Chapter: 【こぼれ話】エピローグの更に後(アルカナ・談)「——アルカナッ!」 バンッと木製の扉を開けて、叶糸が“応接室”と定義されている空間に入って来た。何か急ぎの用事があるのか随分と慌てた様子だ。「……どうかしたのか?」 手をかざし、近くにあるローテーブルの上に並ぶ食器類を消し去る。一人で『此処』に居た時には用意した事もなかった物ばかりなので、この一連の行為自体がちょっと新鮮だった。 ソファーに座る私の傍までドスドスと足音をたてながら叶糸が来たかと思うと、今度は両腕をガシッと掴まれ「『ノア』が来ていたって、本当か⁉︎」と大きな声で訊かれた。 「あ、あぁ。でももう深淵に沈むレベルの『睡眠モード』に戻ったぞ?」 「……ん?オレに用があって来た訳じゃなかったのか?」 「そうみたいだな。まぁ、奴は新規就任者に『ご挨拶』ってタイプでもないし。次に目を覚ましたらきっと、今度は叶糸に『無理難題』を押し付けてくるんじゃないかな」 「……じゃあ、今回は何をしに起きて来たんだ?」と言い、首を傾げる仕草が可愛い。今の私は前以上に小柄に退化したせいで、前よりももっと叶糸が大きく感じているのに、最近また彼を『可愛い』と思えるのは何でなんだ?と、今度は自分が首を傾げたくなった。「あ、えっと、第一声が『まだ居たんだな。もう消えているかと思ってたぞ』だったから、一応は、私の顔を見に来たの、かも?」「失礼な奴だな」と溢し、眉間に皺を寄せる。ビキッと音を鳴らしながらこめかみに血管が浮き出る様子を生まれて初めて見た。 「あ、えっと、今の『此処』の状況を褒めてもいたぞ?」 気を逸らそうと慌てて別の話題を口にする。『ハコブネ』を管理している者が『ノア』に敵対心を抱くのは得策じゃないからだ。「……『此処』の状況を?」 興味を引くことに成功したみたいだ。よし、このまま話を続けよう。「あぁ」と頷き、「『“此処”を改装した者は今までいなかったけど、面白いね!』と喜んでいたぞ」と叶糸に教えた。 今は『ノア』と名乗っている意識体が憧れの『地球』を真似て、その体を『ハコブネ』として惑星化して以降、ずっと無個性だったこの空間が今ではまるで
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-05
Chapter: 【こぼれ話】出産にまつわる疑問(南風叶糸・談) アルカナとの結婚後。 俺達は子宝に恵まれ、十人もの子供を授かった。黒竜タイプの『西洋ドラゴン』の獣人である長男を筆頭に、二度目の出産では四つ子の『四聖獣』の獣人達を、三度目の出産では『神獣・バステト』の獣人が産まれるなど、他の子達も例に漏れず豪華絢爛な顔ぶればかりだ。 南風アルカナが『龍』の獣人である事から一応は納得してもらえているが、通例通りならば、『希少種』に分類される獣人は一代限りの出生のはずだ。しかも『龍』以外の誕生は初めてのもので、この点でも、うちの子供達は全員異例中の異例揃いなのである。(そのうえ、ほぼ毎年の様に出産とか。アルカナは妊娠しやすい体質なのか?) 毎度毎度必ず中出しだし、避妊は一度もしていない。最低五回、しかもほぼ毎夜。アルカナの体は変幻自在な霊体に近い構造なので、生理という現象がそもそもこないおかげで、出張の時以外はたっぷり閨事に付き合ってもらっている。そう考えると、まぁわからなくもないペースだが、それにしたってだ。 貴族の家庭はそもそも子育てを自分ではしないし、南風家の協力もあって何人産まれようが問題は無いし、全員ちゃんと可愛いとは思うが——(どうしたって、アルカナの興味が分散されるのがなぁ……) アルカナにも、南風の当主夫婦にも、もちろん子供達にも絶対に言えないが(言わないが!)、本心としてはちょっと面白くない。なので思い切ってアルカナに直球で訊いてみた。「……アルカナは、妊娠しやすい体だったりするのか?」 「君が、毎度『孕め』と言うからだろう?」 お前のせいだろと言わんばかりの顔で返されてしまった。 あぁ、思い当たる事しかないなぁ。 確かに、本能が暴走して毎度毎度言っている気がする。アルカナはオレの『認知』の影響をかなり受け易い体だから、全部オレのせいかー。 額に手を当て、天井を仰ぎ見る。(あーうん。訊いてみて良かった) 子供達は可愛いが、あまりにも多過ぎると要らぬ摩擦も生まれる。 この先はもうずっと『孕め』は禁句指定にしようと決めた途端、アルカナの出産ラッシュはぴたりと止まり、俺
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-03
Chapter: 【エピローグ】死にたかった君に救いの手を(叶糸・談) 魔術で鍵をかけ、今はオレ達しか居られなくしたこの空間で二人。可愛い可愛いアルカナをこちらに背を向けさせた状態で膝に座らせ、彼女の両方の膝下を掴んで激しく上下に揺さぶる。すると愛らしくも情けない声をあげてアルカナがビクッと大きく体を震わせた。手首に枷を嵌めさせ上方向にぐっと引っ張った状態なので頽れずに済んだが、意識は一瞬飛んだみたいだった。「またイッたのか?久しぶりだからって、イキ過ぎだろ」 ぐだぐだに濡れる肉芽を指先で押すように擦ると、また「んおっ!」と声をあげて体を震わせる。同時にビシャッと床に向かって潮まで吹いて、可愛いったらありゃしない。(潮吹きなんて初めてしてくれたな。晩年近くは流石にココまでちゃんとは抱けていなかったし、長い事前戯くらいだったから、アルカナも多少は欲求不満だったのか?) 彼女の脚を支える為に新たな枷を魔力で編み、双方の太腿に嵌めて吊り下げる。それにより自由になった両方の手で、すっかりツンッと硬く唆り勃った肉芽や、オレのモノをギチッと呑み込んで離そうとしない蜜口を優しく撫でてやると、アルカナがまた変な声をあげてギュギュッとナカを食い締めた。「ん、ぐっ」 何とか耐えたが……今のはヤバかった。今まで何度も抱き倒してきたけど、此処に来てからの方がアルカナの感度が格段に上がっている感じがするのはオレの気のせいなんだろうか。「はぁ、はぁ、はぁ——」 何度も肩で呼吸を繰り返し、イキ過ぎて虚な眼差しになっているのに、動いて欲しいと強請るみたいにナカをキュンキュンとさせるとか。『こんなもので終わるのか?』と煽っているとしか思えない。「この体位だと奥までは挿入らないっていうのに、こんなに欲しがってくれるとか、夫冥利に尽きるなぁ」 アルカナを背後から抱き締める。元は『人間』だったのか、今のアルカナには『龍』の獣人だった時のような角や特徴的な長い尻尾は生えていない。抱き易いが、その事が少しだけ寂しい。しかも体格もかなり変わり、小さくてまるで子供みたいだ。白銀の髪色や金色の瞳は健在だが、これは魔力の保有量が影響してのものだろうから、きっと彼女が生まれ持った『色』なのだ
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-01
