All Chapters of 拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された: Chapter 1211 - Chapter 1220

誠は笑いながら言った。「お前、いつからそんなに礼儀正しくなったんだ？全然お前らしくないぞ」憲一は彼のグラスにたっぷりと酒を注ぎながら、にやりとした。「じゃあ、俺は昔どんなだった？」誠はわざと考え込むような顔をしてみせた。「まあ……とにかく、いい人じゃなかったな」「おいおい、俺を悪者にするなよ」憲一は笑って返した。「新婦が今ここにいるんだぞ。もしお前の言葉を信じて、俺と結婚したくないなんて言い出したらどうする？そのときは、お前が俺に嫁を一人補償してくれよ」誠は大げさにため息をついた。「俺にだって嫁がいないのに、どうやって補償するんだ？それなら……俺自身を差し出すか？」「ふざけんな。さっさと消えろ、できるだけ遠くにな」憲一は相手にせず、鼻で笑った。食卓の雰囲気は終始和やかで、皆が心から憲一と由美を祝福していた。ふたりが再び結ばれるまでの道のりは決して容易ではなく、だからこそ、この幸せはかけがえのないものだった。「ほら、先にお前の幸せを祝って乾杯だ」誠がグラスを掲げた。憲一もグラスを持ち上げ、彼とぶつけ合った。「夢が叶ったな。おめでとう」越人もグラスを掲げた。憲一は酒をなみなみと注ぎ、自らも飲み干した。「私はジュースで代わりに。ふたりがついに結ばれたことを祝って」香織もグラスを掲げた。「ありがとう」憲一は笑って応じ、軽くグラスを合わせた。場の空気はさらに温かく、笑い声が絶えなかった。やがてお開きとなったころには、憲一はすっかり酔っていた。由美は彼をホテルの部屋へ連れて行き、休ませた。それから、由美は香織と少し話したくて、彼女と次男を伴いホテルを出た。向かったのは川辺だった。夜の川辺には散歩をする人々が多く、活気にあふれていた。彼らもその中に混じり、微かな夜風を浴びながら歩いていった。次男は自分の足で歩きたがり、よちよちと遅い歩調で進んでいた。「ほら、こっちへおいで。おばさんが手をつないであげる」由美が手を差し伸べた。次男は素直に小さな手を伸ばした。その柔らかい掌が、彼女の手のひらにすっぽり収まった。「子どもっていいわね。悩みもなくて」由美が感慨深げに呟いた。香織は彼女を見て言った。「あなたも悩みなく生きられるわよ」「大人の考えはみんな複雑なのよ。大人

彼はドアのそばに凭れかかり、両手をポケットに突っ込んだまま、ぼんやりと立っていた。窓の外から差し込む陽光が、由美と星をやわらかく包み込んだ。まるで金色の光の輪が二人を取り囲み、夢のように儚く、現実味がなかった。やがて、憲一はゆっくり歩み寄り、由美を抱きしめた。彼の腕には切実な力がこもっていた。──もしもこれが夢なら、目が覚めた瞬間、すべて消えてしまうのではないのか。そんな恐怖が、彼の心を締めつけていた。由美の体は一瞬こわばった。心の奥に隠れている恐れを必死に押し込み、彼女は笑みを作った。「どうしたの？今、星のお尻を洗ってるところなのよ。こんなふうに抱きしめられたら、おむつ替えができないじゃない。早く離れて」だが憲一は首を横に振り、さらに強く抱き寄せた。「動かないで……少しだけでいい、抱かせて」彼は腕に力を込め、由美をぎゅっと抱きしめた。「由美」「ん？」由美は顔を上げた。憲一は微笑んだ。「夢かどうか、わからなくなりそうなんだ。だけど君の声も、吐息も、ちゃんと感じられる」「まだ酔いが残ってるんじゃないの？」由美が冗談めかして返した。彼は彼女の肩に顎を乗せ、少年のように甘える声を落とした。「違う、もうとっくに醒めてる。さっき君と星を見ていて、ふいに思ったんだ。――今がすごく幸せだって。これだけでいい、そう思える。過去の辛いことなんて、大したことじゃないって思えるくらいに」由美は目を伏せ、過去の出来事が次々に脳裏に蘇った。──遠い日のようでもあり、昨日のことのようでもある。夢幻のような思い出。彼女はひとつひとつ言葉を紡いだ。「これは夢じゃない。私も夢なんか見てない。私たちは……確かに一緒にいるわ」憲一は貪るように彼女を抱きしめた。「ずっと、このまま一生を過ごそう」由美は窓の外を見つめた。──自分も、ただこんなふうに、平凡で穏やかな日々を生きていけたら。星は大きな瞳を瞬かせていた。泣くこともなく、声を出すこともなく、まるでこのひとときの大切さを理解しているかのように。しばらくして、星は眠りについた。由美は彼女にオムツをきちんと履かせた。憲一はテーブルの前に立ち、由美に問いかけた。「開けてみてもいい？」「本当に好奇心が強いわね」由美は呆れたように言った。

