ヨーグルトを飲んでいた私は、彼女の最後の一言で盛大にむせた。ようやく咳が落ち着いて、食べ終えた私は、彼女の頬を指でつつく。「ちょっと、言葉遣い!」「だって9桁だよ?南は平気かもだけど、私は無理~」来依は完全に金の魔力にやられていた。「正直、あんな金額のためなら、ちょっとくらい屈してもいいかなって思えてくるし。どうせアナって、彼の父親の相手だったんでしょ?あのふたり、何もなかったって」「……そういう考え、今すぐ捨ててくれる?」私は出かける支度をしながら、ぽつりと爆弾を投下した。「温子さんがさ、まだ宏にアナと結婚させようとしてるんだよね」「……はあ!?」来依はヒールを履きながら、盛大にひっくり返りそうな勢いで振り向いた。「え、あの人、長年寝てたら頭までやられた?しかもこの前、母娘で殴り合い寸前だったじゃん。それが今はもう結託してんの?」「知らないよ、そんなの」私はバッグを手に取り、玄関のドアを開ける。来依の目がギラリと光る。「ねえ、もしかして新しいプレイでも開拓してるんじゃない?」「は?」「だからさ、3P的なやつ」サラッと爆弾を投下してくる彼女は、さらに畳みかけてくる。「だってさ、母娘で同じ男を狙うとか、もうそれしかないでしょ。それくらいじゃないと、あの仲の悪さが急に手を組む理由にならないし」「……3Pって、あんた……」私は目を見開いて、思わず彼女を二度見した。「いや、ないでしょ」そう言いながら家を出た、そのとき──廊下の奥のドアが「ガチャ」と内側から開いた。服部が、いつの間にか立っていて、薄く笑ってこちらを見ていた。「さすが江川夫人、趣味まで規格外だな」……私は目を閉じた。……なんで毎回こうなんだろう。私がちょっとでも変なことを言ったときに限って、必ずこの男に聞かれてる。ため息混じりに彼を睨む。「……盗み聞きが趣味なの?」「ここ、俺ん家だけど」寝起きのようで髪は少し乱れ、ただでさえ気だるい雰囲気が、さらに数割増しになっていた。「堂々と聞いてたよ」「……」口で勝てないのは分かってるから、もう反論する気にもなれず。「……はいはい、私たち急いでるから。行くよ、来依」そのまま立ち去ろうとすると、彼が後ろから声をかけてきた。
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