Chapter: 【最終話】願い・後編(南風アルカナ・談) 遥か彼方に存在するという『地球』を模した巨大な生命体『惑星・ハコブネ』を『管理』している超越者にも近き我々だって、元はただの『人間』だ。千年近くの刻をたった一人で管理し続けるのはどうしたって無理がある。孤独、疲弊、重圧、憐憫、葛藤、寂しさなどといった様々な感情に潰されて、歴代の管理者達は皆、自分の『魂』の消滅を願い、『後継者』の『最後の願い』を叶える代償にソレを使ってきた。私の前の管理者も、その前もその前もその前も。『地球』に焦がれ続けてコピーキャットと化した『ノア』の分身であった初代の管理者でさえも、その重積と激務に耐えきれず、結局は覚めない眠りの中に身を投じたらしい。 超越者の分身であろうがコレなんだ。 『私』だって耐えられるはずがなく、歴代と同じように『永遠の消滅』を渇望した。 その為に『後継者』となり得る人材であった叶糸を助け、彼が次代の『管理者』になった後に少しでも『孤独』に耐えられるようにと『幸せな記憶』を積み重ねていく手助けをしたのに——(……何で私は、今また、此処に居るんだ?) 理解が追いつかず、抱え切れない絶望が胸の中を苛む。またあの歳月を『此処』で過ごすのか?と考えただけで吐いてしまいそうだ。 この状況を受け止められなくて床のようなものに手をついたまま伏せっていると、すっと大きな手を目の前に差し出された。「やっと『再構築』されたんだな」 聞き覚えのある声を耳にして慌てて顔を上げる。するとそこには、出逢ったばかりの頃の姿に戻った叶糸が立っていた。「……っ」 声が出ず、無駄に空気を喰んだ。彼に抱くのは『懐かしさ』よりも『どうしてこんな事を……』という気持ちの方が大きい。「アルカナが『再構築』されるまでにちょっと時間があったから、この空間を色々といじっておいたぞ。此処の現状を確認したけど、アルカナはほぼ全て手動で『惑星』を管理していたんだな。あれじゃあまりに非効率だったから、適正な環境になるよう自動的に調整するシステムを組んで、不測の事態が起きそうな時にだけ警告音を鳴らして知らせるようにしたよ。だからもうこの先は仕事仕事と追われ続ける事は無いはずだ」と言い、叶糸が私の手を
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-27
Chapter: 【第40話】願い・前編(南風アルカナ・談) 『管理者』である私の『後継者』に相応しい叶糸と出逢い、もう二度と死に戻る事のないようにトラブルの原因を徹底的に避け、お互いの問題を一手に解決する手段として結婚。生粋の『獣人』だからかしょっちゅう本能に支配されてしまう叶糸に流され続けて十人もの子宝に恵まれて、私は『貴族』として人々の生活に溶け込みながら叶糸の『人生』の『終わり』まで寄り添い続けた。(あっという間に終わると思っていたけど、むしろ、此処までの方が随分と長かった気がするな……) 退屈だったからとかじゃない。むしろその逆だ。南風家の面々のおかげで毎日が平穏で、でもちょっと刺激的だったりもして、そしてすごく『幸せ』な日々だった。手助けが多かったり、貴族独特の子育て方法があったりとで大変さはかなり分散されてはいたけど、それなりには育ての苦労も経験出来たし、十人もいると全員に個性があってとても楽しかった。『十人十色』ってこの事なのかと何度も思った。ただ……皆、非行に走る事なく育ってくれたのは嬉しいが、何も私達の子供らにまで『管理者様万歳っ』みたいな南風家流の教育は不要だったんじゃないかなとは今でも考えている。 思い残す事なんか、もう何一つとして無い。 そう断言出来るくらい、『南風アルカナ』として送った『余生』は本当に素晴らしいものだった。 ◇ ——叶糸と共に歩んで来た短い『人生』を振り返り、カツン、カツンと靴音を鳴らして部屋の中を進んで行く。やや大きめの窓から綺麗な大空や庭の紅葉が一望出来てとても綺麗だ。少し窓が開いているおかげで爽やかな風が吹き込み、私の頬を軽く撫でた。 窓の側には一台のベッドが置かれており、年老いた叶糸が横になっている。まぁ『年老いた』とは言ってもせいぜい『人間』の外観で言うところの五十歳台くらいの見た目のままだ。出逢ってからもう二百二十五年三ヶ月と二十三日が経過したというのにこの見目なのは、ひとえに彼が、『獣人』であったおかげだ。(まぁ、叶糸であれば、木肌のように皺を刻んだ顔になっても、きっと似合っていただろうがな) 約二百年という『獣人』の平均寿命を大きく超え、叶糸は今や世界の
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-22
Chapter: 【第39話】結婚初夜③(南風アルカナ・談) 身悶えるたびに水音が鳴り、その音に脳内まで犯され続けていると、叶糸がタクトでも扱うみたいな動きをして魔力で編んだ鎖を指先で操作して、今度は彼に向かって尻を突き出すみたいな体勢にさせられてしまった。「い、やぁぁ、は、はじゅか、しぃっ」 もうまともな言葉なんか全然操れない。語彙力が家出してしまって帰って来てくれる気配も無いとか、いい歳して悲し過ぎる。「どっちの孔も丸見えとか、ホント最高だな」 特徴的な『龍』の尻尾までもをがんじがらめに鎖で縛り、そのまま持ち上げられ、恥部の全てを彼の前に晒されているせいで羞恥が限界を越え、ボロボロと大粒の涙を流してしまった。だが「あんまり煽んないでよ」と興奮気味に返されるだけで、『泣かないで』と慌ててやめてくれる気配は微塵も無い。 膝立ちになり、叶糸が両手で私の臀部を鷲掴みにする。動きが雑なせいで少し痛いが、むしろそのせいで彼の興奮度合いがわかってしまい、逆にちょっと気持ちいいかもとか……『変態か?』と自分にツッコミたくなった。「ホントはもっとちゃんと追い込んで、契約魔法を重ね掛けにしてがんじがらめにしておきたいんだけど、もう、オレの方が限界だな」 魔力で編まれた鎖が急に上方向に引っ張られ、枷を嵌められている両太腿が連動してくんっと持ち上がった途端、叶糸は私の恥部に己の屹立をぐっと押し当ててきた。熱く、硬く、私が受け止めるにはかなり大き過ぎる気がするのだが、今それを指摘した所で彼が止まるとは到底思えない。だけど内心物申したい気持ちで一杯だ。「か、かにゃ、と、あの、流石に、な?コレ以上は……」 体格差のせいで膝が浮き、心許ないせいもあってか頑張って口にした声はかなり小さくしか出てこなかった。昨日に引き続きでもあるし、今日も散々叫び過ぎているから、もう既に喉を痛めてもいるのだろう。「コレ以上をして、やっと『夫婦の営み』が始まるんだろ?此処で止めたらただのお遊びだろうが」 閨事情に詳しい訳じゃないが、少なくとも『初夜』で、魔力で編んだ枷と鎖で拘束されたうえに、初手がこんな交尾みたいな体位からっていうのはほぼほぼ無いのでは?とは思うが、言葉には出来ない。うっかり本心
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-19
