座談会が終わるとすぐ、メディアは多数の写真を撮影し、配信準備に入っていた。だが、それを赤司冬陽が止めに入った。彼は笑顔の裏に棘を隠しつつも、丁寧に言った。「田中社長のご意向です。本日、彼と三井さんに関する写真は一枚たりとも外部に漏らさないこと。もし記事が出れば、豊勢グループの法務部が出動することになるでしょう」豊勢グループの弁護士チームは数えきれないほどの勝訴歴を誇る。理のない案件ですら、逆転勝利へ導くほどの手腕を持っている。報道陣は苦笑いもできず、「田中社長のご都合は理解しますが、我々の立場もご理解いただきたい……ここは公開の場ですし」と声を潜めた。「この額の御礼は、後ほど各自の口座に振り込ませていただきます」赤司冬陽は手で数字を示した。その瞬間、皆の口が一斉に閉じた。会場がざわつく中、三井陽翔が少し席を外し、田中仁はそのまま動かずに言った。「急に帰国してどうした。帝都グループの仕事はいいのか?」「私が何を決めようと、田中さんに報告する義理はないでしょ。祝ってくれたんじゃなかった?」彼女の言葉は皮肉そのものだった。「報道については、影響を最小限に抑える。君の名誉に関わることなら、法務部を動かすつもりだ」その言葉は、三井鈴の耳には「別れの意思」としか響かなかった。胸の奥がきゅっと締めつけられ、鼻をすする。「必要ないわ。帝都グループも三井グループも、弁護士がいないわけじゃないから」そう言い残して三井陽翔のほうへ向かったが、人混みが激しく、階段の手前で誰かにぶつかり、足をひねってそのまま倒れ込んだ。「……あっ——!」田中仁の心が大きく揺れた。すぐさま身をかがめ、彼女を支えようとした。「す、すみません、お嬢さん、大丈夫ですか!」ぶつかった相手が先に彼女を助け起こそうとした。三井鈴は地面に座り込み、目に涙を浮かべながら、ぽろぽろと流しはじめた。「痛い、すごく痛い……」田中仁はすぐ傍らに立ちながら、複雑な表情で一瞬だけ躊躇した。だが、すぐにその相手を押しのけ、三井鈴を抱き上げた。「病院へ連れて行く」本当に痛くて、言葉が出てこない。三井鈴は彼の服の裾をぎゅっと握りしめ、誤解されたくなくて言った。「ほんとに痛いの、演技なんかじゃない……」「知ってる。前も注射一本であんなに大騒ぎしてたもんな。そんなの演技ででき
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