All Chapters of 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった: Chapter 321 - Chapter 330

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第321話 3人の兄の愛情

「おじいちゃん、お前が帰ってくるって知ってな、お前の好きな料理を厨房に用意させてたぞ」鈴の顔にふわりと笑みが浮かぶ。頬には小さなえくぼが浮かんだ。「わあ、私ってなんて幸せなんだろ!」「ほんと、お前は筋金入りの食いしん坊だな」悠希がからかうように言うと、兄妹は笑いながら三井家の車に乗り込んだ。三井家の本邸は広大な敷地を誇り、ヘリポートから邸宅までは車で十数分かかる。車窓の外を眺めながら、久しぶりの帰郷をしみじみと感じていた。邸に着くと、玄関前にはすでに使用人たちが整列して待っていた。「お嬢様、おかえりなさいませ!」彼らは一斉に頭を下げ、丁寧に出迎える。鈴は笑顔で会釈し、そのまま屋敷の中へと入った。めったにない帰省の機会とあって、三井家の兄弟たちも全員揃っていた。祖父も上機嫌で、鈴の手を握ったまま、食前から食後までずっと話し込んでいた。夜十時近くになって、ようやく鈴があくびを何度も繰り返した頃、祖父はようやく手を離した。「よし、もう行って休みなさい。飛行機で疲れてるだろう」「明日の朝は、わしと一局つきあってもらうぞ」「うん、わかった。おやすみ、おじいちゃん」鈴はそう言って席を立ち、螺旋階段をのぼっていく。すると、廊下の壁にもたれるようにして、三人の兄たちが並んで彼女を待ち構えていた。「久しぶりの帰省だし、明日は俺がショッピングに連れてってやる。服でもアクセでも、好きなだけ選んでいいぞ」そう言ったのは、長兄の陽翔だった。すぐさま悠希が口を挟む。「兄貴、毎回それじゃ芸がないだろ。鈴、明日は俺が新しくオープンしたeスポーツクラブを案内するよ。設備、マジでやばいから。絶対楽しいって」そして最後に、助が小さく咳払いをして口を開いた。「天町に新しくレストランがいくつかオープンしたんだ。どれも評判がいいらしいし、一緒に食べに行かないか?」次々と提案され、鈴はちょっと困ったように笑った。「兄さんたち……私、すっごく眠いの。明日この話にしちゃダメ?」三人は顔を見合わせると、急に揃って真顔になった。「ダメだ、一人選べ」鈴はくるくると目を回しながら、指をもじもじさせて考え込む。「じゃあ……みんな、半日ずつ付き合ってくれるっていうのはどう?」その提案に、三人とも納得したらしく、表
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第322話 旧友との偶然の再会

サイズはぴったりで、服のシルエットも鈴の雰囲気にこれ以上なく合っていた。「助兄さん、やっぱり目利きだね」褒められた助は、思わず得意げに口角を上げる。「そりゃあな。誰に選んでると思ってるんだ」鈴はふふっと笑いながら、軽口を返した。「将来の奥さん、幸せ者だね」その言葉に、助はすかさず口を挟んだ。「ちょ、待て待て、鈴!奥さんって……そんな話、まだ何も決まってないだろ。変なこと言うなって」「ふふっ、なに照れてるの」「照れてないし。……ほら、もう出かける時間だぞ」ファンに街で気づかれないよう、助は帽子にサングラス、マスクまで装着し、万全の変装でスポーツカーを走らせた。向かったのは、地元でも指折りの高級ショッピングエリア。高級ブランドのブティックや人気のレストランが立ち並ぶ、まさに街歩きの聖地だった。鈴は先に車を降り、助が地下の駐車場に車を停めに行くあいだ、通りの端で待っていた。と、そのとき――「三井鈴?やっぱりあなただったのね」不意に背後からかけられた女の声に、鈴は思わず眉をひそめた。振り返ると、そこには見覚えのある顔。子どもの頃から因縁の相手、清水美和が、取り巻きを二人連れて立っていた。顔を合わせたくはなかったが、仕方なく最低限の礼儀として口を開く。「……偶然ね」美和の実家は家電事業を営んでいて、昔から箱入り娘として甘やかされて育ってきた。肩書きだけ見れば一応は名家の令嬢だ。一方で、学生時代の鈴は、他人と距離を置くため、家庭の背景をあえて隠していた。知っていたのは学校の上層部くらいで、クラスメイトの多くには貧乏な苦学生だと思われていた。捨て猫の保護のためにアルバイトもしていたし、地味な服装やお弁当も相まって、裕福とはほど遠い印象を持たれていたのだ。しかも、成績は常にトップで、毎年のように奨学金を獲得していた。それが美和にとっては気に障った。美和は努力しても決して追いつけず、次第に鈴への劣等感が敵意に変わっていった。そして、鈴はただ黙って実力で応えてきた。「卒業してから一度も連絡なかったわね。いま何してるの?……まさか、仕事も見つからないとか?」美和の声には、あからさまな嘲笑が混じっていた。鈴は肩をすくめ、適当に答える。「無職よ。……どうしたの?仕事でも紹介してくれ
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第323話 嘘を暴く