Chapter: 【最終話】二度目の初夜 教会での挙式、続いてベランダでの民衆達へのささやかな披露を終えたカラミタとレオノーラは、王城内に用意された客室で一息つく事になった。 これ程までに大々的な挙式だったのだ。本来ならばこの後は披露宴会場に向かう流れなのだろうが、二人は参加しない。開催地が樹界内である事を理由に『魔族』側からの参列者はおらず、世界樹の麓にて引きこもり状態にあるレオノーラには友人・知人なんて者はそもそもいないからだ。街に三年間住んでいた流れでカラミタには知人程度なら複数いるが、そもそも彼はレオノーラから離れるつもりが微塵も無いから、『一人だけでも出席する』という選択肢を選ぶはずがなかった。主役二人が不在の披露宴というのもおかしな話だが、『社交の場』として考えれば開催する意味は十分あるし、代理としてセリンやテオドール達四人が出席しているので問題はないのだろう。 うっすらと日が沈み始めた窓の向こう側から、街中で開催されている宴の音が聞こえてくる。今日は国からお酒が無料で振る舞われるとかで、飲めや歌えやのお祭り騒ぎといった雰囲気だ。「……楽しそうだね」 窓の傍に立つレオノーラが嬉しそうな表情を浮かべながら言った。そんな彼女の後ろにカラミタが立つと、「そうだね」と返しつつ、レオノーラをぎゅっと背後から抱き締めた。途端に彼の尻尾が嬉しそうに床を叩く音が聞こえる。ゴリッと背後に硬いモノまで当たり始め、その気の早さのせいでレオノーラが反応に困った。「カ、カラ?……えっと、その、まだ夜では、ないと思うんだけど」 そうは言うも、レオノーラの今の姿はもう、すっかり初夜仕様のものである。ドレスのままでは休めないからと、隅々まで王族直属の優秀な侍女達に磨き上げられ、『ウェディングドレスは無理だったけど、コレは譲れないわ!』と宣言したキエラが用意した上質な夜着を着ている。上品なデザインではあるものの、使用している生地が薄手なもののせいでほぼほぼ体のラインが透けて見えてしまっているのだから、カラミタが既に暴走モードに突入してしまっていても、誰も彼を責める事は出来ないだろう。「こんなに分厚いんだ、カーテンを閉めちゃえば夜みたいなもんだよ。こっちから呼ばない限りは、この先一週間は誰も室内には入って来ない様
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-28
Chapter: 【最終章・第14話】癒しを大陸全てに(レオノーラ・談) 挙式を終えた私達は王城内にあるバルコニーに案内された。 そこは街を一望出来る位置にあり、大衆に対して演説や何らかの披露をする時などに《《王族達が》》利用する箇所である。教会といい此処といい、『二度もそんな場所を、平民でしかない私が恐れ多い!』と思うけど、カラミタの正式な妻となった(書類上ではもう二ヶ月も前からそうなのだけど)事で私もそれなりの立場にあるっぽいので、「そんなに気にするな」とアリスター王太子殿下に言われても、無理だった。 私達はこれといって演説やら挨拶をするでもなく、ただ大衆の前に姿を見せて手を振るだけで良いらしい。超巨大な投影鏡を通して皆々がもう既に状況を理解しているからだ。司会による進行説明なんかも各所ではやっているし、何よりも面倒事をカラミタが嫌っているのでこの程度にしていこうという事なのだとか。「緊張する?」 私達よりも先に国王夫婦とその御子息、御令嬢達がバルコニーに出て手を振り、何やらありがたい御言葉を大衆に向けて告げているのに全然耳に入ってこないでいると、隣に居るカラミタに声を掛けられた。「そ、そりゃもう、すごく」 人見知りだというのに、下からとんでもない数の視線が自分達に集まるのだと思うだけで、もう吐きそうだ。魔族との和解が叶い、大半はお祝いムードだろうけど、私のせいで利権を逃したと思い込んでいる者達からの妬ましい視線なんかも混じっているだろう。カラミタに本気で惚れていて、私なんぞに『正妃』という立場を掻っ攫われて納得のいかない者もいるかもだし、舞台を観た“魔王・カラミタ”のファンだって中には多くいるはずだ。『あんなロリババァに持っていかれた』 『育ての親とだなんて、イカれてる』 そんなふうに思う者だってきっといる。そう思うと、大勢の前に出るのが一層怖くなってくる。カラミタからの愛情は揺るぎないものであると信じられるけど、コレはもうどうしようもない別の恐怖だ。「……ボクがいるよ。大丈夫、大丈夫」 ぴたりと隣に寄り添い、ぎゅっと手を掴んでくれる。掛けてくれる声はとても優しい。穏やかに細められたカラミタの真っ黒な瞳に、強張っている私の姿だけじゃなく、次の瞬間にはセリンや
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-25
Chapter: 【最終章・第13話】二人の結婚式・後編(レオノーラ・談) 今、私の目の前には現実味の無い光景が広がっている。 ——いつも薄暗くて、常に危険で、個々の尊厳なんか少しも無く、寒いしボロボロだし汚らしい場所で生まれ育って。奴隷商人達に売られるのが怖くなって生まれ育った場所から逃げて。偶然行き着いた世界樹なんてモノの側でずっと暮らしてきた自分が、王城の敷地内にある教会の中を歩いているだなんて……当事者のくせして、全然ピンとこない。 白を基調とした上品な室内はどこもかしこも綺麗に磨き上がっていて、聖域然と美しく、世界樹を模して造られたステンドグラスから差し込んでくる光は宝石みたいにキラキラと優しく輝いている。中央に敷かれた真っ赤な絨毯の両サイドに並ぶ木製のベンチには、どう見たって高位貴族ばかりが並び座り、皆が揃ってこちらに顔を向けてきているが、その視線が何を語っているのかは白いベールと緊張のせいか全く読めない。 室内仕様で程よいサイズになっている聖獣・白猿、白ヤモリの二体が私達を先導し、その中央には誘導&監視役としてテオドールが。挙式では、基本的に父親が花婿に花嫁を手ずから引き渡すのが通例らしいのだが、私には父がいない。なので、父親代わりとして長男・セリンが私の手を取ってくれ、頭を覆っている長いレースのベールの裾は、後ろに続いているリトスとアイシャが持ってくれている。 ゆっくりゆっくりと、一歩ずつ。ドレスを踏まないよう気を付けつつ、一歩一歩を噛み締めながら、正面で待つカラミタの元に向かう。その間に各国の代表として来ている王族や皇族達まで私の視界に入り、緊張度がより高まってきた。(こ、ここここ、こんな、全然見知らぬ平民の挙式に参列させてしまって申し訳ないですっ!) 自尊心を満たしたり、感謝感激するよりも、こっちの気持ちの方が遥かに強い。そのせいか申し訳なさでちょっと泣きそうになってきた。「……大丈夫ですか? 母さん」 人様の感情に敏感なセリンに心配されてしまった。「大丈夫」とすぐに小声で返したが、多分聴力に優れているカラミタにはこのやり取りが聞こえたのだろう。今にもこちらに駆け寄って来てしまいそうな顔でこちらをじっと見ている。(実は体調が悪いとか、カラとの挙式が嫌だとか
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-20
