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第0955話

作者: 龍之介
天河がふと彼女に尋ねた。

「俺たちを招待したなら、当然お前にも招待状を渡してるよな?」

綿は唇を引き結び、無言で近づき、両親の間に腰を下ろした。そして、ポケットから一通の招待状を取り出した。

綿の招待状は、父親のものとは明らかに違っていた。一目で特別に作られたものだとわかる仕様だった。

綿が招待状を開くと、そこには「パートナー」としての招待内容が記されていた。

一方、父親宛のものは単なる「来賓」としてのものだった。

綿と天河は目を合わせた。天河はにっこりと笑い、こう言った。

「招待状を受け取ったってことは、高杉くんと一緒に年次総会に出るって、もう決めたってことだな」

綿は小さく頷いた。

「だったら、俺たちも行こうか」

天河はさらに様子をうかがうように言った。

彼は綿の気持ちを確かめたかった。

「パパ、私が行くかどうかに関係なく、輝明が招待したなら行った方がいいよ。上流社会の場だし、いろんな人との繋がりもできる」

綿は淡々と答えた。

だが、天河はすぐに首を振った。

「それは違う。もしお前と高杉くんが何の関係もないなら、俺たちは出席する気はない。たとえ人脈を広げられたとしても、そんなのはどうでもいい」

綿はまたしても、自分の父親の器の大きさに胸を打たれた。

パパは、本当に誇り高い人だ。

もし自分にも、こんな誇り高さがあったなら。きっと、あんなふうに簡単に輝明に心を許したりはしなかっただろう。

「うん。パパの言うとおり」

綿は天河に向かって力強く頷いた。

だが、今日は本当に疲れていた。彼女は立ち上がり、バスルームへ向かった。

天河は笑って言った。

「さあ、もう休みなさい」

綿は「うん」と答えた。

すると盛晴が提案した。

「せっかく年次総会に出るなら、私がデザインしたドレスを着て行かない?」

綿は振り向き、母親を見てから頷いた。

「うん」

この場にふさわしいのは、今しかない。

綿はシャワーを浴び、ベッドに入り、寝る前にスマホを手に取った。

ツイッターでは、彼女の話題がトレンドに入ったままだ。

LEDビジョンに映し出された自分の名前。

アイドルファンたちでさえも驚き、羨望していた。「まるで我々の豪華応援イベントみたいだ」と。

これも輝明なりの、愛の表現方法だった。

金にものを言わせ、派手に大胆に。それが彼の
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