「ねえ、行かないでよ。同級生と久しぶりに会ったのにさ。たとえ今の生活が大変だったとしても、そんなに卑屈にならなくてもいいでしょ?私たち、別に笑ったりなんかしないから」美和は、あたかも思いやりがあるかのような表情でそう言った。「それにちょうどね、クラスの子たちと今日食事の約束してるの。一緒に来ない?せっかくだし、高級なお店に入って、ちょっと世界を広げてみなよ」その言葉に、鈴はふっと笑った。口元に薄く笑みを浮かべたまま、少し鋭い声で言い返す。「美和、いつまでそういうの続けるの?学生のころも私に敵わなかったのに、今も変わらないのね。少しばかりお金があるからって、そんなに偉そうにして……世の中にはもっと上がいるってこと、知らないの?いつか痛い目見るわよ」思いがけずきっぱりと言い返された美和は、一瞬言葉を失った。学生時代から何を言っても鈴には敵わなかった。それは今も変わらない。だが、それがますます美和の対抗心を燃え上がらせた。――今日こそは三井鈴に恥をかかせてやる。思い知らせなきゃ、私と彼女の間には越えられない差があるってことを。「……せっかくの機会なんだから、一緒に食事くらいいいじゃない。鈴、空気読みなよ」そう言いながら、美和はちらりと部下に視線を送る。合図を受けた二人は即座に動き、鈴の両腕を左右から軽く取った。「美和さんが誘ってるんだから、ありがたく思わなきゃ。こんな店、普通の人じゃ入れないんだからね?断る理由なんてないでしょ」そう言って、強引に鈴を車へと引っ張っていく。拒否する隙も与えない手際のよさだった。最初は関わるつもりなんてまったくなかった。だが、ここまでしつこくされると、さすがの鈴もイラッとくる。――ちょうどいい、どこかにぶつけたかったこのモヤモヤ、相手になってもらおうじゃない。車の中、美和はこれ見よがしに、新しく買ったというエルメスのバッグを助手席に置いた。部下の一人がすぐに持ち上げる。「わぁ、それって今年のワニ革の新作ですよね?聞いた話だと、ひとつで二千万するって……」もう一人が続ける。「お金があっても、あれはVVIPしか買えないんですよ。限定モデルですし。さすが美和さん、憧れちゃう」美和は上機嫌だった。お追従を受けながら、さりげなく鈴の表情を窺う。鈴の顔には特に
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第324話 同級生の集まり

