INICIAR SESIÓN九条香織(くじょうかおり)は初恋の人である羽川亮太(はがわりょうた)と結婚し、幸せな毎日を送っていた。香織は亮斗に尽くし、彼のためなら何でもやってのけた。しかし待っていたのは亮太の裏切りだった。彼は会社の部下と関係を持ち、愛人との間に子供まで作った。その後愛人が毒を飲み、亮太は香織を犯人だと疑い凄惨な拷問を加える。失望のまま命を落とした香織の時間は巻き戻っていて…!?香織は亮太との離婚を決意する。一方、香織がいなくなった家で亮太は後悔に苛まれていた。
Ver más「日菜乃様、どちらへ行かれるのですか?」「奥様よ、言葉に気を付けなさい」「も、申し訳ございませんッ……!」そのとき、日菜乃は羽川家の本邸で外出の準備をしていた。彼女がこの家の女主人となってからまだ日が浅い。(ようやく……ようやく邪魔な女を追い出して本妻の座を手に入れることができたわ……!)愛人として過ごした年月があまりにも長かったせいか、何だか涙が出そうになった。しかし、まだ彼女の計画が終わったわけではない。気に入らない女を痛い目に遭わせるまで彼女は諦めたりしない。「次は無いわ、次そう呼んだら亮太に言ってアンタをクビにしてもらうから」「は、はい……」使用人の一人はビクッと体を震わせながら返事をした。彼女は日菜乃の剣幕に驚きを隠せなかった。日菜乃はこんなにも怖い人だっただろうか?いつも亮太の隣で美しく穏やかに微笑み、私たち下の人間にも優しく接してくれるような人だった。社長が怒ると庇ってくれ、彼女に助けられたという羽川家の人間は多い。だからこそ、羽川家の者たちは日菜乃を好きになり、彼女にとっての邪魔者である香織を毛嫌いしていたのだ。それなのに、今はどうして日菜乃が恐ろしく感じるのか。メイドは彼女をおそるおそる見上げた。「……どうかした?」顔を上げると、日菜乃は以前と変わらず美しく笑っていた。「あ……いえ、何でもありません」さっきのは見間違いか。彼女はそのことに安堵した。あの聖母のような日菜乃が私たちにそんな態度を取るはずがない。香織じゃないんだから。亮太と同じく、彼らの中でもまた、日菜乃は女神で香織は悪女だった。日菜乃の本当の姿など、当然知る由もない。「亮太の元へ行くのよ」「社長のところへですか?」「ええ、何か問題でも?」「い、いえそういうわけではありません!」日菜乃の機嫌を損ねるわけにはいかない。亮太にすら嫌われている香織のことは適当に扱っていたが、彼女のことは大切にしなければならなかった。日菜乃に何かあれば、亮太が黙っていないだろうから。「いってらっしゃいませ、奥様」「いってくるわ」メイドはエントランスで日菜乃を見送った。彼女は服を着替え、亮太のいる本社へ車で向かった。主人のいなくなった邸宅で、メイドはリラックスしながら中を歩き回っていた。亮太と日菜乃がいないだけでこんなにも心が楽なのか。ちょっとくらいサボっても
再婚を発表してから数日後、亮太は虚ろな目で社長室の椅子に座っていた。「社長……大丈夫ですか?」「……平気だ」心配そうに彼を見つめる芹沢に返事をしたが、とても平気そうには見えなかった。彼の目は暗くどんよりとしていて、焦点が合っていない。香織と離婚してからというもの、彼はずっとそのような調子だった。あの日、日菜乃が亮太の部屋に押し入るまで彼はずっと自室に引きこもっていた。彼女のおかげで何とか仕事に復帰したはいいものの、何故か仕事があまり手に付かなかった。最近、ずっとくだらないことばかりを考えてしまう。それに夜になると、悪夢をよく見る。ただ自分が知らない男たちから凄惨な暴力を受け続けているだけの夢。何かを思い出せそうな気がしてならない。しかし、今の彼にとってはそんなこと重要ではなかった。――この選択は、本当に正しかったのだろうか。そのような疑念が彼の心に浮かんではいつまでも消えなかった。香織と離婚した彼は、すぐに日菜乃と籍を入れた。離婚してから日も浅い再婚だ。非難の声がまだまだあるのは彼も知っている。しかし、彼が気がかりだったのはそんなことではなかった。「社長、日菜乃様がお昼に社長の様子を見に来るそうです」「日菜乃……」「いやぁ、日菜乃様は本当に良い奥様ですね。前の奥様とは大違いだ」そんなのは当たり前のことだ――といつもの亮太ならそう言っているだろう。