Chapter: 【最終章・第12話】二人の結婚式・前編 最終的な準備に追われつつ、日々は流れてカラミタとレオノーラの結婚式を挙げる日となった。 カラミタからの強い要望により、この結婚は『樹界』と『外界(外輪界)』との『和平の証』の意味合いを持つ結婚でもある為、彼等の挙式は国をあげての大規模なものとなる。 主要各国の教会にはマリオネット型の魔導具が配置され、その人形達には二人の挙式の様子が投影される予定だ。人形は投影された動きに合わせ、まるでその場に居るかの様に振る舞う。 だが教会の数も広さも限界があるので、参列出来ない多くの者達の為に広場や目抜通りなどには巨大な投影鏡を設置して式の様子を映し出す事になった。それらの魔導具を開発、そして有り余る財産を惜しみなく使って各国に寄贈したのはもちろんアイシャだ。以前から彼の名は『錬金術師』として広く知られていたが、この一件で今度は『稀代の魔導具師』としてもその名を轟かす事になるだろう。 どの国でも教会や投影鏡の設置付近はどこもお祭り騒ぎで、シルト王国の王都・ラウシュベルも花やリボン、風船などといった物で街中が飾られ、雪の結晶や紙吹雪の様に見える光が魔法によって舞い散り続け、愛らしい雰囲気に染まっている。 挙式には『聖獣も式に参列する』という噂があるからか、商魂逞しい商人達が販売している『聖獣ぬいぐるみ』や聖獣を形取った白い飴などといった聖獣関連商品は、ただ白く作っているだけにもかかわらず、飛ぶように売れているそうだ。 実際に結婚式を挙げる教会は王城内にあるものを使用する事になった。本来ならば王族関連の式典でしか使用出来ないのだが、この挙式が『和平の証』でもあり、カラミタが『魔王』である点や、レオノーラが『世界樹の後継者』である可能性をより匂わせるには、特別待遇をした方が良いとの判断で国王があっさりと許可した。 引退後であっても、当然頻度はかなり激減するが、今後もセリンが協力するという約束を取り付けたおかげで、聖女信仰と世界樹信仰、双方の高位神官達を全て味方に付け、『自称・側妃候補』達が教会側を買収して紛れ込む可能性を完全に排除した。そしてより守りを完璧にする為にテオノードルの伝手で騎士団や冒険者達による警備も各所に並んでいる。 そもそも本会場となる
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-15
Chapter: 【最終章・第11話】応接室にて③「アイツ等が、いくら断っても全然引いてくれないのってさぁ、貴族には、血統主義の奴等が多いせいだよねぇ」 アイシャの発言を受け、アリスターも「そうなんだ。往々にして、生まれへの不満があがりそうな場合は、まず貴族の養子になってもらってから婚姻を結ぶ場合が多い。だが今回の場合は天文学的な収益を伴う利権を狙っての話だから、その手を使おうが『その血統だけでは、“王”の伴侶には相応しくない』と不満を言う事が目に見えているんだよね」と私見を述べた。「そう、なんですね」 スラム街出身である事を恥じた事はないが、足枷にしかならない事は理解出来る。だけど長年浮世離れした生活を送ってきたせいか、血筋云々を個々の気持ち以上に優先せよと、他人に言われるのは納得がいかない。 でも、それを言ってもいいのか悪いのか。子供らだけの状況であれば平気で口にしただろうが、王族であるアリスターを前にすると、レオノーラはわからなくなって口をつぐんだ。「でね、向こうが、『色狂い』だなんだと噂を立てて、普通なら有り得ない人数の『側妃』を迎え入れる流れを意地でも作ろうってんなら、こっちも攻勢に打って出ようかと思うんだが、どう思う?」 「まぁ、このまま断り続けるだけじゃ何も変わんないもんね。挙式への乱入は日程的に防げるだろうけど、世論や民衆を操作された事で発生する数の暴力的な流れってのも、そうそう無視出来ないし」 アリスターに訊かれ、アイシャがそう返した。「さっきの、薬師を筆頭とした一団は、どうせそれの一環だったんだろう?」 「流石、カラミタはとっくに気付いていたか。まぁ、結構あからさまだったもんね。だけど私は、『恩人に会えそうだけど、どうする?』程度しか伝えてないよ。あれだけの人数が集まったのも、全員本人達の希望さ。まぁ、一応、かなりの人数には諦めてもらったんだけどね」とアリスターが言う。 レオノーラの作った回復薬の効果は絶大だ。 その製法は無駄だらけな自己流ではあるものの、世界樹の恩恵を受けた素材のみで作っているのだから納得である。 彼女が作った薬の存在は、薬師達や支配階級の者達の間では相当有名ではある。だが希少が故に、王族や
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-12
Chapter: 【最終章・第10話】応接室にて②「——さて、今後の方針をもう一つ話し合っておこうか」と言い、アリスターが軽く手を叩く。すると別室に控えていた者が一名、書類の束を持って彼の元へやって来た。それを受け取ったアリスターを見て、アイシャが眉間に皺を寄せて「……あぁー」とこぼしている。「側妃の話かぁ」 レオノーラには聞き慣れない言葉だ。「……そくひ?」と彼女が首を軽く傾げると、カラミタが「ボクが要求したものじゃないよ⁉︎」と慌てて即座に否定した。『カラは、私以外とも結婚するの?』と、一瞬でも思われたくないからだ。「その通り。なので、早とちりをして、勘違いしないで下さいね」(されようもんなら、このリストの女性達とその家族全員殺されてしまうからね) 以前アイシャ達が話していた事と丸々同じ事を考えながら、アリスターが苦笑いを浮かべてそう言い、書類をテーブルの上に置いて咳払いをした。「知っての通り、新たに『魔王』となった『カラミタ』の要求により、『和平の証』として『樹界のヒューマ族』である『レオノーラ』さんと、式はまだだけど、書類上では既にもう婚姻関係を結んだだろう? すると、前々から『和平の証だと言うのなら、各国からも妃を娶るべきだ』という巫山戯た意見が多くあがっているんだ。そもそもカラミタが激しく拒絶しているという大前提は当然全世界の要人達に伝えてはいるんだが、ヒトによっては複数の伴侶を持つ魔族もいたもんだから、『制度的な問題は無い』と判断した一部の者達が勝手に暴走して、側妃の候補者一覧表を我が国に送り付けてくるんだよ。……困った事に一部の女性達はもう、この城にまで来ている。挙式の日も近いから『正妃』を一目見ようという感じかな。そして『コレが相手ならば自分でもいける』と踏めば、彼女らが何をするやら……」 そう告げ、アリスターがそっと額を押さえる。 脳裏に先程レオノーラに心無い言葉を吐いていた女性達の姿が浮かび、カラミタが「あの女共か」とこぼし、猫被りを忘れてチッと舌打ちをした。「当然、ウチらは『カラミタはそんなもん同意しないよ』って何度も突っぱねたんだけどね、利権狙いの奴らは引かず、このまま強引に押し進めていこうとしてるんだよねぇ。既成事実を作ろうと部屋に侵入したり、私物を掻っ攫って魔法による精神操作を狙ったりと、あの手この手ともうウザ過ぎーっ!」 カラミタの横に陣取ったアイシャが、きち
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-07
