帰路につく馬上から、既に都の人々の噂話が耳に届いていた。群れをなして立ち話をする人々の口から、雅君女学での一件が次々と語られていた。女学院と工房は既に世間の耳目を集めていた矢先のことである。これほどの騒動が広がらないはずもない。「まあ、左大臣様のお孫さんときたら……」「あんな粗野な男に手を付けられるなんて」「金の枝に咲いた花が泥に落ちたようなもの」「これからどこの家の若様が娶ろうというのかしら」道行く人々の言葉が風に乗って届く。「愚かね、あんないいお家の娘が」「女教師なんかにならなければ」「ほら、見なさい。人生台無しよ」嘲笑と同情の入り混じった声が、街角から街角へと伝わっていった。さくらは意図的に馬の速度を緩めた。玉葉が生徒たちを守ったという称賛の声が、どこかから聞こえてくることを願って。しかし、そんな言葉は一言も耳に入ってこなかった。胸が潰れそうだった。玄甲軍大将として、幾多の困難や暗殺の危機に直面し、完璧とは言えない作戦もあった。工房の問題も山積みだ。それでも彼女は挫けなかった。全力を尽くせば、いつか道は開けると信じていた。だが今回は違った。心が完全に折れていた。これは防げたはずの惨事だった。なぜ警戒を怠ったのか。玄武との別れの痛みに心を奪われ、判断力が鈍っていたのだろうか。私情に流され、危機の予測も、予防策の実行も疎かにしてしまった。馬上で背筋を正しながら、さくらは己の不甲斐なさに深く歯噛みした。親王家に戻ったさくらは、議事堂で独り長い間座り込んでいた。ようやく有田先生が息を切らして戻ってきた時には、既にかなりの時が過ぎていた。京都奉行所で事情を探ろうとしていた有田先生は、王妃がこんなに早く戻っているとは思わなかった。広間に入ると、さくらが長椅子に深く沈み込むように座り、膝を抱え込んでいる姿が目に入った。今まで見たことのない姿だった。背筋の通った凛々しい王妃の面影はなく、まるで座禅を組むような格好で、しかし背中は丸めて縮こまっていた。「王妃様」有田先生は足早に近づいた。「今は黒幕を突き止めることが先決です。自責の念に囚われている場合ではありません」さくらは両手で顔を覆い、軽く擦った。「大丈夫だよ、有田先生。ちょっと気持ちを整理するだけだわ」すぐに足を下ろし、背筋を伸ばすと、冷静な声で分析を始め
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