All Chapters of 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった: Chapter 351 - Chapter 360

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第351話 事実を確かめるために

鈴は無表情のまま、しかしその瞳にははっきりと怒りが宿っていて、ためらいもなく踵を返して歩き去った。林はその背中を眺めながら、唇の端をわずかに吊り上げた。勝ち誇ったような笑みだった。彼女はゆっくりと身支度を整え、何事もなかったかのように社長室を出る。ちょうどそのとき、フロントの女性が急ぎ足で近づいてきた。「林さん、今日の私は……いかがでしたでしょうか?」林は軽く眉を上げ、惜しげもなく褒めた。「正確な情報だったし、狙い通りの効果も出たわ。引き続きよろしく」「ありがとうございます、林さん……!」林は自分のオフィスに戻ると、迷いなく高級な化粧品のセットを取り出し、彼女に手渡した。「これ、持っていって」フロントの女性の目が一瞬できらりと光ったが、控えめに言った。「林さん、こんな高いもの……いただけません」「いいのよ。ちょっとした贈り物だから。もし受け取らないなら、私の気持ちを無下にすることになるけど?」「そ、そんなつもりはありません!」彼女は嬉しさを隠しきれない様子で受け取り、さらに声を潜めて言った。「林さん、安心してください。鈴さんが会社を出たのは、私がしっかり見ましたので。今頃もう遠くに行ってるはずです」林は満足げに頷いた。鈴の離婚理由は知っている。一番の地雷は――「第三者」と「裏切り」。今朝のあの光景を見せられて、平然としていられる女はいないだろう。林の口元には、ぞくりとするほど冷たい笑みが浮かんだ。フロントの女性は無意識に身をすくめたが、「では私はこれで失礼します」と頭を下げた。林は「ええ」と返しつつ、念押しする。「今日の件は……分かってるわよね?」「もちろんです。口は固い方なので」それを聞いて林はようやく満足した。しかし、彼女は知らなかった。鈴はMTを出たあと、そのまま立ち去ることなく、ビルの前で立ち尽くしていたのだ。唇をかすかに噛み、何度も頭の中で考えを巡らせていた。――さっきの光景は、確かに衝撃だった。でも……部屋にいたのは林ひとり。鈴は、曖昧な思いのまま背を向けるのがどうしても嫌だった。はっきりさせなきゃ。そう思い、スマホを取り出して仁に電話をかけた。MTグループの役員会議。仁は議長席に座り、会議を進行していた。突然、会議
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第352話 どうしてあなたのベッドに女の人が?

鈴は小さく「うん」と返事をした。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。ほんの二分ほどしか経っていないのに、会社の入口のほうから仁が大股でこちらへ向かってくる姿が見えた。目の前に立った彼は、額に薄く汗を浮かべている。「仁さん……迷惑じゃなかった?」鈴の声音に微妙な距離を感じ取ったのか、仁はためらいもなく鈴の手を取った。「鈴、いつからそんなに他人行儀になった?君が来てくれるなら、いつだって迷惑なわけないだろ」その言葉と、手のひらに伝わる確かな温度。今この瞬間が、本物の安心だった。二人は気にする様子もなく一階ロビーを歩き抜けた。鈴はあちこちから向けられる視線を感じたが、不思議と恥ずかしさはなかった。むしろ心が落ち着いていく。エレベーターに入ると、鈴はぽつりと告げた。「……麗おばさんが教えてくれたの。今日は仁さんの誕生日だって。それで……来たんだ」仁は少し身を寄せ、鈴の顔をのぞき込む。「なんで事前に言ってくれなかった?」事前に言っていたら──あの「光景」を見ることはなかっただろう。鈴の胸が急に重く沈む気配を、仁はすぐに察した。「鈴?どうした?」「……なんでもない」顔をそむけたものの、結局どうしても聞かずにはいられなかった。「仁さん……前のアシスタントと、どういう関係なの?」「前のアシスタント?」仁は眉を寄せた。「林のこと?」鈴はこくりと頷く。「ただの上下関係だよ」「……ふうん」その「ふうん」に、全然納得していない気配がにじみ出ていて、仁は逆に気になった。「急にどうしたんだ?」ちょうどそのとき、エレベーターの扉がゆっくり開いた。鈴は広がるオフィスの景色に目をやり、なにも言わずに先に歩き出す。仁は訳もわからないまま慌ててあとを追った。「三井さん、おはようございます」「社長、お疲れ様です」視線が二人に集中するなか、二人は社長室へ入り、仁が静かにドアを閉めた。「鈴、本当にどうしたんだ?」そのとき、仁の視線がデスクの上のケーキに止まった。エレベーターでの会話を思い出し、目の奥がぱっと明るくなる。思わずデスクへ歩み寄ろうとした瞬間──「ま、待って!」鈴が慌てて前に立ちはだかった。ぷくっと頬を膨らませて、怒っているような、でもどこか可愛
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第353話 林へのけじめ

