慈安殿では——太后が榮乃皇太妃からの報告を聞き終えると、小さな溜息をついた。「分かりました。侍医には全力を尽くすように。良い薬があれば、どんなものでも使うようにと」「かしこまりました」高松内侍は目を潤ませながら答えた。「太后様のご慈悲、誠にありがたく」「皇后には知らせが行っているの?」太后は静かな声で問いかけた。「はい」高松内侍は言葉を選びながら続けた。「皇后様は『年齢を考えれば致し方ない』とおっしゃり、お食事をお送りになった上で『後の事は万全を期すから安心するように』とのお言葉でした。しかし、私めにはとても皇太妃様にそのようなことは申し上げられません」皇太后は眉を寄せ、「そう……無理に伝えることはないわ。必要な手配はするけれど、今は治療に専念させましょう」高松内侍は涙声で答えた。「太后様のお言葉に、この私めも安堵いたしました。侍医様の診療があれば、皇太妃様もご楽になられましょう」「そう、私も後ほど見舞いに参りましょう」皇太后は静かに告げた。高松内侍は丁重に跪いて叩頭し、御礼を述べると退出した。「内藤」皇太后の声には微かな怒りが滲んでいた。「典薬寮へ行って確かめなさい。皇后が榮乃皇太妃の診療を侍医に禁じていないかどうか」内藤勘解由が命を受けて出ようとした矢先、皇后の来訪が告げられた。彼が太后の方を振り返ると、太后は僅かに頷き、そのまま行くようにと目配せした。内藤は急ぎ足で殿を出た。皇后は蘭子を従えて入殿すると、深々と礼をした。「母后様にご機嫌伺いに参りました」「お立ちなさい」太后は茶菓子を運ぶよう指示しながら言った。「珍しいことね。何かご用があって?」皇后は優雅に立ち上がり、愛らしい笑みを浮かべた。「まあ、母后様。特別な用がなければお伺いできないとでも?」太后は軽く頷きながら、「珍しく孝行心を見せてくださるのね」と言って、続けた。「先日は体調を崩されたとか。お大事に」謹慎処分を体調不良と表向きにしていたのだ。皆が真相を知っていても、太后は体面を保たせてくれていた。「母后様のご加護のおかげで、すっかり良くなりました」「寒い時期ですもの」皇太后は穏やかに諭すような口調で言った。「せっかくの快復なのだから、風に当たらないように、ゆっくりお休みになった方が」皇后は苦笑いを浮かべ、「はい」と短く答えた
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