Masuk九条香織(くじょうかおり)は初恋の人である羽川亮太(はがわりょうた)と結婚し、幸せな毎日を送っていた。香織は亮斗に尽くし、彼のためなら何でもやってのけた。しかし待っていたのは亮太の裏切りだった。彼は会社の部下と関係を持ち、愛人との間に子供まで作った。その後愛人が毒を飲み、亮太は香織を犯人だと疑い凄惨な拷問を加える。失望のまま命を落とした香織の時間は巻き戻っていて…!?香織は亮太との離婚を決意する。一方、香織がいなくなった家で亮太は後悔に苛まれていた。
Lihat lebih banyak彼女の裏切りを知ったとき、礼音はショックを隠しきれなかった。自分と付き合っていながら平然と他の男と愛を交わしていたというのか。彼は深く愛していたはずの真央に嫌悪感を抱くようにさえなった。礼音は両親の影響か、性にだらしない人間を異常なほど毛嫌いしていた。『ちょっと魔が差しただけよ。礼音のことは大好きなの。お願い、やり直しましょう?』真央は礼音を引き留めたが、彼は一方的に連絡を断った。礼音にとっては最悪な初恋の思い出となった。それ以降、彼は初恋の少女の記憶に蓋をして生きていくこととなった。「なぁ、礼音……その初恋の女の子の名前は覚えているか?」「いや……昔聞いたような気がするが……その部分だけは何故か思い出せないんだ」礼音は彼女の顔は覚えていたが、名前だけはどうしても思い出すことができなかった。理由は自分でもわからない。時が経つと共に、記憶から抜け落ちていたのだ。それと、もう一つ思い出せそうで思い出せない記憶があるような……そのとき、彼の脳裏にちょっと前に見た雨の日の記憶がよぎった。死体を抱きしめて泣き叫んでいる自分の姿だ。あの日からちょくちょく似たような夢を見ていた。結局あれが何だったのかは未だにわからない。だが、何故かあの記憶を見るととても辛い気持ちになった。胸が張り裂けそうで……こんな気持ちになるのは初めてだった。「……音、礼音。聞いてるのか?」「……あぁ、すまない。考え事をしていた」我に返って返事をすると、琢磨がアハハッと笑った。「お前がボーッとするなんて珍しいな。よほどあの子に心を揺さぶられているようだ」「……どうだかな」礼音は否定も肯定もしなかった。香織に感情を乱されているのはたしかだったから。そのような彼の姿がよほど珍しいのか、琢磨は笑いを堪えるのに必死だった。「お前、いい加減にしろ」「悪い悪い、お前も血の通った人間なんだなーって思っただけだよ」「どういう意味だ」彼はその問いには答えなかった。「まぁ、俺はたしかめてみる価値はあると思うぞ」「……香織が彼女だとでも?」「調べてみないとわからないだろ」琢磨は面白そうに笑った。礼音はそんな彼の悪ふざけをまともに取り合うつもりはなかった。「まぁ、余裕があったら調査してみろ。香織ちゃんがあの子でないなら切ればいいし……」「お前、何てことを言うんだ?」その発言にイ
――礼音は長い間、一人の女性を探し求めていた。彼が彼女と出会ったのは彼がまだ子供の頃だった。自分より少し年下くらいだろうか。彼女と初めて会ったのは昔住んでいた家の近くにある公園だった。当時、礼音は母親に捨てられて父親の元に引き取られた。義母や義理の兄弟たちは揃って礼音を虐げ、父親はそれを見て見ぬフリした。家庭に居場所は無く、彼は次第に家にいるのが嫌になり、用もなく外へ出るようになった。そんなときに、彼女と出会った。『何てカッコイイのかしら!あなたのことを好きになったわ!結婚しましょう!』彼を見るなり、まだ幼い少女は頬を赤らめてそう言った。家族から虐げられ、一人ぼっちだった彼にとって、彼女は光のような存在だった。顔は薄っすらとしか覚えていないが、香織に似た愛らしい少女であった。そのことを、初めて彼女と出会ったときから彼も感じていた。しかし、そんなわけがないと心のどこかで決めつけていた。彼は彼女を見つけるために実業家となり、探せるだけの権力を手に入れた。そしてようやく、彼女を見つけた――前の恋人と出会ったのは、今から二年前のことだ。礼音は秘書から条件にピッタリ合う女性を見つけたとの報告を受けた。このとき、彼は半信半疑だった。条件が合うというだけで別人、という女をこれまで何度も見てきたからだ。