鈴ははっきり答えなかったが、その表情だけで十分だった。仁も迷うことなく、デスクの内線ボタンを押した。「営業部の林さん、至急オフィスに来てくれるか」『はい、田中さん』「それと、警備を何人かこちらへ」『承知しました』鈴はソファに腰を下ろし、黙ったまま動かなかった。五分も経たないうちに、林が慌ただしく姿を見せた。ドアを開けた瞬間、口を開いた。「社長、お呼びでしょうか?」しかし、その声は途中で途切れた。視線の先に鈴が座っていたからだ。林は一瞬、顔に動揺を浮かべたものの、すぐに取り繕った。だが、その小さな変化を、仁は見逃さなかった。以前、麗が「林は見た目ほど誠実じゃない」と言っていたことがある。それで総裁室から外され、営業部へ異動させられたのだ。仁は当初、母親の偏見かと思っていた。しかし今の林を見れば、そうでもなさそうだった。「林さん、説明してもらおうか」林は無垢な顔で首を傾げた。「え……何のことでしょう?」仁の目が静かに沈む。長年彼についてきた林なら、その目がどういう意味か分からないはずがない。それでも、彼女は必死に平静を装い続けた。知らない者なら、本当に無実に見えただろう。「林さん、人事で退職手続きを。退職金は規定通りで処理する」「……っ、社長、どうしてですか?本当に何のことか……!」仁は彼女に説明する気など、最初からなかった。そのまま突き放すように言い放つ。林は次の瞬間、鈴を指差して叫んだ。「この女に何か言われたんですか?社長、そんなに彼女を信じるんですか!?」鈴はその光景を見て、胸の中の霧が一気に晴れた。――仁と林のあいだに、何もなかったのだ。自分が勝手に誤解していただけ。仁は鋭い目で林を見据えた。「林さん、言葉遣いに気をつけろ。MTグループは、礼をわきまえない人間を必要としていない」冷たく乾いた声。その瞬間、林の目に涙があふれた。事態がこんなにも急速に変わるとは、思ってもいなかったのだろう。ちょうどその時、警備員がドアをノックして入ってきた。「社長」仁は隣の小部屋を指差す。「中の物、全部撤去して処分してくれ」「了解しました」林の顔は、見るも無惨に青ざめた。仁は容赦なく、情けをかけるそぶりさえ見せない
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第354話 仁さん、誕生日おめでとう!