Chapter: 【エピローグ】初夜・後編(スキア・談) 出逢った頃からずっと、膣壁に刻んだ契約印に僕の魔力を馴染ませる行為を毎日続けてきたせいか、ルスの体はすっかり快楽に堕ちやすくなっているのか、自らシーツに擦り付けている淫部からクチュクチュといやらしい音が聞こえてきた。当初、僕は『ルスを堕とす』事を念頭に置いていたが、まさかこんな形で成功するとは。今までの憑依対象者みたいな不幸のどん底に—— ではないが……うん、悪くない。「んくっ、ふっ、んんーっ」 敷布や穿いている衣類に、すっかり勃起した肉芽が擦れて気持ちよさそうだ。僕の手を掴む手には力が入り、規則的に腰を動かす姿はちょっと騎乗位にも似ている。「気持ちいいんだ?」 獣耳の近くまで顔を寄せ、息を吹き掛けながら囁く。するとルスの体は容易く跳ね、「ひぅっ!」と大きな声をあげて背中を仰け反らせた。「まさか、イッた?イッちゃったの?……えっちだねぇ」 意地悪い声色でそう言うと、ルスが僕の胸の中にぽすんっと頭を預けてきた。肩で何度も呼吸を繰り返し、びくびくと小さく体を震わせている。 間違いなく達しはした。だがまだ全然満たされてはいないのか、またすぐにルスの腰がもじもじと動き出す。ナカを散々指で刺激され慣れている彼女の体では、クリイキ程度じゃ到底満足は出来ないのだろう。「こんなんじゃ全然足りないよね。もっと沢山、刺激が欲しいよね?」 僕の問いに対し、頬を赤く染めたルスが、ゆっくりと、でも素直にうなずき返した。「……いつもの、しゅるの?」 先への期待で蕩けつつも、涙で潤む瞳と、舌足らずになっている話し方がめちゃくちゃ可愛い。そんなルスに僕は、「違うよ。今日は、もっとスゴイ事をしてあげる」と囁き掛けた。「……しゅごい、の?」と小さく呟きながら首を傾げるとか、ルスは僕を殺す気か?契約が完了している今では共倒れするだけだから止めておけ。(嫁のえっちな期待には、応えねば) 新参者とはいえ、今の僕はルスの夫だ。夫らしく、まずはたっぷり愛撫でも……と思ったが、ルスが手を離してくれない。はぁはぁと雑な息をしながら、また肉芽を自分で布に擦る事で得られる微弱
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-19
Chapter: 【エピローグ】初夜・中編(スキア・談)「早速つけてみるか?」 僕だって計画はしていたのに、それよりも先に指輪を用意していやがったレアンに対しての苛立ちや、軽い嫉妬心は感じるが……物に罪はない。こっそり盗んで他の物をすぐに用意する事も出来るけど、夫婦の誓いとなる印の指輪でそんな物を渡したくはないから、今回は妥協しておく事にした。「あ、ぅっう、うん」 ルスはちょっと緊張しているのか、短い返事なのに噛みながら返事をする。「えっと、どっちだっけ……あ、左か」 移住したおかげで頭の中に色々な知識はあれども、魔法で強制的に叩き込まれたせいか、引っ張り出すのに少し時間がかかったみたいだ。(そんな様子もまた、かわぃ——) 指輪を小箱から取り出し、ルスが左右の手を見比べてから僕の大きな手をそっと掴む。ちょっと緊張しているのか、白くて小さな手が少し震えていた。「え、えっと、お互いの指に、順番に、はめてあげるんだよね?」 「そうらしいな」と頷く。でも確か一般的には男性から先に女性の指へ指輪を贈ってから、男が次に、だったはずなんだが……心境が全て尻尾の動きにまで影響している姿がどちゃくそ可愛いから、僕はルスの好きにさせる事にした。 「……どの指、だっけ。確か指ごとに意味があるんだよね?」 「そうらしいが、結婚指輪は薬指だな」 「薬指……おっけぇ」 深く頷き、口元をへの字にしながら指輪をはめてくれる。出逢ったばかりの頃だったのなら『嫌そうな顔だ』と認識しただろうが、頬を赤く染めているから、コレはただ緊張しているだけだなと察する事が出来た。……些細な事だけど、『僕だからわかるのだ』と思うと胸の奥がじんわりと温かくなる。少し前の僕だったら感じられなかった感情だ。生まれてからずっと、本当にずーっと負の感情にばかり浸ってきたせいか、すごく新鮮だ。 指輪を持つルスの手が震えているせいか、僕の爪に当たってカチカチと音が鳴る。何もそこまでとも思ったが、いざ自分の番になったら同じ事をしそうだなとも考え、黙って見守る事にする。でも少しだけ助け船をと、「……爪が邪魔なら、短くしておこうか?」と訊いてみる。切らなくても自在に変化させられる利点を活か
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-18
Chapter: 【エピローグ】初夜・前編(スキア・談) 傍に居ていいと、本当の夫婦になってもいいと、ルスから言質を取った。誓いの口付けみたいな事も済ませたし、後はもう指輪でも交換したら僕らの“夫婦”としての始まりは完璧だ。 ——そう思っていたのに、残念ながら事は上手くいかなかった。 触れるだけの口付けを交わした直後。僕とルスの伝書鳥であるヤタとユキが開きっぱなしになっていた窓から入って来て、『子供が出来たから、ユキの産卵が終わるまでまた引き籠る』と報告し始めたのだ。 ヤタの濡れ羽色の体は艶々と、でも彼の頭に大人しく乗っているユキはしおしおとした雰囲気を纏っていて、まるで老婆みたいに震えていた。『もう無理です、助けて』と言いたげな瞳なのに、口止めでもされているみたいに黙っていたのが印象的だった。なのに鈍感なルスは、ユキの切羽詰まった様子に気付いていなかったのは驚きだった。 そんな彼らにルスが番祝いの装飾品を渡すと、すぐに喜んで二羽とも脚に着けてくれたが、礼もそこそこに巣へ戻って行った。『産卵前の大事な時期だから』と言われると引き留める事も出来ず、果物の入った籠を持たせて、戻る二羽を二人で見送る。(——よし、やっとまた二人きりになった!) 心の中でガッツポーズを取った矢先。次に聞こえて来たのは『頼もうー!』の一言。……他の町まで護衛任務で出掛けていたシュバルツが戻って来たのだとすぐにわかった。『すまない。婚約者候補達をこんなにも待たせてしまうだなんて、悪い事をしてしまったね』『婚約者にはならないですよ』 『既に僕らは既婚者なんだ、ホント、マジで勘弁してくれ』 いつもの流れでルスと共に間髪入れずツッコミを入れる。そんな毎度のやり取りをしていると、くだらないコントに付き合わされている様な気持ちになった。 これだけならまだいい。 悲しいかな、もう慣れた。だが今日はここでは終わってくれなかった。 まるで待ち構えていたかのように、『また素敵な下着を作れたので、仕入れから戻ったその足で届けに来ちゃいましたー』と言ってアンズが。 ほぼ同じタイミングで、『新作のスウィーツを沢山作らせたの!味の感想が欲しいから
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-17
