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第3話

مؤلف: ピーチー
神殿の空気が、凍りついたように静まり返った。

誰もが、自分の目を疑うかのように驚愕した顔で、私を凝視している。

私は、もとは力を持たない、ただの人間だった。このオリュンポスで生き延びるために、これまでどれほど容赦なく嘲られ、蔑みに耐えてきたことか。1枚1枚の金貨を、爪を立てるようにして積み上げてきたのだ。

ここにいる祭司も召使いも、誰もが知っているはずだ。あの膨大な富と、権威の象徴たる杖を手にするために、私が人生の半分を費やしてきたという事実を。

それを今、何一つ成し遂げたことのないあのセイレーンに、すべてくれてやろうとしているのだから。

ゼイルが戸惑ったように眉を上げた。

「クレッサ、お前……」

何か言いかけたようだが、彼は結局、満足げに深く頷くだけにとどめた。

「らしくないな、お前がそんなにあっさりと手放すなんて」

「いや、珍しいこともあるものだ」

父が大股で歩み寄り、私の手から巻物を乱暴にひったくった。その顔に浮かんだ笑みは、ここ数年見たことがないほどに満ち足りたものだった。

「クレッサ」

父は朗々とした声を響かせた。

「お前もようやく、大祭司らしい度量の広さを見せられるようになったか。ようやく、我が一族の名にふさわしい娘になったな」

寛容。物分かりがいい。

彼らはそんな美しい言葉を並べ立てて、自分たちの強欲な行為を、平然と正当化していたのだ。

そんな彼らを見つめていると、突然、胃の底から激しく込み上げてくるものがあった。

体が、ついに私を裏切ったのだ。

激しい咳の発作が全身を貫き、私は耐えきれずに冷たい大理石の床へと、どす黒い血と、黒い灰の塊を吐き出した。

それは、タルタロスの死呪の紛れもない証。私の魂がすでに焼け落ち、灰になろうとしている何よりの証だった。

ホールが、一瞬にして死んだように静まり返る。

ゼイルが弾かれたように立ち上がり、手にしていた杖が大きな音を立てて床へ転がった。

彼は瞬く間に私のそばへ駆け寄ってきた。

震える両手で、今にも崩れ落ちそうな私の身体をしっかりと支える。

「クレッサ!どうしたんだ!なんで血を吐くんだ!」

母が短い悲鳴を上げ、手にしていた巻物を放り出して駆け寄ってきた。その瞳は瞬く間に赤く潤む。

「そんな……!あなたは神殿の治癒の巫女でしょう、どうしてこんなに深く傷ついているの……!」

父は一言も発しなかったが、強く食いしばられた顎と、鋭く息を呑む音が、彼の胸中を走った恐怖をありありと物語っていた。

彼らの瞳に浮かんだ、紛れもない動揺と痛みの色を見て、私の胸の中に苦い波が広がっていった。

そう、彼らにだって、私を案じる心は残っていたのだ。私のために、痛みを感じる心があったのだ。

なんて残酷なことだろう。

そう気づくには、あまりにも遅すぎたけれど。

ゼイルの指先が私の頬に触れようとしたまさにその時、メローラが甲高い悲鳴を上げた。

彼女は玉座にぐったりともたれかかり、胸を苦しげに押さえて荒い息を吐いた。

「お姉様……!神殿を手放すのがそんなに嫌だったのなら、はっきりそう言ってくれればよかったのに!自分にまでそんな『憐れみの呪い』をかけて、私たちを罪悪感で追い詰めるなんて!ごほっ、ごほっ……そんなに辛いなら、お姉様……神殿なんて、私いらないわ……!」

メローラの一言で、場に張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。

母の差し伸べかけていた手が、ぴたりと空中で凍りつく。その瞳に浮かんでいた親としての痛みは、瞬く間に裏切られたことへの激しい怒りへと塗り替えられた。

彼女は露骨な嫌悪を浮かべて手を引っ込めると、後ずさって絹のハンカチで自らの鼻を覆った。

「クレッサ、いい加減にして、被害者ぶるのはやめなさい!メローラに罪悪感を植え付けるために、自分にそんな邪悪な呪いをかけるなんて!