しかし、そんな言葉が何故か口から出なかった。彼女を正式な妻にしてからというもの、亮太は日菜乃に妙な違和感を感じるようになった。彼女の傍が居心地悪いと感じるのは初めてだった。日菜乃が作った料理も味がしないし、一緒にいても安らぎを感じなかった。(香織と結婚していた頃の方が楽に過ごせていたな……)彼女を恋しく思う日が来るとは、想像もしていなかった。しかし、今さら後悔したところで全てが遅すぎるのだ。「なぁ、芹沢……香織は元気にしているか?」「……社長、急にどうなさったんですか?」芹沢が驚いたような顔で彼を見た。驚いたのは亮太も同じだった。「前の奥様のことが気になるのですか?」「いや、そういうわけでは……」否定しようとした亮太に対し、芹沢がニヤリと醜悪な笑みを浮かべた。「結婚式にはあの方も呼んだのでしょう?きっと惨めな姿を見られると思いますよ」「惨めな……」その言葉で、亮太は数ヵ月
彼女の裏切りを知ったとき、礼音はショックを隠しきれなかった。自分と付き合っていながら平然と他の男と愛を交わしていたというのか。彼は深く愛していたはずの真央に嫌悪感を抱くようにさえなった。礼音は両親の影響か、性にだらしない人間を異常なほど毛嫌いしていた。『ちょっと魔が差しただけよ。礼音のことは大好きなの。お願い、やり直しましょう?』真央は礼音を引き留めたが、彼は一方的に連絡を断った。礼音にとっては最悪な初恋の思い出となった。それ以降、彼は初恋の少女の記憶に蓋をして生きていくこととなった。「なぁ、礼音……その初恋の女の子の名前は覚えているか?」「いや……昔聞いたような気がするが……その部分だけは何故か思い出せないんだ」礼音は彼女の顔は覚えていたが、名前だけはどうしても思い出すことができなかった。理由は自分でもわからない。時が経つと共に、記憶から抜け落ちていたのだ。それと、もう一つ思い出せそうで思い出せない記憶があるような……そのとき、彼の脳裏にちょっと前に見た雨の日の記憶がよぎった。死体を抱きしめて泣き叫んでいる自分の姿だ。あの日からちょくちょく似たような夢を見ていた。結局あれが何だったのかは未だにわからない。だが、何故かあの記憶を見るととても辛い気持ちになった。胸が張り裂けそうで……こんな気持ちになるのは初めてだった。「……音、礼音。聞いてるのか?」「……あぁ、すまない。考え事をしていた」我に返って返事をすると、琢磨がアハハッと笑った。「お前がボーッとするなんて珍しいな。よほどあの子に心を揺さぶられているようだ」「……どうだかな」礼音は否定も肯定もしなかった。香織に感情を乱されているのはたしかだったから。そのような彼の姿がよほど珍しいのか、琢磨は笑いを堪えるのに必死だった。「お前、いい加減にしろ」「悪い悪い、お前も血の通った人間なんだなーって思っただけだよ」「どういう意味だ」彼はその問いには答えなかった。「まぁ、俺はたしかめてみる価値はあると思うぞ」「……香織が彼女だとでも?」「調べてみないとわからないだろ」琢磨は面白そうに笑った。礼音はそんな彼の悪ふざけをまともに取り合うつもりはなかった。「まぁ、余裕があったら調査してみろ。香織ちゃんがあの子でないなら切ればいいし……」「お前、何てことを言うんだ?」その発言にイ
――礼音は長い間、一人の女性を探し求めていた。彼が彼女と出会ったのは彼がまだ子供の頃だった。自分より少し年下くらいだろうか。彼女と初めて会ったのは昔住んでいた家の近くにある公園だった。当時、礼音は母親に捨てられて父親の元に引き取られた。義母や義理の兄弟たちは揃って礼音を虐げ、父親はそれを見て見ぬフリした。家庭に居場所は無く、彼は次第に家にいるのが嫌になり、用もなく外へ出るようになった。そんなときに、彼女と出会った。『何てカッコイイのかしら!あなたのことを好きになったわ!結婚しましょう!』彼を見るなり、まだ幼い少女は頬を赤らめてそう言った。家族から虐げられ、一人ぼっちだった彼にとって、彼女は光のような存在だった。顔は薄っすらとしか覚えていないが、香織に似た愛らしい少女であった。そのことを、初めて彼女と出会ったときから彼も感じていた。しかし、そんなわけがないと心のどこかで決めつけていた。