Chapter: 【最終話】本当の夫婦に(スキア・談)「……」 突然泣き出してしまった僕の頬をルスの小さな手が包んでくれる。そんな彼女の手首をぎゅっと掴むと、僕は離すまいと伝えるみたいに軽く力を込めた。 穏やかで心が落ち着き、もう一生このままでいたいと思う程、お互いの体温を分け合う優しい時間はしばらく続いた。が、ルスが「……ご飯もね」と呟いた一言で残念ながら終わりを告げてしまった。「ご飯も確かに大事だけど……。どれも美味しいし、初めて食べる物ばかりで本当に嬉しいけど、もちろん!それだけじゃないよ」 僕が泣き出した理由をどう受け止めたのかはわからないが、まず間違いなく、的外れな考えであるのは間違いなさそうだ。「じゃあ掃除か。放っておいても勝手に部屋が綺麗になっていくんだ、便利だよなぁ」 「ひ、否定はしませんっ」 ルスが正直に断言する。「だろうな」 意地の悪い声で言いながら、僕はルスの両手首を掴んでいた手から力を抜くと、彼女の肌を滑るように撫でながら手を移動させ、手の甲に己の掌を重ねた。簡単にへし折ってしまえそうな程に小さな手だ。 今まで、憑依対象者とここまでしっかり向き合った事などあっただろうか? いいや……一度も無かったな。お互いまともに見向きもせず、相互利益の為だけの関係ばかりだった。なのにルスときたら、何に対しても多くを求めず、小さな幸せばかりを喜んで、身の内に秘めている膨大な魔力には見向きもしない。今までの憑依対象者の中にも変わり者は何人かいたが、ルスみたいな奴は初めてだ。 そんな彼女が、僕が傍に居る事を認めてくれた事実が嬉しくって堪らない。本性どころか本体も、全てが全て真っ黒で、他者の想像力に縋らないと肉体すら持てないような存在であるこの僕でも、隣に置く気でいるだなんて……。(本当に、バカな子だな、君は) いや……。本当にバカなのは、僕か。 段々と退路を完全に絶たれていく気配を肌に感じる。逃げるのはもう不可能に近い状態だろう。まぁ、もう僕にはルスから逃げる気など無いから何ら問題はないが。「傍に居てくれて、こうやっていろんな話をして、寄り添って。『普通の幸せ』っ
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-16
Chapter: 【第49話】未来の選択 外に出る為にリアンが鼻頭で強引に開けていった部屋の窓から入ってきた風が頬を微かに撫でた事で、リビングにあるソファーで眠っていたルスの目が覚めた。彼女の頭の下にはスキアの膝があり、彼女が寝入った時と同じく、枕にしたままの状態になっている。小さな体の上には彼の服が掛布代わりにかかっており、瞼をゆっくり開いて、ルスは虚な瞳をスキアの方へ向けた。「……ごめん、寝てたみたいだね」 寝起きのルスの掠れ声がスキアの耳に優しく届く。「あぁ、ぐっすりとな」 スキアが中抜けしていた事をルスは気が付いていない。時計の方へちらりと視線をやり、既にもう二時間程が経過していたと知って、気不味そうに顔を顰めた。「うわぁ……。こんなん、昼寝の長さじゃないね」 両手で顔を覆い、はぁと大袈裟にため息をつく。連日眠りが浅かったとはいえ、相手は夫みたいな者だとしても、長い時間ヒト様の膝を占有してしまった事でルスが罪悪感を抱いている。 『仮初の関係だから』などという理由を抜きにしても、何時間も彼を枕代わりにし続けていたと思うと、ただただ申し訳無い。ここ最近、体は全然疲れていないのに怠さは抜けていない。前頭部が妙に重いというか、モヤモヤするというか、ずっと氷魔法でもかけて冷やしておきたいくらいの違和感が付き纏っている。(たかが夢見の悪さだけで、こんなに引き摺るなんて情けないなぁ) 内容はさっぱり覚えていないが、そうである事をルスは自覚していた。冷や汗をかいて目覚めたり、夜中に妙な居心地の悪さを感じたりする原因なんて、夢くらいしか思い至らない。そんな自分の体を真っ暗な部屋の中でぎゅっと抱きしめ、再び眠りに落ちる間中ずっと、よしよしと撫でてくれるスキアの姿をふと思い出して、ルスの頬が嬉しさからじわりと赤く染まった。「そ、そういえば、この服はスキアの?」 気持ちを隠すみたいに、急に関係の無い話を口にしたルスに対し、スキアが「あぁ」と短く答えた。「ブランケットじゃなく、服って」 クスクスと笑うルスの様子を見て、スキアも柔らかに顔を崩した。中座する際にただ流れでそうなっただけなのだが、確かにルスが感じた通り
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-15
Chapter: 【第48話】魔塔主との対話④「——落ち着いた、かな?」 「……おかげさまで、なんとか」 レアンが用意したハーブティーの入るカップを両手で包み込む様に持ち、スキアは真っ青な顔でカップの中の水面をじっと見つめている。今はもうレアンからの指摘を理解したので無闇矢鱈に否定はしていないが、まだ納得はしていない。そのせいか口元がへの字の状態だ。 初めての感情に戸惑いつつも、全ては『他者から求められて湧き出ている感情だ』と帰着した事で自分を保てていたのに、『違う』と指摘されても、そう簡単には受け入れられない。少しでも認めたらもう、二度と『彼女から離れよう』などとは思えなくなる事が目に見えている。彼女の過去を知り、それ故生じた『自分みたいな存在が傍に居るべきではない』という思いも捨てきれないし、どうしたって自分から、いつ監獄に豹変するかわからぬ場所に居座り続ける様な行為をする気にもなれず、スキアは綺麗な形をした唇をガリッと噛んだ。「機会は今しかないかもよ?もうこのまま逃げて、憑依契約は反故にするかい?」「……するとしたら?その後、アンタはどうするんだ?」 「そうだなぁ。“あの子”は私の娘みたいなものだ。慰める為にすぐにでも傍に行ってあげたいから、出掛ける準備でもしようかな」 その答えを聞き、玩具を取り上げられそうになっている子供みたいにスキアがぶすっと不貞腐れるみたいな顔をする。親子以上に自分とそっくりな顔でそんな表情をされると、流石に声を出して笑いはしなかったが、レアンはおかしくってしょうがなかった。「……それにしても、名前では呼ばないんだな。さっきから“あの子”呼びじゃないか」(君も、ね) レアンはそう思いながらも口元に笑みを浮かべるだけに留めた。大きな子供がやっと落ち着いてきたのに、また拗ねると面倒そうだ。「だってねぇ。再誕した“監獄の乙女”が今は何者となっているのかを、ハッキリと言葉にして言われるのは嫌なんじゃないかなと思ったんだけど……違ったかな?」 膝置きに頬杖をつき、レアンが優しく微笑む。年輪を刻んだ顔立ちで柔らかな視線を向けられると、慣れないせいか、スキアはなんだか居心地が悪くなった。「なぁ」
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-12