鈴はそっと顔を上げ、仁の視線と正面からぶつかった。その瞳の奥に、自分だけの姿が小さく映っているのが、はっきりと見えた。「仁さん、誕生日おめでとう」仁はふっと目元を緩め、優しく彼女の頭を撫でた。「ありがとう」鈴はすぐに立ち上がり、デスクへ向かうと、すっかり晴れた顔でケーキの箱を抱き上げた。宝物を差し出すみたいに、仁の前へ差し出す。「これね、私が作ったの。絶対残しちゃダメだからね」仁は目を細めて、短く「うん」とだけ答えた。鈴は箱を開け、ろうそくを立て、火を灯すと、小さな声で歌い出す。「ハッピーバースデートゥーユー……早く、願いごとして?」仁は鈴の顔を見つめ、静かに目を閉じて両手を合わせた。何を願ったのかは誰にも分からない。ただ、目を開けたとき、彼の視界には彼女だけがいた。二人は息を合わせたように、同時にろうそくを吹き消した。鈴はナイフとフォークを手渡す。「最初の一切れは、主役が切るの」仁は毎年の誕生日を思い返した。いつも多くの友人・知人が集まって祝ってくれるのに、鈴は一度もそこにいなかった。でも今日だけは違う。派手なものは何一つないのに、この上なく温かい――なにより、隣には鈴がいる。「じゃあ……切るよ」ケーキを食べ終わった頃、仁のスマホが鳴った。「可愛い息子、誕生日おめでとう!」麗の明るい声がスピーカー越しに響く。「ありがとう、母さん」「今年は鈴が一緒でしょ。私とお父さんは邪魔しないから。夜はレストラン予約しておいたわ。場所、送っておくからね。ちゃんと鈴を連れて行くのよ?」一気に言うだけ言って、麗は電話を切った。すぐに位置情報が送られてくる。仁はため息をつきながら、鈴に向き直った。「母さんが店、押さえてくれた。……一緒に行こう?」鈴は迷いなく「うん」と答えた。店は浜白でも人気のカップル向けレストランだった。落ち着いた照明と温かい色の内装が、二人の雰囲気を一層柔らかくする。鈴と仁が入店した瞬間、視線が一斉に集まった。均整の取れた二人の並びは、そこにいるだけでひとつの絵になった。窓際の席に座ってまもなく、駐車場に一台の車が止まる。車から降りた翔平は、目の前のレストランの看板を見て眉をひそめた。そのとき、ポケットの中でスマホが
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第355話 彼女はかつて、あなたを愛していた

翔平は車の中で、窓越しに彼女を見つめていた。ただ眺めることしかできず、近づく勇気はどうしても出なかった。どれほど時間が経ったのか──店内では、鈴と仁が楽しそうに言葉を交わし、食事を終えて店を出ていく。翔平は、その一部始終をただ黙って見送った。二人の姿が視界から完全に消えても、しばらく動けなかった。その時、またスマホが鳴った。由香里の苛立った声が響く。「翔平、あんたどこ行ったの?渡辺さんの娘さん、ずっと待ってたのよ。いい加減に──」翔平は無言のまま電話を切り、そのまま電源を落として、スマホを窓の外へ投げ捨てた。エンジンをかけ、アクセルを踏み込む。――逃げるようにその場を離れた。プライベートクラブでは、湊斗が上機嫌で仲間たちと笑っていた。そこへ突然、個室の扉が乱暴に開け放たれた。「誰だよ、目ぇついて──」吐きかけた悪態は、入ってきた男の顔を見た瞬間、喉の奥へ消えていった。「……翔平?」湊斗は慌てて立ち上がり、空気の変化を敏感に察した。「お、お前どうしたんだよ。こんな時間に来るなんて」ここしばらく、翔平はクラブに顔を出すことすらなかった。離婚してからは、別人のように静かに、そして荒んでいた。翔平は答えず、ソファに沈み込んで酒を一気にあおる。その横顔には、どうしようもない焦りと苛立ちがにじんでいた。湊斗は周囲に合図し、他の客たちを全部外へ出した。静かになった個室で、ようやく彼は軽く茶化すように言った。「なあ、まさかとは思うけど……また三井さんのことか?」翔平は低く吐き捨てた。「……そんなに分かりやすいか?」「分かりやすすぎるわ」湊斗は肩をすくめた。「いいか?お前、完全にハマってる。でもあの三井さんは、もうお前に戻る気はないと思うぞ。だから、自分のこともう少し大事にしろって」その言葉に、翔平はレストランの外で見た光景を思い出す。鈴が仁を見つめる、あの目──昔、確かに自分に向けられていたはずの、あの光。「……俺とあいつ、まだ可能性あると思うか?」湊斗は一度「絶対ない」と言いかけたが、飲み込んだ。「正直に言えば……かなり厳しいな」翔平の顔が沈むのを見て、慌てて言い直した。「いや、まぁ……ゼロとは言わねえよ」その一言に、翔平の目
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第356話 目が覚めた

