正社員で働き、家では焼酎や、アルコールを朝から浴びるように飲んでいた父。

大工だったが、人間関係で揉め、会社を退職。筋金入りの職人の父は腕は確かだが、協調性がない。

おまけに弟はまだ高校生だ。弟も深夜までアルバイトをしている。

私の交際が続かないのは、いつもこれ。みんな重いという。きっと私の逃げたい思いと、重いが相手に伝わってしまう。

幸せになりたい。ただそれだけなのに。

「極めつけはあれな。お前、毎朝、電話で俺を起こすはずだったじゃん。あれぐらいなんでできないの? 俺、何回か遅刻したじゃん?」

「そ、それは私も働いてるし、夜勤もあったりで無理だったっていうか……」

社会人なんだから自分で起きて欲しい、ってずっと思ってた。私はお母さんじゃないって。

「なんだよ、それ。お前たいした仕事してないじゃん。俺はね、この県の道路を作ったり、業者に発注したり、お前とはやってるスケールが違うわけ」

出た。絢斗の職業自慢。

いつもそう。公務員な俺はすごい。

「俺は公務員だからな、業者のおじさんたちが仕事もらおうと、こんな若造の俺にペコペコしてくんだぜ?」

これが最近聞いた中で、一番ドン引きした会話内容だった。

これを聞いていた友達が「さすがにそれはやばいって」と止めていたが、とにかく公務員であること、いや、公務員しか自分の見せ場がないのだ。

現に絢斗のSNSは全部『〇〇県庁職員』が入っていた。

リビングで突っ立ったまま、私たちは会話していた。

いくつか写真が飾られているが、私は納得した。会えないって言った週、あれは別な女の子が来てたんだ。日菜ではない。

絢斗を好きだって言ってた女の子の写真が飾られていた。背景が絢斗の部屋だった。

絢斗と一緒にイベントに参加した時に、ジッと私を観察していた子だ。あんなに不躾に遠慮のない視線を向けられて、覚えていないわけがない。

どうなってんの? 次から次に。女の子にそこまでしてモテたいか……。引き止めていたいか……。

「それにお前、俺と結婚するって言ってたけど、くだらない矯正下着、友達と買ってたじゃん? あれいくらすんの?」

「さ、三十万……」

「三十万⁉︎ お前、ふざけんなよ。たいした体でもないくせに、友達と浮かれて高額な買い物してんじゃねえぞ」

ただ綺麗になりたかった。

自分のコンプレックス、太ももの張り。

でもなんで、そこまで言われなきゃいけないの?

自分のお金で買っただけじゃん。自分へのご褒美も許されないの?

「……もういい。帰る。別れたいなら、こんなことしなくてもいいじゃん」

私の目から、大粒の涙が出た。

転勤するまではあんなに、あんなに優しかったのに……。

でも言いたいことも言えない自分に腹が立つ……。

私は弱虫だ。

「なんだよ、それ。いつもだな。相手の顔色うかがって、おどおどして。イライラする! 俺を殴れよ、最後に!」

絢斗、頭、おかしいよ。

なんでそんなに怒ってるの?

別れるなら、それでもういいよ。

「殴れって!!」

絢斗がにらみつけてきた。

もぉ、なんなのよ!! なによ、最低男!!

私は絢斗の左頬を思い切り殴った。

パァン——!!

手が、心が痛いよ……。

「こ、こんな別れ方、最低だよ」

「お前が悪いんだろ。俺を邪険に扱って……」

「さよなら……」

私は涙でグチャグチャの顔で絢斗の部屋を後にした。

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