Chapter: 【番外編③】童話に対して思う事「見てみてーカイル。これ、私が描いたんですよ」 ニコニコと笑い、スカートを翻しながら、イレイラがカイルの元へ駆け寄った。彼女は手にスケッチブックとクレヨンの入る箱を持っている。 ここ数日、せっせとイレイラが机に向かって何かをしているなとカイルも気付いてはいたのだが、『きっといつか教えてくれるはず』と見守っていた。内心ではかまって欲しくて、かまいたくてうずうずしていたのだが、『我慢の先にはきっと喜びが!』と言い聞かせ、数日間必死に昼間だけは耐えてきたのだ。(耐えて良かった、やっと何をしていたのか、本人から教えてもらえる!) カイルは喜びに打ち震える気持ちを胸の奥に押し込み、「どれどれ」と冷静を装いながらイレイラを膝の上に乗せる。猫の時とは違う重たさが心地よく、娶ってからもう随分と経ったのに、前以上に彼女が愛おしい。首筋からは相変わらず今日もいい匂いがするし、目的がある状況でなければ今すぐにでも寝室へ、いや……久しぶりにこのままソファーで抱き合ってもいいかもしれない。「……カイル、聞いてます?」 イレイラの少し拗ねた声を聞き、カイルがハッと我に返る。もうすでに彼女の腰に腕を回し、襲う気満々の直前まで無意識のうちに来ていたので、このタイミングで声を掛けられて本当に良かった。「聞いているよ。絵を描いていたんだよね?」「はい。ここって、平和過ぎてあまり娯楽が無いでしょう?なので、元の世界で読んだ物語を思い出して、再現してみたんです」「まぁ、ここは腐っても神殿だからね。……ごめんね、街へもっと沢山行かせてあげられたら良かったんだけど」 『神子』という彼の立場上、気軽には遊びに連れて行ってやることが出来ず、カイルの気持ちが沈む。だがイレイラは笑顔で、「私はカイルが行う実験だとか魔法だとかをたくさん見せてもらえるんで、毎日が楽しいですよ」と答えた。「でもほら、カイルはそうはいかないでしょう?なら、知らない事を少しでも、私からだって教えてあげたくって、こんな物を用意してみたんです」 そう言ってイレイラはスケッチブックを広げ、背後から彼女の手元を覗き込むカイルに中身を見せた。「これは……絵本、かな?」「はい。私には文才がないので童話を書くまでは無理でしたけど、これくらいなら描けるかなと思って。それに絵本だったら……しょ、将来子どもが生まれても、役立つでしょ
Zuletzt aktualisiert: 2026-04-02
Chapter: 【番外編②】第3話 嫉妬心の具現化(桜塚イレイラ・談)『ねぇ、君は誰の奥さん?』 胸がキュッと苦しくて、短い呼吸を繰り返してしまう。『カ、カイルの……奥さんですっ』『そうだよね?——なのに君は、僕の目の前で堂々と何をしたの?』 カイルの声が明らかに怒りで満ち、嫉妬心を前面に晒す。『サビィルはあれでも、妻も子もいる一家の長だ。そんな相手とイチャイチャするって、もう完全に不倫じゃない?』 新情報に一瞬我に返り、『白梟一家とか、絶対に会いたい!』と心の中だけで叫ぶ。…… でもすぐに、私の首に彼が付けた物をくっと引っ張られた事で、私はカイルのおこなう行為へと意識を引き戻された。『ふ、不倫だなんて、そんな…… 』 白梟と戯れただけで不倫扱いとか、意味がわからない。『まだそんな事を言うの?だからこんな物を僕に着けさせられたって分かってる?』 カイルの言う“こんな物”とは、私の首に彼が着けた“首輪”の事だ。 革製かと思われるソレは、カイルが私に、怒り任せにベッドへと引き込んだ途端に魔法を使って着けられた物だった—— ◇ ◇ 私と白梟のサビィルは、初めましてな再会を本日果たした。 あの後も、暫くの間脇目も振らずにサビィルと二人で戯れあっていたら、カイルが段々と黒い目を羊の様な瞳へと変化させていった。どうやらこれは、カイルが我を忘れる程の心理状態になると起きる変化みたいだ。 そうなった彼は行動が極端になり、全てを私にぶつけてくる。だが暴力的なものでは無い。今までのものは全て性的に、なのだが……。それが救いなのか、困った事なのかは微妙な所だ。 周囲の状況も何もかも無視し、カイルはサビィルに仕事へ戻る様命じると、即座に私を二人の寝室に引き込んだ。ハクとウィルを招いての夕食予定など、もうきっと覚えていないと思う。 横抱きにされていた私の体を投げる様にベッドに下ろし、彼も上がってきた。「何をしたのか、わかってる?——ねぇ」 カイルにキッと睨まれ、私は慌てた。怒らせる程の事では無いと思っていた。不機嫌そうな顔には気が付いていたが、『不貞腐れているな』程度にしか考えていなかったのだ。 困惑し、ベッドの上で上半身を起こしてカイルを見上げる。するとカイルは私の首を、片手で締めるみたいな仕草をしてきゅっと包んだ。「イレイラ、いいかい?君は僕の妻だ。サビィルの妻じゃ無い。君はそれがわかっていない。わか
Zuletzt aktualisiert: 2026-03-27
Chapter: 【番外編②】第2話 嫉妬心の具現化(桜塚イレイラ・談) 到着の知らせを受けて、セナさんの案内で応接室へと移動する。 このまま式の日まで神子の二人は宿泊するらしく、夕食の席にも招待するそうだ。神子達は基本的に食事は必要ないので、私に付き合ってもらう感じだろうか。それなら申し訳ないなと思う。 セナさんの開けてくれた扉からカイルと私の二人で室内に入り、一礼する。きちんと自己紹介の挨拶をしようとしたら「——堅苦しい挨拶はいらない」と先に遮られた。この声はきっとウィルさんだと思う。「お久しぶりですね、随分と大きくなって」 オオカミのような耳をピンッと立て、灰色の髪の男性が穏やかな笑顔で挨拶をしてくれた。ストレートの髪が腰までと長く、緩く後ろで束ねている。カイルと同じような司祭服に身を包み、親戚の子供でも見るような眼差しを私へ向ける。多分、この方がハクさんだろう。「『大きく』どころの話じゃないだろ。前と全然違うじゃねぇか。——でもまぁ、黒い瞳と小柄な可愛らしさは変わんねぇな」 ハクの言葉を否定しつつも、ウィルさんがちょっと褒めてくれた。 彼の頭から、ライオンのような丸みのある耳が、たてがみを連想させる金色の髪からのぞいていてちょっと可愛いなと思う。その愛らしい耳に似合わぬ巨体を前にかがめ、ウィルさんが私の頭を無造作に撫でてきた。筋肉の凄さが司祭服を着ていようが溢れ出していて、純粋にすごいなと感じる。でも威圧感がないのは、人懐っこい笑顔を向けてくれているおかげだろう。 ハクさんとウィルさんの二人を交互に盗み見る。この二人が婚姻関係にあると以前カイルからチラッと聞いていたので不思議な気分だ。(どっちが……どっちなんだろうか) 読書好きの延長でBLも嗜んでいたので正直気になる。個人的にはハクさん攻めを推したい!ガタイがいいウィルさんが、細マッチョ系のハクさんに押し倒されるのは、なかなかに——「ウィル、僕のイレイラに触るな」 カイルが唸るような低い声をあげ、私は腐海から引き戻された。危なかった、色々と脳内が暴走する寸前だったぞ。 腐海真っしぐらでウキウキしだしそうだった私とは違い、背後に立つカイルが、私とウィルさんに対して嫉妬心丸出しなのが振り返らなくてもわかった。(心配せずとも、彼はハクさんのモノでしょうに……)「おぉ!久しぶりだな、イレイラ。随分大きくなって驚いたぞ。まるで人間みたいだが、何かあったのか
Zuletzt aktualisiert: 2026-03-23