愛美は双をぎゅっと抱きしめ、離そうとしなかった。「お義姉さん、そんなに神経質にならなくても大丈夫よ。私は本当に平気だもの。双がこうして飛び込んでくるのは、私のことが好きだからでしょ？そんな子を突き放すなんてできないわ」香織は眉をひそめて言った。「でも、好きにさせたらわがままになるわ」「子どもが十人も八人もいるわけじゃないんだし、双と次男の二人だけよ。ちょっとくらい甘やかしたっていいじゃない」愛美は双の顎をつまんで笑った。「ねえ、そうでしょ、双？」双は大きな黒い瞳をくるくるさせ、力強くうなずいた。「おばさんの言う通り！」香織は双のお尻をぴしっと軽く叩いた。由美も頷いた。「双は子どもたちの中では一番大きいけど、まだまだ小さいもの。もっと大切にしてあげてもいいわよ」「ママ、聞いたでしょ？由美おばさんもおばさんも、僕をもっと可愛がれって言ってるよ！」香織は苦笑した。「この子は……恩知らずね。私がどれだけ可愛がってるか分からないの？」双は愛美の腕の中で首を振り、からかうように言った。「おばさんの方がもっと僕を愛してる」香織は呆れて笑い出した。「じゃあこれからおばさんの家に行きなさい。ママの家には戻らなくていいわ。私は次男だけを息子にするから」すると双は慌てて飛びつき、母親の首に抱きついた。「ママ、ごめんね。ママが一番僕を愛してる！ママは世界で一番のママ！僕はママが大好き、ママも僕を愛してる！」愛美は舌打ちした。「もう、甘ったるすぎるわ」香織はわざと拗ねたふりをした。「私はいいママじゃないもん」双はにやにやしながら顔をすり寄せた。「いいママだよ。僕の大好きなママ」由美は笑った。「双、私もう鳥肌が立っちゃったわ」双は気にせず、香織の首にしがみついた。「僕のママは、世界一のママ！」愛美は彼の髪をいじりながら尋ねた。「そういえば、さっき何を話してそんなに楽しそうに笑ってたの？」「由美おばさんが、星ちゃんを僕のお嫁さんにするって言ったんだ」双は素直に答えた。「まぁ……」愛美は思わずまた舌打ちした。「まだこんなに小さいのに……」そのとき、化粧師がひょいと口を挟んだ。「まあまあ、身内に収める方が安心って言うでしょ」その一言に、みんなは一瞬ぽかんとした後、堪えきれずに大笑いした。双は何が面白いのか分か

