愛美は浴槽に身を預け、心地よさそうに目を閉じていた。越人がその肩を優しく揉みながら、からかうように声をかけた。「このあと、眠れなくなるんじゃないか?」「眠れなくても、あなたが付き合ってよ」越人は苦笑しつつも、その声音にはどこか甘さが滲んでいた。「ったく、人を振り回すのが得意だな」「じゃあ代わりにあなたが妊娠する?私がお手軽な『お母さん役』やるわよ?」「……」越人は一瞬言葉を失い、次の瞬間、不意に笑みをこぼした。彼は濡れた手を伸ばし、彼女の頬を軽くつまんだ。「俺が妊娠なんてできるわけないだろ。そうなったら、君が『お父さん役』だぞ?」愛美は声を立てて笑った。ちょうどそのとき、外から着信音が響いた。「電話だ。出てくる」越人が立ち上がると、愛美は小さく頷いた。「行ってきて。こんな時間にかかってくるなんて、急ぎの用事かもしれないし」越人はバスルームを後にし、リビングで表示された発信者名を見て眉をひそめた。彼は通話ボタンを押し、耳にあてた。「ダメだ。二人は全然合わない」「どうして分かるんだ?」「顔を合わせた瞬間からお互い気に入らなくて、もう少しで喧嘩になるところだった」受話口の向こうで瑞樹は苦笑した。──やっぱり。あのわがままなお嬢様が性格を変えるはずがない。誠の連絡先を欲しがっているのも、気に入ったからじゃなく、また口喧嘩するためだろう。あのプライドの高いお嬢様が、素直に寄り添うはずがない。「まあ、別にいいさ。最初から期待はしてなかった。分かった、知らせてくれてありがとう」「……ああ」越人は通話を切ると、深く息を吐いた。──どうやら誠に彼女を見つけさせるのは、なかなか難しそうだ。……その夜は憲一と由美の新婚初夜だった。だが由美の体調を考え、二人はただ寄り添って眠るだけで、深い関係にはならなかった。憲一は彼女を抱きしめた。「今日は疲れただろう?」「ええ」由美は小さく声を返した。「それなのに、どうしてまだ眠れないんだ?」彼は優しく微笑み、耳元で囁いた。由美は目を開けたまま、答えを探すように口を開いた。「……わからない。たぶん、興奮してるからかも」「結婚したから?」由美は顔を向け、二人の吐息が絡まり、視線が重なった。憲一はそっと彼女の唇に軽く口づけ
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