彼は彼女を見つけるために実業家となり、探せるだけの権力を手に入れた。そしてようやく、彼女を見つけた――前の恋人と出会ったのは、今から二年前のことだ。礼音は秘書から条件にピッタリ合う女性を見つけたとの報告を受けた。このとき、彼は半信半疑だった。条件が合うというだけで別人、という女をこれまで何度も見てきたからだ。しかし、彼女に会ってみて礼音は衝撃を受けた。彼女の顔が、初恋の少女そっくりだったのだ。彼はそのとき、彼女こそがあのときの少女に違いないと確信した。彼女は鈴木真央(すずきまお)という名前の女性だった。愛らしい笑顔が、初恋の少女とよく似ていた。それから礼音は真央に猛アプローチを始めた。アクセサリーをプレゼントしたり、仕事終わりに家まで送っていったり。彼女を落とすためならどんなことだってやってのけた。その努力の甲斐あって、彼は真央と交際することになった。しかし、恋人同士となるとこれまで見えてくることのなかった彼女の傲慢な部分が見え始めた。『礼音、私あのバッグが欲しいわ』『……前にも買ったばかりだろう?』『それでも欲しいのよ!あなたの財力なら買えるでしょう?』真央は次第に、彼とのデートで毎回高価なプレゼントを自らねだるようになった。それだけではなく、周りにいるカップルまでも貶すようになった。ある日のデートでは、近くにあったファミレスに入って行く男女を見
あっという間に五日が過ぎ、パーティーの日になった。「香織お嬢様、本当によくお似合いです。会場にいる全員がお嬢様に目を奪われるでしょう!」「そうかしら?」華やかな青いドレスに身を包み、長い黒髪を結い上げた香織は、行きつけの美容院の店長――鏑木壮太(かぶらぎそうた)の手を取り、彼の車へと向かっていた。「あなたの腕がいいのよ、いつも感謝しているわ」「それはこちらのほうですよ、お嬢様。お嬢様の父君には感謝してもしきれません」壮太は優雅に香織をエスコートし、車のドアを開けた。香織が黒のSUVの後部座席に乗り込むと、壮太が運転席に座った。「あなたが運転してくれるのね」「安物の車で申し訳
有真は結婚する十年前まで、忠嗣の経営する会社の社員として働いていた。彼女は一般家庭の生まれだったが、努力を重ねて有名大学を卒業後、大企業へと就職することができた。そんな有真は、学生時代から明るい性格でクラスの人気者だった。絶世の美人というわけではなかったが、穏やかで優しく、いつだって周囲に気さくに振舞うその姿は男女問わず魅了した。――そんなところが、彼を虜にしたのかもしれない。彼女が九条グループに入社してから一ヵ月、有真は広い会社内で迷子になっていた。(道に迷っちゃったわ……会議室はどこかしら……)会議が始まるまではあと少しだ。入社早々遅刻するわけにはいかない。有真は焦っていた。彼
夜になり、ドキドキ初出勤を終えた香織は九条邸へと戻った。結婚前はどんな小さな用でも車で送り迎えをしてもらっていた香織だったが、今日は歩きだった。(職場まではそう遠くないし……運動のためにも歩こう)羽川家では車に乗れないのが普通だったせいか、歩きに慣れてしまったようだ。しばらく歩くと、羽川家の邸宅に到着した。(今でもここへ帰るのは慣れないわね)香織はそう思いながら鍵を使って中に入った。「香織さん、おかえりなさい」「ただいま、有真さん」帰宅した香織を、継母の有真が出迎えた。夜ご飯を作っている最中だったのか、長い髪を一つにまとめてエプロンを着ていた。有真は忠嗣の二十歳年下で、香織の
それから一週間後。「初めまして、九条香織です。これからよろしくお願いいたします」「……」香織は父親の会社で新入社員として入社していた。彼女を見た社員たちはしばらく固まったあと、ヒソヒソと噂話をし始めた。「九条って言った……?もしかして社長の娘さん……?」「間違いないわ。社長の娘、夫と離婚して実家に帰ったらしいわよ」「よりによって何でこの部署に……社長の娘とか気使うわー……」「……」香織の第一印象はあまり良くなかった。コネ入社、血筋が良いだけ、だとか散々な言われようだ。しかし香織はそんな中傷など気にも留めなかった。彼女が羽川家で受けた屈辱に比べれば、こんなもの大したことないか
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