望愛が去ったあと、佐々木は少し離れた場所に立っていたアシスタントに手を振った。「佐々木取締役、何かご用でしょうか?」佐々木は目を伏せたまま、低く尋ねた。「……今、俺の手元に動かせる金は、どれくらいある?」「現金として動かせるのは、だいたい20億ほどです。不動産や帝都の株を含めれば、保守的に見ても100億程度になります」佐々木は黙り込み、しばらく考え込んだ。――この一手は、賭けか。それとも見送るか。賭けるなら、全財産を差し出す覚悟がいる。だが、賭けなければ、この好機をみすみす逃すことになる。「……なあ。今後も、不動産業界はこのまま好調だと思うか?」アシスタントは迷わず答えた。「佐々木取締役、ご心配には及びません。不動産は、基本的に損をしにくい投資です」佐々木は小さく頷いた。これまでの経験から見ても、今の市況は悪くない。今ここで踏み込めば、確実に勝算はある。――この勝負に勝てば、三井と肩を並べて争う必要もなくなる。帝都に縛られず、自分の居場所を築ける。この案件は、そのための最高の足がかりだ。「……私名義の不動産、全部、銀行に担保で入れろ」「佐々木取締役、それは……さすがに急すぎるのでは……」佐々木は手を振って遮った。「いいから、私の言う通りにしろ」「……承知しました」「それと……帝都の株は売るな。売ったら、もう後戻りできなくなる」佐々木は独り言のようにつぶやいた。しばらく考え込み、続ける。「裏で、表に出ない民間融資を探してこい。少しでも借りられるなら使う。回収後に返せば問題ない」「ですが、そういった融資はリスクが高いかと……」「問題ない。この案件は回転が早い。すぐに回収できる」「……でも……」投資に絶対はない。アシスタントはそう言いかけたが、佐々木の表情を見て言葉を飲み込んだ。「……わかりました。すぐ手配します」……一日の業務を終え、鈴はようやく席を立った。大きく伸びをして時計を見ると、ノートパソコンを閉じる。廊下に出たところで、土田と鉢合わせた。「社長、どこ行くんですか?」「ちょっと買い物に」「欲しいものがあるなら、私が行きますよ?」「いいの。自分で見たいから」土田は何か言いかけたが、鈴はそのまま歩き去った
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