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【第6話】黒い瞳の子猫・①《回想》(カイル・談)

Penulis: 月咲やまな
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-17 10:22:43

 ——九年前の同日。

 僕はさっきまで居た部屋と同じ部屋の中で、大理石の床に白いチョークで魔法陣を描いていた。今日みたいなワクワク感は微塵もない。退屈で退屈で、日々の鬱憤をぶつけるかの様に書き殴っていた為、何度もチョークが折れる。舌打ちし、新しいチョークを腰に付けた道具入れのポーチから取り出すと、再び魔法陣を黙々と書きはじめた。

 魔法陣の書き方は完璧に覚えている。もちろん、呪文も。

 入手の難しい召喚用魔法具も、必要数である七つ全てを、既存品で世界中から集めるのは持ち主との交渉や遺跡の発掘などをせねばならずかなり大変そうだったので、何年も掛かったが材料から揃えて自分で作ってみた。貴重な材料ばかりではあったが、手に入らない程の物じゃ無い。作り方自体は“神子”である僕達の手にかかれば難しいって程ではないので、無駄に何個も何個も、手持ちの材料が無くなるまで作った。時間だけは無限にあるから、いい暇潰しになった。

 こんな面倒くさい方法にしているのはきっと、古代魔法を創り出した神々が暇潰しも兼ねて生んだ魔法だったからなんじゃないかと、魔法陣を書きながらふと思った。無限に続く生に辛さを感じるのは、きっと僕達“神子”だけではないはずだ。それはきっと、父達も……。

 強く望めば死ねるだけ、創造の神々の一人でもある父よりはまだマシかもしれないが、それを選ぶのは流石に怖い。この箱庭世界の中で繰り返し生まれ変わる『輪廻の輪』から外れた存在である自分達“神子”の魂は、死ねば消えて完全に無くなる事を本能的に知っていたからだ。

「こんなもんかな」

 ぽつりと呟き、立ち上がる。作業部屋から持って来た七つの魔法具を魔法陣の上に並べると、それらは淡い光を放ち、その綺麗な情景に少しだけ心が動いた。

 久しぶりの感覚にほっとする。

(……まだ自分の心は、死んでいない)

 それがちょっと嬉しかった。

「僕が居ないと困る存在がいいな」

 要望を口にし、異世界から他者を召喚出来るというちょっと胡散臭い魔法を発動させる魔法陣へ、魔力を注ぐ。

「……んで、うるさく無い奴」

 言葉にしたからってそれが叶う仕様では無かった筈だが、言うだけなら別にいいだろう。

 魔力を魔法陣に注ぎながら、父神達の言葉で作られた呪文を口にする。純なる人間では発音も、上手に聴き取る事も困難なその音は、いつ聴いても自分から発せられた音だとは思えなかった。

 ハープで奏でられたような、美しい天上の音色を聴くのに近い感覚が耳に心地いい。それだけでもこの召喚魔法をやってみようと思った自分を褒めてやりたくなる。これで希望に沿った対象を呼び出す事さえ出来れば満点だが、相手のいる行為だ。自分は気に入っても、相手が自分を気に入ってくれるかが正直気掛かりだった。——その逆も、また。

(でも、もう遅い)

 魔法陣は完成し、僕は呪文を唱え始めていて、呼応して七色に光っている。中心部が周囲以上の光を強く放ち、この召喚魔法の完了が近い事を知らせている。

 書かれた文字から発せらる小さな光達も、クルクル回りながらもどんどん中心へと吸い込まれていた。

「……召喚」

 ボソッと締めくくりの言葉を呟いた瞬間、魔法陣の中心が最大限に光を放ち、部屋の中が一瞬真っ白に染まった。眩し過ぎて目が開けられない。

『これ、普通の人間だったら失明するんじゃないか?』と思う程の強烈な光が緩やかに収まると、魔法陣の文字は消えていて、白い霧の様なモヤを部屋中に漂わせていた。

 でも、その中心部に何かが居る気がしない。

「……失敗したのか?」

 投げやりに描いた魔法陣と、ろくに計算もしないで描き連ね、この世界で困らない様にと追加した言語変換魔法などを折り混ぜた周囲の術式。そんなんじゃ失敗していてもおかしくなかったのかもしれないと、今更な不安が頭によぎる。

 だけど魔力はゴッソリと持っていかれているのがわかるし、先程の行程が本にあった通りの様子だったのは間違いない。

「これ。もしかして……」

 続きの言葉が、喉の奥で詰まった。

 そもそも、『異世界からの召喚魔法なんてものが、実は冗談だったんじゃないだろうか』『異世界だなんてものはそもそも空想の産物なのでは?』という考えが頭をもたげる。だとするならば神々も性格が悪い。悪戯な魔法を古代魔法書に載せ、いつか引っかかる僕達を思って笑っていたのかもしれないと考えると、少し腹が立ってきた。

「『異世界からの召喚』とか、面白そうな言葉で釣るって……ホント、意地が悪いな」

 でも、まだ苛立ちを感じる事が出来た。

 その事に気が付くと、フッと肩の力が抜けてしまった。床を蹴り、まだ少し残る不貞腐れた気持ちをぶつける。だけど口元には、少し笑顔を作るように緩んだのを感じた。

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