「まずは、私の提案に耳を傾けていただき、ありがとうございます。ナノテクノロジーは、ここ数年で急速に注目を集めている新興分野です――」松本陽葵は主席に立ち、自信に満ちた口調でプレゼンを始めた。手元のスライドを操作しながら、淀みない説明を重ねていく。さすがは部長の座に就く人物だけあり、その話しぶりや資料の構成力、専門的な知見には目を見張るものがある。一通りの説明を終えると、彼女は資料を閉じ、柔らかな笑みを浮かべながら会議室をぐるりと見渡した。「以上が、現時点での私の提案になります。ご不明な点があれば、どうぞご遠慮なくお尋ねください。皆さんと建設的な意見交換ができればと思います」そう言ってから、彼女の視線は自然と鈴の方へと向かう。「三井社長。帝都グループの代表として、ぜひ私たちの案にご助言をいただければと思います。率直なご意見を、どうぞ」その瞬間、会議室の空気がピンと張り詰める。視線が一斉に鈴に集まり、場には微妙な緊張が走った。陽葵の目には、明らかな挑発の色が宿っている。鈴はわずかに眉を寄せたが、特に反応は見せなかった。その様子に、陽葵の心には勝ち誇ったような思いが湧く。――やっぱり、ただの飾りなのね。内容すら理解してないんじゃない?得意げに口元をつり上げ、陽葵は鈴をじっと見据える。数秒の沈黙のあと、鈴は微笑を浮かべ、静かに口を開いた。「松本さんのご提案は非常に丁寧で、要点も明快に整理されていました。私から特に補足すべき点はないように思います」その言葉を聞いた陽葵の表情には、さらに余裕がにじんだ。――予想通り。やっぱり何も中身がない。ただ座ってるだけのお飾り。「そんな、ご遠慮なさらずに。私はまだまだ未熟ですから、先輩方のご意見をいただけると本当にありがたいです」言葉遣いはあくまで丁寧だが、その裏には鋭い皮肉がしっかりと込められている。周囲からも、くすくすと笑い声が漏れ始めた。会議テーブルの一角に座っていた安田翔平が、ちらりと陽葵に視線を送る。そこには明確な警告の色が宿っていたが、陽葵はまったく意に介さなかった。――今日こそ、あの三井鈴を引きずり下ろす。「三井社長はまだお若いですが、柔軟な発想をお持ちかと思います。ぜひ、私のような後輩にも学びの機会を与えていただければ」畳みかけるような言葉に
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