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第1154話

Author: 龍之介
秋年と玲奈は一瞬きょとんとした。

すぐに秋年は笑い、玲奈は唇を尖らせながら「はいはい、仕方ないから引き受けてあげる!」とぶつぶつ言った。

「明くんが中にいるから、先に入ってね」綿が秋年に声をかけた。秋年は頷き、玲奈と一緒に中へ入っていった。二人は笑いながら談笑し、なんとも和やかだった。

その様子を眺めながら、綿は心から思った。

——本当に、私は幸せだ。

「ボス、ライブ配信始まるよ!もうすぐテープカットだ!」清墨の声が響いた。綿は頷き、「今行く!」と返事をした。

十時の鐘が鳴る頃には、芝生に設けられた席にはすでに来賓が座っていた。

スタジオの名前はまだ赤い布で覆われ、誰もが好奇心でいっぱいだった。

綿のスタジオ、あまりにも秘密主義すぎる!

招待状に書かれていたのはたった一文だけだった。

「5月8日、私のスタジオが開業します。お時間ありましたら、ぜひお越しください」

スタジオとは聞いていたが、何をするのかまでは誰にも知らされていなかった。

「では、余計な言葉はなしにして……スタジオ、いよいよ除幕です!」

綿の声に、皆は現実へ引き戻された。

ライブ配信のコメント欄は一気に盛り上がった。

「早くー!気になりすぎる!」

「ジュエリーデザインのスタジオだって言ってたよね?もしかしていい物でも見つけたのか?じゃなきゃ、急にジュエリーデザインのスタジオなんて開かないでしょ!」

「なあ、バタフライってもしかして綿のスタジオに来たんじゃないか?」

「ありえないだろ!バタフライはフリーでやってるんだぞ!」

「いや、絶対じゃないぞ?もし本当に関係あったら?」

「もしそうだったら、俺、土下座して謝るわ!」

……

綿は頭上の赤布を見上げ、カメラに向かって微笑んだ。

「ここで、皆さんに正式に発表します」

ふわりと微風が吹き、綿の髪が風に揺れた。

彼女はカメラを見据え、優しく微笑みながら宣言した。

「私が、バタフライです」

その瞬間、赤布がめくれ、現れたのは——

「バタフライスタジオ」の文字だった。

場内は一瞬で凍りついた。

「な、なに!?」

「嘘だろ、桜井綿がバタフライだったの!?」

綿は皆の驚きを受け流し、そのまま続けた。

「私の最新作《紅》は、すでに全ネットで先行予約開始しました。これからもたくさん新作を発表していくので、ぜひ
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Comments (1)
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もちむぎ玄米
良いねいいねーー!綿、最高!!笑笑 GOOD!!1人除け者感MAXでショックの秋年、ウケる〜笑笑 本当に綿おめでとう!バタフライ最高! 次は輝明と綿の結婚式かな??笑 玲奈と秋年も有るかも??笑 happy満載でめっちゃ!嬉しくて喜ばしい。心もほんわか温かくなる〜 読んでる側としても口角が上がり笑顔がいっぱい溢れて幸せになる〜 良いよ〜綿、おめでとう!笑笑
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