香織は双の手を握り、下ろさせると、そのまま抱き寄せて「シー」と囁いた。双は小さな声で尋ねた。「しゃべっちゃだめなの？」香織はうなずき、彼の耳元で囁いた。「じっと見ていようね。大声を出しちゃだめよ」双は素直にうなずいた。「ママ、由美おばさん、今日すごくきれいだね」彼が言うと、香織も壇上の由美を見つめて微笑んだ。──そう、今日の彼女は誰よりも美しい。スポットライトに照らされた彼女は、眩いばかりに輝いている。……会場は夢のような幻想的な空間に仕上げられていた。計算し尽くされた花々の装飾と光の演出が、甘くロマンチックな雰囲気を作り出した。エントランスに飾られた花壇には色とりどりの花が咲き誇り、鮮やかな彩りが祝宴に生命を吹き込んでいた。由美は一歩ずつ花びらを踏みしめながら、新郎の憲一へと歩みを進めた。憲一はただ彼女を見つめ、他のすべてのものを遮断していた。音も色も遠のき、この瞬間、彼の世界の中には彼女しかいなかった。彼は手を差し出した。由美はゆっくりと手を上げ、その掌を彼の掌に重ねた。次の瞬間、盛大な拍手と祝福の声が会場を包み込んだ。誰よりも力いっぱい手を叩いていたのは双だった。その次は誠だった。愛美が誠の耳元に顔を寄せ、囁いた。「ちょっと、結婚するのはあなたじゃないのに、なんでそんなに熱くなってるのよ？」「……」誠は言葉を失い、隣の越人に視線を投げた。「おい、お前の嫁さんをなんとかしろ」しかし越人は両手を広げ、まるで他人事のように笑った。「俺には無理だな」「……」誠は思わず苦笑した。「みんなで俺をいじめやがって」すると双が胸を張って言った。「誠おじさん、僕はおじさんの味方だよ。だから一人じゃないよ」誠は胸がじんと熱くなり、泣き出しそうなほど感動して双を抱き寄せた。「ほら、こっちに座れ」そのとき、司会者の声が会場に響き渡った。「本日は誠におめでたい席にて、松原憲一様と安藤由美様のご結婚を皆さまと共にお祝いできることを光栄に存じます。お忙しい中お集まりくださった皆さまに心より感謝申し上げます」その声は力強く、言葉は明確で、気力に満ちていた。聴衆の注意を引きつけると、司会者は本格的な開会の挨拶を始めた。「本日、新郎新婦様より深いご信頼を賜り、司会を務めさ

挨拶の順序にも決まりがある。まずはメインテーブルに座る憲一の親族から始まり、その後、順に回っていく。一通り回り終え、憲一と由美はわざと圭介たちのテーブルを最後に回るようにした。こうすれば、最後に彼らのテーブルに着いて、一緒に食事をすることができるからだ。これは祝宴、圭介も断るはずがない。誠や越人も同じだ。「二人ともお腹すいたでしょう？さあ、座って何か食べて」香織が声をかけた。憲一は由美に椅子を引いてやり、由美は腰を下ろした。彼はその隣に座った。誠が彼を見て言った。「お前、まだ食べられるのか？」ちょうど口に運ぼうとしていたロブスターの身を箸でつまんでいた憲一は、その一言に眉をひそめた。「どうして食べられない？これは俺の披露宴だぞ。むしろもっと食べるべきだろう。変なこと言うなよ」誠は笑った。「俺はてっきり、お前は幸せで胸いっぱいだと思ったんだよ。ほら、『愛があれば水だけで満たされる』って言うだろ？」「じゃあ試してみろよ、水だけで満腹になるか」憲一が言い返した。「俺には恋なんてないから、当然満たされるわけないさ。でもお前は違うだろ？」憲一はロブスターを口に放り込み、さらにスープを一口啜った。「この料理、酢は入ってないのに、お前の言葉だけがやけに酸っぱいな」「……」誠は言葉に詰まった。愛美が口を挟んだ。「だって彼、独り身だから。他に酸っぱくなる相手なんていないでしょ？あなたたちの舞台でのラブラブぶりを見せつけられて、そりゃ気分もすねるわよ」誠は慌てて憲一の皿に料理を取り分けた。「ほら、食べろ、食べろ。今日はお前の披露宴なんだから、いっぱい食べなきゃ」余計なことを言わせないように、慌てて口を塞ぐつもりだった。──また何を言い出すか、自分がやり込められてしまう。そもそも軽口を叩いた自分が悪い。こんなカップルだらけの中でからかうなんて、そりゃ返り討ちに遭うに決まっている。憲一も逆に彼に料理を盛った。「俺たちの中で一番可哀想なのはお前だ。だからお前がもっと食え。俺が食いたい時は、嫁さんが取ってくれる。でもお前は独り身だ。誰が取ってくれるんだ？」「……」誠は完全に言葉を失った。そして小さく肩をすくめた。「悪かった、悪かった。もう俺のことはやめてくれないか？」憲一は笑った。「俺の大事な日に水