Chapter: 【番外編②】第1話 嫉妬心の具現化(桜塚イレイラ・談) カイルと想いを通じ合わせてから、少しの時が流れた。 数々の来訪者達との面会や、快気祝いをネタにした過剰なまでのお祭り騒ぎもようやく落ち着き、神殿の人達は皆、私とカイルの結婚式の準備に日々邁進している。 神殿内での婚姻の儀式に始まり、街中を馬車で巡るパレード。王宮のホールを借りての披露宴を兼ねた夜会などもあると言われた時は目眩がした。(前世は猫な上、今はただの学生だった自分が、何故そこまでさせられるの⁈) ——としか、どうしても思えないのだ。 それらの準備は全て王宮の偉い人や神官などがやるそうなので、私達はお飾りとしてそこに居ればいいだけっぽい。 ホント、『ただ色々な事を理由にしてイベントを開催したいだけなんだな、この世界の人達は』と深く思った。 ◇ ◇ もうあと三日程度で、いよいよ結婚式を執り行うかという時期まできたある日の事。 参列者として早めにやって来た訪問者に、これから会う予定になった。 相手は前回の、騙されたに近いと今の私は思っている“魂の婚姻”の儀式時にも参列していた、神子のウィルとハクの二人だ。 伝達係としてこの神殿で働いているサビィルという者も一緒だと、セナが言っていた。 サビィルは仕事で各地を飛び回り、そのせいでタイミングが合わず、今まで私と会えずにいたので、『いい加減に会わせろ』と騒がれ、急遽参加することになったらしい。 ほぼ知らない二人と、全然知らない一人に会わねばならず、人見知りが発動してとても緊張してしまう。 カイルも一緒だとは聞いているが、一体何を話せばいいのやら。 『快気祝いで来た』みたいな理由なら、それに合った話をして誤魔化せる。でもただ『会おう』とだけ言われるのは、正直ちょっと困った。「タイミング的に、『結婚式おめでとう』『ありがとう』みたいな感じでいいんですか?」 ここ最近着ている事の増えた司祭服を、ダルそうな顔で着こなしているカイルに訊く。「それでいいと思うよ。いっそ、彼等が好き勝手に話すのをただジッと耐えて、聞いているだけでも話は進むから、放置していてもいいんじゃないかな。んで、コッソリ二人で退出して、べッ——」「それは失礼ですよ」と、私はカイルの言葉をぶった切った。 絶対にまた、『ベッドに戻って続きをしよう』と言う気だとわかったからだ。 今日だって起きてすぐに散々抱かれ
Zuletzt aktualisiert: 2026-03-17
Chapter: 【番外編①】第3話 来訪者・ライジャ 嵐が去った後の様子を伺うような気分でイレイラは玄関ホールの扉を見つめている。あの兄妹とはもう二度と関わりたくないと思いながら。『面倒くさい。言葉が通じない』とカイルが渋っていた理由が、心底理解出来た。「さぁ、部屋に戻ろうか」 カイルはイレイラの後ろから抱きつき、長い黒髪をそっと手でよけ、首元に軽くキスをした。ツッと同じ場所を舐め上げ、耳を軽く指先で撫でる。「ねぇ……?」 熱い吐息の混じる声で囁き、イレイラの心を誘惑する。ゾクッと体の奥が歓喜で震えるのを彼女は感じたが、必死に淫靡な誘惑を追い払った。「ダメですよ!これからギッシリ予定が入っていると、セナさんが言っていましたからね。——ささ、早く戻って、次の予定をこなしましょう?」「一時間だけでも……ダメ?」「ダメです!」 イレイラは即座に断った。それで済む筈がないと安易に想像出来たからだ。「んー……じゃあせめて、これだけは許してくれる?」 そう言い、カイルはイレイラをひょいっと横抱きにして持ち上げた。妻に触れられる喜びを伝える様に、微笑みを浮かべた顔をイレイラに向ける。「こうすれば、イレイラに触れていられるよね」 このままベッドに運び兼ねない熱い眼差しで囁かれ、イレイラは少し不安になった。が、体格差がすごい彼を相手にしては抵抗など無意味だと知っていたので、ヒヤヒヤしながらも胸の中に収まったままでいる事を選択せざるを得ない。「ドレス姿では運び難いですよね?歩けますから、おろ—— 」 チュッと唇にキスをし、カイルがイレイラの言葉を奪う。「いつもよりは運び難いけど、ドレスって脱がす楽しみは大きいよね。時間をかけて……ゆっくりと……ね?」 爽やかな笑顔と言葉が全然一致していない。(あかん。これ、暴走寸前なんじゃ?) イレイラはそう思い、慌てて話を逸らす事にした。カイルをすぐにでも性欲から引き離さないと、セナ達に迷惑を掛けてしまうからだ。「——そうだ!えっと、あの、召喚魔法って結構簡単に出来るんですね!『あ、何だ、こんな簡単に元の世界に戻れるのか』って思いました」「さっきのあれは移送魔法だよ。それに全然簡単じゃない。君の事は帰さないんだから、そんなの気にする必要なんてないよね?」 カイルの発した言葉の語尾が怒気を孕んでいる。(……そうだ、彼は一度も『帰れない』とは言っていなかった)
Zuletzt aktualisiert: 2026-03-12
Chapter: 【番外編①】第2話 来訪者・ライジャ「——は!よくまぁ二人してぬけぬけと、僕に顔を晒せたもんだな!」 カイル達の顔を見るなり、ライジャの第一声がこれだった。 派手好きな中世貴族の様に豪奢な衣装を身に纏い、緩くカールされた深紫色の長髪を優雅に揺らしながらライジャがカイルを指差し、大声で叫んだ。蛇の様な瞳はつり上がり、怒りに燃えている。「会いに来たのは、ライジャの方だろ」 当然のツッコミを、カイルは呆れながら返した。「そうだったな!」(あれ?案外素直な子なのかな?) 偉そうな態度でアッサリ認めたライジャに対し、イレイラは少し首を傾げて思った。「まぁいい。——そんな事よりも、一体これはどういうことなんだ⁈お前は何故そんな者と結婚した!前の体が死んだと思ったら、即また生まれ変わりを呼び戻してイチャイチャしやがって!お前はライサにあんな事をしたくせに!どうしてあの子を受け入れなかったんだ!」 肩を震わせ、憎々しげな顔をライジャは前面に晒す。「お前……ずっと『ライサの気持ちに応えたら殺す』って連呼していたのに、何を言ってるんだ?それに、そもそも僕は最初からライサを何とも思ってない。受け入れる訳が無いよね?」 息を吐き、カイルは面倒くさいと思いながらも返事をする。無視する方が、より面倒な事態になるだろうと予測しての返答だ。「当然だ!あんなに可愛くて美しくて可憐な妹が、お前に釣り合うものかっ。でも、そんなあの子を拒否するのは、もっと許せない!」(あ、間違いなくこの神子、ライサのお兄さんや) 矛盾し過ぎな言葉でイレイラは納得した。こんなんじゃカイルが会うのを渋っていたのも当然だと、額に手を当てながら思う。「あの子は、お前を愛していたんだぞ?毎日神殿まで訪れては顔を覗き見し、ありとあらゆる贈り物を捧げ、手紙を送り続け、日記だって欠かさず何時間も書いていた!あんなに毎日生き生きとしていたのに……今のライサといったら、もう……」(え、待って。それってストーカーじゃない?) くっと泣きそうな声を零し、ライジャが俯く。カイルは心底、『このくだらない話はいつまで続くのか』と言いたげな顔のまま黙っている。「それなのに、それなのになぁ!最近のライサといったら、刺繍を始めたり乗馬をしたり、貴族達の茶会にまで参加するようになったんだ……」「それは、大変だな。大丈夫なのか?」(いや、待って。カイルのそ
Zuletzt aktualisiert: 2026-03-10