寮に戻ると、ルームメイトたちが目ざとく玄関先を覗き込みながら、騒ぎ出した。「ちょっと、いまの男の人……誰?彼氏?めっちゃイケメンじゃん!」「そうそう、筋肉のラインがきれいでさ、彼氏力高すぎじゃない?」「いつの間に彼氏できたの?私、全然知らなかったんだけど!」ワイワイと質問を浴びせられて、鈴は慌てて手を振った。「ち、違うから!彼氏とかじゃないって、ほんとに!」「えー!?彼氏じゃないの!?じゃあ名前教えてよ、紹介してくれてもいいよ?」その一言に、鈴は一瞬言葉を詰まらせた。……そういえば。もう二回も会ってるのに、名前、聞いてなかった。「えっと……次に会ったら、ちゃんと聞いてくるね」ルームメイトたちは残念そうに「ちぇー」と唇を尖らせたが、鈴は眉をぴくりと持ち上げた。――次は絶対、名前も、学部も、全部聞き出してやる。でも、そんな決意をする間もなく、次はすぐに訪れた。翌日。「鈴、見て!あれ、昨日送ってくれた人じゃない?なんで教務課に呼ばれてるの?」ルームメイトが袖を引きながらそう言う。鈴は驚いて、すぐさまその場に駆けつけた。教務課の前。ガラス越しに見えたのは、昨日倒された外国人学生たちが、情けない顔で何やら訴えている姿だった。「先生、こいつです。昨日、急に殴りかかってきて……全く理由もなくですよ!」「校内での暴力は重大なルール違反です。先生、きちんと処分してください!」「俺としては、退学処分でも問題ないと思いますけど?」勢い込んで並べ立てる彼らに対して、当の本人は、口の端をゆるく上げるだけ。一切弁解せず、むしろ流暢な英語で言い返した。「へえ……昨日はちょっと手加減しすぎたか。次は歯が全部飛ぶくらいにしてやるよ」「ストップ!」教師が机を叩くような声で制止した。「そんな態度で反省の色もないなら、私も遠慮なく処分するよ。校長に報告して、退学申請を出すから!」男は肩をすくめて、ひと言。「ご自由にどうぞ」その余裕ぶりに、教師の顔がますます赤くなり、すぐに電話に手を伸ばした——そのときだった。「先生、ちょっと待ってください!」鈴が勢いよく部屋に飛び込んできた。「昨日のこと、全部見てました。あれは彼が悪いんじゃありません!」鈴は英語で、一連の経緯を丁寧に説明した
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