由佳は手の中の釣り竿をぎゅっと握りしめた。水面に降り注ぐ陽光がきらきらと輝いているのに、その眩しさがなぜか胸の奥まで刺さるように痛かった。「どうして黙ってるんだ?図星を突かれて、後ろめたいのか」由佳が言葉を返さないのを見て、景司は執拗に挑発を続けた。由佳は一度まぶたを閉じ、静かに息を整えてから問い返した。「景司さん。私は必死にあなたを避けて、関わらないようにしてるのに……どうしてわざわざここまで来て嫌味を言うの?」その声は静かだったが、底には凍えるような冷たさがあった。景司の唇の端に浮かんでいた無造作な笑みが、ぴくりと引きつる。小川のほとりに座る由佳の後ろ姿を見つめながら、彼は一瞬、幻聴でも聞いたのかと思った。言葉を失った景司を見て、由佳はわずかに唇を吊り上げた。「確かに、前はあなたのことが好きだった。でもね、何をためらってるのか知らないけど、断りもしないで、受け入れもしない……まさか、ただキープしておきたいだけなの?」彼女の声は、さらに冷えた。「だとしたらごめんなさい。そんなの、付き合っていられないわ」景司は呆れたように笑った。こいつ……何を言ってるんだ?俺が「キープしたいだけ」だと?本気でそんなつもりなら、由佳を放っておくわけがない。男をとっかえひっかえしておきながら、よくも俺を責める気になるものだ。鼻で笑うと、彼はくるりと背を向け、無言のまま歩き去った。由佳はその背中を見送りながら、彼が図星を突かれて逆ギレしたのだと勝手に解釈した。もう、これ以上私と揉める面目もなくなったのね。ふぅ――濁った息が、ゆっくりと漏れた。胸の奥に、酸味を帯びたような切なさが広がる。こんな気持ちは、あまりに不慣れだった。ただの憶測だったのに、まさか当たっていたなんて。……なんてこと。よりによって、こんなクズ男を好きになるなんて!由佳は釣り竿を睨みつけ、突然小石を拾って勢いよく小川へ投げ込んだ。「景司が私をいじめるのはまだ許せるけど、なんで魚まで私をいじめるの?一匹くらい釣らせてくれたっていいじゃない!何なのよ、もう!」ぷんぷんと怒鳴りながらも、声を張り上げる勇気はなかった。目の縁が熱を帯び、赤くなっていく。せっかくのいい日だ。場の空気を壊すようなことはしたくない。
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