そのひと言に、美和は一瞬たじろぎ、思わずバッグを抱き寄せるようにして背中に隠した。「ふん、田舎者のくせに、よくそんな口が利けるわね。相手にするだけ無駄だわ」取り巻きの二人は顔を見合わせた。正直、まさか美和が去年のモデルのバッグを持っているとは思えなかったが、今の動揺ぶりは、確かに何かを隠しているように見えなくもない。それでも、取り巻きのひとりが忠誠心を見せるように口を開く。「美和さん、こんなの放っておこうよ。あとでちゃんと教えてあげようよ。あたしたちとあの子の差ってやつを」美和の表情が少しだけ落ち着いた。一方、鈴は内心でふっと笑い、彼女たちがどんな茶番を見せてくれるのか、ちょっと楽しみになってきた。そのころ、助は車を駐車場に入れ、外に出たが鈴の姿が見えない。すぐに電話をかけるも、鈴はさっと切ってしまい、代わりに一通のメッセージが届く。「助兄さん、ちょっと用事があるの。またあとで連絡するね」助は小さくため息をつき、「わかった」とだけ返信を返した。美和は鈴を連れて、フランスでも最上級と言われる高級レストランへと向かった。完全会員制で、ここでカードを持てるのは、いわゆる選ばれた人間だけ。車を降りると、スーツ姿のスタッフが満面の笑みで近づいてくる。「清水様、お待ちしておりました。どうぞ中へ」「個室を予約してあるの。案内してちょうだい」「かしこまりました」スタッフは四人を案内し始める。取り巻き二人はスマホを構え、まるで観光地にでも来たかのように写真を撮ってはしゃいでいた。ただ一人、鈴だけは終始落ち着いていて、周囲に左右されることなく淡々としていた。その様子を見て、美和はまたも勘違いしたようで、余裕たっぷりに言う。「今日会うのはみんな古い友達ばかりだから、三井鈴、あまり緊張しないでね?」「……彼ら、同じ人間じゃないの? なんで私が緊張する必要あるの?」その切り返しに、美和は一瞬言葉を失い、すぐさま苛立った口調で返した。「これはね、マナーってやつを教えてあげてるのよ。そんな田舎くさい態度じゃ、恥をかくだけよ」鈴は肩をすくめて、まったく動じる気配がない。その態度に美和はさらに苛立ち、ヒールの音を高らかに響かせて足を踏み鳴らした。――そういうところが一番腹立つのよ。「清水様
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第325話反撃

普段、美和の周りにいるのは、彼女と同じく見栄っ張りで人を選ぶタイプばかりだった。学生時代から、身の丈以上の場所に居ようとする三井鈴のような存在を、彼らは好まなかった。だから、言葉遣いにも遠慮がなくなるのは当然だった。「三井さん、最近どこで働いてるの?月にいくら稼いでるの?」「結婚した?それともまだ彼氏ナシ?」「よければ、誰か紹介してあげようか?」──そんな空気の中、美和がわざと話を遮る。「ねえ、みんなも少しは考えなよ。三井さんが、私たちと同じ世界にいると思う?ここにいるのはみんな家に資産がある人間ばかりで、わざわざ働く必要なんてないの。三井さんはきっと、どこかで時給のバイトでもしてるんじゃない?でも笑っちゃダメよ、人ってそれぞれだから」一斉に笑い声が起きたが、鈴はただうっすらと目を伏せ、まるで何も聞こえていないかのように微動だにしなかった。そんな中、一人の女子がふと気づいた。鈴が着ている服が、どう見てもシャネルの今シーズン限定・オートクチュールだった。あれは表に出回らない超高級シリーズで、普通には手に入らないものだ。──でも、鈴がそんな服を持てるはずがない。つい、口に出していた。「ねえ、その服どこで買ったの?もしかして精巧な偽物?でも質感は結構いいわね」その一言で、周囲の視線が一斉に三井鈴の服に集まった。たしかに、素材も仕立ても明らかに本物。だが、彼らの中にそれが本物だと信じる者は誰一人いなかった。「うわ、それ高そう……」「最近の偽物って、こんなに精巧なの?」「ア〇ゾンで買ったの?」鈴は笑った。ここに入ってからというもの、視線も言葉も空気も、まるで自分をピエロか何かとでも思っているかのような、見下した態度ばかりだった。「じゃあ、ア〇ゾンで検索してみたら?同じのがあるかどうか」冷たく一言、言い返した。彼女がこんなふうに応戦してくるとは、誰も思っていなかった。かつての鈴なら、ただ黙って受け流していたはずだった。「……それってどういう意味?みんな、悪気があって言ってるわけじゃないの。ただの冗談でしょ?」美和はわざとらしく眉をひそめ、控えめな声色をつくる。それに他の者たちも続いた。「そうそう、なんでそんなにピリピリしてるの?ちょっとしたジョークじゃん」
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第326話 金持ちの家の愛人

