現れたのは田中仁だった。メディアに囲まれながら堂々と会場へ入ってきた彼の隣には、品のある笑みをたたえた雨宮栞里が寄り添っていた。二人の歩調は自然に揃っており、決して目立とうとはしていない。田中仁は礼儀正しく椅子を引き、彼女を座らせた。その様子はすぐさまメディアのカメラに捉えられ、巨大スクリーンに映し出された。三井鈴は視線を外し、ふとスマホに目を落とすと、画面が点灯し、星野結菜からのメッセージが届いていた――「雨宮栞里は清掃員を装って田中仁の部屋に入ったの。彼女、本気で狙っているわ。あの4000億のためなら手段を選ばない」ロビーでその噂を耳にしてからというもの、三井鈴は我慢できず、記者である星野結菜に確認してみた。そして今、それが事実だと突きつけられた。星野結菜は気まずさを感じたのか、すぐに補足した。「雨宮家の実権者は金融管理局の一員よ。田中仁が彼女に顔を立てるのも無理はない。鈴ちゃん、何かあるなら本人に直接聞いた方がいいわ。黙っていると後悔する」直接聞く?星野結菜は知らない。彼と三井鈴の関係は、もう以前のような距離感ではない。「直接聞く」特権は、もう田中仁に取り上げられていた。「皆さま、こんばんは。私はクリスティーズのオークショニア、加瀬可奈と申します。本日は浜白でお目にかかれて光栄です。これより「太陽光推薦官」の入札を開始いたします。開始価格は4.5億です」ステージに立つ女は、体にぴったりと沿う着物をまとい、優雅にオークションハンマーを握っていた。その姿は洗練され、余裕と品格を感じさせた。加瀬可奈はクリスティーズ副社長。世界最高のオークショニアとの呼び声高く、メディアからは「永遠に優雅、そして飢えを知らない女」と評される。彼女が登場すれば、どんな品でも値を吊り上げる。それほどの影響力がある。今回、彼女を招いたという事実こそが、この大会の本気度を物語っていた。「8億」「10億」「14億」「22億」加瀬可奈はオークションステージに片肘をつきながら、全体を見渡し、微笑んだ。「今宵の浜白は華やかですね。さらに高いご入札をいただける方、いらっしゃいますか?」「40億」会場がざわついた。その声の主に視線が集中する。名乗ったのは、帝都グループの三井鈴だった。背筋を正し、札を高く掲げる。「40億、
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