せっかくみんなであなたの寛大さを褒めていたのに、こんなふうに血を吐いて、その場を台無しにするつもりなの!同情を引こうとするその見苦しい芝居……本当にいい加減にしなさい!」

ゼイルの手もまた、宙で止まったまま動かなくなった。その瞳から先ほどの動揺はすっかり消え去り、代わりに底知れない疲労と、背筋が凍るほどの冷たい色が浮かび上がる。

「クレッサ、お前には失望した。危うくお前の芝居に騙されるところだったよ。いつになったら、こんな子供じみた真似をやめるんだ?」

彼は、メローラの口にした「自らかけた憐れみの呪い」という都合のいい言い訳にすがりついた。

それはあまりにも非情な解釈だったが、あの黒い灰が示している、もっと恐ろしく絶望的な真実を認めるよりは、彼にとってずっと楽だったのだろう。

私は手の甲で、口の端に付着した黒い灰をゆっくりと拭い去った。

そして、再び冷淡でよそよそしい表情に戻った彼らの顔を見つめた。私の瞳もまた、よどんだ深い水面のように静かで、何一つ感情の残っていない空っぽなものだった。

彼らこそが、この世に残された最後の身内だった。

「母様、父様」

私の声はひどく静かだった。それでいて、探るような奇妙な響きを帯びていた。

「もし、いつか私の魂が完全に砕け散って……私がただの星屑になって、二度とこの世界に戻ってこなくなったら……あなたたちは、後悔しますか?」

「馬鹿げたことを言うのはいい加減におしなさい!」

母が甲高い怒声で私の言葉を遮った。

「あなたは海神の魔力に守られてきた、治癒の巫女でしょう!魂が砕けるなんてそんなこと、ありえるはずがないじゃない!ただメローラが幸せになるのが気に入らないからって、死なんて不吉な言葉であの子を呪おうとするなんて!」

「そうだよ、母様!」

フィロンが、いつの間にかメローラの隣へと移動し、彼女の衣の袖を強く引っ張りながら叫んだ。

「父様がこんなに魔力を注いで守ってあげてるのに、まだ自分が可哀想だって顔をするつもり?本当に可哀想なのはメローラ叔母様の方だよ!メローラ叔母様は呪われたセイレーンだから、ずっと苦しんでるんだよ!母様の持ち物くらい、あげたって当然でしょ!」

メローラは玉座に力なくもたれかかったまま、フィロンの髪を撫でた。その瞳には、隠しようのない勝ち誇った優越感が輝いている。

「ありがとう、フィロン。彼女をそんなに責めちゃだめよ。ちょっとだけ、いじけているだけなんだから」

いじけている?

私はフィロンの幼い顔をじっと見つめた。ゼイルの面影を濃く残したその顔。彼が心の底から嬉しそうに、メローラの腕へと擦り寄っていく姿を、ただ静かに見つめていた。

「ふふふ……フィロン」

私はふっと微笑んだ。それは、この数週間でいちばん、心からの安堵に満ちた穏やかな笑みだった。

「そんなにメローラ叔母様が好きなら……これからは、彼女のことを『母様』と呼んでいいわよ」

フィロンの目が、驚きと喜びで丸く見開かれた。

「本当に?母様って呼んでいいの!?」

彼は歓声を上げてメローラへと飛びつき、その上質な絹の衣に顔をすり寄せた。

「やったあ!メローラ母様!本当の母様より、ずっといいや!」

ゼイルは、目の前で繰り広げられる幸せそうな「3人家族」を見つめながら、目元に柔らかな笑みを浮かべていた。

両親もまた、これこそが理想の一家団らんだとでも言わんばかりに、満足そうに頷いている。

私はただ静かに、その光景を見つめていた。

「メローラ母様」。その無邪気な一言を聞いた瞬間、私の心の奥底にわずかに残っていた最後の希望が、音を立てて燃え尽き、完全な灰になった。

彼らには、私など最初から必要なかったのだ。誰も、私の存在など気にかけてはいなかった。

私は背を向け、神殿の重い扉を閉めてその場を後にした。

残された時間は、あと1日。この広い世界のどこにも、私の行く当てなどなかった。

思えば、私は生まれてから息をつく暇もなく、ただ気を張り詰めて生きてきた。一度でも立ち止まって、人間の世界をこの目でゆっくりと眺めたことなど、なかった気がする。

私は人間界の渡し船の切符を買い求めた。一度でいい、ただの人の目で、夜の静かな海を見てみたかったのだ。

そびえ立つ人間界の山にも登ってみたかったけれど、崩壊しつつあるこの体はもう、その苦行に耐えられそうになかった。

意識が完全に途切れてしまう直前、私はこの5年間、一度として触れることのなかった通信の水晶を、力強く握り砕いた。

そして、私の視界はすべて深い闇の底へと沈んでいった。

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