翔平の口元に、ふっと微笑が浮かんだ。どうすればいいのか、もう分かったようだった。「ありがとう」そう言い残して、翔平は立ち上がると、足早にその場を後にした。湊斗には、何が起きたのかまるで分からなかった。翌朝。鈴はいつもより早く会社に到着した。今日は半年に一度の取締役会。帝都グループの取締役や幹部たちはすでに最上階の会議室に顔を揃えている。オフィスに入ると、土田が彼女に書類を差し出した。「社長、こちらが今期の財務報告書と精算資料です。上半期だけで、なんと昨年度の通期利益を超えて、さらに10パーセントも上回ってます」そう報告する土田の声は、興奮を隠しきれていなかった。半年も経たずに昨年の業績を越え、それに加えて10パーセントの増益――どんな経営者にとっても容易なことではない。だが鈴は、それをやってのけた。「このデータを取締役会の連中に見せれば、きっと黙らせられますよ。社長と佐々木取締役の賭け、勝ちは確実です」土田の熱っぽい言葉にも、鈴の表情は一切動かない。無言で資料を受け取ると、さっと中身に目を通した。記載されている利益は、年度内に完了予定のシンガポールのプロジェクトのものも含まれているし、ほかの未完成プロジェクトの見込み利益も加算されている。「シンガポールのプロジェクトを除いたら、利益はどれくらい残る?」問いかけに、土田はすぐ反応した。「それですと、昨年度の業績からまだ30パーセントほど不足しています」「……分かった。じゃあ、行こうか。会議。」会議室では、佐々木が副代表の席に座っていた。上半期の財務報告にはすでに目を通している。たしかに、鈴の手腕は見事だ。会社の業績も右肩上がり――だが、賭けの基準にはまだ届いていない。「佐々木取締役、今回の勝負、もう決まりでしょう!」「いくら三井さんがやり手でも、若すぎますよ。数字が物語ってます」「上半期はシンガポールのプロジェクトのおかげでどうにかなったけど、下半期はそんな都合よくいかないですしねぇ。今回はさすがに厳しいんじゃないですか?」ざわつく声に混じって、誰かが笑う。「はっきり言って、勝負ありですよね?」佐々木は一瞬だけ得意げな顔を見せながらも、穏やかに応じた。「まあまあ、皆さん。その言い方はどうかと。もともと
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第357話 会議での嫌がらせ

会議室の扉が静かに開き、鈴が足を踏み入れた。その瞬間、場の空気が凍りついたように静まり返る。すべての視線が、一斉に彼女へと向けられた。鈴が主席に腰を下ろすと、隣に座っていた佐々木がにこやかに口を開いた。「三井社長、このところ本当にお疲れさまでした」鈴はちらりと彼に目を向け、柔らかな笑みで返す。「いえ、仕事ですから。気にしないでください」佐々木は少しだけ照れたように笑い、「では、三井さんも揃われたことですし、会議を始めましょうか」と声をかける。その声を合図にしたかのように、他の取締役たちも自然と彼を中心に動き出す。まるでここが、彼のテリトリーであるかのように。鈴はそれを冷静に見やりながらも、表情ひとつ変えなかった。ひと呼吸置いてから、落ち着いた声で口を開く。「上半期、会社では数多くのプロジェクトが動き、それぞれに成果を挙げました。まずは各プロジェクトマネージャーからの報告を――」だが、その言葉が終わらぬうちに、ひとりの取締役が手を挙げて遮った。「三井社長、本日は半年に一度の取締役会ですからね。会議前に皆さん、すでに財務報告に目を通していると思いますし、まずは会社の業績について話し合いませんか?」それに乗じるように、二列目にいた別の取締役が笑みを浮かべて言った。「ええ、報告書は拝見しましたよ。上半期はご苦労さまでした。帝都がここまでの成果を出せたのは、三井さんの素晴らしいリーダーシップの賜物でしょう」鈴は腕を組み、静かに眉を上げた。「皆さんがそれほど業績にご興味があるなら、先にその話から始めましょう」「そりゃあ当然です。何といっても、三井社長と佐々木取締役には『あの件』がありますからね」誰かがそう言うと、周囲の空気がわずかにざわついた。「ただ……三井社長、あのときご自身でおっしゃったこと、覚えておられますか?」彼らの表情には、明らかに「面白くなってきた」という色が浮かんでいた。まるで茶番劇の開幕を待つ観客のように。とりわけ、佐々木の顔には隠しきれない得意げな色がにじんでいた。彼は椅子から立ち上がり、両手を軽く広げて言った。「三井社長の発言は重みがあります。だからこそ、口にしたことは守られるべきでしょう。とはいえ、皆さん、焦ることはありません。まだその時ではないんですか
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第358話 時期尚早