鈴は「ああ」と軽く相づちを打った。「その中には、前にトップ配信者だった小林氏もいたよね。脱税で捕まって、罰金が何十億にもなったって噂だよ」「たかが一介の配信者がそんなに稼げるなんて、裏で誰かが動いてるに決まってるじゃない。ただ、今回の件はかなり大きく騒がれてたから、さすがにみんな知ってるでしょ?」その言葉に、加藤は完全に動揺した。この件は家にも会社にも大打撃を与え、会社は倒産寸前まで追い込まれた。だが、鈴は一体どうやってそんな情報を知ったのか?鈴は加藤を無視すると、美和の取り巻きのひとりに視線を移した。「あなたの家って水産業だったよね?台風の影響で相当な被害が出たって聞いたけど……高利貸しからも借りたって。本当に返し終わったの?」問いかけに、取り巻きの表情が一気に曇った。鈴はさらに別の取り巻きを見た。「たしか、去年の金融ショックで大変だったんだよね?いまだに立て直せてなくて、銀行にかなりの借金があるって……本当?」今度はもう一人の取り巻きが、ぽかんと口を開けたまま言葉を失った。「な、なんでそんなことまで知ってるの……?」鈴は肩をすくめ、涼しい顔で言った。「どうやって知ったかはどうでもいいの。大事なのは――あなたたちの、その薄っぺらな力をかさに着た顔が、心底気持ち悪いってこと」そして、美和に視線を戻す。「最近、清水電器は勢いあるみたいだけど……創格電器も負けてないよね?もしかしたら……ほんのちょっとのことで、ひっくり返されるかも。今回のビジネスサミット、ほんとに正念場じゃない?うまくやらなきゃ……取り返しのつかないことになるかもよ」美和の顔色が、みるみる青ざめていく。だが、何も言い返せなかった。鈴が言っていることは、すべて事実だったからだ。相手が押し黙っている様子を見て、鈴は上機嫌で席を立った。「じゃあ、みんな。私はこれで。またね」そう言って、個室をあとにする。取り残された面々は、ただ呆然と顔を見合わせていた。「三井さんって、一体何者……?なんであんなに内部事情を知ってるの?」「もしかして、めちゃくちゃ裏に誰かついてる……?」「あり得ないでしょ。学生の頃なんて、貧乏くさいって有名だったじゃん。今さら金持ちになったとか……」美和は周囲のひそひそ話を聞きながら、悔しさを
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第327話 彼女も三井だ

その場にいた誰もが、ため息をつきながらも、心の中では鈴を徹底的に貶していた。口を開けば、辛辣な言葉が次々と飛び出す。「あんなやつ、同級生ヅラする資格ないよね」「今度会ったら、ガツンとやってやる」「愛人なんて、みんなで袋叩きにすべき存在だわ」――翌朝。美和のもとに、依頼していた調査会社から電話が入った。「美和さん、調べてた三井鈴の件なんですが……何も出てきませんでした」「は?」不満げな声をあらわにして、美和は吐き捨てるように言った。「役立たず。フランスなんてそんなに広い国じゃないのに、たかが一人の身元も調べられないの?何のために雇ったと思ってるのよ」相手はおそるおそる返す。「もしかすると……誰かが彼女の身元を意図的に隠してる可能性もあって……それで一切の情報が……」「無能なのは許せる。でも、言い訳して人のせいにするなんて最低」言い終えた瞬間、プツリと電話を切った。ちょうどそのとき、父親の大輔がリビングに入ってくる。「美和、朝から随分と機嫌が悪いな。何かあったのか?」「別に、お父さん。今日はビジネスサミットの日でしょう?うちの会社も、ここでしっかり案件を取りたいの」美和の言葉に、大輔は嬉しそうに微笑んだ。「その意気だ。しっかり頼んだぞ。それと――聞いたところによると、今年は三井家もサミットに参加するらしい」その名を聞いた瞬間、美和の目がぱっと輝いた。「陽翔さんも来るの?」大輔は娘の頭を優しく撫でた。「ほんと、お前の頭の中は陽翔さんのことでいっぱいなんだな」顔を赤らめる美和。フランスで彼を知らない者はいない。若くして数々の企業を成功に導いたビジネス界の神話。そして何より、世界屈指の大財閥・三井家の後継者。彼と結婚できるなら、それはもう――夢のような話だった。「お父さん、もし三井家と繋がりを持てたら、うちを軽く見る企業なんてなくなるよ。わざわざ営業かけなくても、向こうから頭下げてくる」大輔はにこりと笑い、頷いた。「確かにな。陽翔さんが婿になってくれたら言うことなしだが……最近、三井家の令嬢も帰国したって話だぞ。三井家はその娘を相当大事にしてるらしい。もし陽翔さんを狙うなら、その娘に近づくのも一つの手かもしれん」美和は一瞬、胸に不安がよぎった。三井家
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第328話 ビジネスサミットに出席

