心の中で何度も「もう彼のことなんて気にしない」と言い聞かせてきたのに、彼が襲われたと聞いた瞬間、体は言うことをきかなかった。この八年あまりで、もう条件反射のように染みついてしまっていたのだ。どうにもならなかった。車のキーを握りしめて外へ飛び出しながら、必死に声を落ち着けて確認する。「聖心病院ね?すぐに行く」「はい、VIP1号室です」加藤が答える。聖心病院へ向かう車の中で、表面上はまだ冷静を装っていたが、頭の中は混乱していた。宏の会社の現状は決して良いとは言えないが、それでも鹿児島で指折りのグループだ。いつでも立て直して、さらに上を目指せる可能性もある。このタイミングで、誰が宏にこんなあからさまな報復を仕掛けるだろう。心構えはしていたはずなのに、病室に入って、宏が青ざめた顔でベッドに腰掛け、焦点の合わない目で窓の外を見つめながら、医師に腕や胸の傷口の薬を替えられ、包帯を巻かれているのを目にしたとき、胸の奥がきゅっと掴まれたように痛んだ。細かい痛みがじわじわ広がって、まるで蟻にかじられているようだった。「社長……」加藤が私を見て声をかける。宏はハッとしたように加藤に応えかけ、そこで私の存在に気づいた。唇を開くと、喉がひりついて声がうまく出ない。「どうして……こんなにひどいの」ステンレスのトレイの上には、替えられたばかりの血まみれのガーゼ。傷は深くて長く、見ているだけで胸が痛くなる。宏はわずかに目を動かし、淡々とした声で言った。「大したことない。ちょっとした傷だ」「二日も意識を失っていて、これがちょっとした傷ですか……体面を気にしすぎるのも、ほどほどにしてくださいよ、社長」加藤が容赦なく突っ込む。宏は冷たい視線を向け、低く言い放った。「誰が南に知らせろと言った」「これが」加藤は宏の手にあるカフスボタンを指差し、怒鳴られる前にそそくさと逃げ出した。医師は手際よく包帯を巻き終え、額の擦り傷に消毒と薬を塗りながら、真剣な口調で言い聞かせる。「社長、このまま軽く見ていると後々響きますよ。十分に気をつけてください。それと、絶対に傷口を水に濡らさないように。前回の銃創みたいに何度も炎症を起こすことになりますから」宏は軽く頷く。「ああ」医師は、聞き流されていると悟って諦めたように
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