鈴は土田を静かに制してから、柔らかな声で言った。「まだ半年ありますし、皆さんもどうかご静観を。いずれ時が来れば、白黒はっきりつくでしょう。勝者が誰かも、そのときには自然と明らかになります」佐々木はうまく調子を合わせ、笑みを浮かべながら頷いた。「その通りですね。まだ先は長い。三井社長がどんな好成績を見せてくれるのか、楽しみにしていますよ」その言葉に、他の取締役たちも表向きは同調した。「そうですね、三井社長の朗報に期待しています」「失望させないでくださいよ」「ただ、もし本当に負けたなら、潔く認めて、早めに譲ってもらわないとね」「……」鈴は一人ひとりに目をやった。この取締役会が今、佐々木を中心に動いていることは明白だった。彼を軸にして動く構図を崩さない限り、組織は変わらない。整えるべきは、まずその中枢だ。会議が終わると、鈴が会議室を出た直後、佐々木のまわりにはすぐに数人の取締役が集まった。「佐々木取締役、あの口ぶりだと三井社長、ずいぶん自信ありそうでしたけど……大丈夫なんですか?」「ほんとですよ。私たちみんなあなたの背中を追ってるんです。仮にあなたが取締役から退いたりなんかしたら、こっちの立場も危うくなります」「いくらなんでも、あの小娘に恥をかかされるなんて、絶対にごめんですからね」「……」それぞれが焦りと不安を隠さずに言い募る。彼らが鈴ではなく佐々木に付いたのは、若い彼女に管理者としての実績がなかったから。だが、半年経って状況は変わった。鈴の実績は、確かに結果を出していた。もし彼女がこの勝負に勝てば、自分たちの居場所はどこにもなくなるかもしれない。そんな焦燥が、言葉の端々に滲んでいた。「佐々木取締役、なんとか手を打たないと。どうにもならないなら、ちょっとした手段を使うのもひとつの方法じゃないですか。三井家を取締役会から追い出せば、帝都はもうあなたのものも同然ですよ……」「……」佐々木は手を上げて、制止の合図をした。それから、ゆっくりと笑みを浮かべる。「心配いらない。三井鈴には勝たせない……完膚なきまでに叩き潰す」その言葉に、皆の顔に安堵の色が広がる。「さすが佐々木取締役……そのひと言があれば、安心です。じゃあ我々は、面白いショーを楽しみにしていましょうか」
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第359話 新しいプロジェクト

