「いや、俺たちもう中三だぞ?高校受験もすぐそこなんだし、少しは時間を惜しんで勉強しろよ!」仁は視線すら上げず、淡々と答えた。「これくらいの時間、大して変わりはしないさ」そう言いながら、彼は周囲を一通り見渡した。「これで十分だろう。さあ、戻ろうか」悠希は呆れて、言葉も出なかった。――初日の遅刻で掃除の罰を受けた鈴だったが、それ以降はさすがに懲りたのか、しばらくの間は遅刻をすることもなくなった。それどころか、悠希に対抗心を燃やしているのか、毎朝彼より三十分も早く起きるようになり、「文武両道!一生懸命頑張るんだから!」と殊勝なことを宣言する始末だった。そして、ある日のこと。早起きをした鈴は、お抱えの運転手に学校の正門まで送ってもらった。車を降りると、同じクラスの小路(しょうじ)に出くわした。彼は絵に描いたようなガリ勉タイプで、勉強に関しては非常に熱心だ。鈴のような成績優秀な生徒と議論を交わすのを何よりの楽しみにしていた。小路は鈴を見つけるなり、いそいそと駆け寄ってきた。「三井さん!昨日の数学の宿題、最後の数問は解けた?答え合わせしようよ」「……数学の先生、昨日宿題なんて出したっけ?」「出したよ!教科書98ページの練習問題。結構難しかったけど、まさかやってないなんて言わないよね?」その言葉は、鈴にとってまさに青天の霹靂だった。宿題のことなんて、とっくにきれいさっぱり忘れていた。「……ま、まさか。もちろんやったよ!」「よかった。数学の先生、今日の授業でチェックするって言ってたからね」鈴は内心、生きた心地がしなかった。数学の担当教師は、学校でも指折りの厳格さで知られている。宿題を忘れた者には、容赦なく竹のものさしで手のひらを叩く罰を与えるのだ。クラスの誰もが、その罰を死ぬほど恐れていた。常に成績優秀な鈴にとって、そんな体罰は未知の領域だ。もし今日バレてしまったら、優等生としてのプライドはズタズタになり、今後の学校生活に大きな傷がつくに違いない。「あの……ちょっと思い出した用事があるから、先に行っててくれる?」なんとか小路を追い払ったものの、鈴の心はパニックに陥っていた。学校の周りを必死で見渡し、人目のつかない路地裏に逃げ込むと、バッグからノートをひったくり、猛烈な勢いで問題を解き始めた。しか
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