「お前、いつから姐さんなんていう上ができたんだ?」相手が面白がってそう尋ねると、竜次はふっと口元をゆるめて、にやりと笑った。「……それは企業秘密ってやつよ」そのとたん、そばにいた部下が堪えきれずに叫んだ。「兄貴!ヤバいっす、姐さん、もしかしたら危ねぇかもしんねぇっす!」「……なんだと?」竜次の顔つきが一瞬で変わった。軽さの一切を捨て、鋭い声で問い詰める。「姐さんがどうしたって?」「うちの連中がさっきアクアブルー湾を調べたんすよ。そしたら今、その島……外部の信号、完全に遮断されてるらしくて……。で、その島を買ったやつ……人身売買のやべぇやつだったって……」「……は?」竜次はガタンと音を立てて立ち上がった。「おい、俺のスマホどこだ!……はやく持ってこい!」そのまま携帯を掴むと、迷わず鈴へと発信する。鈴はちょうど仕事を終え、会社のエレベーターで地下駐車場へ向かっていた。扉が開いた瞬間、視界の隅に人影がよぎった。彼女は無意識に足を止め、警戒心をほんのわずかに研ぎ澄ませる。数歩歩いた先、目に飛び込んできたのは、見覚えのあるロールス・ロイス・ファントム。ハザードが点灯している。そして車のドアが開き、仁がゆっくりと姿を現した。「……鈴」鈴は肩の力を抜き、ほっとしたように手を振る。「仁さん、どうしてここに?」仁は歩み寄り、彼女の顔を見るなり、その手をさりげなく握った。「ちょっと顔が疲れてるな。大丈夫か?」そのタイミングで、鈴のスマートフォンが鳴った。「ごめん、ちょっと電話出るね」通話中、彼女の顔つきがみるみるうちに曇っていく。何を聞いたのかはわからない。ただ、その眼差しにただならぬ緊張が走っていた。電話を切ったあと、仁はそっと声をかけた。「鈴、何があった?顔、怖いぞ」鈴は努めて笑顔をつくりながら答える。「大丈夫。仁さん、気にしないで」だが、仁は一歩も引かずに真剣な表情で言った。「……俺たちの間で、隠しごとはナシだろ?」その言葉に、鈴は目を伏せたのち、静かにうなずいた。「じゃあ、車の中で話すね」ふたりは並んで車に乗り込み、走り出したファントムの中で、鈴は淡々とF国で起こったことを語った。一通り話し終えたあと、仁は黙ってしばらく考え込む。
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