鈴は言い終えると、土田に目をやった。「新しいプロジェクトの資料、全部持ってきて」鈴の落ち着いた様子に、土田も次第に気持ちを落ち着けた。「はい、社長。すぐに」と返事をして部屋を出ていった。ほどなくして、土田が資料の束を抱えて戻ってくる。彼はテーブルに資料を広げながら、いくつか目を通し、「社長、最近接触可能なプロジェクトの中では、このあたりが有力かと」と言って数件を差し出した。「そこに置いておいて」鈴は手近な一枚を取ると、静かに読み始めた。数分後、手元の一枚を指で軽く叩きながらつぶやく。「この合併案、今なら交渉の余地があるかもね……」「実はその案件、評価チームの反応も上々です。ただ、工場が全部島にあるんですよね。もし前向きに進めるなら、現地視察は避けられないかと」「島って、どこ?」「西の沿岸から300キロほど離れたアクアブルー湾にあります。行くなら船になりますが、往復で2~3日見ておいたほうがいいかと」「じゃあ、プロジェクトチームに準備させて。現地視察に向かう段取りを進めて」「了解です、社長」その頃――帝都グループ本社の正門前には、男たちの一団が集まっていた。スーツ姿のビジネスマンたちがちらりと一瞥をくれるほど、場違いな雰囲気を放っている。「竜次さん、俺ら、本当に中に入るっすか?」「当たり前だろ。入らなきゃ来た意味がねぇ」堂々とビルを見上げる竜次の目には、少しの羨望が滲んでいた。「こんなビル、俺らのもんだったら……どんだけカッコつくだろうな!」「なあ竜次さん、姐さんに頼んで、俺たちにもオフィス一部屋くらい分けてもらえないっすかね?」「バカ言ってんじゃねぇよ」竜次は容赦なくその頭を叩いた。「そんな夢みてんじゃねぇ」「……冗談っすよ、冗談。ちょっと言ってみただけっすって……」そう言ってる間に、一人の若い手下がビルから駆け戻ってきた。「竜次さん!受付で言われたっす……姐さんに会うには、なんか事前に予約しなきゃダメって……」「はあああ!?バカかお前、あの人は俺たちの姐さんだぞ?予約ってなんだよ、ふざけんな!」「で、でもっすね……受付の人が、『リーダーはめっちゃ忙しいから』って……」「ったく、ほんとに使えねぇな。俺の名前、ちゃんと言ったんだろうな?」「言ったっすよ、
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第360話 あの島に問題がある

竜次をはじめとした連中が声を揃えて叫びながら入ってきたその勢いに、鈴は思わず目を瞬かせた。その場に立ち尽くし、全員を一度見渡してから、不思議そうに首を傾げる。「……竜次?一体どうしたの?」竜次はにへらっと笑って、腹をぽんと叩きながら、遠慮もなくソファに腰を下ろした。「いやあ姐さん、今日は俺ら兄弟でちょいと顔出しに来たんすよ」鈴は目を細めて、ため息まじりに返す。「用もないのにこんなとこ来るなんて……さては何かあるわね?」「さっすが姐さん、話が早ぇ……」竜次はずいっと鈴のデスクのそばまで寄ってきて、妙に愛想よく擦り寄る。「実はっすね、最近俺、将棋にドハマりしてまして。夜な夜な詰将棋三昧……ついにちょっと新しい境地にたどり着いた気がして……」「で、切磋琢磨したいと?」鈴が眉をひとつ上げて問うと、竜次は即座にブンブンと頷いた。「そうっす!この前姐さんにコテンパンにされたの、忘れてねっすから……いやもう、マジで負けて清々しかったっすけど、でもっすね……やっぱ一度くらい勝ってみてぇんすよ、姐さんに!」その顔は、どう見てもその筋の者には見えない。目を輝かせて、まるで将棋少年のようだった。鈴は苦笑しながらも、きっぱりと告げる。「ごめん、今は無理。今週から島のプロジェクトの現地調査があるの。戻ったらまた相手するわ」「ええええ……」竜次は肩をガックリと落とし、ソファに沈み込む。鈴はそんな彼を見て、少しだけ申し訳なさそうに付け加えた。「アクアブルー湾にある離島よ。往復しても三日ってところだから、すぐ戻る。……その間、また鍛えておきなさい」「うおぉぉ……姐さん、その言い方、刺さるぅ……悪意感じるっす……」「ふふ。次はちゃんと成長した姿を見せてね」「…………」鈴がそのまま仕事へ戻るのを見て、竜次たちは空気を読み、静かに退室の挨拶をしてオフィスを後にした。エレベーターで下に降り、ビルの外へ出てからしばらくして、竜次がふと立ち止まる。「ん……?そういや、姐さんどこ行くって言ってたっけ?」「アクアブルー湾っすよ、兄貴。あれ?その島って、オレらがこの前、あの外国人に売ったとこっすよね?姐さん、そんなとこ何しに行くんすか?」竜次は眉間にしわを寄せて、疑わしげに仲間を一瞥した。「姐さん、な
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