「鈴、このドレスどう?」助が、比較的落ち着いたデザインのオートクチュールドレスを手に取り、目の前でひらひらと揺らしてみせた。その隣で、悠希も負けじと華やかなドレスを手にして声を上げる。「こっちのほうが鈴の雰囲気にぴったりだと思うな」「兄さん、それはちょっと派手すぎるよ」「でも助のは、ちょっと地味すぎない?」どちらも譲らず、最終的に選択を鈴に委ねることにした。「ねえ、鈴はどう思う?」鈴は二人の選んだドレスに視線を落とし、ふっと微笑んだ。「悠希兄さん、助兄さん、どっちもすごく素敵だけど……今日はやっぱり控えめなほうがいいかな」そう言って、淡いラベンダーカラーのドレスを手に取る。助と悠希が目を合わせ、助がすかさず言った。「引き分けだな、これはノーカウントだ」二人の張り合いに思わず笑ってしまいながら、鈴は彼らの腕を片方ずつ取った。「悠希兄さん、助兄さん、ありがとう」「なに言ってんだ、鈴。うちじゃいつだって、お前はお姫様だろ」悠希が肩をポンと叩く。「さ、着替えておいで。陽翔兄さんが待ってるぞ」「うんっ!」鈴は頷き、ドレスを抱えて更衣室へと向かった。やがて、階段の上に彼女の姿が現れる。ゆるやかな螺旋階段を、ドレスの裾を軽やかに揺らしながら降りてくるその姿に、場の空気が静まり返る。その美しさに、誰もが思わず見とれていた。「鈴……今日、すっごく綺麗だよ」助が素直な声でつぶやく。「このドレス、控えめだけど高級感があるし、細かいディテールまで完璧だな。まさに鈴のために仕立てられたみたいだ」悠希も続けて褒めた。あまりに立て続けに褒められて、鈴は顔を赤らめる。「悠希兄さん、助兄さん、なんか今日はふたりとも甘いことばっかり言ってない?」そう言いながら、彼女は陽翔のもとへと歩み寄った。「陽翔兄さん、行こうか」陽翔は彼女の姿を満足そうに見つめ、黙って頷く。二人は並んで玄関へ向かった。外では、特別仕様のロールス・ロイス・ファントムが既に到着していた。車に乗り込むと、運転手が静かにアクセルを踏み出す。会場の前に到着した時、鈴の視線があるひとりの青年を捉える――悠生だった。「陽翔兄さん、あれって……」「鈴木グループを継いだよ。今回はそのグループが、サミットの主
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第329話 挑発する言葉

