「大丈夫よ」由美は答えた。「そうだ、こちらは新しいお手伝いさん。吉田さん」由美はにこやかに吉田へ軽く会釈した。「はじめまして」「こちらが俺の妻だ」憲一が吉田に由美を紹介した。「奥さま、よろしくお願いいたします」吉田はすぐに恭しく言葉を添えた。由美はこの呼び方にどうにも慣れなかったが、口を挟まず、礼儀正しく頷いた。憲一は彼女を抱いて部屋に戻った。「どうして起こしてくれなかったの?」由美は言った。「ぐっすり眠ってたから」憲一はそう答えた。──昨夜、彼女がどれほど疲れていたかを思えば、とても起こす気にはなれなかった。憲一は彼女を抱きしめた。「由美、俺、本当に幸せだ」由美も彼の腰に腕を回して抱き返した。「私もよ」憲一は彼女の額にキスをして言った。「外で待ってるから着かえて、一緒に食事をしよう」「まだ食べてなかったの?」由美が尋ねた。「うん、君を待ってたんだ」憲一は微笑んだ。「これからは待たなくていいのよ。お腹がすいたら先に食べて」「わかった」食事は新しく来たお手伝いさんが用意していた。二人が食べていると星が目を覚ました。由美が立ち上がろうとすると、吉田が言った。「私が抱いてきます。奥さまはそのまま朝食を召し上がってください」憲一も由美の手を取って引き留めた。「座って」由美は小さな声で言った。「でも……心配で……」「彼女はプロじゃないけど、子供を抱くくらいなら大丈夫だ。安心して」由美はうなずいた。「安心して食べろ」憲一は彼女のためにスープをよそった。「うん……ありがとう」由美は小さくうなずいた。食事の途中、憲一の携帯が鳴った。ここ数日会社に顔を出していなかったため、処理すべきことがあるというのだ。「行って。星のことは私がちゃんと見るから」由美は言った。憲一は小さく頷いた。「できるだけ早く戻るよ」「仕事も大事よ」由美が静かに言った。──彼の仕事が順調で安定してこそ、自分と星の生活も守られる。現実的に聞こえるかもしれないが、誰もがそうして生きているのだ。自分だって、ただ穏やかな暮らしを望んでいるだけ。食事を終えると憲一は会社へ向かった。由美は星をあやしに行った。手を貸してくれる人がいるだけで、やはりずいぶんと楽になった。……
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