しかし、彼女に会ってみて礼音は衝撃を受けた。彼女の顔が、初恋の少女そっくりだったのだ。彼はそのとき、彼女こそがあのときの少女に違いないと確信した。彼女は鈴木真央(すずきまお)という名前の女性だった。愛らしい笑顔が、初恋の少女とよく似ていた。それから礼音は真央に猛アプローチを始めた。アクセサリーをプレゼントしたり、仕事終わりに家まで送っていったり。彼女を落とすためならどんなことだってやってのけた。その努力の甲斐あって、彼は真央と交際することになった。しかし、恋人同士となるとこれまで見えてくることのなかった彼女の傲慢な部分が見え始めた。『礼音、私あのバッグが欲しいわ』『……前にも買ったばかりだろう?』『それでも欲しいのよ!あなたの財力なら買えるでしょう?』真央は次第に、彼とのデートで毎回高価なプレゼントを自らねだるようになった。それだけではなく、周りにいるカップルまでも貶すようになった。ある日のデートでは、近くにあったファミレスに入って行く男女を見
その頃、礼音は一人部屋で眉をひそめながらスマホの画面を眺めていた。「離婚してからまだ一ヵ月も経っていないというのに……もう再婚か……」彼が見ていたのは亮太と日菜乃の再婚に関する記事だった。礼音はじっと亮太が考えたであろうロマンチックな文章を読んでいた。あの男が言っていると思うと、何故か笑えてくる。SNSでは二人を非難する声と、祝福する声で分かれた。もちろん、礼音はとても祝福なんてできなかった。記事に載っていた亮太と日菜乃の顔写真を眺めていたそのとき、突然彼のスマホの着信が鳴った。「……琢磨?」電話をかけてきたのは彼の友人である下村琢磨(しもむらたくま)だった。今日、礼音と香織がたまたま遭遇した相手でもある。「アイツ……一体何の用だ……」こんな夜中にかけてくるなんて。礼音は面倒に思いながらも出た。「――もしもし、礼音」「お前、何の用だ」電話の向こうから聞こえるおちゃらけた声に、礼音は冷たく返した。「おいおい、機嫌良くなさそうだな。今日は悪かったって」今日、とはおそらく香織の前での軽率な発言のことだろう。そのことを思い出した彼の眉間にシワが寄った。「そんなことを言うためにこんな夜遅くにかけてきたのか?」「いやぁ、まぁ……お前に一言言っておきたかったし」「それだけなら切るぞ。俺は明日も朝早いんだ」通話をさっさと終わらせようとした礼音を、琢磨が慌てて引き留めた。「ちょ、ちょっと待て!お前に聞きたいことがあるんだよ!」「……何だ」まだ何かあるのか、と礼音は彼の言葉を待った。琢磨とは学生時代から交流があるが、親友という間柄ではなかった。むしろ悪友という表現のほうが合っているかもしれない。「お前、今日一緒にいたあの子は……どういう関係なんだ?」「……ただの友人だ、それ以上でもそれ以下でもない」絶対に手出すなよ、と礼音は釘を刺した。「お前、ずっと初恋の女の子を探しているんだったよな?」「……」礼音はスマホを握ったまま黙り込んだ。――初恋の女の子彼が幼い頃恋に落ち、ずっと探している女性。実は礼音が実業家になって権力を手に入れたのは、彼女を探すためでもあった。そのことを知るのは彼の親しい友人のみだが。「お前の元カノは最低な女だった……俺はお前がずっとそのことを引きずっているのをよく知っている」「……」「今日あの子を見て驚い
「結婚式……?」香織は招待状に書かれていた文字を思わず二度見した。(日菜乃と亮太が結婚式を開くですって……?まだ再婚してから日も浅いというのに……)再婚で、しかも略奪婚で結婚式をする夫婦なんてそうそういない。香織は招待状を握りつぶしそうになった。「略奪婚の分際で結婚式とは……それも前妻の香織さんを招待するなんて……」有真も怒りからか、声を震わせている。「ええ、そうですね……私を馬鹿にしているとしか思えません」おそらく日菜乃の入れ知恵だろう。女性として、愛する人と一生に一度の結婚式を挙げて思い出作りをしたいという気持ちは理解できなくもない。しかし、前妻の香織を式に招待するというのはどう考えても異常だ。有真と忠嗣ですら、再婚だったため結婚式は行っていない。(勝手にやっておけばいいものを……)何故わざわざ自分を招待したのか。言われなくてもわかる。