美和はすでに会場に到着しており、ひと通りあいさつ回りを終えると、人気の少ない場所を見つけて一息ついていた。ところがその直後、ふとした拍子に目を向けた先――会場の正面入口に、鈴の姿が飛び込んできた。思わず目を見開いた美和は、ぽつりと呟いた。「……なんで、あの子がここに?」隣にいた取り巻きも美和の視線を辿って顔を向ける。一瞬、驚いたような顔をしたものの、すぐに昨日のスポーツカーの件を思い出したのか、鼻で笑って言った。「えっ、まさかの無賃飲食目当て?ああいう子って意外と図太いもんだよね」美和は唇を尖らせ、不愉快そうにため息をつく。「こういう場って、最近は誰でも入れるのね……質が落ちるわけだわ」取り巻きは、美和の苛立ちを感じ取りながら、わざとらしく声を潜めて囁いた。「ねえ美和さん、私が一発かましてこようか?ちょっとお灸すえてやるのも悪くないでしょ?」美和は何も答えなかったが、その沈黙は明らかに了承だった。取り巻きはしてやったりといった顔で、まっすぐ鈴のもとへと向かっていった。「……あれ、同級生じゃん。ここに来るなんて意外。招待状とか持ってるの?それとも……タダ飯目当て?」皮肉混じりの声に、鈴はゆっくりと振り向いた。そこには、勝ち誇ったような笑みを浮かべた取り巻きの姿。その奥には、腕を組んでこちらを眺める美和の姿もあった。目元にはあからさまな嘲りの色。鈴は眉をわずかに上げ、淡々と告げた。「あなた、招待を受ける資格、なかったんじゃなかった?」たった一言だったが、取り巻きの表情が凍りついた。図星だったのだ。彼女がここに入れたのは、美和のおかげ――つまり同伴枠だった。「な、何言ってるのよ……!」声を荒げたその瞬間、鈴は微笑んで返す。「そのまま、あなたに返すわ。くだらない言葉を並べないで」取り巻きの顔色が一気に変わる。思っていたよりも鈴は冷静で、そして口が立った。「三井さん、自分で分かってるでしょ?あんたが何をしたか。人の男に手ぇ出すなんて、誇れることじゃないんだから。私に言わせる気?ここで、みんなの前で――あんたの恥ずかしい話、全部バラされたいの?」わざとらしく声量を調整していたが、それでも周囲の注目を引くには十分だった。ちらほらと人が立ち止まり、何が起こっているのかと目を向け始
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第330話 彼女に謝らせる

人前で、美和はまるで正義の味方のような顔をしていた。だが、鈴はその芝居に付き合うつもりなどなかった。「どいて」きっぱりと言い放つ。美和はその強気な態度に一瞬言葉を失ったが、すぐに口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。「三井鈴、間違ったことをしたなら、素直に認めるべきよ。悪いことをして殴られたら、黙って受け止めなさい。理由もなく人を叩いたあなたが悪いの。謝らないって言うなら、主催者に連絡して、すぐにでも追い出してもらうわよ?」その言葉に、周囲の人々の視線が集まりはじめた。「ここは上品な場だぞ、暴力なんて論外だ」「謝れば済む話でしょ、なにも大ごとにすることないのに」「清水さんがこれ以上大事にしないようにしてくれてるんだから、素直に謝ったら?」どこからともなく上がったそんな声に、美和の胸はすっかり満たされた。優位に立ったという実感が、彼女の瞳に自信を灯していた。「さあ、どうする?今のうちに謝っておきなさい」その言葉に、鈴の表情が静かに引き締まる。声は落ち着いていたが、その瞳には一片の揺らぎもなかった。「謝るつもりなんてないわ。自分の口から出た言葉には、自分で責任を取ってもらうだけ」床に倒れていた取り巻きは、聞こえるようにため息をつき、うつむいたまま絞り出すように言った。「もういいの、美和さん……彼女も、わざとじゃなかったと思うし……」そう言いながら、ぽろぽろと涙を流しはじめた。事情を知らない者から見れば、まるでひどく傷ついた被害者に見えただろう。それを見た美和は、なおさら鈴を許すつもりなどなかった。「もう一度だけチャンスをあげる。謝らないなら、本当に追い出すから」その言葉に、鈴は鼻で笑って一言だけ返した。「やれるものなら、やってみなさい」美和は目を細めた。言ってしまったからには、後には引けない。すぐにスマートフォンを取り出して、通話ボタンを押す。「会場の警備?ここに迷惑行為をしてる人がいるの。至急、来てちょうだい」通話を切ると、美和は得意げに言い放った。「三井鈴、自業自得よ。こんな結果、あなたが招いたんだから」その場にいた一人が前に出て、声をかけた。「清水さん、そこまでしなくても……彼女、鈴木悠生さんとも親しい方ですよね?今回の件は、大事にしないほうが――
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