この機会に香織に一泡吹かせてやろうという魂胆だろう。その手には乗らない。横から招待状を眺めていた有真が呆れたように言った。「ずいぶんとお高いホテルでやるんですねぇ、良いご身分なことで」「そうですね……私のときはもっとこじんまりとしていましたが」亮太と日菜乃の結婚式を行うのは都内でも有名な超高級ホテルだ。亮太は本当に日菜乃を大事にしているようだ。世間に向けて真実の愛を公表したうえに、高級ホテルでの挙式だなんて。「香織さん、行かなくてもいいんですよ?必ず出席しなければいけないなんてことはありませんから」「……」有真の言葉に香織は悩んだ。(本当は行きたくなんてないけれど……ここで出席しなかったらまるで私がアイツらから逃げているみたい……)そういう風に受け取られるのだけは御免だった。意を固めた香織は有真にニッコリと笑いかけた。「有真さん、私なら平気です。結婚式には参加しようと思います」「ほ、本気で言っているんですか……?」有真は驚いたように香織を見つめた。たしかに、普通の人間ならばこんなもの参加なんてしないだろう。だが、既に二度目の生を歩んでいる香織のメンタルは並大抵のものではなかった。(あの二人が未だに私を貶めようとしている以上、放置しておくわけにはいかない……)離婚したからって安全とはいえないだろう。今世では必ず自分が最後の勝者になると誓ったのだから。「えぇ……結婚祝いのプレゼント
あっという間に五日が過ぎ、パーティーの日になった。「香織お嬢様、本当によくお似合いです。会場にいる全員がお嬢様に目を奪われるでしょう!」「そうかしら?」華やかな青いドレスに身を包み、長い黒髪を結い上げた香織は、行きつけの美容院の店長――鏑木壮太(かぶらぎそうた)の手を取り、彼の車へと向かっていた。「あなたの腕がいいのよ、いつも感謝しているわ」「それはこちらのほうですよ、お嬢様。お嬢様の父君には感謝してもしきれません」壮太は優雅に香織をエスコートし、車のドアを開けた。香織が黒のSUVの後部座席に乗り込むと、壮太が運転席に座った。「あなたが運転してくれるのね」「安物の車で申し訳
有真は結婚する十年前まで、忠嗣の経営する会社の社員として働いていた。彼女は一般家庭の生まれだったが、努力を重ねて有名大学を卒業後、大企業へと就職することができた。そんな有真は、学生時代から明るい性格でクラスの人気者だった。絶世の美人というわけではなかったが、穏やかで優しく、いつだって周囲に気さくに振舞うその姿は男女問わず魅了した。――そんなところが、彼を虜にしたのかもしれない。彼女が九条グループに入社してから一ヵ月、有真は広い会社内で迷子になっていた。(道に迷っちゃったわ……会議室はどこかしら……)会議が始まるまではあと少しだ。入社早々遅刻するわけにはいかない。有真は焦っていた。彼
夜になり、ドキドキ初出勤を終えた香織は九条邸へと戻った。結婚前はどんな小さな用でも車で送り迎えをしてもらっていた香織だったが、今日は歩きだった。(職場まではそう遠くないし……運動のためにも歩こう)羽川家では車に乗れないのが普通だったせいか、歩きに慣れてしまったようだ。しばらく歩くと、羽川家の邸宅に到着した。(今でもここへ帰るのは慣れないわね)香織はそう思いながら鍵を使って中に入った。「香織さん、おかえりなさい」「ただいま、有真さん」帰宅した香織を、継母の有真が出迎えた。夜ご飯を作っている最中だったのか、長い髪を一つにまとめてエプロンを着ていた。有真は忠嗣の二十歳年下で、香織の
それから一週間後。「初めまして、九条香織です。これからよろしくお願いいたします」「……」香織は父親の会社で新入社員として入社していた。彼女を見た社員たちはしばらく固まったあと、ヒソヒソと噂話をし始めた。「九条って言った……?もしかして社長の娘さん……?」「間違いないわ。社長の娘、夫と離婚して実家に帰ったらしいわよ」「よりによって何でこの部署に……社長の娘とか気使うわー……」「……」香織の第一印象はあまり良くなかった。コネ入社、血筋が良いだけ、だとか散々な言われようだ。しかし香織はそんな中傷など気にも留めなかった。彼女が羽川家で受けた屈辱に比べれば、こんなもの大したことないか
Ulasan-ulasan